【EDIX】校務IT化で授業・職員会議の質向上と経費削減…日野市の取組み

 教育ITソリューションEXPOの専門セミナーで、校務のIT化についての講演が行われた。教育現場でのIT化というと、電子教材、デジタル教科書、電子黒板やPC・タブレットの活用などが取り上げられることが多いが、校務のIT化も重要な課題である。

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日野市立平山小学校 校長 五十嵐俊子氏
  • 日野市立平山小学校 校長 五十嵐俊子氏
  • 掲示板活用で朝会の時間短縮
  • 職員会議も掲示板等で済む内容に時間を割かない
  • 分掌説明にもITを活用
  • 平山小学校の校務分掌
  • クリエイティブな議題を優先させる
  • テレビ会議を利用することもある
  • 教材、指導計画、週案なども共有し、細かいフォローもナレッジ化する
 教育ITソリューションEXPO(EDIX)の専門セミナーで、校務のIT化についての講演が行われた。教育現場でのIT化というと、電子教材、デジタル教科書、電子黒板やPC・タブレットの活用などが取り上げられることが多いが、校務のIT化も重要な課題である。

 このセミナーでは、校務のIT化を進めることで、単に事務効率を上げるだけでなく、授業への取組みや職員会議など学校運営全体にもよい影響が現れたという、日野市の小学校での事例が紹介された。登壇したのは、日野市立平山小学校 校長 五十嵐俊子氏だ。

 平山小学校では、教職員らによる朝会は校長の簡単な挨拶と重要事項の伝達のみで、長い挨拶や連絡事項の確認などは行わないという。連絡事項などは職員向けの掲示板(グループウェア)で確認するようになっているからだ。教員は、朝出勤すると、まず出勤簿の押印(これは電子化されていない)を行い、各自が校務システム用認証キー(USBドングル)を受け取る。その認証USBによって校務システムにログインし、グループウェアなど校務用のアプリを立ち上げる。

 企業では当たり前の朝の業務ともいえるが、学校の職員室でもこのようなIT化は可能だ。朝会が短時間で終わるので、「教員はその分、教室に行く時間を早めて、生徒と一緒に遊んだりコミュニケーションをとる時間にあてています。」(五十嵐氏)

 職員会議もITを活用し、紙で配布するような内容はくどくどと説明しない。定例の報告事項などはシステム上の掲示板や情報共有ツールを利用すれば、教員は手元のPC画面を見るだけで、紙の資料はあまり必要ないそうだ。その分、学校や授業を良くするための提案や話合いに時間をかけるという。その議論にもPCのプレゼン資料やプロジェクター、大画面モニターなどを活用している。

 必要なら、テレビ会議も活用し、遠隔地の専門家にも会議に参加してもらうといったこともするそうだ。同校では、校務IT化によって、紙の消費とプリンターのインクなどの経費を導入前と比較して40%削減できたそうだ。

 さらに平山小学校では、校務用グループウェアによって、週ごとの指導計画も教員が共有できるようになっている。その計画には、実施状況や出来事などのフォローも書き込まれる。こういった情報の蓄積は授業や指導のナレッジとして、授業の改善に生かすことができるそうだ。また、日々の出来事や児童の振る舞いの記録も残ることになるので、通知表のクオリティがアップする効果も見られたという。

「通知表の評価や通信欄に何を書くか。教員ならばその苦労はわかると思います。学期末に全員分の評価を書かなければならないのですが、指導計画や蓄積された情報から、いろいろな児童の行動が拾えます。この児童にはこんな面もあった、ここは評価してあげたい、といったことを漏らさず評価できます。平山小学校の先生方は、通知表に書くことを考えるよりも、どれを書かないかで悩むくらいです。」(五十嵐氏)

 児童にとっても、自分の振る舞いをきちんと見てくれている先生との信頼関係は強いものとなるだろう。

 五十嵐氏によれば、平山小学校のような取り組みは、日野市のバックアップもあり、市内全域の小学校で進められているという。日野市では、学校全体のIT化について、授業、校務、セキュリティを3つ部門で評価・審査を行って、その認定証としてICTマークというものを付与している。授与された学校は、ホームページなどにそのマークを表示できる。

 現在、全25校のうちセキュリティ部門はすべての学校が取得しており、校務部門でも20校が取得している。授業部門は19校が取得し、3つともすべて取得している学校は17校あるそうだ。

 日野市の場合、活動が始まったタイミング、時代背景、当事者など、さまざまな条件が揃った運の良さもあってここまでこられたと、五十嵐氏は言う。平成17年にICT活用研究委員会という組織が発足し、学校のICT化についての取り組みが始まった。当時の市長の理解もあり、これは実験やモデル校ではなく一斉導入をするという決断がなされたそうだ。おかげで予算もついて平成18年にはICT活用推進室が作られ、現在に至るという。

 現在の形は、平成23年にはほぼ出来上がったそうで、以前の業務が想像できないほど校務ITは当たり前の存在となっている。平成24年度は、政府の「絆プロジェクト」もあり、タブレットが1クラス分配布されることが決定しているなど、新しい取り組みも始まっている。

 五十嵐氏は、新しいプロジェクトでも、これまでに培った考え方をベースに広げていきたいとのことで、次のように語る。

「新しいプロジェクトでも、基本的なスタンスは、児童に勉強を教え込むのではなく、自ら考えて何かを作ること、そのためにみんなで問題を解決することを重視したいと思っています。そして、これは校務のIT化でもとったアプローチと同じものなのです。」
《中尾真二》

中尾真二

アスキー(現KADOKAWA)、オライリー・ジャパンの技術書籍の企画・編集を経て独立。エレクトロニクス、コンピュータの専門知識を活かし、セキュリティ、オートモーティブ、教育関係と幅広いメディアで取材・執筆活動を展開。ネットワーク、プログラミング、セキュリティについては企業研修講師もこなす。インターネットは、商用解放される前の学術ネットワークの時代から使っている。

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