【EDIX2016】グローバル化改革におけるICTの役割…早大・鎌田薫総長

 「第7回 教育ITソリューションEXPO(EDIX:エディックス)」。開催2日目にあたる5月19日は、早稲田大学の総長である鎌田薫氏が「早稲田大学のグローバル化に向けた大改革~教育手法の劇的変化とICT~」というテーマで基調講演を行った。

教育ICT 先生
講演を行う早稲田大学の鎌田薫総長
  • 講演を行う早稲田大学の鎌田薫総長
  • 2032年に150周年を迎える早稲田大学の「Waseda Vision 150」
  • CTLT classroom スマートフォンやタブレットの画面を、ワイヤレスで投影
  • CTLT classroomのビデオ会議システム
 最新のICT教育の活用事例が一堂に会する「第7回 教育ITソリューションEXPO(EDIX:エディックス)」。開催2日目にあたる5月19日は、早稲田大学の総長である鎌田薫氏が「早稲田大学のグローバル化に向けた大改革~教育手法の劇的変化とICT~」というテーマで基調講演を行った。

◆総合大学ならではの強みを生かした改革

 2032年に創立150周年を迎える早稲田大学は、グローバルリーダーの育成などを目指す中長期計画「Waseda Vision 150」を策定し、その実現に向けて大きな改革を行っている。鎌田氏は、改革の内容を3つにわけ、それぞれを解説した。

 まずひとつめの改革は、実践的外国語能力、学術的文章作成力、情報・統計・数学的論理的思考といった基礎的スキルの育成。これは「現代版の“読み書きそろばん"にあたるもので、何を学ぶにも必要。ゆくゆくは中等教育で身につけてほしい」と鎌田氏は話す。また、リベラルアーツ教育の充実をはかるため、総合大学という強みを生かし、学部や研究科の壁をこえて、いつでも必要に応じて幅広い分野の科目を学習できる機会を確保していくとした。

 2つめの改革は、早稲田大学の国際化だ。現在、700を超える海外の大学と協定を結び、早稲田の学生が外へ出やすい環境を整えている。また、奨学金の拡充などで学生の大きな負担となっている留学費用や学費などの軽減も進めている。さらに、海外で取得した単位を卒業所要単位へ組み入れをしたり、就活支援を行ったりするなど、海外へ出る学生と留学生に対し「大学としてできること」を考え、サポートを行っていく。

 結果として、「こうした試みはコストと時間がかかるが、現在5,000人を超える留学生が学内におり、留学をしなくても異文化交流できるなど、効果が拡大するメリットがある」と鎌田氏は話す。2032年までには、1万人の留学生を受け入れる体制をつくる。「世界中から学生が集まるキャンパスにしていきたい」と、展望を語った。

◆早稲田発のグローバルリーダーの育成

 3つめの教育改革は、早稲田の卒業生たちが次世代のグローバルリーダーになるべく、リーダーとして求められる高度な能力を大学で育てていくことだ。

 そのためには、少人数制の対話型、課題解決型授業への転換が必要だと鎌田氏は語った。すでに早稲田大学内の80%のクラスにおける学生の人数は50人以下となっており、「マンモス大学というイメージがあるが、実は少人数体制はかなり進んでいる」ことを明かした。

 能力育成のためには、ボランティアやインターンシップ、フィールドワークといった体験型授業の拡充を行っている。企業や自治体と学生がチームを組み問題解決に取り組む産学官連携のプログラム「チームプロフェッショナル・ワークショップ」を実施し、年間でのべ1万5,000人ほどの学生が参加している。

◆データベースや学習支援でもICTを活用

 鎌田氏は、これらの改革において、ICTを最大限活用している例をあげた。一例として、大学院法務研究科の“双方向・多方向”のアクティブラーニングを重視した授業を紹介。法のデータベースである「ローライブラリー」、教育研究支援システムなどの活用にも、ICTが必須であることを語った。

 また、2014年にはICT推進のための教室「CTLT classroom」を校内に新設。可動式の机や電子黒板、ビデオ会議システムを備え、さまざまな学部や研究科のアクティブ・ラーニングの授業などで利用されている。このほか、ビデオ会議による遠隔交流ゼミ、サイバーゼミや、オンデマンド授業なども行っているという。これらは反転授業に役立つほか、遠隔地の学生にも重要だとしている。

 さらに、早稲田大学では学生と教員をつなぐ学習支援システム「Course N@vi(コースナビ)」を全学で採用し、学内のお知らせや出席管理、テスト、レポート、オンデマンド、ディスカッションといった機能をサポートしている。「今や、成績管理に紙はほとんど使用しない。このデータが集積されると学生のポートフォリオが自動的にできあがるシステムになっている。」(鎌田氏)

◆大学のオープン化 MOOCで授業を公開

 鎌田氏は、大学授業のオープン化についても言及。1886年に通信教育課程をスタートさせた早稲田大学では、その理念がスクーリングを除くほとんどの課程をeラーニングで行う「eスクール」に受け継がれ、現在はJ-MOOCなどで授業を公開し、大学授業のオープン化をはかっているという。

 最後に、鎌田氏は「学問の独立、学問の活用、模範国民の造就」という早稲田の3大理念をあげ、大学設立当初から世界を意識し、広く世界に活動する人格の養成を目指していたことを語った。講演は、「国力の回復は大学から」という、鎌田氏の力強い言葉で締めくくられた。

 これまでの大きな教室で学生が一方的に講義を聞く時代から、少人数での「対話型」、「問題発見・解決型」の授業の時代へと大学の学びが変わりつつある。早稲田大学では、オンデマンドを使った反転授業、遠隔地の大学や生徒をつなぐビデオ会議システム、大学のオープン化を推進するMOOC、教員と生徒がディスカッションできる学習支援システムなど、さまざまなシーンでICTを活用している。グローバルスタンダード育成と、世界中の学生が集うリーディングユニバーシティへの実現に向けて、早稲田大学の学びが、今大きく変わっていることを実感した。
《相川いずみ》

教育ライター/編集者 相川いずみ

「週刊アスキー」編集部を経て、現在は教育ライターとして、ICT活用、プログラミング、中学受験、育児等をテーマに全国の教育現場で取材・執筆を行う。渋谷区で子ども向けプログラミング教室を主宰するほか、区立中学校でファシリテーターを務める。Google 認定教育者 レベル2(2021年~)。著書に『“toio”であそぶ!まなぶ!ロボットプログラミング』がある。

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