【中学受験2023】コロナ禍3年目は面接実施・1月受験も回復、学校選びにも「多様性」…SAPIX

 来春の入試に向け、いよいよ受験勉強も佳境を迎える。毎年、数多くの受験生たちを難関校合格へと導いてきた大手進学塾サピックスで教育事業本部の本部長を務める広野雅明先生に、2023年度入試の志願動向や出題傾向について聞いた。

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  • サピックス教育事業本部の本部長・広野雅明先生
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 来春の入試に向け、いよいよ受験勉強も佳境を迎える。毎年、数多くの受験生たちを難関校合格へと導いてきた大手進学塾サピックスで教育事業本部の本部長を務める広野雅明先生に、2023年度入試の志願動向や出題傾向について聞いた。

2023度受験者数は横ばいか微増

--近年の中学受験者数は5万人を超え、年々加熱しているとも言われています。来たる2023年度入試について、現況をどのようにみているかお聞かせください。

 現段階の各社の模試の受験者数からみますと、基本は横ばいか微増というような状況です。中学受験は経済状況と無縁ではいられないことを考えると、ロシアのウクライナ侵攻を契機とした景気低迷、円安や物価高といった苦しい状況が続くなかで、来年度入試において全体として受験者が大きく増えることはないのではないかとみています。

 「コロナ禍の影響で私学志向が高まった」とメディアなどでよく耳にしますが、個人的には、その話に果たして根拠があるのかと疑問です。もちろん、早々にオンライン授業を実施したりICTを活用したりと先端的な取組みを行った私立校はかなりありましたが、そうした一部の学校ばかりが取り沙汰されて一般の公立校と比較されていた感が否めません。実際は私立の中高も、総じてスムーズにオンライン授業に対応していたかというと決してそうでもありません。

 中学受験をするということは、一般の公立中学校とは違ってかなりの学費がプラスでかかるわけですから、やはり先立つ経済力がないと成り立たない面もあります。世の中が経済的に低迷している状況下で、私立と公立の6年間の費用の差を埋めるまでの影響力をもつ根拠がそこにあったかというと、疑問に思います。

 それでは近年、受験者数が増えているといわれる背景には何があるのか。これは、少子化が叫ばれる中でも、東京の都心部だけは子供の数が増えていることが大きな要因だと思っています。もともと都心部は中学を受験する率が高いので、そのエリアの児童数が増えた結果、受験者数も増加した。そしてこの部分に焦点が当たることで、一見すると「激化する受験ブーム」のように映ってしまいます。

 もしコロナ禍の影響で受験者数が増えたのであれば、東京と同様に大変だった状況の大阪など関西圏や地方でも同様に受験者数は増えるでしょう。ところが増えていない。つまり東京都心を中心とした、一部地域だけの現象であるととらえるのが理にかなっていると思います。

サピックス教育事業本部の本部長・広野雅明先生

前受けも回復、2月1日の自信につながる受験計画を

--受験生の志望動向についてお聞きします。平均受験校数、前受け(1月に入試の実施される地域の試験を受けること)を含めた併願パターンについて教えてください。

 平均受験校数については、だいたい1人あたり約7校に出願して、実際に受験するのは5校ほどです。お住まいのエリアにもよりますが、王道は1月の前半の埼玉入試あるいは地方校の首都圏入試を受けて、10日ほどあけて千葉を受ける。そして2月1日以後の東京・神奈川入試に挑むパターンです。

 一昨年(2021年度)は、まだコロナウイルスがどのようなものかわからずに恐れられていたこともあり、感染の不安から1月校の受験を控えていた家庭も見られました。ただ、昨年に関しては前受けに埼玉や千葉の学校を受験する方の数は例年どおりに戻っています。やはり本番を前に試験当日の緊張感に慣れておくこと、学校によっては教科ごとの得点開示をしてくれるので、お子さんの弱点を洗い出してそこからの学習につなげることを期待しているのでしょう。何より、1校でも合格を手にしておくことが2月1日の自信につながるので、やはり1月校から受験をスタートさせるご家庭が多いです。

