2018年に79か国・地域(OECD加盟37か国、非加盟42か国・地域)、約60万人の15歳(日本の高校1年生)の生徒を対象に調査が実施されたPISA2018の日本の結果を見ると、OECD加盟37か国中では「数学的リテラシー」が1位(527点)、「科学的リテラシー」が2位(529点)と引き続き世界トップレベルだが、読解力は11位(504点)。OECD平均より高得点のグループに位置するが、2015年調査の6位(516点)から平均得点・順位が統計的に有意に低下した。
読解力の低下が心配される中、国立教育政策研究所が公開している「2018年調査補足資料(生徒の学校・学校外におけるICT利用)」によると、日本の教育におけるICT活用状況は、OECD加盟国の中で最下位で、危機的な状況であることが読み取れる。
授業でICT活用しない国ナンバーワン
「1週間のうち、教室の授業でデジタル機器を使う時間の国際比較」の設問で「普段の1週間のうち、教室の授業でデジタル機器をどのくらい利用しますか。」に対する「国語」の授業についての調査結果を見ると、日本は「利用しない」が83.0%。OECD平均は48.2%で大きな開きがあり、OECD加盟国の中でも、参加国・地域の中でも日本はもっとも「利用しない」国という結果となった。「国語」のほか「数学」「理科」「外国語」「社会科」「音楽」「美術」も同様に「利用しない」という回答がもっとも多い結果となった。
PISA2018 読解力 平均得点ランキング(OECD加盟国37か国における比較)
1位 エストニア(523点)
2位 カナダ(520点)
3位 フィンランド(520点)
4位 アイルランド(518点)
5位 韓国(514点)
…
11位 日本(504点)
PISA2018 読解力 平均得点ランキング(全参加国・地域79か国・地域における比較)
1位 北京・上海・江蘇・浙江(555点)
2位 シンガポール(549点)
3位 マカオ(525点)
4位 香港(524点)
5位 エストニア(523点)
…
15位 日本(504点)
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「学校外での平日のデジタル機器の利用状況(学習)の経年変化」の調査結果からも日本はOECD平均と比較して、学習におけるデジタル機器の活用が2012年からなかなか進んでおらず、世界基準から後れている状況だということがわかる。
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コンピューターを使って宿題をしない国ナンバーワン
授業でのデジタル機器の活用状況から推測できるように、日本は学校外での学習においてもデジタル機器の活用が進んでいない。「あなたは、次のことをするために学校以外の場所でデジタル機器をどのくらい利用していますか(携帯電話での利用も含む)」の質問では、「コンピューターを使って宿題をする」について、78.8%が「まったくかほとんどない」と回答しており、日本はコンピューターを使って宿題をしない国ナンバーワンとなっている。
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さらに、「携帯電話やモバイル機器を使って宿題をする」についても72.0%が「まったくかほとんどない」と回答。「コンピューターを使って学習ソフトや学習サイトを利用する」については78.8%が「まったくかほとんどない」と回答、「携帯電話やモバイル機器を使って学習ソフトや学習サイトを利用する」については72.8%が「まったくかほとんどない」と回答しており、調査参加国の中で学校外の学習でもっともデジタル機器を使わない国、という結果となった。
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「遊び」でデジタル機器を使う国ナンバーワン
では、学校外での「遊び」でのデジタル機器の利用状況についてはどうだろうか。「学校外での平日のデジタル機器の利用状況(余暇)の国際比較」の調査結果によると、「あなたは、次のことをするために学校以外の場所でデジタル機器をどのくらい利用していますか(携帯電話での利用も含む)」という質問で、「1人用ゲームで遊ぶ」について「毎日」「ほぼ毎日」と回答した人は合わせて47.7%でOECD加盟国を含めた調査参加国の中で1位となった。また、「Eメールを使う」については、「毎日」「ほぼ毎日」と回答した人は合わせてわずか9.1%で最下位。「ネットでチャットする」については、「毎日」「ほぼ毎日」と回答した人は合わせて87.3%で、こちらもトップという結果になっている。
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日本の子どもたちは日常的にデジタル機器に触れ、使いこなしているのにもかかわらず、学校での学習と学外での学習が、子どもたち個々のデジタル機器とリンクせず、「遊び」にばかりデジタル機器を利用しているというのが現状だ。
2020年のオリンピック開催国である日本の首相がゲームキャラクターに扮して世界にアピールしたように、日本は「ゲーム」や「アニメ」といった、世界を魅了し、日本を代表するデジタルカルチャーを築いてきた。親世代が作り上げたそうしたデジタルカルチャーの中で、子どもたちはすでにデジタル機器を使いこなしているのにもかかわらず、日本の教育現場では、デジタル機器を用いた先進的で合理的な教育機会を与えきれずにいるといえるのではないだろうか。
PISA2018調査結果にあるとおり、日本は「数学的リテラシー」と「科学的リテラシー」は世界トップレベルをキープしている。政府は2019年12月に、1人1台端末と高速大容量の通信ネットワークを一体的に整備する「GIGAスクール構想の実現」に2,318億の予算を割り当て、教育ICTを加速する方針を示しており、今後の動向が注目される。日本の教育環境が旧来の「当たり前」から抜け出し、デジタルネイティブの子どもたちにとっての「当たり前」の世界基準のICT教育環境に追いつくことで、子どもたちがより学びやすくなるよう願っている。