子どもの睡眠時無呼吸症候群・好き嫌い、解決策は「歯学」にあり…第6回歯科プレスセミナー

 全国の私立歯科大学・歯学部(15大学17歯学部)が加盟する日本私立歯科大学協会は11月1日、国民生活における歯科の役割の大きさおよび歯科医療の最前線を伝える「第6回歯科プレスセミナー」を都内で開催した。

生活・健康 未就学児
PR
岩手医科大学歯学部の佐藤和朗教授(口腔保健育成学講座歯科矯正学分野)
  • 岩手医科大学歯学部の佐藤和朗教授(口腔保健育成学講座歯科矯正学分野)
  • 日本私立歯科大学協会会長の井出吉信氏(東京歯科大学学長)
  • 司会進行を務めた日本私立歯科大学協会副会長専務理事の安井利一氏(明海大学学長)
  • 岩手医科大学歯学部の佐藤和朗教授(口腔保健育成学講座歯科矯正学分野)
  • 朝日大学歯学部の硲哲崇教授(口腔機能修復学講座口腔生理学分野)
  • 質疑応答に答える岩手医科大学歯学部の佐藤和朗教授(口腔保健育成学講座歯科矯正学分野)
  • 質疑応答に答える朝日大学歯学部の硲哲崇教授(口腔機能修復学講座口腔生理学分野)
  • 第6回歯科プレスセミナー 開催会場
◆食わず嫌い、好き嫌いなく育つには幼少期に幅広い食経験を

 佐藤教授による講演のあと、口腔生理学を専門とする朝日大学歯学部の硲哲崇教授(口腔機能修復学講座口腔生理学分野)より「何を食べたいかを脳はどう決めるか―好き嫌いをさせない摂食の脳科学」と題した講演が行われた。

 たとえば「かつ丼と親子丼、今食べるとしたらどちらですか?」と質問されたら、私たちはどちらを選ぶだろうか。これは答えが分かれるところだろう。しかしそれを論理的に説明するのは難しい。では、別の質問で「カエルの唐揚げと亀のフライ」の二者択一ならどうだろうか。日本に住んでいる私たちと、カエルや亀を普通に食べている海外の地域では、反応がまったく違ってくるだろう。このことから私たちは、自分が経験してきた食べ物をより積極的に採っているという仮説が立てられる。つまり、これが「食わず嫌い」である。

 また硲教授は、生まれてから成獣になるまでの食事経験がヒトと同じ、雑食性のネズミを使った実験を行なっている。水しか飲んだことのないネズミに、人工甘味料の一種であるサッカリンを入れた甘い水を与えると、1日目は水の3分の1の量しか飲まないが、2日目は水と同程度飲み、以降は次第に増えていった。ネズミも、初めてのものは軽々しく口にしないのだ。また別の実験で、苦い餌だけを食べて育ったネズミに苦い餌と甘い餌の両方を与えると、初日は苦い餌を多く食べた。それ以降は、甘い餌へ嗜好が移ってゆく。

 動物は一般に、初めて見るものは毒かもしれず、誤って食べて病気になったり死んだりすることのないよう警戒する。これを心理学では「食物新奇性恐怖(フードネオフォビア)」と称し、食べ慣れた食物を優先して食べることを「安全学習」という。「食わず嫌い」は安全学習の結果であり、ネオフォビアのおかげである。

 次に紹介された実験は、硬い餌のみを食べてて育ったネズミと軟らかい餌のみを食べて育ったネズミそれぞれに、硬い餌と軟らかい餌を同時に与えたらどちらを選択するだろうか、というもの。前者は意外にもフードネオフォビアが働かず、初日から8~9割が軟らかい餌だった。一方後者は、初日に5割ずつ食べるという不思議な結果が出た。その理由を探るために、今度はそれぞれのネズミの噛む力を筋電図で見てみた。すると、硬い餌で育ったネズミは、軟らかい餌を食べる時に半分くらいの力で、硬さに応じて噛んでいたが、軟らかい餌で育ったネズミは、初日は硬い餌も軟らかい餌も同じ力で噛んでいた。それ以降は、だんだんと力を変えていった。

