「自ら行動を起こす癖を身に付ける」 UWC ISAK Japan 小林りん氏(後編)

 開校6年で海外の業界誌から「アジアトップ10ボーディングスクール」に選ばれるほどの評価を得て、世界各国の有名大学が視察に訪れるユナイテッド・ワールド・カレッジ ISAKジャパン。創設者の1人で代表理事の小林りん氏に教育の「今」と「未来」についてお話を伺った。

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ユナイテッド・ワールド・カレッジ ISAKジャパン 小林りん代表理事インタビュー
  • ユナイテッド・ワールド・カレッジ ISAKジャパン 小林りん代表理事インタビュー
  • ユナイテッド・ワールド・カレッジ ISAKジャパンのキャンパスと浅間山
  • ユナイテッド・ワールド・カレッジ ISAKジャパン 代表理事 小林りん氏
 2014年、日本初の全寮制インターナショナルスクールとして、長野県・軽井沢の地に誕生したユナイテッド・ワールド・カレッジ ISAKジャパン(以下UWC ISAK)。

 開校6年で全寮制高校として早くも、海外の業界誌から「アジアトップ10ボーディングスクール」に選ばれるほどの評価を得て、世界各国の有名大学が次々と視察に訪れる。卒業生からはアメリカのアイビーリーグをはじめ、国内外のトップ大への進学者も相次いでいる。

 世界80か国以上から多様なバックグラウンドの生徒が集まるこの学校で、いったいどんな教育が行われているのかを創設者の1人で代表理事の小林りん氏に聞いた。後編では、教育の「今」と「未来」についてお届けする。

教員は生徒にとって、問いの伴走者



--世界中の著名な大学からも大きな注目を集めているUWC ISAKの教育で、先生方は生徒たちに対し、どのような姿勢を共有されているのでしょうか。

 私たちの教育では、次の3つの力を大事にしています。

自ら問いを立てる力


 1つ目は、「自ら問いを立てる力」です。その問いには2つあって、ひとつは、自分は何者なのか。自分は何を大事にしているのかという自分自身に向けての問いです。そしてもうひとつは、社会は何を求めているのか、そして社会に対して自分は何ができるのかという外に向けた問いです。

 この2つのうち、私たちの教育は、自分自身への問いを大事にしています。教員たちは決して生徒に押し付けるようなことはせず、彼ら・彼女らが自分自身に問いかけ続けることをサポートするのに徹します。教員は生徒にとって、問いの伴走者であり、ファシリテーターなのです。

多様性を生かす力


 2つ目は、たくさんの異なる価値観をお互いに生かしていこうという、「多様性を生かす力」です。教職員と生徒たちの間にも価値観の違いはあって当然ですが、教員の立場からだと、良かれと思って無意識に自分の価値観を押し付けてしまうことが起こり得ます。そうならないよう、教員たちはとても意識的に、生徒ひとりひとりの価値観を尊重するようにしています。

困難に挑む力


 3つ目は、困難に挑む力です。教員たちは、生徒たちの目前に多少の困難が待ち受けていると気付いても、それを真っ先に取り除いたり注意したりはしません。その困難の”芽”を摘んでしまうと、その子はせっかくの困難に挑むチャンスを培えないことになるからです。少しくらい失敗しても、苦悩したり葛藤したりしても、それこそが学びであるという認識も、教員間で強く共有しています。

 この3つの力を身に付けようと、日々奮闘している生徒たちを心から応援する。何よりも、決して彼ら・彼女らの自由な挑戦の邪魔をしないという姿勢を徹底して実践しています。

台風、コロナ…未曽有の災害でも驚くほどポジティブ



--コロナ禍で、生徒たちはどのように過ごしてきましたか。

 今年度は、コロナ以前にも、昨年9月の年度はじめに台風19号による甚大な被害を受けたので、1年間に2度も未曾有の大きな災難に直面するという、これまでにない波乱万丈な1年でした。でも、こういうときだからこそ、「雨降って地固まる」という言葉の通り、コミュニティの強さを改めて実感できました。

