情報ネットワークの光と影…ICTを活用し品川区立東海中学校で特別授業

 品川区立東海中学校の市民科学習の授業において7月17日、IT企業のボランティアにより、「情報ネットワークの光と影」というタイトルで特別授業が開催された。

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日立ソリューションズ ERPソリューション本部 第3部 技師の河野哲也主任
  • 日立ソリューションズ ERPソリューション本部 第3部 技師の河野哲也主任
  • 授業風景
  • 情報モラルの授業に使用された日立製電子黒板のプロジェクターユニット
  • ソーシャルネットワークの光の部分
  • 影の事例1:不確実な情報を安易に発信すると
  • 安易な情報発信と、その拡散の問題点
  • 拡散はうまく使えば人助けになる
  • しかし、嘘の情報や間違った情報も同じように拡散される
 品川区立東海中学校の市民科学習の授業において7月17日、IT企業のボランティアにより、「情報ネットワークの光と影」というタイトルで特別授業が開催された。

 この取組みは、東海中学校近くにオフィスを構える日立ソリューションズが、自社のITスキルや技術を地域のために役立てようという活動の中で生まれたもの。2008年から毎年続いており、同校の7年生(中学1年生)を対象に開かれている。講師はボランティアの公募で集まった同社のエンジニアなどだ。

 メインテーマは「情報モラルとIT」とのことで、開始当初から変わっていないが、電子黒板を活用したオリジナル教材は、毎年時流に合わせたアップデートが行われている。

 「情報ネットワークの光と影」は2部構成の授業で、第1部は主にネットワークの光の部分を取り上げ、情報ネットワークの便利さや可能性などを生徒たちに示すもの。今回取材した第2部は影の部分を取り上げた内容で、講師を務めたのは日立ソリューションズ ERPソリューション本部 第3部 技師の河野哲也主任だ。

 河野氏は、「ソーシャルネットワークは、誰でも簡単に、遠くの人と、多くの人と、早くつながることで、いろいろ楽しい面がありますが、使い方を間違えると、危ないことや怖いことがあります。」と述べ、授業を開始した。

 そして、具体的にどのような危険があるのかを、次の4つの例をあげて説明した。

1.芸能人を見つけたといったら…
2.変顔写真を見せたくて…
3.ひとり言のつもりだったのに…
4.ちょっとしたイタズラのつもりだったのに…

 「1.芸能人を見つけたといったら…」は、街中で芸能人を見たと思った生徒が友達にツイートしたところ、その情報が路上ライブをやるらしいという間違った形で、あっという間に広がってしまい、警察が出動する騒ぎになってしまったというものだ。この事例では、「見たと思った」という確実でない情報を発信してしまったことと、ツイートを読んだ相手側も不確実な情報を安易に広めてしまったことが問題だと説明した。

 ツイッター(Twitter)は、震災時に、不足している物資を調達するのに威力を発揮するなど光の面もあるが、素早く広まるということの影の部分を示したわけだ。

 「2.変顔写真を見せたくて…」は、友達の変顔写真を公開したところ、友達以外にも見られてしまい、知らない人からも「変な顔」と言われ、友達に迷惑をかけてしまった例だ。これは、ソーシャルネットワークでは、情報は基本的に全世界に公開されるため、情報を発信するときには公開範囲を正しく認識し、設定する必要があるという教訓である。

 「3.ひとり言のつもりだったのに…」は、ある店員が、客として来店した有名スポーツ選手について、「同伴していた恋人らしき人が感じが悪い」とツイートし、それが原因で店を解雇されたという例である。この例では、まず他人の悪口を書くという行為の問題、そして店員という立場でありながら、顧客の個人情報やプライバシーに関わる内容を勝手に公開してしまったことの問題を指摘した。

 最後の「4.ちょっとしたイタズラのつもりだったのに…」は、友達をからかっているところを動画に撮影し、投稿サイトにアップしたら、「これはひどい」と問題になり、映っている背景などから場所や当事者が特定され、本人の実名や住所、家族の名前や親の勤務先までネット上に公開されてしまったという問題だ。

 この例では、そもそも他人をからかうような非常識な行為をしてはいけないことにくわえ、安易に動画を投稿サイトにアップするということも問題があるとした。そして、ネット上に公開された情報は、複製が無数に作られてしまうので、消去することは実質的に不可能であることを認識してほしいと説明した。

 4つの事例を紹介した後、ソーシャルネットワークを利用するうえでの注意点として、「悪気はなくてもうっかり情報を発信してしまう人がいること」「匿名性のあるネットワークでは、名前を隠した発言ができること」「嘘の名前で他人になりすますことができること」、そして「情報のすべてが事実とは限らないこと」などをあげた。

 そして、生徒たちに、「ソーシャルネットワークを使うときは、自分がどんな人になりたいのかを考えて行動しよう」とアピールした。

 この後、生徒に紙が配られ、グループどうしでソーシャルネットワークを使うときのルールを考える時間が与えられた。グループごとの議論がまとまったころに紙が回収され、いくつかの意見が紹介された。このとき、書画カメラを使い、回収された回答用紙が電子黒板上に映し出されて、全員で議論や内容の確認を行った。

 最後に河野氏は、ソーシャルネットワークの光の面である「誰でも簡単に、遠くの人と、多くの人と、素早く」つながるということは、同時に怖い面を生む要因でもある、とまとめて授業を終えた。

 この授業で取り上げられた事例を、どこかで聞いたことがあるという人も多いだろう。すべては実際に起きた事件や事故、それも比較的最近の事例をベースにしているのだ。ITベンダーの技術者が講師を行う授業ということで、大変に実践的な授業であった。電子黒板の活用という特徴もさることながら、生きた情報による授業は、生徒にとっても身近で理解しやすいものだったのではないだろうか。
《中尾真二》

中尾真二

アスキー(現KADOKAWA)、オライリー・ジャパンの技術書籍の企画・編集を経て独立。エレクトロニクス、コンピュータの専門知識を活かし、セキュリティ、オートモーティブ、教育関係と幅広いメディアで取材・執筆活動を展開。ネットワーク、プログラミング、セキュリティについては企業研修講師もこなす。インターネットは、商用解放される前の学術ネットワークの時代から使っている。

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