とはいえ、「プログラミング的思考をどうやって養えばよいのか…」と不安に思っている方も多いだろう。そこで、ひとつの方法として、家庭でも気軽に取り組める学習ゲームを紹介する。
ゲームで子どもの最初の興味を引き出す
学習におけるゲームの導入は賛否ある。ゲームに対しては比較的容認派の我が家でも、やはり「ゲームやりすぎ」問題は大きな課題のひとつだ。しかし、遊びから学びが拡がっていくように、子どもの興味を引き出す最初の一歩として、ゲームは非常に有効的なツールであるともいえる。

そしてプログラミングは、非常にゲームと親和性が非常に高い。そもそも、子どもたちが夢中になって遊んでいるゲームは、すべてプログラミングで制作されたものだ。実際、プログラミング教室やワークショップ等でプログラミングを学ぶうえでも、「ゲームを作ってみよう」というと、子どもたちのテンションは格段にあがる。
論理演算って何?中学校の授業でも使われたゲーム「トライビットロジック」がSwitchに登場
今回ご紹介するのは、現役のプログラマーが手掛けたプログラミング学習ゲーム「トライビットロジック」だ。開発元のハイマックスは、これまでにも「トライビット」シリーズとしてスマホアプリをリリースしており、いずれもゲームを楽しみながらプログラミング的思考を育むことができるのが特徴だ。
そして、シリーズの中でも人気の1本がNintendo Switchにも移植され、2018年12月にSwitch版「トライビットロジック」として配信がスタートした。このゲームは、敵キャラクターのバグを演算子のパネルを動かして倒していくもので、プログラミングの基礎である「論理演算」を、パズルゲームを通じて理解することができる。
Nintendo Switch版「トライビットロジック」公式映像
中学校の授業実践でも活用!
今作は学校の授業でも試験的に使われており、埼玉県の公立中学校で技術家庭科技術分野の「情報に関する技術」の単元において、実際に中学生が「トライビットロジック」のスマホアプリ版を使い、論理演算について学んだ。
指導を行ったのは、技術教育や情報教育を研究している埼玉大学教育学部技術分野の山本利一教授。山本教授にお話を伺ったところ、「トライビットロジック」の良さは「ゲーム的要素」にあるという。さらに、「生徒がゲーム感覚でできる『トライビットロジック』は、GBL(Game Based Learning)として興味深い。活用場面は難しいが、指導者の工夫次第では授業での活用はあると思う」と、ゲームであることの利点を教えてくれた。

このように、活用次第ではゲームも素晴らしい学びの道具になる。特にNintendo Switchは、いまや小学生にもっとも人気のゲーム機で、子どもたちの関心を引きやすい。まだ学習系のコンテンツはそれほど多くないため、ゲームだけでなく、ゲームをしながらプログラミングの原理も学べる「トライビットロジック」は、親としても有り難い。
コンピューターが使っている「論理演算」をゲームで体験
そこで、我が家の場合は子どもに遊ばせる前に、まずは「トライビットロジック」とはどんなものかを知るため、母である自分が遊んでみた。パッケージ版はなくダウンロード版のみなので、Switch画面からニンテンドーeショップストアで購入(800円)し、インストールを行う。
ゲームのルールはシンプルで、「バグ」と呼ばれる敵キャラクターがもつ4つの数字(ビット)を、「0,0,0,0」か「1,1,1,1」に変えればクリアだ。数字の「0」と「1」でピンときた人もいるかもしれないが、これは0と1の二進法で考えるコンピューターの思考そのものなのだ。


この数字を変えるのに使われているのが、コンピューターが使用しているのと同じ「論理演算」という仕組みだ。論理演算とは、日常生活で使っている足し算や掛け算などの「四則演算」とは異なり、「0」と「1」のふたつの数字だけで表されるコンピューター独自の演算法だ。ゲーム中でバグを倒すために登場する4種類のパネル「OR」「NOT」「AND」「XOR」は、実際にコンピューターで使われている演算子なのだ。
それぞれのパネルの役割を簡単に示すと、以下のようになる。
OR…パネルが1なら、バグのビットを1に変える。0のときは変化なし。
NOT…バグ、もしく重ねたパネルのビットを、1なら0、0なら1に反転させる。
AND…パネルが0なら、バグのビットを0に変える。1のときは変化なし。
XOR…読み方は「エックスオア」。バグかパネルのどちらかが「1」なら、「1」になり、それ以外はすべて「0」になる。
(※詳しい説明はアプリ内の解説をご確認ください)

