千代田女学園が国際教養人育成へ大改革…「学校は3年で変わる」荒木校長

 約130年にわたる伝統的な女子教育に幕を下ろし、大改革を行う「千代田女学園」。改革の全容とその目的について、荒木貴之校長に話を聞いた。

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千代田女学園の大改革に取り組む荒木貴之校長
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 仏教教育に基づく「国際教養人の育成」を目標に掲げ、1888年に創立された伝統校「千代田女学園」。2016年4月、学校法人武蔵野大学と法人合併し、先駆的に高大接続を実現した同校が、2018年4月より大きく生まれ変わる。校名を「武蔵野大学附属千代田高等学院」と変更し、共学化する。約130年にわたる伝統的な女子教育に幕を下ろし、なぜ今、大改革を行うのか。改革の全容とその目的について、荒木貴之校長に話を聞いた。

◆共学化・IB・インター併設ほか、2018年度の大改革

 千代田女学園は昨年度を最後に中学校の募集を停止、校名変更および共学化後初の1期生となる今年度以降は高校募集のみとなる。2016年9月より国際バカロレアDP(*1)の候補校となるとともに、隣地に千代田インターナショナルスクール東京を開設。こちらでは小中高一貫の国際バカロレア教育を推進する予定で、注目が高まっている。

 荒木氏は、昨年の武蔵野大学との合併を機に大学教員と兼任で副校長として赴任。この4月より校長を務める。

 「少子化の影響で、経営的に苦しい立場の私立学校は増えており、本校も現状のままだと決して楽観的ではいられません。また、2020年の大学入試改革を前に、教育そのものも変革期を迎えていることから、大改革のタイミングとしては今しかないと決断しました。同窓会の総会では、130年も続いてきた伝統的な女子教育をなぜ守れないのかと、強い反対の声もあがりました。しかし私は『今ここで反対されても、賛成されるまで説明を続けます』と宣言しました。そのくらいの覚悟でやります、とお伝えしたのです。」

 荒木校長は、その経歴が実証するとおり、学校づくりのエキスパートだ。

インタビューに応える荒木貴之校長

 東京都の理科教諭から教育委員会を経て、東京都教育庁指導主事時代に、スーパーサイエンスハイスクールの視察で訪れた立命館高校で「小学校新設を手伝って欲しい」と言われ、2005年に立命館に招かれた。翌年「立命館小学校」が開校、百ます計算でお馴染みの陰山英男氏とともに副校長を務めた。

 子どもの理科離れへの対策として、サイエンスを重視したものづくり体験学習「ロボティクス科」を、理科、生活科、図画工作科のクロスカリキュラムとして開発。日本のSTEM(*2)教育の先駆けとなった。企業との連携により生み出された授業に子ども達はいきいきと取り組み、2008年にはキッズデザイン賞コミュニケーションデザイン部門において表彰を受けている。

 その後、大阪にある追手門学院や河合塾でグローバル英才教育などに携わったのち、武蔵野大学へ。特任教授を勤めつつ、昨年より千代田女学園へ。また、東北大学大学院情報科学研究科人間社会情報科学専攻の博士後期課程に在籍し、クラウド上の協働学習についての研究を行っている。

◆IB・IQ・GA・LA・MSの5コース設置

 新たに生まれ変わる武蔵野大学附属千代田高等学院のカリキュラムは、荒木校長によると次のような特徴があるという。

 「大きな特徴は、5つのコースを設けることです。5コースの内容は、IB(国際バカロレア)、IQ(文理探究)、GA(グローバル・アスリート)、LA(リベラル・アーツ)、MS(メディカル・サイエンス)となっています。こうした5つのコースが一つの学校の中に共存する学校はあまり例がありません。

 本校は国際バカロレアの候補校として、認定プロセスの途上にありますが、国際バカロレアが大切にしていることとして『多様性』があります。ハーバード大学のハワード・ガードナー教授は、人間には8つの知性があるという『多重知性理論』を提唱しています。8つの知性の中には、言語的、論理数学的、音楽的、身体運動的、空間的、対人的、内省的、博物学的知性がある、と。そう考えると、学校にはさまざまな知性が集まってこそ、集団知として育っていける。そんな学校を作りたいと思ったのです。」

 各コースの概要は以下のとおりだ。

<共学>
・IB(国際バカロレア)…医学部を含む、国内外の大学への進学を目指す。
・IQ(文理探究)…高校の探究を継続できる国内外の大学進路選択の実現を目指す。
・GA(グローバル・アスリート)…スポーツによる大学進学、クラブチーム・オリンピックでの活躍と学業との両立を目指す。


<女子>
・LA(リベラル・アーツ)…留学を推進し、国内外大学への進学を目指す。
・MS(メディカル・サイエンス)…武蔵野大学薬学部および看護学部をはじめとする医療系大学への進学を目指す。


◆成功例に倣いながらも独自性にこだわるコース設定

 各コースについて、荒木校長が目指すものは何か。

 「IBコースは、すでにdual language(英語と日本語)によるバカロレアプログラムを取り入れている東京学芸大学附属国際中等教育、仙台育英、沖縄尚学などの先進校を参考にしています。私自身、東北大学大学院の博士後期課程に在籍していることもあり、東北で唯一のIBDP認定校である仙台育英高校は時折視察させていただいているですが、生徒たちは猛烈に勉強しています。させられているのではなく、十分な予習をして授業での議論に臨みたいと自分の学びをコントロールしているのです。国際バカロレアコースの2年間は確かにハードですが、大学の基礎教育を含むレベルであり、内外の大学からは高い評価を得ています。