--御三家や難関校についてはいかがでしょうか。併願パターンに変化はみられるのでしょうか。

 ここ数年の男子の併願パターンとして、1日は麻布や開成といった御三家、2日は渋谷教育学園渋谷(以下、渋渋)の組み合わせが増えているという傾向はあります。数年前までは、渋渋は女子の人気が高く男子が入りやすいという印象でしたが、このような背景もあって男子もかなり難しくなっています。また大人気の1月校の渋谷教育学園幕張(以下、渋幕)が非常に難化していますので、失敗した場合に備えて、2日の受験校として渋幕に出願を準備しておくケースも少なくありません。総じてみると、かつての「絶対に男子校」という選び方ではなく、学校の中身で志望校選択しているご家庭が増えている印象です。

 女子では渋渋、渋幕、広尾学園といった共学校や、筑波大附属などの国立校、小石川といった公立一貫校も人気が高いです。20年前だったら女子のトップ層の子たちは桜蔭を受けるというのが王道でしたが、以前に比べると渋渋、渋幕、早実、女子学院などを志望するケースが増えています。偏差値の高い学校を目指すというよりも、お子さんの性格やご家庭の方針、スクールカラーで学校を選ぶ傾向は女子の方が強いのではないかと思います。

ベースの知識をもとに応用力を問われる出題

--昨年度入試問題でみられた傾向や、今年度考えられる出題のトレンドについて教えてください。

 単に知識の有無を聞くような問題、あるいは解き方を知っているか知らないかといった要素で差がつく入試問題が減っているのは、近年とても顕著な傾向です。

 あとはどの教科においても、世の中の社会問題をテーマにした思考力問題が増えてきています。参考書や問題集に出ている知識をそのまま暗記するのではなく、家族でニュース番組などを見て家族と会話をしているお子さんほど、点をとりやすいような問題が多いです。昨年度でいえば、麻布の社会で出題された難民問題、武蔵の学校制度や教育格差についての考えを問う問題、開成ではアンコンシャスバイアスをテーマにした出題などが話題になりました。

 これらに共通しているのは、まず文章を読んで、そこに書いてあることを読み取りながら設問をひとつひとつ解き進めていき、頭の中を整理しつつ、最後の記述で考えを書かせるという流れ。こうした出題には「この試験を受けることによってさまざまな学びを得てほしい」という学校からのメッセージが込められているのです。社会のさまざまなことに対し興味関心をもち、自分なりの考えを深められる子に来てほしいという、学校の方針とも理解できます。

 こういった問題は、やみくもに自分の考えを書けば良いものではありません。ベースとなる知識として、教科書や塾の参考書に出ているような内容がきちんと身に付いていることが前提となっており、どのように応用するかが求められます。入試問題を通して、そういった力が問われる傾向はこれからも続いていくはずです。

2023年度、注目の学校&トピックス

--新設、校名変更やリニューアルなどの動きが盛んにみられますが、生徒、保護者の関心はいかがでしょうか。

 新設校でもっとも注目が集まっているのは、田町(三田)にある東京女子学園が校名変更し、共学化する芝国際学園です。学校主催の説明会が募集開始と同時に即定員に達してしまう状況からも前評判の高さが伺えますし、ここが台風の目になるのは確実とみています。都心のど真ん中にあるという立地に加え、理系のインターナショナルスクールと同居しますので、STEAM教育とグローバル教育という、保護者が今求めている要素を掛け合わせていることも大きな魅力として映ると思います。

 ほかにも注目株があります。まずサレジアン国際学園世田谷。前身である目黒星美は落ち着いた雰囲気の学校としてかねてから定評があり、カトリックで面倒見もよく、のびのびと過ごせる広大な敷地もあります。2022年に先行して開校した赤羽のサレジアン国際学園も多くの受験生を集めたことを考えると、世田谷も一定の人気を確保するとみて良いでしょう。

