看護学部・薬学部志望者に特化、千代田高等学院のメディカル・サイエンスコース

教育・受験 中学生

左から小野瀬洋美教諭、荒木貴之校長、相原彩乃さん
  • 左から小野瀬洋美教諭、荒木貴之校長、相原彩乃さん
  • 荒木貴之校長
  • MSコースのカリキュラムを考案した小野瀬洋美教諭
  • 卒業生で、武蔵野大学薬学部の相原彩乃さん
  • 2018年度に向け設備の拡充も進む。化学室で実験する生徒たち
  • 化学室で実験する生徒
 2016年4月、学校法人武蔵野大学と法人合併し、先駆的に高大接続を実現した千代田女学園が、2018年4月に大きく生まれ変わる。校名を「武蔵野大学附属千代田高等学院」と変更し、共学化するとともに、隣地には「千代田インターナショナルスクール東京」が開設される。

 千代田高等学院には、IB(国際バカロレア)・IQ(文理探究)・GA(グローバル・アスリート)・LA(リベラル・アーツ)・MS(メディカル・サイエンス)と、生徒の志向によって柔軟に個別化された5つのコースが設けられるが、すでに紹介したIBIQGALAに続き、今回はMSコースを取り上げる。

◆看護学部・薬学部志望者に特化したカリキュラム

 2018年4月から始まる千代田高等学院のMS(メディカル・サイエンス)コースは、理系志望者をざっくりまとめてしまうのではなく、看護学部・薬学部志望者に特化したカリキュラムが組まれる。荒木貴之校長は「医学部志望ならIBもしくはIQへ、工学部や理学部志望ならIQまたはLA理系を勧める」と語る。MSコースでは明確に、看護、薬学の専門領域に求められる知識の基礎を身に付けることを目的に、女子部としてスタートする。

荒木貴之校長
荒木貴之校長

 高校1年時はLA(リベラル・アーツ)コースと共修で、理科基礎3科目(物理、化学、生物)を履修するなど基礎力を固める。高2、高3では、併設の武蔵野大学看護学部・薬学部が提供するアドバンスト・プレイスメント(*)科目の履修により、高校から大学の専門科目を学ぶことで、先端のライフサイエンスに触れることができる。とりわけ武蔵野大学に進学する生徒にとっては、大学で取得すべき単位の先取りが可能だ。
*アドバンスト・プレイスメント=上級レベルの科目。大学と高校の教員が協力して授業を行う。

 また、高校1年時はLAコースの理系に在籍する生徒も、薬学または看護に進学したいと思えば、定員が許す限り高2からMSコースへ変更できる仕組みになっている。

◆武蔵野大学への推薦を保持して他大学受験も可能

 大学進学時には、武蔵野大学への進学を担保されながら、他の大学にもチャレンジできるというきわめて恵まれた環境だ。

 他大学に進学する場合は、武蔵野大学で履修した科目の単位は当然ながら認められない。ただし、国家試験という大きな目標で考えれば、こうした大学の「先取り」に損はなく、高度な専門分野の勉強に幸先の良いスタートを切れることになる。

 東京理科大学出身の小野瀬洋美教諭は数学の教員だが、今年度の冒頭に荒木校長から「MSコースの具体的なカリキュラムを考案してほしい」と依頼された。

 「高大接続という言葉も出てきて、一体何をして良いか本当にわからなくて…軽く五月病になりました」と今では笑って振り返るが、当時は頭を抱えたという。それでも小野瀬教諭は前向きだった。「とにかく卒業生に聞いてみようと、薬学部と看護学部に進学した子に片っ端から連絡しました。そうしたら看護学部なのに生物の勉強が難しいとか、薬学部なのに物理や数IIIをやらなければいけないとか、英語の単位取得が厳しいとか…。彼女たちが卒業後に困っていることが具体的に判明したのです。」

MSコースのカリキュラムを考案した小野瀬洋美教諭
小野瀬洋美教諭

◆国家試験の新卒合格率92%以上、武蔵野大学薬学部に進学

 千代田女学園高校の卒業生で、現在は武蔵野大学薬学部に通う相原彩乃さんは、小野瀬教諭から相談を受けた一人だ。

 「武蔵野大学の薬学部は今年の国家試験の新卒合格率が92%以上。国立&私立の首都圏22大学の薬学部で第6位と健闘していますが、それだけに勉強はとてもハードです。私は高校時代、薬学部進学のために化学と生物はかなり頑張って勉強しましたが、物理は高校1年のときに物理基礎を履修しただけ。数IIIも入試には出ないし、薬学部には関係ないと思っていたら、大学入学後の1学期(4学期制)にザーッと授業で説明され、もう全然わからなくて(笑)なんで物理なの?なんで数IIIなの?と思いました。それでも大学では、単位の取得は自己責任。しかも単位を取るだけではダメで、学年単位で成績(GPA)の要求基準をクリアしないと進級させてもらえません。仮に単位が取れていても、もっとGPAを上げたいからと再試験を受ける人もいるくらい。落第すると国家試験が受けられなくなるので、みんな必死です。」

卒業生で、武蔵野大学薬学部の相原彩乃さん
卒業生で、武蔵野大学薬学部の相原彩乃さん

 一般入試で薬学部を受験する場合、数IIIは不要な場合も多い。理科も必要なのは2科目だけ。ところが卒業後には、こうした教科の学習が高校で十分ではなかったために、卒業生たちが苦しんでいる現状があった。