 今年卒業した生徒たちは、このコロナの影響で5月に予定していた卒業式を3月末に前倒しにせざるを得ませんでした。さらに、母国の国境が急遽封鎖されてしまうため、卒業式を待たずして帰国せざるを得ない生徒もいました。あと2か月、一緒にいられると思っていた仲間との別れが突然早まり、皆、それぞれが理不尽でやるせない思いを抱えていたと思うのですが、それでも生徒たちは文句を言ったり、ただ立ちすくんでいたりするのではなく、驚くほどポジティブでした。

 たとえば母国のそうした事情で卒業式に出られない子のために、手づくりで個別に卒業式をして送り出してあげるなど、自分たちが築いてきたコミュニティのために、自分たちでできることを最大限に考え、誰に言われるまでもなくすぐに行動に移していました

 私自身、幸運にもその手づくりの卒業式に居合わせました。生徒に卒業式で被るはずだった帽子を被せ、見送りの友人たちが両手でアーチを作る中をくぐっていく彼女を、皆で歌を歌いながら送り出していくようす、そして最後バンに乗る寸前まで、あちこちから友人が彼女にお別れのハグをしにくるようすを見て、涙が出てきました。私たちのやってきた教育は間違っていなかったこと、そしてこのコミュニティの素晴らしさを、改めて実感した瞬間でしたね。

帰国できず今も軽井沢の「もうひとつの家」で暮らす生徒たち



--母国に帰国できず、ずっと寮にとどまらざるを得なかった生徒さんたちもいたのですか。

 はい。3月半ばから生徒を母国に返し始めましたが、その時点ですでに飛行機が飛んでいない、あるいは国境がすでに閉ざされてしまった国もあったため、結局30名ほどが日本に足止めされ、今も軽井沢のキャンパスの寮で暮らしています。30名のために寮を開け続けるのは財政負担も伴うため、難しい判断ではありましたが、同じように帰国できなかった外国人教員たちが、自分たちが交代で生徒たちの安全管理を担当すると進言してきたため、決断しました。

 国境が閉ざされたアフリカのある国からきている生徒は、冬休みは里帰りのお金を貯めるためアルバイトに励み、夏休みに帰国できるのを楽しみにしていました。国によっては400倍もの倍率をくぐり抜けて試験に合格し、この遠い日本という異国の地に渡ってきています。親御さんは長らく会えない息子の安否をとても心配されていましたが、その子から「心配しなくて大丈夫。ここは僕のもうひとつの家だから。ここにいる人たちには感謝しかないよ」というメッセージが送られてきたそうで、お父さまからは感謝の気持ちが綴られた長いメールが届きました。確かに私たちにとっても苦しい状況ではありますが、その一方でこれまでに経験がないほど、たくさんの感謝の言葉をもらっています

 先行きが不透明なためどの程度の生徒が8月下旬の新学期に向けて国境をこえて戻ってこられるかはまだわかりませんが、今のところ、9月からは生徒の25%がオンライン、75%がオンキャンパスになるだろうと見込んでいます。

ユナイテッド・ワールド・カレッジ ISAKジャパンのキャンパスと浅間山
ユナイテッド・ワールド・カレッジ ISAKジャパンのキャンパスと浅間山

--先生方は、このコロナ禍をどう過ごされていたのでしょうか。

 教員たちも前向きに行動を起こしていました。「せっかく在校生に向けてオンライン授業をやるのだから、オンラインだけの受講生も募集して、我々の授業の一部を体験してもらおう」というアイデアを校長と練り、それを早速実現することになりました。7月1日に週末だけのオンラインコース「ISAKx」のWebサイトを公開、8月1日にオンライン説明会、9月から始動という急ピッチです。9月から1年間、定員60名ですが、今、プロジェクトチームの間ではとても前向きな雰囲気で盛り上がっています。

