日本vsアジア、課題は「被引用論文」THE世界大学ランキング2017-2018講評

 THEを運営する英TES Global社と、同社の国内総合パートナーを務めるベネッセコーポーレーションは10月16日、THE世界大学ランキングカンファレンスを開催。ランキングの分析と、世界から見た日本の大学の特長について分析した。

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THE世界大学ランキングにおけるアジア5か国、5年間の推移(2013-2018)
  • THE世界大学ランキングにおけるアジア5か国、5年間の推移(2013-2018)
  • THE World University Rankings 2013-2018 東京大学と京都大学の順位推移 ※編集部作成
  • THE World University Rankings 5年間の推移<日本・中国>
  • THE World University Rankings 5年間の推移<日本・韓国>
  • THE World University Rankings 5年間の推移<日本・シンガポール・香港>
  • THE World University Rankings 2017-2018 総合トップ10
  • THE World University Rankings 2017-2018 SGUを中心とする国内大学の結果
  • 2017年10月16日 THE世界大学ランキングについて講評を行う、英Tes Global社でデータ解析ディレクターを務めるDuncan Ross(ダンカン・ロス)氏
 英タイムズ・ハイヤー・エデュケーション(Times Higher Education、THE)が9月5日に発表した、THE世界大学ランキング2018(THE World University Rankings 2017-2018、WRU2018)。トップ100にランクインした日本の大学のうち、もっとも総合順位が高かったのは東京大学だった。しかし、総合ランクは46位と、現行のTHE世界大学ランキングが公開された2004年から見ると過去最低の順位。同じアジアでは中国の大学が順位を上げており、日本の大学の世界的な位置を案じる動きが出ている。

 THEを運営する英TES Global社と、同社の国内総合パートナーを務めるベネッセコーポレーションは10月16日、THE世界大学ランキングカンファレンスを開催。ランキングの分析と、世界から見た日本の大学の特徴について分析した。

世界上位6%で争う順位、THE世界大学ランキングとは



 「THE世界大学ランキング」は、2004年から公開されている世界的な大学番付。教育力研究力研究の影響力(論文の引用数)国際性産業界からの収入の5領域、13項目についてデータを収集し、総合力を評価・分析したうえで世界中の大学に順位をつけ、一覧にして発表している。

 世界的な大学ランキングは、英グローバル高等教育評価機関であるクアクアレリ・シモンズ(Quacquarelli Symonds:QS)やサウジアラビアの世界大学ランキングセンター(The Center for World University Rankings:CWUR)によるもののほか、上海交通大学・大学研究センターによる世界大学学術ランキング(Academic Ranking of World Universities:ARWU)などがあるが、THEによる世界大学ランキングは、対象とする国・地域と大学数で最大規模を誇り、教育関係者のみならず、世界的な注目度も高い。

 2017年9月に発表した最新のランキング(WUR2018)では、世界89の国・地域を対象に、1,102大学を選出。世界の全大学数がおよそ1万8,000であることから、THE世界大学ランキングに名前が載ることはつまり、世界の大学の上位6%に位置することを意味する。より高度な環境で学び、研究したいとする留学生や研究者にとって、世界大学ランキングはある種、「大学選びのものさし」になっているといっても過言ではない。

日本のトップリーダーに異変、中国の伸長くっきり



 国内随一の高等教育機関であることから、その順位が毎年俎上に載せられてきた東京大学。東京大学はこれまで、2013(2012-2013)で27位、2014(2013-2014)と2015(2014-2015)で23位と、25位前後の順位を保ってきた。しかし、2016(2015-2016)では43位と、前年に比べ10位のランクダウン。一度は39位まで順位を回復するが、今回は43位の底からさらに3位順位を下げ、過去最低の46位へ。国内のトップリーダーが集結する東大が、なぜなのか。

 THEのランキングに限らず、世界的な大学ランキングは研究力やその影響力(被引用論文数)、国際性に重きを置いていることが多い。そのため、研究機関としてではなく教育機関としての意味合いが強く、留学生数や外国人教員が占める割合の少ない日本の大学がランキング入りするのは土台、難しい話だとする意見もある。また、日本人の研究論文はほとんどが日本語で発表されており、英語圏に比べ論文に関する評価が弱いのは「当然」だとする指摘があるのも事実だ。

 非英語圏であることが順位低下の理由になるならば、日本以外の中国、韓国など、他アジア諸国の動きはどうだろうか。

 英TES Global社でデータ解析ディレクターを務めるDuncan Ross(ダンカン・ロス)氏は「特に数年におけるランキングでは、中国の大学の順位が上がってきています」と述べる。

THE World University Rankings 5年間の推移<日本・中国>
THE World University Rankings 5年間の推移<日本・中国>

 実際に、北京大学と双璧を成す中国のトップレベル大学である清華大学は、過去5年間で50位、49位、47位、35位、30位と、着実に世界的順位を上げてきている。Ross氏によると、これは「ランキング結果から課題を見出し、常に改善してきた表れ」。清華大学はランキング内で課題だった教育力と国際性向上のため、学長主導のもと世界的に高水準にあるトップレベル講師を招へいし、欧米などの海外で学び、経験を積んだ中国人講師も積極的に採用しているという。学生の40%は海外留学を経験しており、北京大学との差も縮まってきている。

THE World University Rankings 5年間の推移<日本・シンガポール・香港>
THE World University Rankings 5年間の推移<日本・シンガポール・香港>