 「『受験科目にはないから、やらない』と言うのが普通の学校だと思うのですが、うちは入試突破が目的ではない。だからこそ『入学してから困らないようにちゃんとやる』んだと。『物理を含めた理科3科目を3年かけてしっかりやる、数学は数IIIまでやる』と覚悟を決めました。」(小野瀬教諭)

 大学で必要なものから逆算されたこのカリキュラムは、まさに「高大接続」である。ここまで具体的な「高大接続」を実現している学校は稀少な存在と言っていいだろう。

 小野瀬教諭は、MSコースに「まだ将来に迷いがある人でもチャレンジしてほしい」と語る。「MSは薬学部、看護学部を目指している人には本当にベストな環境です。でもまだ決められないけれどなんとなくこの分野に血が騒ぐ、迷っているというような人にも、大学との連携科目を学びながら自分の向き不向きを確かめてもらいたいです。仮にそこで向いていないと思ったとしても、武蔵野大学には他学部も数多くあり、柔軟な進路の変更が可能です。

 MSはIBやIQと違って、論文をまとめたり、研究を発表したりというスタイルではなく、大学へ行っても困らないようにしっかり勉強していくコースです。けれど、ただ言われたことをハイハイと言って聞いているような授業ではなくて、大学のリソースを活用しながら、自分から探究していく授業スタイルを目指します。薬学も看護も、先生から1か10まで言ってもらわないと動けない子ではなく、自分で考えて動ける子になるような授業内容にしたいですね。仮にほかの道に進むことになっても、MSコースで学んだことは必ず生きる糧になると思います。」

◆ICTを活用し自学自習できる環境を整備

 理科3科目、数IIIまでしっかりやるとなると、他教科の授業数が足りるかどうかが心配なところだが、新しく生まれ変わる千代田高等学院では「1コマ45分授業となり、コマ数が増えるため何の問題もない」と荒木校長は言う。短縮された授業時間は、クラウドを使った学習ツール「Classi(クラッシー)」を活用して効率化し、「ドリル形式の反復学習のようなものは、生徒の理解度に合わせてオンラインで出題され、自学自習できる環境が整います」と荒木校長は自信を見せる。

 「遠距離通学をしている子も多いので、通学時間を有効活用できそう」と、卒業生の相原さんからもお墨付きだ。

 仮に中学の段階で取りこぼしている分野があっても、それをAIが見つけ出し、演習で補うこともできる。コースで一律ではなく、個別化によって各自の学習が最適化されるため、そのぶん授業時間の有効活用が可能となるわけだ。

◆先生との距離が近く、面倒見の良さで塾いらず

 また、LAコースでも多くの生徒からあがった「先生との距離の近さ」は、MSコースにおいても注目すべき利点の一つと言えるだろう。現在の千代田女学園も、先生と生徒がいつも和気藹々として仲が良い。職員室には生徒たちがひっきりなしに質問に訪れ、ホワイトボードには数式から英文まで大賑わいだ。

 相原さんも高校在学中、塾には一切通わなかった。「少人数で先生との距離が近いので、わからなければすぐに質問できました。先生方は前回の内容を復習してから次に進んでくださるので、授業がわかりやすかったです。だから塾なんていらなかったし、行く暇もなかった。」という。英語、化学、数学の勉強に力を入れたほか、吹奏楽部でも活躍した。武蔵野大学の志望理由書には苦労したそうだが、先生方に助けてもらいながら完成させた。武蔵野大学へは推薦入学だが、高3の2学期までの成績が求められるほか、センター試験も必須で、お正月は遊んでいる余裕はなかったそうだ。

 「最後までしっかり勉強させられました」と相原さんが言うと「学費の3倍はお得な感じかな」と荒木校長は笑顔で返す。

 「でも勉強だけガリガリやれなんて、そんなこと毛頭言うつもりはありません。薬剤師や看護師をやりながらほかの仕事も副業でやるとか、社会貢献活動とか、さらには妻であり、母であり、一人で何役もこなせる能力がこれからの時代にはますます大事になるでしょう。そのために自分をセルフマネジメントできる力が一層求められるようになると思います。5つのコースの生徒全員に言えることですが、AIを自分をサポートしてくれるツールとして上手に活用しつつ、身近にいる先生や友達と学び合いながら、やりたいことにどんどんチャレンジして、たくましく成長していって欲しいですね。」(荒木校長)

2018年度に向け設備の拡充も進む。化学室で実験する生徒たち
2018年度に向け設備の拡充も進む。化学室で実験する生徒たち

 千代田高等学院は浄土真宗の宗門校の一つであり、仏教を通じて倫理観を学ぶ。荒木校長は医系の職業に就くうえで、この倫理観が大きなアドバンテージになるという強い信念を持つ。

 「言われたことしかやれない、勉強だけできるとかじゃダメなんです。喜びや悲しみ、痛みや苦しみを他者とともに分かち合いながら行動できる豊かな人間性を育んでほしい。」と小野瀬教諭も「慈悲の心」をディプロマ・ポリシーに掲げる。

 大学で求められる能力を逆算し、カリキュラムに具現化した高大接続の先駆的教育と倫理観、慈悲の心を育む情操教育。千代田のMSコースが秀逸なのは、この両輪が揃っていることにあるのだ。
《加藤紀子》

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