 生徒たちだけでなく私たち大人も、「ピンチをチャンスに」という姿勢でいることが、怒涛の時代を切り拓くことにつながると信じています。

寛容さがない社会の中で、理想の教育を実現するのはとても難しい



--こうしたUWC ISAKの教育に関わってきた立場から、日本の教育はどういうところを変えていけそうだと思いますか。

 読者の皆様にここは一番、声を大にして申し上げたいところなのですが、私は保護者の皆さんにもできることがたくさんあると思っています。

 私が教育現場で先生方と話していると、皆さん、もっとひとりひとりの生徒のニーズに耳を傾けたい、違うニーズがあるときには個別に対応してあげたい、もっと自由にチャレンジさせてあげたいとおっしゃいます。たくさんある職業の中で、教員という職業を選んでいるのですから、心の奥底には、生徒ひとりひとりの成長を望む心があり、その成長は学力だけに限らないということもわかっておられるはずです。

 ところが、それを阻む力が、不平等、不公平といった訴えです。たとえば、コロナ禍である先生が新しいオンライン授業を試みたいと始めてみたところ、ほかのクラスの保護者から不公平だと苦情が寄せられ、学校としては子どもたちが全員平等に、同じように準備できるまでオンライン授業を見合わせざるを得ない。あるいは、大学入試改革でもっと多様な個性を評価するために記述式を入れようとなっても、それでは厳密に完全平等な採点ができないからと大反対が起きる。そうした世論が、学校現場や教育関係者から、新しい変革に挑む勇気を奪っているように見えます。

 学力以外の能力を伸ばすために、チャレンジングな遠泳や登山に挑むようなことも昔はよく行われていました。しかし最近では、こうした「困難に挑む力」を育む大切な課外活動も、保護者の方々からの反対で廃止に追いやられる傾向にあると聞いています。都内の学校では、家庭科の調理実習で火傷や怪我をしたら危険だからと、先生の実習を生徒が大画面で眺めている方式に切り替えたところまで出てきていると聞きます。1人怪我人が出ただけで、公園の遊具が撤去される自治体が複数あるというのも有名な話です。こんなことで、本当に「生きる力」を育む教育ができるでしょうか。

 私たち親が考えなくてはいけないのは、こういう状況に現場を追い込んでいるのは、私たち親の声だということです。私たちがやるべきことは逆ではないでしょうか。学校と対立したり、ただ不満や不安をため込んだりするのではなく、現状で足りないこと、学校の先生だけではできていないことがあれば、親も自ら動き出す、学校が変革できるようにサポートしていく、そういう姿勢が大切なのではないでしょうか。最初の一歩は、ごく身近な問題に働きかけていくことから始まるのかもしれません。

 今後、コロナウイルス の第2波が来るかもしれませんし、日本の場合には自然災害も増えています。今回をチャンスに、国家としてオンライン教育を各家庭、各学校で体制を整えていくというあゆみは止めないほうがいい。それには、学校の果たす役割に期待するだけではなく、親のコミュニティが自主的に果たしていけることもあるのではないでしょうか。

ユナイテッド・ワールド・カレッジ ISAKジャパン 代表理事 小林りん氏
ユナイテッド・ワールド・カレッジ ISAKジャパン 代表理事 小林りん氏

悲観は気分に属し、楽観は意志に属する



--Withコロナ、Afterコロナの時代に、子どもたちにとって大事な力とは何だと思いますか。

 2つあると思います。

 1つは、困難に直面し、萎縮したり立ち止まったりするとき、それをチャンスと捉えて前向きに進んでいく力。まさにウィンストン・チャーチルの「悲観主義者は、どんなチャンスの中にも困難を見出す。楽観主義者は、どんな困難の中にもチャンスを見出す」という言葉に象徴されるように、こういう大変な時代だからこそ、その大きな変化をチャンスと捉えられる人へのニーズはますます高まっていくのではないでしょうか。

