世界トップティーチャーが教える、控えめで謙虚な日本家庭で語学習得を成功させる秘訣

 2020年度から小学校でも必修化された英語教育。不安に思うご家庭も多い中学英語について、教育界のノーベル賞と言われる「Global Teacher Prize」のトップ10に日本人小学校教員として初めて選ばれた立命館小学校・正頭英和氏に話を聞いた。

教育・受験 小学生
世界トップティーチャーが教える、控えめで謙虚な日本家庭で語学習得を成功させる秘訣
  • 世界トップティーチャーが教える、控えめで謙虚な日本家庭で語学習得を成功させる秘訣
  • 英語の学習を通して、子供の関心ごとに親も興味を示すことが成長のコツ
  • 受容語彙と発表語彙、それぞれの学び方で負担を軽減できる
  • スペルを間違えずに「書く」ことだけが、英単語の学習ではない

 2020年度から小学校でも必修化された英語教育。早期から英語に触れさせるご家庭もある一方で、中学校では習う内容のボリュームも多くなり、レベルもぐんと上がる印象を受けるため「授業についていけるだろうか」という不安の声も、進学のタイミングで依然として多く聞かれる。

 立命館小学校の教諭として先進的なグローバル教育に取り組み、教育界のノーベル賞ともいわれる「Global Teacher Prize」のトップ10に日本人小学校教員として初めて選ばれた正頭英和先生に、小学生のうちから「英語好き」を定着させ、中学校でも継続させるコツについて話を伺った。

400語以上の単語増…変わる中学英語

--2021年度から中学校では新しい学習指導要領が導入されましたね。中学英語にはどのような変化があったのでしょうか。

 私立中学校は、オリジナルカリキュラムで進めているため少し話が変わってくるのですが、公立中学校の先生方からよく聞く反応としては、中学3年間で扱う単語量の増加で、改定前より400語以上増えたという点です。また、新しい中学英語では、感嘆文や現在完了進行形といった文法項目の追加もされています。

--以前よりも高度な内容になっているということですね。

 小学校であらかじめ英語に触れる機会が設けられたことで、その発展として中学英語が捉えられていることは間違いありません。

 小学校での英語必修化には、大きな利点があります。英単語は子供の精神年齢に合ったものから習得していくことが理想とされていますが、今までは中学生で初めて英語に出会うため「apple」や「pen」などの簡単な単語も多く、精神年齢に合っていない部分がありました。2020年度からの小学校での英語必修化で単語の一部を前倒しして覚えることが可能になり、中学校ではより年齢に即した、概念的な単語を教えられるようになったのはメリットだと考えています。

受容語彙と発表語彙、それぞれの学び方で負担を軽減

「単語学習=暗記」ではない

--ネット上の反応でも「単語量が400語増えた」ことについて触れるものが多いですし、保護者にとってもインパクトがあったようです。その分、単純な暗記量が増えるということでしょうか。

 文部科学省も定義しているのですが、英語の単語には2つの種類があります。

(1)受容語彙
 :「読む・聞く」ときに、意味が分かれば十分なもの(例:cell)
(2)発表語彙
 :「話す・書く」など、自分の言葉として使いこなす必要がある単語(例:I think~)

 受容語彙は、たとえるなら「薔薇」のような難しい漢字みたいなもので、とっさの時に書けなくても良いものなんです。ところが、先生も保護者もすべての単語を「発表語彙」にまで到達すべく「全部の英単語を100回書き取り練習」といった勉強をさせがちです。最近は「読む・聞く・書く・話す」といった4技能の習得が英語教育の目標に掲げられていますが、これらすべての技能で使いこなせるレベルを単語習得に課すと、子供の負担になってしまいます。それぞれの単語について「これは聞く・読むで充分」「これは話せる(書ける)ようにしたいね」と整理すると、取り組みやすくなると思います。

