低学年から論理力を伸ばす講座を展開する早稲田アカデミー。教務・中学受験部門の責任者2人に、算数を通して鍛える論理力について話を聞く本企画では、前半の<数>編に続き、今回は<図形>編をお届けする。低学年から図形問題に向き合うことで得られるものの重要性について話を聞いた。
【インタビュイー】竹中孝二氏:早稲田アカデミー教務本部長 兼 NN麻布クラス ※1 総責任者
丸谷俊平氏:早稲田アカデミー中学受験部長 兼 NN開成クラス ※2 総責任者 兼 SPICA ※3 総責任者
※1 小6対象の「NN志望校別コース」の麻布中対策クラス/※2 小6対象の「NN志望校別コース」の開成中対策クラス/※3 最難関中学受験専門塾
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“図形はセンス”ではない…低学年で伸ばしておきたい力
--「図形」を使った問題において、低学年ではどのような力を伸ばすことが大切だと考えますか。
丸谷氏:前半の「数」でもお話をしたように、「図形」についても、低学年で取り組む問題は、中学受験に向けたカリキュラム学習が本格化する4年生以降に向けた種まきです。低学年は論理力を鍛え、柔軟な思考力を養う時期。特に図形は、経験値が勝負となる単元ですので、レゴブロックや折り紙、段ボールやサイコロなどを使って遊びながら、さまざまな試行錯誤を重ねていくことが大事です。
--図形の問題を解くにはセンスが必要だと思っていましたが、そうではないのですね?
丸谷氏:高学年で本格的な図形問題が始まると、必要となるのが補助線です。確かに保護者の方の中には「補助線を思い付くには、ひらめきやセンスが必要なのでは?」と感じている方が多いかもしれませんが、問題には必ず「ここに補助線を引くんだよ」という仕掛けが隠されています。その仕掛けに気付くには、「どうしてここに記号がふってあるのかな」「なぜここが点線になっているのかな」といった視点、つまり、それまでさまざまな試行錯誤を重ねて育んできた「宝探しマインド」を発揮することが不可欠なのです。
--なるほど。「数」の問題と同様に「図形」でも、低学年までに「宝探しマインド」で試行錯誤する経験をどれだけ積めるか。受験まで時間のある低学年だからこそできる学び方ですね。
竹中氏:その通りです。早稲田アカデミーのスーパーキッズコース(小学1・2年生対象)では具体物を使い、手を動かして考える手法を取り入れ、「こうすればうまくいくかな」「今回は失敗したけど次は別のやり方で挑戦してみよう」と楽しみながら経験値を増やしていきます。この経験値が「宝探しマインド」の礎です。「うちの子は図形が苦手」「センスがない」などと悩んでいる低学年の保護者の方には、ひとこと「心配ご無用!」とお伝えしたいですね。
本格的な図形問題を解く土台づくり
--具体的に、早稲田アカデミーのスーパーキッズコースではどのような問題に取り組むのでしょうか。
丸谷氏:たとえば1年生では次の問題のように、遊びながら手を動かし、試行錯誤の経験を重ねていきます。
問題(1)
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次の問題は2年生向けですが、これは厳密にいうと「図形」の問題ではなく、積み木を使って考える「論理」の問題になります。
問題(2)
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このような積み木を重ねる問題は、将来的には「場合の数」と呼ばれる単元につながっていきます。多くの受験生が悩む単元の1つですが、低学年のうちにセオリーを学ぶのではなく、様々試してみることが大切です。まさに、論理力を高める問題と言えるでしょう。
--低学年では、「図形」を題材にして「論理」の力を高めるということですね。
丸谷氏:「図形」に関しては、本格的に公式を覚えて学習するのはおもに4年生からで、次の(3)のようにマス目の個数を求めたり、角度や面積を求めたりするものから始めます。早稲田アカデミーでは、低学年は公式を覚えるような学習ではなく、あくまでも「論理」の問題に軸足を置きながら、高学年以降、より高度な図形問題が解けるようになるための思考の土台をつくっていきます。
問題(3)
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図形の苦手意識をなくすには
--「図形が苦手」と感じるお子さまは少なくありません。なぜそう感じてしまうのでしょうか。
丸谷氏:数の問題だと、解き方がわからなくてもとりあえず計算してみるなど手を動かせるのですが、図形の問題だとすぐ手が止まってしまうためだと思います。その結果、保護者の方も「わが子は図形にまったく太刀打ちできていない」と錯覚しやすいのも原因の1つでしょう。
竹中氏:図形を高学年からスタートする理由は、図形問題を解くにあたっての武器=セオリーを習得するまでに時間がかかるためです。この武器をしっかり習得しておかないと、なす術もない。つまり手を動かせないのです。
丸谷氏:下記は、習得すべき基本の図形問題です。その基本を知ったうえで、次のような補助線の引き方もおさえておく必要があります。
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--補助線の引き方にもセオリーがあり、まずはそれを確実に習得することが基本中の基本だということですね。
丸谷氏:図形が苦手と感じるお子さまには、補助線を思いつくままに引いてしまう傾向があります。図形を学び始めたばかりのころはあちこちに線を引いて試行錯誤してみるのは必要な時間ですが、問題の難度が上がると「とりあえず引いてみる」ことが通用しなくなります。先ほど竹中が申し上げたように、セオリーに沿って線を引かないと思考が始まりません。図形が難しいと感じてしまうのは、セオリーをきちんと理解していないからです。
