ドローンで“空飛ぶ移動体通信”実現…日本工業大学 平栗健史教授に聞く日本の未来

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日本工業大学 基幹工学部
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  • 日本工業大学 基幹工学部/電気電子通信工学科 平栗健史教授
  • 【従来の技術と平栗教授による新提案の比較】図3(a)に示す従来技術では、無線LANを用いる場合、無指向性電波により、シングルパスの通信を行うことが想定されます。これはノード間で干渉を回避するために同時通信が不可能となり、チャネル利用効率が低く、伝送できる情報量が極めて少ない(シングルパスのため最大2Mbps)。
  • 一方、図3(b)に示す提案手法は、Massive MIMOの空間多重リンクを用いると、複数の経路を同時に構築できます。各リンクの伝送速度が低くてもリンクを束ねれば、総合的に大容量の情報が伝送できます(10多重リンクなら10倍の20Mbps)。Massive MIMOは、数十本のアンテナを利用して多数の指向性(マルチビーム)を形成します。ただし、メッシュネットワークに適用するためには、相互干渉が生じないように、直交したビームを形成し、干渉除去を行うことや、多角度に電波を放射する3次元ビーム形成をする必要があります。
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 2017年、設立50周年を迎えた日本工業大学(NIT)。大学のルーツである東京工科学校の1907年(明治40年)創立からは110周年にあたる今年、同大学は未来に向けた学問を深化させるべく、学部学科改編を決断した。

 「基幹工学部」「先進工学部」「建築学部」からなる、2018年4月に設置される3学部6学科2コースでは、一体どのような学びに触れることができるのだろうか。先進的かつ独自性豊かな研究を行う日本工業大学の教授陣に、研究内容や学問の魅力について聞いた。

【基幹工学部/電気電子通信工学科/平栗健史教授】

◆きっかけは国際会議、世界初の無線LAN研究に携わる

 基幹工学部は、機械工学科電気電子通信工学化応用化学科の3学科で構成される学部。世界に誇る日本の産業である、機械や電気、化学に携わる革新的なエンジニアのタマゴを養成する。そのうち、平栗教授が研究室を置く電気電子通信工学科では、インターネットや携帯電話、通信機器など、現代社会を支える情報通信について学ぶことができる。

 人々の生活を支える学科で学生らと日夜研究を続ける平栗教授に、学問の面白さについて紹介してもらった。

日本工業大学 基幹工学部/電気電子通信工学科 平栗健史教授
日本工業大学 基幹工学部/電気電子通信工学科 平栗健史教授に話を聞いた

--まず、なぜ研究者の道を目指すようになったのか教えてください。

 父が音響機器の企業(ケンウッド)の開発者でしたので、それを見て育ちました。そのため、幼いころよりテレビやステレオの仕組みなどに興味を持ち、自然と理系、なかでも電気系の分野に進学しました。

 大学院生のときは、アメリカの国際会議で研究発表をしました。その際に、国際会議では必ずBanquet(バンケット)というパーティが開かれるのですが、外国の方々は家族やパートナーとともに参加しており、「仕事も兼ねて海外旅行ができる!なんと素晴らしい職業なんだろう!」と、不純な動機ですが、そう思ったことがこの世界に飛び込むきっかけになりました。研究者としての今に至るきっかけをいただき、学会発表に連れて行ってくれた大学の恩師には今でも感謝ですね。私の研究室に所属する学生にも、ぜひ同じような経験をさせてあげたいといつも思っています。

--ほほえましいエピソードですね。発表の場を経験することで、モチベーションが上がった、ということですね。

 学生時代の国際会議をきっかけに研究者の道を歩もうと、日本電信電話(NTT)の研究所に就職しました。入社当時、NTTではちょうど世界初の無線LAN(Wi-Fi)の開発と国際標準化を進めており、チームはたしか6~7名程度でしたが、そのメンバーの一人として研究開発に従事しました。

 現在はいろいろなメーカからWi-Fiのルータが家電量販店で販売されているかと思いますが、異なったメーカでも問題なくつながりますよね。標準化とは、世界共通の設計図を作ることにより、その設計図にしたがってWi-Fiを作れば、相互に通信ができる仕組みです。

 ですから、私たちの仕事は「店に売られているWi-Fiを作った」というよりも、世界初の設計図を作る、といった研究開発に携わったことになります。このことがきっかけで、自分自身がもっと自由で新しい無線通信の研究に身を置くために、また、多くの学生にこれらの経験を伝えるために、大学の教員になりました。

◆未来を拓く「空を飛ぶ移動体通信」の実現へ

--ご自身の経験から精力的に研究を進めていらっしゃるのですね。研究されている無線通信方式について、今年度の研究内容をお聞かせください。

 今年度(平成29年度)より本格的に取り組んでいる研究テーマは、「3次元ドローンメッシュネットワーク制御の研究」です。これは、小型自律無人航空機(ドローン)を用いて、空中に立体的な無線メッシュネットワークを構築する技術の確立を目的としています。当該技術の特徴は、ドローンの編隊飛行に加え、「Massive MIMO(Multiple Input Multiple Output)技術」と呼ばれる、多角度への複数指向ビーム(放射電波)を制御し、3次元のメッシュネットワークをフレキシブルに構築します。

