小中連携にある「段差」 小学6年生保護者が知っておくべき心構え

 学校間の段差、特に小学校から中学校入学時の“段差”である「中一ギャップ」に注目し、親が子どもと関わる際の心構えについてまとめました。 

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  • 平成28年度 不登校児童生徒数の推移のグラフ
  • 平成28年度 学年別不登校児童生徒数(国公私立別)
 年が明ければ、数か月で新年度がやってきます。新たな学校に通い始めたり、新しい友達ができたりと、希望に満ちている子どもが多い季節です。しかし、一方でその状況に不安を覚える児童、生徒がいるのもまた事実です。

 冬を越し、新しい季節に向かう前に、子どものために保護者の方に知っておいていただきたいことを紹介します。今回は特に、学校間の“段差”、特に小学校から中学校入学時の“段差”である「中一ギャップ」に注目し、親が子どもと関わる際の心構えについてまとめました。

入学・進学に伴う「段差」とは



 学校間にはさまざまな“学びの段差”があります。幼稚園・保育園から小学校へ入る時の段差、小学校から中学校へ入る時の段差、中学校から高校へ入る時の段差、そして高校から大学や専門学校などに入る時の段差です。

 幼保と小の段差は「小一プロブレム」、また小と中の段差は「中一ギャップ」と呼ばれ、さまざまな問題が生じています。「段差」は、それによって成長が促されるという役割もあるのですが、放っておくと大きなトラブルに発展する側面も持ちます。

段差で不登校率が拡大 注意したい中学進学タイミング



 それらの段差の中で、もっとも段差があるとされているのが小学校から中学校に上がる時の段差です。先程述べたとおり、この段差は教育業界では「中一ギャップ」として認識されており、新しい学習環境や生活、人間関係になじめないまま過ごすと、生徒間の人間関係に問題をきたしたり、不登校の要因になったりするとされています。

 中学生の不登校率は小学生に比べ非常に高く、文部科学省が平成29年10月に発表した「児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸問題に関する調査」によると、小学校では0.48%、中学校では3.01%の子どもが不登校になっています。

平成28年度 不登校児童生徒数の推移のグラフ
グラフ:平成28年度 不登校児童生徒数の推移

 不登校児童・生徒数の推移を見ると、小学校の場合、平成3年は全児童数に対し0.14%の12,654人だったところ、平成28年には0.48%にあたる31,151人と、約25年間で少しずつ不登校児童の割合が増加していることがわかります。中学校の場合は、平成3年に全生徒数に対し1.04%の54,172人だったところ、平成13年には2.81%の112,211人まで増加し、平成18年には2.86%、平成23年に2.64%、そして平成28年には3.01%にあたる103,247人と、不登校生徒の割合は平成3年以来過去最高になりました。

 学年別の不登校児童生徒数をグラフにすると、小学校と中学校における不登校率の違いがより明確になります。具体的には、平成28年度の小学6年生の不登校児童は国公私立あわせて9,906人だったところ、中学1年生ではその約2.6倍にあたる2万6,360人が不登校生徒になっていることがわかります。

平成28年度 学年別不登校児童生徒数(国公私立別)
グラフ:平成28年度 学年別不登校児童生徒数(国公私立別)

 不登校だけが子どものトラブルのすべてを表すものではありませんが、中学校入学によって学校生活に難しさを感じている子どもが少なくないことを表しているのは事実だと思います。

なぜ少ない?不登校要因の「いじめ」



 なお、不登校の要因について見ると、小学校においては「家庭に係る状況」が約50%となっているものが、中学校になるとそれが約30%に減り、「学校に係る状況」として「学業の不振」、「いじめを除く友人関係をめぐる問題」が増えています。学校に係る状況のうち「いじめ」が要因だとしたのは、小学生は0.6%、中学生は0.5%です。「いじめ」が要因だとする割合がとても少ないことに違和感を覚える方もいらっしゃるでしょう。これは2つのことが関係していると思われます。