 これは歯科医学的にも重要である。咀嚼の訓練を十分に行なわないと、硬さの弁別能が低下すると考えられるからだ。咀嚼や嚥下は本能ではなく、ある程度学習で獲得したものだと考えられるため、離乳期から上手に癖をつけていくことが重要となる。

 硲教授は、サッカリン水を飲んだあとに内臓不快感を感じさせる薬剤を注射すると、ネズミは「この甘いものを食べるとおなかが痛くなる」と学習するため、それ以降はサッカリン水が嫌いになる実験例も紹介した。食べ物を嫌いになる大きな理由のひとつとして、食べ物の味と何らかの不快感が結びついた結果である。これは「好き嫌い」の「嫌い」の行動学的な原理と現在は解釈される。誤って食べた食べ物が毒物だった場合に二度と食べないようにするために生体が本能的に持つ機能で、「味覚嫌悪学習」という。これは「パブロフ型の条件付け」と似ているが、パブロフ型の“ベルが鳴ると餌が出てくる”という条件付けは1週間ほど続ける必要がある一方、味覚嫌悪学習は一度の経験で覚える。これには脳科学者も関心を持っているという。

 これらの結果を踏まえて、子どもたちに美味しく好き嫌いなく食べてもらうには、幼少期のうちに、たとえば日本に住むなら日本で普通に流通しているさまざまな食べ物の経験を積ませ、新奇性恐怖の除去(安全学習の獲得)をしておくことが重要になってくる。ただし、「もちろんアレルギー源などは命に関わるため、除くこと。」(硲教授)実際、特定のものしか食べられない患者の多くは、幼少期にそれしか食べていなかったという症例があるそうだ。

 好き嫌いをなくし、偏食しない子どもを育てるためには何が必要か。硲教授いわく、「食事をしていて楽しいと思える経験を作ること」が大切。特に、食嗜好は小学3~4年生くらいまでに決まると考える研究者は多く、食物嫌悪学習が発生されると除去が極めて難しい。給食を食べない子どもを叱りつけると、大人になっても食べられないといったことは、さまざまなアンケート調査で報告されている。「食べないとだめよ」と諌めるのは逆効果であり、食物嫌悪学習を引き起こすことになるといえるだろう。

 また、当然ながら保護者が嫌う食物は子どもも嫌う傾向にあり、こと母親の食嗜好は子どもに伝播しやすいという。硲教授は保護者に向けて、「子どもにだけ好き嫌いはいけないというのではなく、保護者も一緒に食事をすることが効果的」と語った。

◆超高齢社会を迎え、国民の健康づくりに歯科医療で一層貢献

 私立歯科大学・歯学部の設立は、明治時代にさかのぼる。当時、富国強兵の名のもとに医学教育が国策に据えられた一方、歯科医学教育を政府は推進しなかった。そのため歯科は個人の歯科医師の努力によって私立大学に設立され、その経緯から現在も歯科医師の約75%は私立大学出身者が占めている。日本の歯科医療教育における私学の貢献は大きいといえるだろう。

 今や歯科医療は国民の健康づくりの面でも重要だ。司会進行を務めた同協会副会長専務理事の安井利一氏(明海大学学長)は「超高齢社会に突入し、在宅あるいは施設入所者への対応など、地域包括ケアシステムに向けて歯科医療の新たな時代を迎えようとしている。常に社会の変化に対応できる歯科医師を養成することが協会の大切な使命のひとつ」と語る。

 歯科プレスセミナーは、2010年10年から新聞・雑誌の記者向けに毎年開催。代表挨拶に立った同協会会長の井出吉信氏(東京歯科大学学長)は、「摂食・嚥下など、食が我々の生活にとっていかに大切かということも、広く国民の皆様に知られるようになった」と語り、今回のセミナーを始め歯科医学・歯科医療の正確な情報の社会への発信に今後も取り組んでいくとしている。
《編集部》

【注目の記事】

特集

編集部おすすめの記事

特集

page top