3.教師が「教え込む人」から、「子どもとともに考え、話し合う人」へという、役割の変化にどこまでついていけるかだ。 これは「教師ができるかどうか」の問題です。 「教師はできないでしょ、だから反転授業はよくない」という心配の声は、心配すること自体はわかるものの、反転授業の善し悪しの本質とは離れます(これを言い出すと、そもそも教員養成の話から触れ出さないといけません)。 きっと現実は、「できる先生もいるでしょうし、なかなか実施が困難な先生もいる」という状態でしょう。その状態を鑑みて「やる」と決めるかどうかは、「やる」ことが、「地域的に」「時代の趨勢的に」求められているかどうか、ということだと思います。 前者…つまり「“武雄市”でやる」ことの是非については、武雄市の中での優先順位付けだと思いますので、言及は避けます。地域のことは地域で考えた方が問題解決につながるということ、僕が住んでいる三島市や、訪問させていただいた上勝町などの事例から育まれた、僕自身の考え方です。 後者…時代の趨勢的に「授業(方法)の転換」は、「求められている」と感じています。ありきたりな表現になってしまいますが、「問題解決力」が必要な時代になっているからです。・答えのない問題に「最適解」あるいは「(多くの人が)納得する解」を見つけ出す力・それらの解を実行する力・それらの解にたどりつくまでのディベート力や交渉力・そもそも問題を見つける力・問題を自らの能力や立つ位置にあてはめ、「課題」とする力 これらは、恐らく従来型の授業形態よりも、朝日新聞が述べた「子どもとともに考え、話し合う」授業形態の方が身につく部分が大きいのではないでしょうか。 確かに慣れていない先生の負担は大変なことだと思います。ですが、「子どもたちのためならやっていこう!」という先生方も大勢いると思うのです。 その証拠が、上越教育大学、西川純教授の提唱する“学び合い”に集う先生方が増えているという事実です。 “学び合い”はあくまで「学び合おう!」という「考え方」です。そしてその本質にある思想性は「一人も見捨てない」。落ちこぼれを出さない、ということなのです。 そしてその考え方を具現化した形態として、「子どもとともに考え、話し合う」授業がとられることが一般的で、その方法論を採用している先生方が増えているのです。 反転授業を実施し、そのことにより空いた、これまでの「授業」という空間と時間を使い、“学び合い”の考え方を元にした授業を展開することで、落ちこぼれを防ぐことに期待でき、それこそ先に述べた、学力下位層や家庭学習力の弱い層のカバーもできるのではないでしょうか。 加えて、わからない子に教えてあげる、という行為を通じて、「(理解力の面で)できる子」にも、上記の「問題解決力」が身につくことが期待できます。これは、僕自身の実体験をあわせても、強くそう思います。 僕自身が受けた教育過程を振り返ると、「授業の中で先生の教えることだけを聞いていてもつまらなかったな…だって予習で“知っている”ことが多かったから…。おおっ!授業時間が、“先生の話を聞く”以外の時間に使えるなんて、授業が楽しくなる!」というのが率直な気持ちです。 以上により、運用次第ではかなりの成果も期待できるのが、反転授業という形態と捉えています。 なお、小学生、中学生、そして高校生や大学生と、どのステージで導入すると(現在の授業より)効果があがるのか、といった細部の議論になると、アクティブラーニングなどの別の要素も加味できるため、ここでは「武雄市の記事を見て、思ったことをつらつらと、全般的に」という立場で書かせていただいたことを断っておきます。 もちろん、賛否両論はあると思いますし、僕自身も「導入するか否か」を問われると、「いつ」「どこで」「どのように」導入するか、慎重に考えると思います。 しかし、・懸念点が多い、だから反対だ・これまでに身につけられなかった力が身につくことが期待できる、だから賛成だという二項対立になっても、好ましい結果が生まれないと思いますので、賛否のどちらにせよ、「懸念点を解決すれば、良い結果が期待できる。だから、懸念点を解決できるかどうかが“(実施の)決断”のポイントであり、決断した以上は、懸念点を解決して行くことに軸足を移していこう」という姿勢が、(反転授業に限らず)教育を巡るさまざまな論争には必要なのではないかと感じています。<著者紹介>寺西隆行(株式会社Z会理科課課長)1973年生まれ、東大工学部卒。高校数学の編集業務を担当した後、2004年からWeb広告・宣伝やWebPRの職務に従事、中高生向けSNSやオフィシャルブログなどの立ち上げに携わる。2009年、10年と2年連続で「日経ネットマーケティング イノベーションアワード」優秀賞受賞PJを率いる。2011年4月より現職。NPO法人CANVASフェローを務めるなど、公私問わず教育業界からの情報発信に精力的に取り組んでいる。※寺西隆行氏のブログ「和顔愛語 先意承問」より一部編集して掲載した。