 1つめは調査の方法です。この調査「児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸問題に関する調査」は、不登校の子どもに直接行われたものではありません。文部科学省が学校や教育委員会に対して回答を求めたものです。学校側が子どもが不登校である本当に理由、たとえば「いじめ」などを把握できていないのではということが考えられます。

 もう1つは、1つめとも関連しますが、担任や親に自分がいじめられていると伝えることのできた子どもは、不登校ではなく、別な状況にあるのではないかということです。つまり、この調査の背景には、自分がいじめられているということを伝えることができず、不登校という状態になってしまっている子どもがいるのではないかということです。

 「いじめを除く友人関係をめぐる問題」は「いじめ」に発展する可能性を大きく含んでおり、親の立場としても、保護者の立場としても、早期発見が大事なことは間違いないでしょう。

学校別、中一ギャップの乗り越え方



 中学校入学時の「中一ギャップ」について考える時、問題への向き合い方は進学する中学校によって少し状況が違ってきます。公立中学校と私立中学校などに関係なく共通してトラブルのきっかけとなりそうなものと、私立中学校などで特徴的なものがあります。

公立・私立で共通する3つのトラブル



 まず、公立、私立問わず、中学校全体でトラブルになりやすいポイントは「教科担任制」と「学業の不振」、「人間関係」の3つです。

 教科担任制」とは、各教科ごとに教科担任を配置する方式のことです。多くの中学校や高校で採用されており、小学校でも高学年の理科や算数などで導入されている場合があります。しかし、小学校は基本的に学級担任制を採っており、授業だけでなく、生活面などもフォローしています。よって、子どものさまざまな情報を把握していることから、トラブルが起こった際も適切に関わることができるというメリットを持っているのです。しかし、原則は「教科担任制」が採られる中学校では、音楽、家庭科などの実技教科だけでなく、すべての教科が専科教員により行われ、10人以上の教員が1人の生徒を担当することになります。小学校と比べると、学級担任と関わる時間も格段に少なくなります。そういったことが、人との関わりに対して苦手意識がある子どもを中心に、ストレスとなることがあります。

 学業の不振」については、中学校への入学で突然起こるものではなく、小学校の段階から少しずつ傾向が見られるものです。文部科学省による調査でも、不登校の要因のうち「学業の不振」が原因とされるものは、小学校で約14%だったものが、中学校では約21%に増えています。このきっかけは、小学2年生のかけ算(九九)であることが多いです。九九の習得が十分でないことから、その後の算数の理解の質が下がります。そういったことの積み重ねが学習への意欲を下げ、結果的に「学習の不振」に起因する不登校にまでつながってしまうことがあります。

 「人間関係」については、「学業の不振」同様、中学校になるとより顕著になり、不登校の理由になりやすい問題です。小学校では、「いじめを除く友人関係をめぐる問題」が原因とされる不登校は約18%だったものが、中学校では約28%まで増えます。学校内だけではなく、SNSやインターネットなどに由来するトラブルの可能性も増えることなどが関係していると思われます

私立中学で気をつけたい「中一ギャップ」



 私立中学校などに特徴的な「中一ギャップ」もあります。トラブルのきっかけとなりそうなものを特にあげると、それは「通学」と「勉強」、そして「校風」の3つです。

 受験をして私立中学校などに入学した子どもが苦労をするのが「通学」です。それまで公立小学校へ通っていた場合、多くは自宅からそれほど遠くない場所にあるため、通学はそれほど苦になりません。しかし、私立中学校に通うには、電車やバスを利用しなければならないことが多いでしょう。なかには1時間以上を掛けて通う子や、通勤通学ラッシュの時間帯に通学しなければならない子もいます。そういった通学に関わる生活の差が、負担になる子どもも多いのです。

