ディライトワークス 塩川氏×大阪成蹊大・糸曽教授対談「現役クリエイターが教える理由」

 「Fate/Grand Order」をはじめとしたFGO PROJECT全体のクリエイティブディレクターを務めるディライトワークス執行役員クリエイティブオフィサーの塩川 洋介氏が大阪成蹊大学芸術学部の客員教授に就任。その理由と今後の活動についてお訊きしました。

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ディライトワークス 塩川氏×糸曽教授対談【インタビュー】
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『Fate/Grand Order』をはじめとしたFGO PROJECT全体のクリエイティブディレクターを務める、ディライトワークス執行役員クリエイティブオフィサーの塩川 洋介氏が、大阪成蹊大学芸術学部の客員教授に就任することが発表されました。実際に教壇に立つのは2018年4月以降ということで、これからクリエイターを目指す学生や社会人にとって、現役クリエイターの方から学ぶことができる機会となりそうです。

インサイドでは 以前にも塩川氏にインタビューを行っており、育成プロジェクトや講演を積極的に行う理由についてお聞きしました。その中で塩川氏は、「今後は同じ方々に対して何かしら継続性のある育成施策をやりたい」と語り、今回、大学の客員教授と言う形で実現することになったというわけです。

そこで本稿では、その実現に深く関わった同大学の造形芸術学科長で現役のアニメーション監督でもある糸曽教授にも同席いただき、おふたりの出会いや塩川氏を誘ったきっかけ、現役で仕事をしながら教える理由、クリエイティブ現場における問題意識や今後の活動についてお訊きしました。

左:塩川 洋介氏 右:糸曽 賢志氏
◆糸曽教授が塩川氏を大学に誘ったきっかけ
――おふたりの自己紹介をお願いします。


塩川 洋介氏(以下塩川):
ディライトワークスの塩川と申します。クリエイティブオフィサーという肩書で、クリエイティブのディレクションを行っています。今業務の中心になっているのは『Fate/Grand Order』をはじめとしたFGO PROJECT全体のクリエイティブディレクションです。その傍ら専門学校等で講演をしたり、自社で「創点 弟子入りプロジェクト」という企画を立ち上げ学生を受け入れたり勉強会を開いたりしています。


糸曽 賢志氏(以下糸曽):
糸曽 賢志と申します。大阪成蹊大学芸術学部造形芸術学科長を務めさせていただいています。私はジブリの宮崎駿監督に師事して演出を学んだことがきっかけでアニメーション業界に入り、現在は実写映像も含むさまざまなプロジェクトに携わっています。ゲーム業界では、コナミに所属してカードゲームのイラストなどを描いていたこともあります。

その後、絵を描くだけではなく企画を考えて作品を作り、商品として皆様に届けるまでを一貫して行ってみたいと思い、独立して自分のオリジナルアニメーション作品を作り始めました。新しいことに興味があったので、当時まだ浸透してなかったクラウドファンディングを活用したり、作品製作費を回収するスキームとして自分の作品を使用した教育カリキュラムを開発して海外に販売したりしました。

実写とアニメーションの融合なども研究したくて『SMAPコンサートツアー』や、劇場版『進撃の巨人』などいろいろなプロジェクトに参加しました。その中で、「学校で教えてみませんか」と声をかけていただきられ、大学教授をやらせていただくようになりました。

――おふたりの出会いについておきかせください。

糸曽:
付き合いが始まったのは2017年ですね。

――意外と最近ですね。

塩川:
そうなんです。大阪成蹊大学の准教授が糸曽さんと私の共通の知人でして。彼に「うちの大学で教えてみないか」と誘われたのがきっかけです。2017年にオープンキャンパスと現役の学生向けの特別講義をさせていただいた折に、糸曽さんをご紹介いただきました。

糸曽:
京都の川沿いのお店で串揚げを食べながら話をさせていただいたんですよ(笑)。塩川さんは考えることがお好きなんですね。他の人がやっていないことがあったら何故やっていないのかを分析し、それをどうすれば人に伝えられるのかを考えて実践されているなと。その話がとても面白いと思いましたし、今の学生に必要なことだと思って。塩川さんのように「考えること」を育むカリキュラムができたらなと思ったんです。

この話を大学側に話したらすんなり「いいんじゃない」という話になりまして。同時期に大学内でゲーム系コースの立ち上げ計画も進めていたこともあり、であれば大学に新しくゲームのコースを作ろうという話になり、それで塩川さんに、「長い期間で教育プログラムを組むことに興味がありますか?」と話させていただきました。塩川さんには「まさにそれがやりたかった」と言っていただいたんです。