 中国に限らず、シンガポールの動きも見逃せない。アジアを牽引するトップ大学は、シンガポールのシンガポール国立大学だが、同大学に並ぶ南洋理工大学も、THE世界大学ランキング内に課題を見出し、大学としての世界的な立ち位置を常に見直してきた大学のひとつだ。グローバル社会を拓く大学として、同大学が集中的に取り組んだ大学改革の柱は6本。Ross氏によると、特徴的な施策としては70か国あまりから世界的な教員を招いたことと、世界の数多くの大学とパートナーシップを結んだことがあげられる。Ross氏は「パートナーシップは、締結するだけでなく、お互いに新しい知識、新しい経験を生み出すことが重要」だとし、博士号を持つ教員の積極採用や学生への教育力を高めようと、改善を重ねる同大学の取組みを評価した。

 Ross氏は論文の被引用数を測る項目や方法にさまざまな意見が集まっている点を認識しており、今後も適宜、世界中から寄せられた意見には真摯に向き合い、改善していくと述べる。そのうえで、日本の大学については「欧米はもちろん、アジア内での評価にも目を向けてみると新しい課題が見えるかもしれない」と応えた。

アジアの大学と比べる日本の大学の弱点



 Ross氏の意見に沿って、日本とアジア諸国のトップ大学の経年変化を見てみよう。

 日本と中国を比べると、両国とも国際性の面では同等の評価だが、論文引用数や教職員あたりの論文発表数は日本が劣勢であることがわかる。中国も英語での論文発表が弱いとされているが、Ross氏によると近年は英語での論文発表が推進されている。中国は近年、権威のある学術雑誌「Nature」に論文が掲載されると、政府から論文発表者にインセンティブが入るという施策も打ち出しているそうだ。なお、国際共著論文数の点では、日本のほうが優れている。

THE World University Rankings 5年間の推移<日本・韓国>
THE World University Rankings 5年間の推移<日本・韓国>

 日本と韓国の比較は、おおよそ日本と中国の対比同様の結果。ただし、韓国は近年国際化を強力に推し進めており、その水準はアジア地域の中では特に目を見張るものがあるという。また、政府が教育研究費を拡充したこともあり、教職員ひとりあたりの研究費も上昇傾向にあるそうだ。

 非英語圏であることはもはや、ランキング順位や国際的な大学地位の低下理由にはならない。ベネッセコーポレーション学校カンパニー大学・社会人事業本部長の藤井雅徳氏は、Nature Indexによる調査結果を引用し、日本の論文引用数、発表数が減少傾向にあることに言及。世界で発表される論文のうち、日本人による論文が占める割合は2005年では7%だったところ、2015年には4%まで低下したことは、日本の論文数が大幅に減少したわけでなく、「世界的に論文が増えているための(相対的な)現象」と解説。「アメリカやイギリスの外政変化に伴い、留学生動向にも変化が起きている。その変化にあわせ、日本はどう、世界的な立ち位置を示すかが重要である」とし、ランキング結果に一喜一憂せず、結果から見えた課題を「自大学の改革に利用していただければ」と期待を込めた。

 また、藤井氏はTHE世界大学ランキング2018にランクインした大学を国別に見ると、日本は89大学で、1位のアメリカ157大学、2位のイギリス93位に続く3位だったことを紹介。日本の大学が国際的に認知され、あと数大学がランクインすれば、大学における国別のインパクトとしてはイギリスを抜かす日が来るかもしれないと述べた。

ランキングは「活用するもの」



 なお、THE世界大学ランキングの論文引用ソースデータは、2015年にWeb of Science(トムソンロイター社)からScopus(エルゼビア社)に変更されている。Ross氏によると、これは英語以外の言語で発表されている論文も正確に対象とするため。ランキングには毎年多くの意見が寄せられており、より信憑性の高いランキングとなるよう、発表の際は再三の見直しが行われているという。

 無類のデータ好きであると自負するRoss氏も、「ランキングは“ゼロサムゲーム”です」と語る。ランキング結果から課題を読み解き、改善を続け、ランキングに関係するポイントが上昇したとしても、それを上回る速度で他大学の評価が上がっていれば、順位は停滞、および低下するのが相対的なランキングの妙だ。

 Ross氏は、「世界大学ランキングは世界における自大学の立ち位置を確認するのに活用していただきたい」と力説。「昨年(2016年)にTHE世界大学ランキングを発表した際、THEの世界大学ランキングは約10億の人、およそ世界の約6人に1人に閲覧されました。ランキングは単に学生だけが参照しているのではありません。大学関係者はもちろん、政府が指標として利用している場合もあります。大学のみなさまには、近隣の大学と比較してどちらが上か、下かということではなく、世界という舞台で自らがどこに位置するのか、という点を理解するのに役立てていただければ」とコメントした。

 THEは今後、2017年同様にベネッセと協働し、2018年3月28日に日本版のTHE世界大学ランキングを発表予定。研究力や論文引用数に重きを置く“本家THE世界大学ランキング”に基づきながら、日本国内における日本の大学を正確に測る日本版の世界大学ランキングを作成するとしている。THE世界大学ランキング日本版の発表は、2017年に続き2回目。世界的なランキングとしては今後、11月に研究分野ごとのTHE世界大学ランキングの発表が控えている。
《佐藤亜希》

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