こうしてまとめてみると、何やらややこしい印象を受けるかもしれないが、実際にやってみても最初は苦労した。日常生活ではなじみがないため、なかなかこの仕組みが理解しづらいのだ。しかし、失敗しても何度もトライできるため、繰り返しやることで、次第に仕組みを理解していくことができる。段階をふんで徐々に難しくなっていくので、自分のスピードで進めていけるのもよい。


「トライビットロジック」のゲームモードは2つあり、全192のレベルの「パズルモード」のほか、画面右から迫ってくるバグを倒す「ディフェンスモード」があり、かなり遊びごたえはありそうだ。まずはパズルモードで論理演算の仕組みを学び、慣れてきたらディフェンスモードに挑戦するのがお勧めだ。

デジタル世代の子どもは夢中でプレイ
お試しにと気軽な気持ちで始めてみたが、パズルモードではかなり手こずってしまった。これは子どもにはちょっと難しいのでは…と危惧しつつ、10歳になるプログラミング好きの息子にプレイさせてみた。すると、しばらく黙ってSwitchを操作していた彼から、驚きの言葉が飛び出したのだ。
「なにこれ、おもしろすぎ!」

え、そうなの?難しくないの?と、驚く母をしり目に、次々とステージをクリアしていき、あっという間に30レベルまで進めてしまった。親が苦労したゲームを、息子は実に楽しそうにやすやすと解いていったのだ。

そこで、息子にゲームの解き方について聞いてみたところ、
「これ、アインシュタインと一緒だよ」
という答えがかえってきた。
「アインシュタイン」とは、アインシュタインの論理的問題をベースにして作られた問題集のことで、論理的思考を養えるとして我が家では5歳くらいから挑戦してきた。その問題を解く感覚でやっていけば理解できると、息子は話してくれた。
なるほど。論理的思考を身に付けておくと、このようにほかの場面でも発揮できるというわけだ…。
つまり、逆も然りで、「トライビットロジック」で論理的に考える力を身に付けることで、これからのさまざまな課題解決に応用できるということも意味している。
「トライビットロジック」は決して簡単ではないので、最初のハードルはやや高く感じるかもしれない。しかし、はじめはごく簡単な問題から始まり、解説が随所に盛り込まれているので、少しずつ難度を上げ、順々に「論理演算」の概念を理解していくことが可能だ。そして何度も失敗を重ねながら、試行錯誤していくことで「プログラミング的思考」を自然に身に付けていくことができるというわけだ。
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ちなみに「プログラミング的思考」と「論理的思考」は混同されがちで、ほぼ同義語として扱われているが、厳密には異なる。文部科学省が2020年から実施する新学習指導要領にも「プログラミング的思考」について明記されているが、それによると、「課題や目的に対して、解決の道筋・手段を、論理的に考えることができる力」とされている。

手軽に遊べるスマホ版「トライビット」シリーズも人気
今回はNintendo Switch版をメインに解説したが、記事の前半で紹介したように「トライビット」シリーズではほかにも楽しいアプリがリリースされている。Nintendo Switchをもっていないご家庭では、ぜひiPhoneやAndroidなどのスマホで挑戦してほしい。
「トライビット」シリーズの中でも、初心者向けとしてお勧めなのは「トライビット2」だ。上から落ちてくる数字を見て、「2」なら「2」をオン、「3」なら「2」と「1」をオンにして、消していく。ゲーム性が高く、足し算や二進法などの算数の学習になるため、低学年からも手軽にプレイすることができる。
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さらに発展して学びたいというお子さんや、プログラミングが好きなお子さんの場合は、「トライビットポインタ」に挑戦してみよう。内容的には、シリーズの中でもかなり高度で、開発元のハイマックスでは社員の新人教育にも使っているという。ゲーム感覚で遊べるといっても、向き不向きはあるかもしれないが、「トライビット」シリーズを楽しんでどんどん遊ぶ子は、プログラミングを学ぶのにも非常に向いていそうだ。

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ゲームで子どもの最初の興味を引き出す
我が家の場合、息子がプログラミング好きなこともあり、そのハマり度は親が驚くほどだった。子どもの興味や個性によって反応は変わってくるかもしれないが、実際に子どもたちの多くはゲーム性の高い学習には嬉々として取り組んでいる。「トライビットロジック」の場合、1レベルにつき1問という形式のため、手軽に取り組むことができ、「できた!」という達成感が短いスパンで繰り返されるところも非常に効果があった。
インターネットで世界中がつながり、家庭にも当たり前にデジタルの世界が入り込んでいるこの時代、学び方も大きく変化していく。こうしたゲームを活用した学び方は、現代の子どもたちに効果大といえそうだ。
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