デジタルのよさを日々の授業に活かす…富士通のフューチャースクール

 「フューチャースクール推進事業」の取組について、2010年度、西日本地域を担当する富士通総研の中川弘文氏と、富士通の武富麻里子氏に話を聞いた。

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富士通総研 第一コンサルティング本部 公共コンサルティング事業部 シニアマネジングコンサルタントの中川弘文氏
  • 富士通総研 第一コンサルティング本部 公共コンサルティング事業部 シニアマネジングコンサルタントの中川弘文氏
  • 富士通 パブリックリレーションズ本部 政策企画部の武富麻里子氏
  • 教育の情報化のあるべき姿(富士通の考え方)
  • フューチャースクール推進事業 調査研究の実施概要
  • フューチャースクール事業で構築するICT環境の全体像
  • 授業風景
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 学校現場でICT(IT)を使い、児童がお互いに学び合い、教え合う「協働教育」を推進するため、ICT機器を使ったネットワーク環境を構築し、学校現場における情報通信技術面を中心とした課題を抽出・分析するための実証研究を行う「フューチャースクール推進事業」が、総務省主導でスタートした。2010年度からの3か年計画で、2010年度は東日本5校、西日本5校の公立小学校を対象に10億円の予算で実施される。

 東日本地域の請負先はNTTコミュニケーションズで、実証校は石狩市立紅南小学校(北海道)、寒河江市立高松小学校(山形県)、葛飾区立本田小学校(東京都)、長野市立塩崎小学校(長野県)、内灘町立大根布小学校(石川県)。西日本地域の請負先は富士通総研で、実施校は大府市立東山小学校(愛知県)、箕面市立萱野小学校(大阪府)、広島市立藤の木小学校(広島県)、東みよし町立足代小学校(徳島県)、佐賀市立西与賀小学校(佐賀県)。

 全児童・全学級担任に1人1台のタブレットPCを配布し、全普通教室に1台のデジタル黒板(インタラクティブホワイトボード)を設置。校内無線LANを整備し、ポータルサイト、コミュニティサイト、教材配信、教員用グループウェアなどのための協働教育プラットフォーム(教育クラウド)を構築して、家庭での利用も視野に、学校ごとにICT利活用の取組が行われる。

 「フューチャースクール推進事業」の取組について、2010年度、西日本地域を担当する富士通総研 第一コンサルティング本部 公共コンサルティング事業部 シニアマネジングコンサルタントの中川弘文氏と、富士通 パブリックリレーションズ本部 政策企画部の武富麻里子氏に話を聞いた。

◆対象校の選定

 学習効果を上げるための取組であれば、わが子の学校で実施してほしいと望む保護者も多いだろうが、学校の選定はどのように行われたのだろうか? 中川氏によると、総務省の提示する仕様書に従い、「地域、生徒数、学校規模だけでなく、従来からのICTへの取組などに偏りのないよう同社で行った」という。今回、西日本で選定された5校に共通するのは「学校側のやる気」ということのようだ。

 10月1日に校内の環境が整い、(取材時の10月中旬では)11月からの本格的な実証授業の開始に向け、これまでの授業にICTをどのように効果的に取り入れ、活かしていくかを、各学校で試行している段階という。なお、実施校の従来からのICT活用にはばらつきがあるため、デジタル黒板のみから、あるいは高学年から段階的にタブレットPCの利用を始めるなど、各学校の状況に合わせた取組を行う。

◆利用シーンと支援体制

 具体的な教科や活用方法については、検討中ということだが、武富氏によると「教科ごとの“狙い”の中での活用を期待する」という。たとえば、算数の立体図形の理解、教室では再現不可能な事象の説明、さらにはグループ学習への活用など、様々な活用シーンが想定される。発言が苦手な児童でも、手元の端末を利用することで、意見を示せるかもしれない。あるテーマについての意見をデジタルで収集し、即時に結果が出れば、それについての議論が進むことも期待できる。子どもたちが楽しみながら理解し、自らの考えを持って学び合い、さらに教員に利便性の高い使い方が探索されているわけだ。「デジタル機器を中心に考えるのではなく、従来の授業にICTを取り入れ活用するという観点が重要だ」と武富氏は説明する。

 また将来的には、クラウドも活用して各児童のノートや活動記録などから個々の理解度等をきめ細かに把握。さらに授業内容と子どもの反応を組み合わせて記録・分析し、次の授業に活かしていくといった活用でさらに可能性は拡がる(「教育の情報化のあるべき姿(富士通の考え方)」参照)。

 「フューチャースクール推進事業」では、対象教科は限定せず、様々な取組が行われ、西日本地域では2011年1月~2月に、各校で公開授業を実施する予定という(東日本地域でも公開授業は実施予定)。

 さまざまな可能性をもつ教育ICTを浸透させ活かすためには、教員の負担を軽減するというメリットも重要だ。そのためにもまずは欲張らずに、段階的に授業の中に取り入れていくことが重要だ。授業準備や実施支援については、今回の取組のために選任された経験ある支援員を各校に配備し、ヘルプデスクも設置して教員をサポートする。さらに、教育委員会や地域の大学の教授ら有識者も加わり、地域性を活かした盤石な協力体制で取組をサポートしていくという。

◆家庭利用と保護者の理解

 家庭との連携は次のステップとなるようだが、家庭学習での活用に加え、学校と家庭でのコミュニケーションも視野に入れたこの取組では、保護者の理解や協力も不可欠となる。これについては、保護者会にあわせて、ビデオにより利用イメージを伝えるなどして説明を重ねているという。実際に授業で使用するタブレットPCでの、漢字書き取りの「とめ・はね・書き順」を正確に判定できる様子を示したデモには、保護者から驚きの声が上がったという。また、タッチ&トライでは、ドリルを熱心に解く保護者の姿も見られたという。

 家庭、特に保護者によるICTの活用については、各家庭のネットワーク環境の整備、携帯電話を含めた複数端末への対応やセキュリティ、保護者のITリテラシーなど様々な課題がある。その一方で、ICT活用は学校からの事務連絡やコミュニケーション以外にも、保護者による授業内容や学習進度の正確な把握など、様々な可能性がありそうだ。

◆期待される効果と富士通の役割

 では今回の実証実験で富士通は何を目指し、どのような効果を狙うのだろうか? 中川氏は、「ICT自身がどうあるべきか、ICTをどうやって使うべきかの2点を明確にし、教員のICT活用によるITリテラシーの向上と、ICTを活用したわかりやすい授業による児童の関心・理解の向上を図り、今後の全国展開へつなげていきたい」と抱負を語る。

 また今回の実証実験について富士通は、「単純にコンテンツが動けばよい、わかりやすければよい、ということはあくまで一要素でしかない」と考えている。「同じICT環境であっても、授業の設計にどう取り入れるかで期待される効果は変わる」「デジタルのよさを日々の授業に活かすために、先生方と一緒にITの課題をクリアにしながら、今、そしてこれからの学習、授業作りを支援していきたい」とし、インタビューを終えた。
《田村麻里子》

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