 また流通経済大柏も注目するに値します。学校所在地は、つくばエクスプレス沿線にあり人口増加が著しいエリア。部活動に力を入れており、流通経済大学との高大連携、旧日本通運(現NX社)との提携といった独自のカリキュラムをもっています。1月試験の実施校で、受験しやすさもあり、かなりの受験者を集めるとみています。

 もう1つの目玉が日本学園です。現6年生が高校に上がるタイミングで明治大学世田谷となり、明治大学への推薦枠が設けられると発表されています。付属の中でも特に明治大学はブランド的にも人気が高いですから、大人気校になるのは確実です。先見の明をもって、今のうちに入学させようと考える家庭も多いと思われます。

--難関校や人気の付属校において、入試日程や募集定員などの主だった変更について教えてください。

 東京都市大が2月1日午前入試を行うことは、大きな影響を与えそうですね。従来の日程と共通なのは2月1日午後のみで、2月1日の午前、3日、5日と、まったくの別日程に移行しています。都市大といえば、校舎も新しく、都心からのアクセスも良い人気校。文武両道で部活もしっかりやっていて、男子校にしてはかなり面倒見も良い学校です。昨今、非常に人気が高く入り口の偏差値が急激に上がっているだけでなく、それに見合うような形で出口(大学合格実績)も毎年良くなっています。2022年度には東大合格者が2桁を突破したたほど。都市大の勢いはまだまだ続くとみています。

 これまでも併願という位置づけではなく、第一志望として東京都市大を受験している子が少なからずいましたが、満を持して1日午前に入試を行うことで、明確に志望度の高い受験生を見極められます。当然いろいろな学校に影響が出てくるでしょう。近いエリアですと成城、駒場東邦、世田谷学園あたり、また同偏差値帯の城北や巣鴨といった男子校への影響がどうなるか注目しています。

 女子では、洗足学園が従来2科、4科の選択制だったのを、4教科のみにしました。光英ヴェリタス、開智日本橋なども適性検査型の入試を取り止めて教科型の入試となっています(※注 開智日本橋には一部適性検査型入試あり)。このように、一定期間、選択入試や適性検査入試で受験生の間口を広げて、人気が出てから学力勝負に移行していくという流れはあります。

 また、慶應中等部の男子定員が140名から120名に減員しました。かつては幼稚舎からほぼ全員が普通部に進学していたのですが、近年中等部に進学する子が増えているという背景があり、内部進学を確保したうえでそれ以外の定員を減らしたと予想できます。慶應湘南藤沢(SFC)に関しても、以前は中学受験組が主流でしたが、現在は横浜初等部から内進してくる子と帰国生が多くを占めています。難関の付属校の様相は時代とともに変わってきているようです。

女子校の面接も例年どおりに

--コロナ禍の影響は、2023年度の中学入試にどのように及ぶとお考えでしょうか。

 桜蔭、女子学院、フェリス、雙葉といった女子校ならではの特徴として「面接」がありますが、昨年はコロナの感染状況を鑑みて、直前で面接を中止する学校が多くありました。ただ、やはり面接はご家庭と生徒が学校の方針から大きく逸れることがないかを見るための大切な機会と考えている学校も多く、2023年は例年どおり面接を実施する可能性が高いのではないかと思っています。

 また、コロナ禍で入場制限の厳しかった説明会や学校行事も、今年はずいぶん緩和されました。文化祭も人数制限を設けながらも一般客を入れている学校がほとんどですし、説明会も回数を増やしたり、1回あたりの人数を増やしたりと徐々に学校行事に参加できるチャンスが増えてきました。たとえ参加できなくても動画が配信されていたり、一昨年、昨年に比べると受験生が情報を得る機会は確保されていたのではないでしょうか。コロナ対策にも慣れてきたせいか、何がなんでも中止、といった風潮ではなくなってきています。とにかく、このまま落ち着いて2月を迎えてほしいと願うばかりです。