 もう1つは、今回発売となった本「世界に通じる『実行力』の育てかた はじめの一歩を踏み出そう」(日本経済新聞出版)のタイトルでもある、世界に通じる“実行力”。これまでお話ししてきたように、その実行力というのは、一歩踏み出す力のことです。コロナの影響でさまざまな制約や不満、不安があっても、自分なりにその状況を改善するためにほんのちょっとでも踏み出してみる。1つ何かできることを実行したら、そのことが自信につながり、次にまた違う困難に直面したとき、すぐに行動を起こせるようになるはずです。生きる姿勢として、小さなことでもいいから一歩踏み出す。実行に移せることが大事だということを、今回のコロナ禍で私たち大人も問われている気がします。

--最後に、保護者の方々、そして子どもたちに向けてメッセージをお願いします。

 「悲観は気分に属し、楽観は意志に属する

 これは、本のあとがきでも紹介しているのですが、私の座右の銘である、フランスの哲学者、アランの言葉です。この言葉はまさに今の時代にぴったりだと思います。

 「入試のスケジュールがはっきりしない」「学校は休校で塾もオンラインになり、自分の勉強が捗っているか不安」などと悲観するのは気分の問題であって、「何とかなる(何とかする)」「道は開ける(道を切り拓いてみせる)」と楽観に変えられるかどうかは、私たちひとりひとりの意志にかかっています。

 実は見方を変えれば、このコロナ禍で、これまでは通える範囲でしか受けられなかった授業が、オンラインだと世界中から受けられる環境になりました。私たちUWC ISAKの授業も、「ISAKx」のオンラインコースによって、今の自分の学校に通いながらでも、しかも世界中のほかの受講生たちと共に受けられるようになります。

 「ゲームのルールが完全に変わった。これは自分にはチャンスだ!」と捉えて、行動できる人には、必ず楽観できる未来が待っていると思います。今、そうやって考えられる癖をつけておけば、この先どんなことがあっても、今を振り返って、「自分はコロナの時代に受験で大変だったけど、あのときあれだけできたんだから、このくらいの困難は大丈夫」と思えるはずです。今後もまた、未曾有の困難に直面することがあると思いますが、そういうときでも自分は未来を楽観できるのか。今はその練習だと思って、小さな行動を実践していったら、この先もまた、ピンチをチャンスに変えていける人になれるはずです。

 これは性格とか資質とかではなく、早い時期からちょっとずつ、一歩踏み出す癖をつけておくことで鍛えられる力です。だから今は、その最初の一歩を踏み出すすごくいいチャンスをもらっているのだと、皆さんに思ってほしいと思います。

--ありがとうございました。

 小さな一歩でいいから、自ら行動を起こす。変化を働きかけてみる。その「癖」を身に付けることが大事なのだと、小林さんは繰り返し強調していた。

 人は自分で思っているよりも、できるということ。キッカケはいつも「自分」の中にあるということ。UWC ISAKの教育からは、親としても忘れがちな「初めの第一歩」を踏み出すことがいかに大切か、改めて気付かせてもらった。

 →激動の時代に「生き抜く力」を身に付ける教育とは? UWC ISAK Japan 小林りん氏に聞く(前編)へ。

世界に通じる「実行力」の育てかた はじめの一歩を踏み出そう

発行:日本経済新聞出版

<著者プロフィール:小林 りん>
 学校法人ユナイテッド・ワールド・ カレッジISAKジャパン代表理事。経団連から全額奨学金をうけて、カナダの全寮制高校に留学中、メキシコで圧倒的な貧困を目の当たりにする。その原体験から、大学では開発経済を学び、国連児童基金(ユニセフ)のプログラムオフィサーとしてフィリピンに駐在。ストリートチルドレンの非公式教育に携わるうち、リーダーシップ教育の必要性を痛感する。帰国後、6年の準備期間を経て、14年に軽井沢で全寮制国際高校を開校。17年にユナイテッド・ワールド・カレッジ(UWC)へ加盟し、現在の校名となる。
 東京大学経済学部卒、スタンフォード大学教育学修士。15年、日経ウーマン「ウーマン・オブ・ザ・イヤー大賞」。17年、イエール大学グリーンバーグ・ワールド・フェロー。19年、Ernst&Young「アントレプレナー・オブ・ザ・イヤージャパン大賞」など受賞多数。


《加藤紀子》

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