--たとえば、どういった分野で注目されている技術でしょうか。

 メッシュネットワークは、無線局が互いに、また自律的につながり、網目状に通信を行う技術です。すなわち、無線メッシュネットワークというのは、これまでの電波では届かなかった場所へ中継しながらデータを転送することを可能にします。

 スマートフォン同士で、直接メールなどの情報をバケツリレーするアドホックネットワークや、Threadのような、次世代無線メッシュネットワーク規格、IoTによるインターネット接続のためのメッシュネットワーク技術が注目されていますよ。

--まさに今注目されている、IoTに関係しているのですね。研究の特徴を教えてください。

 この研究の特徴は、ドローンに無線デバイスを搭載し、空に無線通信メッシュネットワークを構築することにあります。すなわち、"空を飛ぶ移動体通信"のため、立体的な通信網を構築できることから、建物や地形に最適な形のネットワークを構築でき、3次元的な情報転送/収集が可能となります。

 たとえば、災害時に迅速な情報収集を行う場合には、地形の変化に適した広範囲に渡った長距離伝送をおこなうことが可能なため、多視点でのリアルタイム映像配信が実現します。これは、スポーツ観戦などの多視点切り替えによる映像伝送へも応用できます。また、建造物などを囲む立体的な形のメッシュネットワークを構築すれば、複雑な構造の歴史的建造物などを短時間で3次元映像スキャニングすることが可能です。

 このようなことを可能とする、自律分散で編隊飛行するドローンを用いた3次元メッシュネットワーク制御を提案しています。

--空を飛ぶ移動体通信、ですか。実現すれば、場所や時間に関わらず、ネットをより身近に活用できるかもしれないのですね。これまでにも、同様な研究はあったのでしょうか。

 新規性としては、3次元的なメッシュネットワーク構築と、それに伴う新しいネットワークルーティングがあげられます。従来の無線メッシュネットワークは、無指向性の電波を用いており、シングルリンクのネットワークであるため、チャネル利用効率が低く、高い伝送容量を得ることが難しいのです。

 そこで、次世代モバイル通信・第5世代(5G)で注目されているMassive MIMO伝送を用います。Massive MIMOは、狭ビームを形成することによって空間で多重にリンクの構築が可能になり、無線資源を有効使用した「動的なメッシュ」を構築することができます。

【従来の技術と平栗教授による新提案の比較】図3(a)に示す従来技術では、無線LANを用いる場合、無指向性電波により、シングルパスの通信を行うことが想定されます。これはノード間で干渉を回避するために同時通信が不可能となり、チャネル利用効率が低く、伝送できる情報量が極めて少ない(シングルパスのため最大2Mbps)。
【従来の技術と平栗教授による新提案の比較】図3(a)に示す従来技術では、無線LANを用いる場合、無指向性電波により、シングルパスの通信を行うことが想定される。これはノード間で干渉を回避するために同時通信が不可能となり、チャネル利用効率が低く、伝送できる情報量が極めて少ない(シングルパスのため最大2Mbps)。


一方、図3(b)に示す提案手法は、Massive MIMOの空間多重リンクを用いると、複数の経路を同時に構築できます。各リンクの伝送速度が低くてもリンクを束ねれば、総合的に大容量の情報が伝送できます(10多重リンクなら10倍の20Mbps)。Massive MIMOは、数十本のアンテナを利用して多数の指向性(マルチビーム)を形成します。ただし、メッシュネットワークに適用するためには、相互干渉が生じないように、直交したビームを形成し、干渉除去を行うことや、多角度に電波を放射する3次元ビーム形成をする必要があります。
図3(b)に示す提案手法は、Massive MIMOの空間多重リンクを用いると、複数の経路を同時に構築できることを表す。各リンクの伝送速度が低くても、リンクを束ねれば総合的に大容量の情報を伝送できる(10多重リンクなら10倍の20Mbps)。Massive MIMOは、数十本のアンテナを利用して多数の指向性(マルチビーム)を形成する。ただし、メッシュネットワークに適用するためには、相互干渉が生じないよう、直交したビームを形成し、干渉除去を行うことや、多角度に電波を放射する3次元ビーム形成をする必要がある。


◆無線通信技術は学校教育現場にも

--ICT教育や災害時の環境整備の面から、無線通信の需要は小中学校や高校、大学といった教育現場でも高まっているように思えます。

 そうですね。無線通信は、インターネットが当たり前のように普及し、いろいろなものに使われているように、「何かが変わった」と感じることもなく、当たり前の環境、アイテムとして、違和感なく使われていくと考えます。

 それを利用する人たちはさらに、新しいアイデアで活用していくことでしょう。それだけ、情報を得る、伝えるということは、人間の生活になくてはならないものだと思います。特に、無線は便利ですしね。

--無線通信環境が当たり前に整った未来では、今では及びつかないような活用方法が誕生しているかもしれませんね。そんな未来の開拓者には、小中高生はもちろん、現在平栗教授の研究室で学ばれている学生さんもいらっしゃいます。