--親はそのあたりの整理について、どのようにフォローするべきでしょうか。

 英語教育において単語はもちろん重要なのですが、どうも日本には根性論で乗り切ろうとする文化があります。「覚えるまでノートにひたすら書く」というような。でも、これでは単語をマスターすることは難しいんです。

 たとえば、単語にまつわる技能には(1)聞くこと(=意味)、(2)書くこと(=綴り)、(3)発音(=音声)の3つの技能があります。

 これらは層になっているのではなく、3つそれぞれ独立した技能です。「apple」が書けない子でも、耳から聞けば意味が理解できたり、発音することまでは到達している場合もあります。その場合は「書く」技能だけができていないので、書く練習が有効になってきます。

 こうして常に「3つの技能のうち、どの部分ができなかったのか」と一歩踏み込こんで確認することで対策が立てやすくなり、根性論から脱することができます。子供はおそらく漠然と「単語が分からない」と言うと思うので、大人がその「分からない」の中身をクリアにしてあげることが大切です。

--引き続き、英語で話す力も重要視されそうですね。

 近年求められている「スピーキング」には、2種類あります。

(1)即興的なやりとりで、事前準備ができないもの
(2)プレゼンテーションなど、型があり事前準備できるもの

 両方大事ですが、前者の即興的なやりとりに関しては、実際に英語を使って会話し、失敗しては修正することを繰り返さないと上手くなりません。経験の量がものを言います。親は子供が失敗しても、一生懸命話したことをとにかく褒めてあげてほしいですね。スピーキングの力を育むうえでは、大人がいかに「子供が恥ずかしがらずに話せる環境設定をしてあげられるか」が、ポイントになります。

 ちなみに、教育全般に関して「褒めて伸びるのか、叱った方が伸びるのか」とよく聞かれますが、これは子供によって違うので一概には言えません。褒め方1つとっても、子供ごと響くものは異なります。目の前の子供に適したアプローチを分析しておく必要があります。

スペルを間違えずに書くことだけが、英単語の学習ではない

日本は「英語を話せる」のハードルが高すぎる

--中学入学前に、英検やTOEFLなど英語系の資格取得を検討する方が良いでしょうか。

 全員に受験を勧めるのはナンセンスだと思います。基本的に日本の公教育は、学力が真ん中の層の子に合わせて授業の難易度を設定していることが多いです。そのため、学力に余裕がある子にとっては、退屈に感じてしまうこともあるでしょう。余力がある子に外部の資格を受験させることはモチベーションを上げるためにも有効な方法だと思いますよ。

--子供の状況に合わせて考える必要がありますね。「英語嫌い」にならないために小学生のうちから親がすべきことはありますか。

 まず、保護者が評価しないことです。たとえば、子供が英語の勉強について話しかけてきたときに「英語の勉強をしてえらいね」とその子の行動を評価しても、子供は実はそこまで嬉しくはないんです。それよりも効果的なのは「そんなことを勉強してるんだね。パパも調べてみようかな」「ママも一緒にやってみようかな」と、子供が学んでいるそのものに一緒に興味をもつことの方が、子供のモチベーションをあげるのに効果的だと考えています。ですから、子供が何に興味をもっているかよく観察し、親もそれに対して関心を示すことが重要です。

 次に、親が勝手に子供の「得意・不得意」をジャッジしないことです。よく「うちの子は英語に向いていなくて困っています」という相談を受けます。たしかに「語学習得がしやすい・しにくい」という特性の差は個々人で異なります。ただ、これは日本に住んでいる人に限ったことではなく、全世界の人それぞれに特性があり、アメリカやイギリス、オーストラリアに住む数億人の中にも、習得しにくい人はいるはずなんです。それにも関わらず、みんな英語を話せていますよね。つまり日本に住んでいる人であっても、努力すればみんな英語は話せるようになるはずです。子供に「不得意」「苦手」というネガティブな先入観を与えるよりも、気にせず英語に触れさせるのが得策だと思います。

