妊娠中の運動が子の肥満防ぐ…東北大等の研究グループ

 東北大学等の研究チームは2022年4月11日、妊娠中の運動が子の肥満を防ぐ仕組みを解明したと発表した。母親の肥満による子の糖代謝異常は、妊娠中の運動で胎盤から分泌されるタンパク質(SOD3)によって予防することができるという。

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研究概要
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 東北大学等の研究チームは2022年4月11日、妊娠中の運動が子の肥満を防ぐ仕組みを解明したと発表した。母親の肥満による子の糖代謝異常は、妊娠中の運動で胎盤から分泌されるタンパク質(SOD3)によって予防することができ、妊娠期の運動は次世代の健康を守る実践的な予防方策の可能性があるという。

 母親の肥満は子の将来の糖尿病リスクを増加させることが知られている。この世代間連鎖は、子に生まれつきの健康格差を強いる重大な原因となるため、母親から子への肥満の悪循環を防ぐ効果的な手段の確立は喫緊の課題となっている。

 東北大学学際科学フロンティア研究所の楠山譲二助教、理化学研究所生命医科学研究センターの小塚智沙代基礎科学特別研究員、金沢医科大学の八田稔久教授、東北大学大学院医工学研究科の永富良一教授らのグループは、マウスを使った実験を実施した。

 母親が妊娠中に高脂肪食を摂取すると、胎子の肝臓でエピジェネティクス(DNAの配列変化によらない遺伝子発現を制御・伝達するシステム)改変の一種であるヒストンメチル化(DNAをまきつけているヒストンタンパク質のテール部のアミノ酸にメチル基が結合し、遺伝子発現が変化すること)のH3K4me3(ヒストンタンパク質H3のヒストンテールの4番目のアミノ酸であるリジンに3つのメチル基が結合したもの)レベルが低下し、主要な糖代謝遺伝子の発現が低下していることを見出した。

 この現象は、胎仔肝臓における活性酵素の上昇と、ヒストンメチル化酵素の活性制御分子であるWDR82(ヒストンメチル化を触媒するヒストンメチル化酵素の働きを助ける作用のあるタンパク質)のカルボニル化(タンパク質のアミノ酸が活性酸素によって酸化修飾を受けてカルボニル基を生じること)による機能異常に起因。だが、母親の高脂肪食摂取で誘導される一連の悪影響は、妊娠中の運動で胎盤から分泌されるスーパーオキサイドドジスムターゼ3(SOD3)によって防ぐことができ、母親の肥満による子の糖代謝異常を予防することができたという。

 胎子肝臓にSOD3を注入すると生後の糖代謝機能は向上したが、代表的な抗酸化剤であるN-acetylcystine(NAC)を注入してもSOD3の効果を模倣することはできず、妊娠中の運動や胎盤由来SOD3のもつ特別な効果があることも示唆された。

 この研究により、妊娠期の運動がもつ、母親の肥満から子への悪影響を防ぐメカニズムを解明。胎盤から産生されるSOD3の効果を受けることの重要性を明らかにするとともに、妊娠中の運動が非常に有効であることを提唱した。研究チームでは「妊娠中の運動と胎盤を通じて子の将来の健康を増進できれば、これまでにない次世代医療の実現につながる可能性がある」としている。

 研究成果は、3月15日(日本時間3月16日)付で電子版「Diabetes誌」に掲載された。
《奥山直美》

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