【私学訪問】成長を支える“志”のバトンパス…豊島岡女子学園 竹鼻志乃校長

今や都内屈指の進学校となった豊島岡女子学園。学業の充実だけではなく、部活動や学校行事にも熱心に取り組む学校として注目され、例年多くの志願者を集める。同校の竹鼻志乃校長に学校生活や校風、大学入試改革に向けた展望を聞いた。

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豊島岡女子学園 竹鼻志乃校長
  • 豊島岡女子学園 竹鼻志乃校長
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◆充実した探究型学習、英語は標準授業時間+280時間

--日本の大学入試改革をどのように捉えていますか。

 2016年3月末に発表された、高大接続システム改革会議での最終報告には、今後の教育の変化についてまとめられています。その中で、十分な知識・技能、それらを基盤にして答えがひとつに定まらない問題に自ら解を見出していく思考力・判断力・表現力、それらのもとになる主体性を持って多様な人々と協働して学ぶ態度が重要であると述べられています。

 基礎学力についてはこれまで通り、日々の学習の積み重ねを変わらずしっかり行っていくということに尽きます。さらに豊島岡では、探求型学習の充実に積極的に取り組む過程で、思考力・判断力・表現力や協働できる力を養っていきたいと考えています。

 昨年度行った探求型プロジェクト「プロフェッショナルと真剣勝負」では、決められた材料のみでクリップモーターカーを作り、自動車メーカーの技術者とレースをする「ものづくり競技会」と、自動車メーカーのリソースを調べ、社会の課題を解決する企画を提案する「ビジネス企画提案会」を行いました。

 毎年2学期に行われる「Academic Day~未来を変えるための力を~」では、教員から提案したいくつかの挑戦状に、中学1年生から高校3年生まで、学年を超えて生徒たちが挑みます。普段の授業では扱わないようなテーマ、教科横断的なテーマなど、30を越える課題に対して、生徒が研究の成果を発表し合います。

 これからは、答えのない課題に向き合うことが重要な時代になります。このような議論や発表の場を通して、しっかりとした基礎学力の土台の上で、ともに学び合う機会を大切にしていきたいと考えています。

 また、最近では、生徒、保護者ともに海外留学への関心も高まっています。豊島岡では学習指導要領の標準時間数と比較して、英語は3年間で約280時間多い授業時間を設けており、1クラスを2分割してネイティブ教員と日本人教員のチームティーチングで行う少人数制の授業も実施しています。中学1年生から「英語で相手に伝える力」を養うべく、グループプレゼンテーションの試みも始めました。

 海外の大学への進学希望者には、外部講師を招いたTOEFL講座を春休み、夏休みに実施しています。ニュージーランドへの3か月留学、イギリス、カナダなどへの海外研修など、グローバル社会での活躍への意欲と能力のある生徒を育てていきたいと思います。来年3月には、東京の女子校を集めて、初の試みとなるアメリカの大学を招いたカレッジフェアの開催を予定しています。

◆しなやかに、たくましく…自己肯定感を育む場

--現状の日本の教育の問題点は何でしょう。

 学校教育を、すぐに役立つような目先のことだけを教える場として期待されることですね。豊島岡では中学3年生が卒業生にインタビューに行くのですが、その時に先輩に「どうやってその職業についたのですか」ではなく、「これからの目標は何ですか」と聞ける視点を持ってほしい。

 学校や就職は決してゴールではありません。その一面だけで優劣を決めてしまわず、さまざまな機会での成功や失敗から、自分が輝ける場所を見つけ、自信を持ち、次にチャレンジしていけるような自己肯定感を育むことがとても大切だと思います。

 また、日本全体が忙しくなり過ぎていて、教育を何もかも学校で完結させようとする風潮があるように感じます。しかし家庭の役割も子どもの成長には欠かせないものです。家族だからこそ手を差し伸べてほしい時があります。家族と過ごす時間を大切にしてほしいと思います。

--生徒にどのような成長を期待されますか。

 しなやかに、たくましく育ってほしいです。たくましく、というのは女子校にはふさわしくない言葉かもしれませんが、私はあえてこの、たくましいという表現を使いたいです。

 そして、勤勉努力、一能専念とともにもうひとつの教育方針である「道義実践」を大切にしてほしいです。周りにも気配りができる思いやりの心を持ち、愛され、信頼される人になってほしい。それが「豊島岡の卒業生はいいね」と表現されるようになってくれたらと願っています。

--校長先生の座右の銘を教えてください。

 「人事を尽くして天命を待つ」です。

 一生懸命頑張れる子たちが集まっていて、それに応えたいと教員たちも頑張る。その相乗効果が今の豊島岡を作っています。だからこそ、「偏差値の高い学校」ではなくて、学校としての価値を高めていきたいです。

 生徒たちが卒業する時、豊島岡で学んで本当に良かった、と心から思ってくれるような学校にするために、静かに天命に任せてもいいと思えるところまで、自分の全力をかけて努力をしたいと思います。

--ありがとうございました。

 竹鼻校長ご自身も豊島岡の卒業生である。常に多方面に目をやり、耳を傾け、新たな学びを得ようとする謙虚さと、さらなる高みを目指す努力の姿勢は、まさに今の豊島岡生に受け継がれているものだ。後輩たちが「先輩の背中を越えたい」と上を見続けるたくましさと、これからの教育の変化をも楽しめるしなやかさで、その成長を加速させていくことだろう。

 同校の文化祭「桃李祭」は2016年11月5日(土)・6日(日)に行われる。両日とも午前8時半から午後3時半まで。受験希望者に向けた受験コーナーも設置される。桃李祭見学希望者、受験コーナー利用希望者とも、上履きは持参のうえ当日に受付で参加を申し込むこと。詳細は豊島岡女子学園Webサイトで確認できる。
《加藤紀子》

加藤紀子

京都市出まれ。東京大学経済学部卒業。国際電信電話(現KDDI)に入社。その後、渡米。帰国後は中学受験、海外大学進学、経済産業省『未来の教室』など、教育分野を中心に様々なメディアで取材・執筆。初の自著『子育てベスト100』(ダイヤモンド社)は17万部のベストセラーに。現在はリセマムで編集長を務める。

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