【EDIX2017】超会議で文化祭、ドラクエ遠足…川上氏が語るN高の歩み

 19日最終日の午後1時から行われた「学びNEXT」特別講演には、角川ドワンゴ学園理事・カドカワ株式会社 代表取締役社長の川上量生氏が登壇。「ネットの高校『N高』の取り組みについて」と題し、同校の学習方法や特色について講演した。

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角川ドワンゴ学園理事・カドカワ 代表取締役社長の川上量生氏
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  • 第8回「教育ITソリューションEXPO」会場のようす
  • 学びNEXT「特別講演」
 5月17日から3日間、東京ビッグサイトで行われた教育分野日本最大の専門展「第8回 教育ITソリューションEXPO(通称、EDIX:エディックス)」。19日最終日の午後1時から行われた「学びNEXT」特別講演には、角川ドワンゴ学園理事・カドカワ代表取締役社長の川上量生氏が登壇。「ネットの高校『N高』の取組みについて」と題し、同校の学習方法や特色について講演した。

◆保護者と生徒のニーズに差、ネットだからできる教育

 川上氏は1997年にドワンゴを設立し、ドワンゴ代表取締役会長を経て、カドカワ代表取締役社長に就任。日本最大級の動画サービス「ニコニコ動画」の運営など、多方面で活躍するなか、2016年4月に通信制高校、N高等学校(通称N高)を設立。講演ではまず、初年度に行った取組みについて語った。

 通信制高校は、「全日制高校で落ちこぼれてしまった生徒の受け皿」というイメージがあると語る川上氏は、高校卒業資格を安売りするような高校にはしないよう、人生のために有意義な教育・職業訓練に時間をかけたいと考えたという。ネットで授業を受けた分、時間が余るのであれば、本当に自分が勉強したいことを学べるよう、優れたカリキュラムや講師、教材を提供しよう、というのがN高の基本的な教育コンセプトだと語った。

 子どもにとって学校は、学習をしに行く、というより実際は友達に会う、友達を作るために高校に通っているというのが現状で、社会や親が求めていることは求めていない。通信制高校では、友達を作ることが満たせていないと考え、N高ではネット上で友達を作ることも重視。ネットで友達になると実際に会いたくなるので、リアルで会う場も作ろうと考えたという。

◆生放送で臨場感のある授業にこだわる理由

 N高設立から1年が経ち、川上氏は「ネットでの双方向学習」「コミュニティ形成について」「リアルな取り組みについて」の3つのテーマで、取組みの特色と成果を語った。

 「ネットでの双方向学習」については、同校で使用している「N予備校」という大学受験講座アプリを紹介。教材を作れ、参考書を書ける有名な講師を集め、一から作ったという。有名予備校講師の生放送による双方向ネット授業を受講できるほか、50冊分以上の問題集・参考書のデジタル教材を利用でき、N高生513名、一般15,000人以上(4月末現在)が利用している。アプリ「N予備校」の利用料は、N高生は授業料に含まれており、一般は月額1,000円(税別)で利用可能だ。

 講演では実際に、授業動画を公開。生放送中に講師が回答を記入するよう伝えると、アプリ上に回答項目が出現した。挙手する場合は手のボタンが出現するなど、臨場感ある授業のようすが説明された。「ニコニコ動画」のように「おしゃべり感覚」でリアルタイムにコメントをアップすることで、生徒のモチベーションも上がるという。動画教材は多数あるが、講師にとっても録画では気合が入らず、生徒の心に伝わらない。川上氏は、N高が生放送の学習を行う理由は、生徒が「今教えてくれている」「一緒に学んでいる友達がいる」と感じることに加え、講師も生徒の反応がわかりコミュニケーションできるためだと語った。

 力を入れているプログラミング学習については、プログラマー不足な現状ではあるが、社内の優秀なプログラマーを配属。現在の利用者数は4月末時点で395名にのぼり、人気のコースだという。パソコン初心者だった生徒6名はWebプログラミングコンテストに出場し、パソコン甲子園には4名出場するなど、1年間でも成果がみられた。IT企業でアルバイトをする生徒もいるなど、職業体験も積極的に行われているそうだ。