 IQコースは京都の堀川高校などのSSH(スーパーサイエンスハイスクール)を参考にしています。教員は博士号取得者など探究の経験がある方に限り、東大、上智大、東京理科大など周辺に大学が多いという地の利を活かし、大学院生をサポートに入れます。大学で研究のイロハを知っている大学院生が身近な存在になることで、生徒の意識も高まるでしょう。近い将来、数学や理科の国際オリンピックに挑戦できる生徒を輩出できればと思っています。

 GAコースは、午前中は本校で授業を受け、午後はさまざまな競技団体の練習に行けるアスリート向けのコースです。大阪の追手門学院高校在職時には、ガンバ大阪のユースをお預かりしていたことがありました。彼らは自分が『日の丸を背負っている』という自負で、国際大会に臨んでいました。体育祭でもダントツの活躍で会場全体が湧きましたね。千代田女学園にもすでにソフトテニスやバトン、テコンドーやクラシックバレエなどの第一線で活躍している生徒がいます。

 国際バカロレアが重んじる『多様性』の観点からも、彼らのようなトップアスリートの存在は学校全体を活性化させます。

 また、彼らのセカンドキャリアも意識し、人間生理学やコーチングなどを学べるように武蔵野大学の人間科学部と連携を取っていきます。

 LAコースは、国際的に認められる教養を身に付け、武蔵野大学をはじめ、国内外の大学への進学を目指す生徒、MSコースは武蔵野大学をはじめとする看護学部・薬学部などの医療系学部への進学を目指す生徒向けのコースです。LAコースには2週間から1年間まで、さまざまな国と期間を選択できる留学プログラムなど、MSコースには武蔵野大学看護学部・薬学部が提供する科目を履修できる高大接続の体制などを整えています。」

◆リスペクトされる教員、ホンモノを見せる教育

 これらの5コースに共通して荒木校長がこだわるのは、次の2つだ。

 1つめは、教員がリスペクトされる存在
であること。

 「国際バカロレアにおいては、生徒も教師も学習者であり、探究することが求められます。新たに千代田高等学院に採用する先生は海外大出身で修士号以上を取得した方、あるいは国内大なら博士号を取得した方など、探究者であることが求められます。本年度は、
ご自身が高校時代に国際数学オリンピックのメダリストとなり、東大および九大で数学を研究し、現在も数学オリンピック財団の理事を務めている先生や、ワシントン州立大学で学び、その後修士号を得て国際バカロレアで教えた経験を持つ先生などリスペクトできる方ばかりです。大学の授業も担当できるような先生方に着任いただくことで、今までにない高校と大学との連携ができるのではないかと期待しています。

 実は、この5月の時点で、現在在籍中の教員の84%が国際バカロレアのワークショップを受講しました。今、教員の間で流行っているのはスカイプ英会話です。教員のプロフェッショナル・ディベロップメントは、学校としても精一杯サポートしていくつもりです。」

 2つめは、生徒にホンモノを見せること。

 「これはリスペクトできる先生ということにこだわる理由でもあるのですが、『生徒がこれくらいのレベルだからこのくらいでよいだろう』という手加減は絶対にしてはいけないと思っています。これは立命館小学校を作るときに、生徒には「ホンモノとニセモノ」を見極める力があり、感受性豊かな時期だからこそ、ホンモノを見せて育てなければいけないと実感したからでもあります。

 具体的には今年の夏、化学室を大学レベルの設備に大改修します。図書室とコンピューター室を「リソースセンター」として一体的に整備し、あらゆるデバイスからストレスフリーで繋がるような大学並みのネットワーク環境も整えます。」

千代田女学園の大改革に取り組む荒木貴之校長

◆学校は3年で変わる

 この大改革、荒木校長は「学校は3年で変わる」と自信を見せる

 「教員が本気になって、よい教育をすることに躊躇せず取り組む。それを信じて生徒たちが思う存分学習や活動に取り組めば、実は学校は簡単に変わると思っています。」

 130年続いた理念も引き継ぎいでいく。

 「大規模な学校を作ろうとしているのではありません。千代田女学園の少人数で面倒見の良い、生徒と教員との距離が近い手厚さは、今後も引き継がれるでしょう。

 もう一つは、浄土真宗の宗門校として、仏教教育も大切にしていきたいと思っています。先述のハワード・ガードナーも、信仰も知性のひとつと言っています。毎朝、お経を唱える聞思堂(礼拝堂)に我々の原点があることを忘れず、所作や佇まいの美しさといった伝統も併せて引き継いでいきたいですね。」

 ITのめまぐるしい発展やAI(人工知性)の進化に伴い、教育も一層の個別化(Adaptive)が志向されつつある。新しく生まれ変わる武蔵野大附属千代田高等学院で、自ら志向するコースを選び、少人数で手厚い教育を受けられるという環境は時代の必然と言えるかもしれない。

 さらに今般は「グローバル」や「STEM」といった要素も加わる。一体どんな化学反応が起きるのか、誰も経験したことがない道を荒木校長は進んでいる。だが、多彩なキャリアを歩んできた彼には、その道の先にあるものがもう見えているに違いない。


*1:国際バカロレアDP(ディプロマ)=国際バカロレアプログラムの中で、16歳から19歳を対象とした2年間の教程。日本の学校では高校2、3年の2年間が対象となる。
*2:STEM=Science, Technology, Engineering and Mathematics(科学・技術・工学・数学の総称)
《加藤紀子》

加藤紀子

京都市出まれ。東京大学経済学部卒業。国際電信電話(現KDDI)に入社。その後、渡米。帰国後は中学受験、海外大学進学、経済産業省『未来の教室』など、教育分野を中心に様々なメディアで取材・執筆。初の自著『子育てベスト100』(ダイヤモンド社)は17万部のベストセラーに。現在はリセマムで編集長を務める。

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