 本当にいろんな学生がいますよ。成績が良い学生、そうでもない学生、卒業もおぼつかない学生…など。ただし、賞を取ったり、素晴らしい研究成果を残す学生と、成績はそれほど関係ありません。受賞したり、研究成果を残す学生に共通するのはただ、「最後まで諦めず、逃げずにやり遂げる」ということです。今思い出せば、私も学生時代や企業にいたときも、そんなふうに泥臭く取り組んでいたように思います。

◆何があってもただ前を見て

--泥臭く、ということですが、研究をしていて困難なことや、充足感を感じることはありますか。

 常に研究は困難なことだらけで、簡単に良い成果が得られたことがありません。研究の進捗だけでなく、企業にいたころには考えられなかったのですが、研究費が底をつき、究極には紙と鉛筆で研究しなければ…と思ったこともあります。

 そんななか、大学に着任してこの7年間は「何があってもただ前を見て」がむしゃらに取り組んできました。ようやくわずかながら研究成果として論文も掲載され、研究費も少しずつ外部から獲得できるようになってきました。その点では、少しは大学の教員らしく見てもらえるようになってきたのかもしれません。

 ただし、孤独に研究をやっているわけではありません。他大学などの共同研究者たちと公私共に支え合って、困難な研究課題にも共に取り組んでいます。また、研究室の学生たちにも大いに助けられています。

 それから、研究テーマに一緒に取り組んでいる学生が、これまでの研究成果で多数の賞をいただいています。指導する博士後期課程の学生は、「学振」と呼ばれる日本学術振興会特別研究員に採用され、給料や研究費をいただき、未来の研究者として第一歩を踏み出したことは、大変うれしいことです。

--平栗教授の、もがきながらも前に進む姿勢が学生に受け継がれ、次世代を拓く研究者、技術者として羽ばたいた結果ですね。お話をありがとうございました。

 1990年代のデジタル革命を経て、生活に溶け込み、日々のくらしに欠かせない技術となった情報通信。平栗教授の研究テーマは、平成28年度科学研究費(科研費)助成事業の「基盤研究B」に採択されており、研究に対する社会的期待の大きさも明らかだ。平栗教授は、採択を受け、「平成29年度から平成31年度までの3年間、より精力的に進めていく予定です」と意欲的に語っている。

◆実践的な学びを実現する2つの取組み

 日本工業大学が提供するカリキュラムの特徴は、「デュアルシステム」と「カレッジマイスタープログラム」にある。

 デュアルシステムでは、1年次から理論と体験を組み合わせた経験の機会を提供する。座学で学んだ内容を、実験、実習、製図といった実体験に生かし、学問的な知識をより体系的な経験へと昇華させる仕組みだ。現場で発見した課題や疑問を講義に持ち帰り、さらなる理解を深めることができる。

日本工業大学 デュアルシステム
日本工業大学 デュアルシステムのイメージ

 「大学での卓越した技術者・職人」という意味を持つカレッジマイスタープログラムでは、基盤教育や専門教育で学んだ工学の知識を生かし、個人やチームでものづくりに挑戦することを奨励。デュアルシステムで得た経験をもとに、世界的な大会や研究発表会に臨むチャンスを提供する。学生の熱意を支えようと、教授はもちろん、教員が一丸となって学生を親身にサポートする点も心強い。

日本工業大学 カレッジマイスタープログラム
日本工業大学 カレッジマイスタープログラムのイメージ

 平栗教授が研究室を構える電気電子通信工学科のほか、基幹工学部には機械工学の基本を支えるデザイン・設計やエネルギー・制御、生産技術を学ぶ「機械工学科」と、物質デザインや材料科学、生物工学について学ぶ「応用化学科」がある。同学部では、移動しながら地形環境を3次元計測するシステム(Mobile Mapping System:MMS)の研究を行う機械工学科の石川貴一朗教授や、生物由来の材料を利用したエレクトロニクス、水面で動き回る化学モーターなどの開発にあたる応用化学科の池添泰弘准教授など、ユニークな研究が門戸を開いている ため、工学に少しでも興味がある、または持った場合は、6月4日から始まるオープンキャンパスに参加してみるとよいだろう。受験生向けの工学体験ツアーだけでなく、保護者向けの大学紹介も用意し、学生や教員全員が日本を支える"未来のエンジニア"と会えることを心待ちにしている。

 大学全体や学部・学科概要のほか、入試要項や入試のポイント、オープンキャンパス情報の詳細はすべて日本工業大学Webサイトで確認できる。

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【日本工業大学オープンキャンパス/新学部学科説明会】
日程:2017年7月15日(土)、8月5日(土)・6日(日)・19日(土)、9月10日(日)
時間:各日11:00~16:30(ランチ付)
※2018年3月24日(土)には新高校2・3年生向けに実施予定。時間は11:00~16:30
おもなプログラム:Hello New NIT!、工学体験ツアー、女子学生聴こう「NIKOJOライフ」、保護者も安心「大学紹介」など
《加藤ゆい》

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