直前の成績低下はポジティブにかわす

--受験直前期、親に必要な心構えとメンタルの保ち方についてアドバイスをお願いします。

 毎年、この時期の受験生と保護者の方に接していますが、もっともやってはいけないのは結果だけを見て、追い立てることです。模試の結果が非常に悪かった、あるいは過去問をやってみて点数が取れなかったとなるとショックを受けると思いますが、そこで結果だけで追い立ててしまってもお互いにとって何も良いことはありません。

 ずっと上位コースで定着していたのに、この時期のテストで成績が下がってしまう子は毎年少なからずいます。親は、子供の勉強方法が悪かったからそうなったのではないかと原因を追究しようとしますが、そういうときこそ冷静になってほしい。「困ったときこそ(子供を信じて)動くな」と伝えたいです。

 特に子供は、頑張らなきゃいけないと思って必死になると、かえってそれがマイナスに働いてしまうときがあります。誰だって得意不得意な分野はありますし、苦手な単元がテストに出てしまうこともあります。普段だったらあまり計算ミスのない子が些細な間違いをしてしまう、問題文をちゃんと読む子がプレッシャーから読めなくなってしまう、そういう状態もどうしてもあるのです。ただ、それはそれで1つの経験です。一度そうなれば次は気をつけようと思えますし、逆に「第一志望校の入試のときにこの状態にならなくて良かったね」と、ポジティブに声をかけてあげてください。

 間違えた問題も、家でやり直しをしてみて、ちゃんとできたかどうかで判断してください。それが問題なくできていれば模試の結果が悪かろうが、実力的にはまったく問題ありません。ただ、保護者が偏差値や結果だけを評価してしまうと、子供はカンニングをしてでも点数を上げなければ、という歪んだ心理に陥ってしまうこともあります。

 子供だってその場だけ良い点をとったって何の意味もないことはわかっていますし、頑張ったのに結果が出なくていちばんショックを受けているのはお子さん自身です。追い詰めないよう、保護者はしっかりお子さんの話を聞いてあげることが、何より大切だと思います。

受験に向かう日々こそが一生の財産

--最後に、これから受験日までラストスパートをかける受験生へのメッセージをお願いします。

 中学入試は唯一失敗が許される試験です。高校入試、大学入試は失敗すると進学先がなくなってしまいますが、中学受験はもし結果が出なかったとしても、公立の中学校には必ず全員が入ることができます。また、受験機会も1回ではありません。何校かの学校を受けると思うので、「失敗したら後がない」というものではありません。たとえ第一志望の学校に合格できなかったとしても第2、第3志望の学校に進学して、結果的にそちらの方が良かった、自分に向いていたというお子さんは、たくさんいます。だから何とかなるという気楽さを必ずもっていてほしいのです。

 もう1つ、勉強というのは結果も大事ですが、その過程で得た「学ぶことの楽しさ」は絶対忘れないでほしいと思います。今やっていることの目標は中学受験ですが、それはゴールではありません。これまでの3年間で得た知識や考え方は絶対無駄にはならないし、これから先、いろいろなことを知っているからこそ、さまざまな発想を生み出すことができるでしょう。今受験のためにやっていることは、一生の財産になるんだということは心に刻んでおいてください。

 受験生の皆さんへ伝えたいのは、広い世界を見渡すと、12歳で働かなければならない子もいるという現実です。世界には勉強をしたくてもできない子もいっぱいいる。勉強に打ち込めるような環境を作ってくれたご両親への感謝の気持ちを忘れず、1日1日を大事に過ごしてほしいと思います。

--ありがとうございました。

 「目標に向かって一生懸命努力した経験こそが、一生の財産なんです」と強調する広野氏。志望校合格という高い壁に挑む子供たちに向けて、熱いエールを送ってくれた。

 なお、今春サピックス小学部を卒業した児童が実際に受験した併願校パターンについては「【中学受験2023】サピックス小学部生の動向からみる「主要志望校別・併願パターン」」にて確認できる。

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《吉野清美》

吉野清美

出版社、編集プロダクション勤務を経て、子育てとの両立を目指しフリーに。リセマムほかペット雑誌、不動産会報誌など幅広いジャンルで執筆中。受験や育児を通じて得る経験を記事に還元している。

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