塩川:
単発の講義で累計して2500~3000人ほどの方に話をさせていただくうちに、自分の中で課題が出てきました。ゲーム作りをしながらの時間的な折り合いも含めると、単発は単発でいいなと思っていたのですが、単発の講義はその瞬間だけで終わってしまうなと感じていて。

そこで次のステップとして、ある程度継続性のある講義を同じ人に行えたらいいなと思っていたところ、まさにタイミングが合ったというか。であれば、これはやるしかないということで受けさせていただきました。

――客員教授として1年、担当されるとのことですが、実際に講義を行うのは2018年4月以降ということで、今まさに講義内容を揉んでいる段階ではないでしょうか。

糸曽:
そうですね。カリキュラムを作りながら、ディライトワークスとの契約についても進めている状況です。そういうやり取りをしていく中で、大学の方から「会社と学校で提携を結べばよいのではないか」という話がでてきました。今は双方にメリットがある形を模索しながら契約を進めています。

今年はオープンキャンパスの数も多くなります。月一でやりつつ、夏休み時期は毎週開く予定です。関西のゲームクリエイターを目指す高校生に広めていけたらなと思っています。塩川さんをはじめ様々なクリエイターを招いたイベントなども行っておりますので、興味を抱いた方はぜひ大阪成蹊大学にお越しください。

◆「何のために描くのか」という思考を養う
――塩川さんはどんな講義をしようと思っているのでしょうか。

塩川:
そもそも、大阪成蹊大学芸術学部は絵を描く方が多く集まる傾向があると思います。自分は絵を描くのではなくゲームの企画や進行を管理する仕事をしているので、そんな人間が絵を描こうとしている人に何を教えられるか考えなければなりません。

絵を描くと一言で言っても、実は何段階かあるんです。ツールの使い方やデッサンなどの技能を身に着けることも大事なのですが、私が教えていきたいのはその手前の部分。例えばゲームのキャラクターを描いてくださいと言われた時に、「それは何のために描かなきゃいけないのか」をしっかり考えたうえで技術を発揮してほしいなと。こういうことはプロになってから教わる機会がないと思いますし、訓練の中で気付いた人だけが学んでいくのかなと思います。

――イラストレーターに発注する時にそういうことが実体験としてあったのでしょうか。

塩川:
仕事ができるイラストレーターは「この絵はなぜ必要なのですか?」とか、「こういう使い方もするんですか?」と質問をしてくれる方が多いと感じています。それを理解した上で手を動かしてくれるのですね。こういった考え方は学生の時から養うことはできます。課題を出されたときに、まず手を言われるがままに動かし始める人と、課題の意味を理解した上で手を動かす人では大きな違いがあるのです。技術を学んだら私の授業でその技術の活かし方を学ぶ。そうすることで自身で考えた上で、技術がより活かせるようになるのではないかと思います。

「イラストレーターだったら、なぜそのキャラクターが剣を持っているか、そういったことまで全部考えたうえでデザインする人と、そうじゃないひとでやっぱり差が出てくる」と語る糸曽教授。
――塩川さんはディレクター職ですが、新設するゲーム・アプリケーションコースでは技術職とディレクション職でコースを分ける予定はあるのでしょうか。

糸曽:
そこを大きく分ける予定は今のところありませんが、大学の場合、授業がたくさんある中から自分の取りたいものを選べるので、自分がなりたい方向の授業を取ればよいと思います。とはいえ、絶対に取らなければならない授業はあるので、その中で塩川さんの思考を養う授業を取り入れていければと思っています。私としては塩川さんの授業はゲームコース科の生徒以外にも取っていただきたいと思っているので、コース横断型にできればなと。

塩川:
私がやっていることはゲーム制作なのでその経験に基づいた話にはなるのですが、どんなクリエイティブワークにも通用する部分になると思います。実際に声優学科やマンガ学科の人に教えたこともあるのですが、ジャンルが異なっても通じると実感しています。

これは自分が学生の頃の実体験なのですが、私はシナリオやストーリーの仕事に就きたくて、それを学ぶコースを履修していたんですね。しかし講義の中でゲームに出会い、その面白さに気づいてゲームの仕事に携わるようになったのです。同様に、絵が描きたくて大学に入った学生さんの中に、もしかしたら私から教わることでディレクションに興味を持つ人も現れるかもしれませんし、ゲームのディレクションから学べることがあると思っています。

何がきっかけになるかわからない。自分たちの授業をうまく使ってほしい、と語るふたり。
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ディライトワークス 塩川氏×糸曽教授対談-現役クリエイターが大学で教える理由と業界への危機感を訊く【インタビュー】

《みかめ@INSIDE》

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