◆ネットで教室・部活・遠足を再現

 N高は、生徒と先生がコミュニケーションを取るツールとしてプログラマー用のLINEのようなコミュニケーションツール「Slack(スラック)」を導入している。ネットコースのN高生94.3%が使用し、1日平均1,400人が使用しているという。チャンネルは約600あり、約70~80%が常時見ていて、そのうち30%が活発に発言していると説明した。

 Slack内では、少数グループができたり、誰とも話さない生徒ができたりしないよう、先生が生徒と積極的にコミュニケーションを取るよう推奨されている。やりとりは担任の評価の一部になるため、積極的に生徒に「起立」などと語りかけ、生徒が「ガタ」といった書き込みをするなどで盛り上がり、ネット上で「教室」を再現する演出でコミュニティを形成している。

 話題の「ネット部活」については、「将棋」の顧問にプロの将棋士をむかえ灘高生徒と対決したところ、N高が勝利。6月にリベンジマッチを予定していると語った。また、テレビゲーム「ウィニングイレブン」を用いた「サッカー」は、元日本代表の秋田豊氏が指導し、実際に全国3位になった生徒もいるという。

 「ネット遠足」ではオンラインゲーム「ドラゴンクエストXオンライン」の世界へ「遠足」するため、スクウェア・エニックスに制服を作ってもらったという。参加した生徒の92%は満足と答え、次回参加希望者は100%だったと語った。

◆マタギに船大工体験、沖縄スクーリング…文化祭も

 N高では、日本各地の地方公共団体と直接話し、すべて手作りで職業体験プログラムを実施。パティシエ、マタギ、船大工などさまざまな体験を行ったところ、生徒からは「目標ができる」「人生観が変わる」などの感想があり、生徒の満足度は100%だったという。

 参加した生徒の99%が満足と答えたのは、年に1度、沖縄伊計島本校で5日間だけ行うスクーリング。川上氏によると、「引きこもっている生徒も多いので、年に1回外に行くなら南の島で人と自然に触れ合えると良い」という思いから行っている。

 また、15万人が来場する「ニコニコ超会議」でN高文化祭を実施したところ、全校生徒の半分、首都圏からは3分の2が参加したという。ネットとリアルでコミュニティが成立し、生徒たちは自意識を持ってリアルなイベントにも参加していることがわかる。川上氏は、通っていることを人に言える、友達ができる通信制高校を作る、親や友達を呼べる文化祭、という目標が「ニコニコ超会議」で実現できたと実感した、と述べた。

◆日本で一番ネットのマナーを知っている学校

 1年間の生徒の満足度を調査したところ82.8%が満足、17.2%が満足していないという結果だったという。高卒資格取得のための授業でも生放送授業をやってほしいという生徒の意見もあり、今後の課題も残る。また、保護者の満足度調査では、71.5%が満足、28.5%が満足していないという結果に。保護者とのギャップはあるが、ネットのマナーを心配する保護者の声に対しては、「日本で一番ネットのマナーを知っている学校」と説明。N高生というだけでSNSなどで「からまれる」ケースもあり、生徒たちは洗礼を受けているため、ネットリテラシーについては「実戦経験も豊富な子どもたちだ」と自信を見せた。

◆4月から通学コース開始、生徒の望みを叶える学校に

 ネットが中心であるというコンセプトは持ち続けるが、ネットとリアルを完全に切り離すのは難しいと判断し、「学校にも行きたい」という生徒の望みを叶えるため、4月より通学コースを開校。定員は東京代々木で200人、大阪心斎橋で100人募集したところ、すぐに定員となり、2017年度は2,003名の新入生をむかえ、現在の全校生徒数は3,867名に達するという。

 川上氏は、「今年度入学の7割の生徒は中学卒業生ということから、選んで入学してもらえる高校になったのではと思っている。生徒を卒業させて結果を出すために最低3年かかる、教育業界で新しいことを浸透させるには時間がかかる、大変な事業だと考えているが、できるだけ早く実績を出し、世の中の理解を広めていきたい」と講演を締めくくった。
《田口さとみ》

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