 「勉強」に対してもストレスを強く感じてしまう場合があります。これは「勉強に対するモチベーションの維持の難しさ」と言い換えることができるかも知れません。中学受験、そして合格を目指してきた子どもたちは、それまでの数年間、あまり遊ばずに塾通いをしてきたはずです。入学後は勉強から解放されるのでは、という期待も束の間、入学後は大学受験に向けてさらに強いプレッシャーを掛けられることがあります。私立の中高一貫校は特に大学進学実績を重視している場合が多く、入学直後から特別なカリキュラムを行うこともめずらしくありません。附属校などの場合はこの限りではありませんが、入学後も生徒の学習意欲を維持していけるかどうかも「中一ギャップ」に向き合ううえで重要な要素のひとつです。

 最後は「校風」です。私立校は公立校と比べさまざまな特色があります。宗教をベースとした学習に特徴があったり、バンカラな感じが残っていたりと、学校には特色があります。そういった学校の特色が子どもに合えば良いのですが、場合によっては子どもにあわず、強いストレスとなることがあります。多くのご家庭は校風などを意識して受験しているものの、偏差値などを重視して学校を決めてしまうと、こういったことが起こらないとは言い切れません。学校の特色は、学園祭を見たり、学校説明会に参加したりすることでわかる部分もあります。

子どもの進級・進学、親ができること



 これまで述べたように、進級・進学にはたくさんの不安要素がつきまといます。不安を抱えている子どもに対して親ができることは、「フォローしてあげる」ということです。「見守る」とも言い換えられるでしょう。

 ただし、小学生高学年から中学生を中心とする年代で難しいのは、手取り足取りではダメだ、ということです。子育てにおける親の役割のひとつは「子どもを自立させる」ことですから、子どもをしっかりと観察し、手を出し過ぎないように、でも必要な時にはフォローができる…という体制を整えておくのが望ましいでしょう。

 しかし、だからと言って「放任」ではうまくいきません。子どものようすに目をかけ、適切な距離感で見守っていくことが求められています。そのバランスはとても難しく、年齢によっても少しずつ違ってきますが、親が意識的に少し距離を取り、子どもが自分で取り組むことができるように見守る…というスタイルが重要でしょう。

 中学校入学時は、少しずつ子どもが自立をしようとしている時期です。親が手を出し過ぎると自立できなくなってしまう可能性があります。子どもも親を頼った方が楽なのは分かっています。心配なあまり、子どもの就職試験に親が一緒に付いて行ったり、子どもが働いている会社の上司に親が文句の電話を入れたり、ということが話題になることがあります。親子関係における、自立の不十分さを物語っていますね。

 今回は、小学校卒業から中学校入学における「中一ギャップ」を中心に、子どもの進学・進級に伴うトラブルへの関わり方について紹介しました。特に重要なのは、一貫して「親の子どもとの関わりです。距離感としては「近すぎず、遠すぎず」が大事でしょう。思春期には子どもの周りでさまざまな問題が発生します。子どもは、そういったものから多くのことを学んでいきます。親の適切なフォローによって、さまざまなトラブルの経験を「人生の糧」とすることができるのだと思います。

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鈴木邦明(すずきくにあき)
平成7年 東京学芸大学教育学部 小学校教員養成課程理科専修卒業。平成29年 放送大学大学院文化科学研究科生活健康科学プログラム修了。神奈川県横浜市、埼玉県深谷市で計22年、小学校教諭として勤務。現場教員として子どもたちの指導に従事する傍ら、幼保小連携や実践教育をテーマとする研究論文を多数発表している。こども環境学会、日本子ども学会など、多くの活動にも関わる。平成29年4月からは小田原短期大学特任講師に着任。子どもの未来を支える幼稚園教諭、保育士の育成や指導に携わる。
《鈴木邦明》

鈴木邦明

帝京平成大学 人文社会学部児童学科 准教授。1971年神奈川県平塚市生まれ。1995年東京学芸大学教育学部卒業。2017年放送大学大学院文化科学研究科修了。神奈川県横浜市と埼玉県深谷市の公立小学校に計22年間勤務。2018年からは帝京平成大学において教員養成に携わっている。「学校と家庭をつなぐ」をテーマに保護者向けにも積極的に情報を発信している。

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