そのため、あらかじめスクリーンには画面を3分割するYチャートの線が表示されており、左下が「もの」、右下が「こと」、上部が「その他」に分けられている。児童は発言後、少し時間がたってから現れる(自分の意見が入った)吹き出しを、超短焦点プロジェクターの横に置かれたマウスを使い、「こと」「もの」「その他」のいずれかに分類する。そうすることで、自分の意見とみんなの意見を見比べて分類し、整理することを学ぶこともできる。 授業の後半に差し掛かり、意見がほぼ出揃うと、いよいよ「まとめ」に入る。ここでも丸山教諭は一歩引いた立場で見守り、基本的に児童たちにまかせる。黒板に板書し、教諭が前に立って授業を進めていると、どうしても「先生は話す人で、児童たちは聞く人」というような線引きが生まれてしまう。だが、1人1台のタブレットを使った授業では、丸山教諭は黒子のような役割に徹し、一歩引いた位置から授業の進行をサポートすることで、児童たちの自主性をより育めるよう心がけていた。 タブレットを活用した授業を行いながらも、アナログの良さも大事にしている。授業の最後に、丸山教諭は児童たちにそれぞれのまとめをノートに手書きするよう指示。貸し出されているタブレットはそれぞれの児童専用のものではないこともあり、授業の記録はノートに手書きしないと、児童の手もとに残らない。最新のデジタル機器を用いることで授業の活性化をはかりつつ、アナログの魅力も大切にするこの姿勢は、教育現場の今後のヒントになるのかもしれない。 この日は、タブレット端末を用いた4年生の授業としては6回目で、児童たちはまるで自分の愛用のゲーム機のように使いこなしていた。その順応ぶりを伝えると、吉新校長は「大人だとこうはいかないでしょうね」と笑う。同じく「明日の学びプロジェクト」に参加している北海道の小学校の教員も、この研究授業の発表に訪れていたが、そのような遠隔地の小学校などとデジタル機器でつないで、新たな交流授業を行ってみたいとも吉新校長は語る。 公開授業のあと、質疑応答が行われ、「授業に集中できにくい児童などについて、このタブレット端末を使った授業の効果はいかがですか」といった問いに、「タブレットを触りながらの授業は、今まで集中力があまりなかった児童も興味津々で、そのような子はもちろんのこと、児童みんなが、これまで以上に積極的に授業に参加するようになりました」と丸山教諭は答えた。 横浜市の人気スポットを丸山教諭がランキング形式で発表した場面では、赤レンガ倉庫や中華街などの写真を児童たちは楽しそうにタッチしながら見ており、タブレットと児童たちの親和性が高いことを再認識した。「テレビで見たことがあったり、自分が訪れたことのある場所や施設でも、自分の手もとで見られると嬉しそうだし、楽しそうなんですよね」と語る丸山教諭の言葉にも、大きな可能性を感じた。