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こうしたセオリーがどれほど重要か、実際に問題を解きながら見ていきましょう。次の(4)の問題では、「3つの角が60度だったら正三角形」「45度があったら直角二等辺三角形」といったセオリーを知らないと、どこに補助線を引けば良いのか、検討がつけられません。
問題(4)
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--苦手意識のあるお子さまも前向きに問題に取り組めるよう、早稲田アカデミーではどのように授業を行っているのでしょうか。
竹中氏:問題(4)にあるチェック項目に従いながら、子供たちに「どの情報使う?」「どこに補助線ひいてみる?」「どの角度に目がいった?」と質問を投げかけ、みんなで答えを探していくようにすると盛りあがりますね。与えられた情報を書き込み、必要な武器をそろえ、隠されたヒントをもとに謎を解いていく先に、探していた答えが現れる。このプロセスは子供たちにとってゲームと同じです。
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--試行錯誤しながらゴールに向かうプロセスを楽しむマインドですね。
竹中氏:勉強は楽しんでこそ身に付くものです。特に「図形」はゲーム感覚で、持っているアイテムをうまく使って戦い、徐々にレベルアップしていく。ゲームのように捉えられたら、続けるのが楽しくなってくるのではないでしょうか。
丸谷氏:難しい問題を前にしたとき、保護者の方が「解き方を教えなくては」と思うか、「面白そうだから一緒にチャレンジしてみよう」と思うか、大人の向き合い方によって、お子さまの学ぶ姿勢も変わってくるのかもしれません。忙しいご家庭が増えている中で、我々が保護者の方に代わって、お子さまたちに図形問題を解く際に必要な「武器」を授け、お子さま自身が「楽しい」「面白い」と感じ、主体的に学びに向かえるよう伴走しています。
中学受験までの図形問題との向き合い方
--家庭でお子さまが図形の問題に取り組む際、保護者はどんなことに気を付ければ良いでしょうか。
丸谷氏:いちばんやってはいけないのは、解答を見ながら教え込むことです。「数論」と同じく、図形も答えにたどり着く試行錯誤の過程が何より大事だからです。お子さまがセオリーをしっかりと習得できているかが確認できれば、あとは自由に考えさせる方が伸びていくと思います。
図形の習得のイメージは資料のピラミッドです。先ほどからお話ししているセオリーの習得が「武器の習得」にあたります。問題を解く力は、その武器を使った試行錯誤の過程を経て身に付くものなので、どうしてもピラミッドの完成までには時間がかかります。セオリーを身に付けるために大量の演習をさせてしまうと、お子さまはより強く苦手意識をもつこともあるので、注意が必要です。
鉄則は「図形こそ焦るな」です。保護者の方にはお子さまが試行錯誤するようすを見守ることに専念していただきたいですね。
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竹中氏:図形の問題では、手持ちの武器をたくさんもっているお子さまが有利です。低学年のうちは武器を入れておくための箱=論理力の土台を作り、4・5年生でその箱にさまざまな武器を詰めていき、6年生でもっとも使い勝手が良いように箱の中を整える。このようにして、自分だけの「図形対策セット」が完成するまでには時間がかかります。
武器の入手や戦い方の訓練は塾に任せつつ、ご家庭ではお子さまとともに昨日より今日できるようになった成長を喜び、励ましていただけたらと思います。
--ピラミッドの頂点にある「手を打つ能力」まで教えなくても良いのですか。
丸谷氏:「見える能力」から上は、実際に自分で武器を使って戦ってみることで習得できます。保護者の方は問題の解説を見ながら、つい補助線を引く場所を教えてしまうことがあるかもしれません。でも「どの武器を使ったのか」「なぜその武器を選んだのか」「どうやってそこに着眼したのか」ということをお子さま自身が理解できていない限り、他の問題や初見の問題と戦うことはできません。どの問題にどの武器を使うかという判断や着眼点は、自分で試行錯誤した経験からでしか身に付けることはできないのです。
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図形は「焦らず、急がず、諦めず」
--最後に保護者の方へメッセージをお願いします。
竹中氏:高学年になると入試を見据え、時間内に解ける力というのも必要になってきますが、今日お話したように、その土台はお子さまが時間をかけて、頭の中で「どう攻略しようか」と試行錯誤することから生まれます。
「低学年から塾に通うと息切れしませんか?」とよく聞かれますが、実はそうではありません。低学年のときこそ、自由に考え、「楽しい」「もっとやってみたい」と感じられる原体験が得られるのです。親として、つい「時間がもったいない」「早く解いてほしい」と思ってしまう気持ちにも共感できますが、そこはグッとこらえ、お子さまの成長を信じて見守ってあげてほしいですね。
丸谷氏:図形は「焦らず、急がず、諦めず」。テストで高得点が取れなくてもお子さまに「図形が苦手」という誤った思い込みをもたせず、特に低学年のうちはじっくりと考えることを楽しませてあげてください。低学年から楽しく取り組むことで、柔軟で論理的な思考力やあきらめない粘り強さなどを育みます。中学受験を苦行にすることなく、親子の有意義な時間にしていただきたいなと思います。
--ありがとうございました。
今回の取材は、大人にとっても算数を「楽しい」「面白い」と感じる糸口を示してくれるものだった。
小学校低学年から「数」や「図形」の問題に触れることで得られる論理力は、受験対策だけにとどまらず、日常生活やその後の将来へと続くライフスキルになるはずだ。焦ることなく、親子でワクワクしながらじっくり考える時間が、子供たちの可能性をより広げてくれるに違いない。
早稲田アカデミー 小学1・2年生対象「スーパーキッズコース」早稲田アカデミー 小学3年生対象「J(ジュニア)コース」