 それに加え、大きな問題なのは、そもそも日本に住んでいる人は「英語ができる」ということへのハードルが高すぎるということです。日本の英語教育において1番のポイントになると思っています。現に、他の国では、片言しか話せないのに「英語ができる」と言い切る人がたくさんいます。

 大人が英語へのハードルをもっと下げていかないと、子供たちは怖がって気楽に英語を使うことができません。まずは、家庭で親が「英語を話せる」と言い切り、ご自身の英語力を披露してみてください。それがもしも上手でない英語だったとしたら、「このレベルでも大丈夫なんだ」と子供はかえって安心して挑戦できるようになります。この方法は、英語が本当に苦手な保護者の方がより効果的ですよ。自信をもってください。

英語の学習を通して、子供の関心ごとに親も興味を示してみる

--先ほどのスピーキングの話でも、「失敗こそが成長のもと」というお話がありましたが、恥ずかしがらずに挑戦することがやはり大切ですね。

 小学校高学年以上にありがちな問題は、失敗を恐れて、恥ずかしがる子が増えることです。学校の授業でも、家庭での英語学習でも「何でも良いから英語でしゃべってごらん」と口だけで言っても、誰もしゃべりません。

 僕が英語の授業にコンピュータゲーム「マインクラフト」を取り入れるようになったのは、その突破口を見つけたかったからです。当時は「ゲームを授業で使う」という発想はなく、むしろ教育的にタブー視する声すら聞かれました。でもそんなことはどうでも良くて、とにかく恥ずかしさより楽しさが勝るような授業をして英会話のハードルを下げたかったんです。早くゲームの続きをしたいから、誰かの失敗を笑う暇もありませんし、「恥ずかしがらずに発言しないと進まないよ。困っていたら教えてあげるよ」と教え合い、学び合う姿もみられるようになりました。「失敗できるクラス」「失敗できる環境」は、英語力が伸びやすいんです。

 英語の授業の雰囲気が他にも波及して、結果的に温かい雰囲気のクラスになりました。とにかく子供たちがチャレンジしやすい環境を作ることが大切ですね。

 ご家庭でも、闇雲に中学英語を怖がるのではなく、必要な技能をしっかり整理し、英語に取り組みやすい環境や雰囲気を作ることで、前向きな気持ちで取り組めるはずです。

--英語についての認識を改める機会になりました。本日はありがとうございました。

 「日本の英語教育に1番必要なのは、英語のハードルを下げること。全員が『英語ができる』と言い切れば、これからの英語教育は変わる」と繰り返した正頭先生。控えめで周りの目を気にしやすい日本人にとって、英語力だけでなく自分の能力を認め、「できる」と言い切ることはなかなか勇気がいることだ。まずは大人が英語に対してオープンに向き合い、子供と同じ目線で学びに興味をもつこと。そして日本の教育現場に長らく蔓延っている根性論を抜け出し、わが子が補うべきポイントを客観的に見定めてあげること。そうすることで、子供が今後長く接していく英語という言語が、グンと身近で楽しく感じられるに違いない。

正頭先生のご著書「世界トップティーチャーが教える 子どもの未来が変わる英語の教科書」

発行:講談社

<正頭英和先生 プロフィール>
 1983年大阪府生まれ。関西外国語大学外国語学部卒業。関西大学大学院修了(外国語教育学修士)。京都市立公立中学校、立命館中学校・高等学校を経て現職。英語科教諭として指導をしながら、ICT教育部長としてオンライン授業の仕組み作りも担う。2019年、人気ゲーム「マインクラフト」を活用した問題解決型授業が評価され、「教育界のノーベル賞」と呼ばれる「Global Teacher Prize」のトップ10に選出される。

《土取真以子》

土取真以子

関西在住の編集・ライター。教育、子育て、ライフスタイル、お出かけのジャンルを中心に、インタビュー記事やイベントレポートなどの執筆を手がける。教育への関心が強く、自身の出産後に保育士資格を取得。趣味が旅行とハイキングで、目標は親子で四国お遍路&スペイン巡礼。

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