【NEE2018】かえつ中2年生が実践「スパイダー討論」を体験してみた

 「New Education Expo 2018(NEE2018)」で、2018年6月8日に行われたフューチャークラスルーム ライブ2018「スパイダー討論が教室を変える ~紙と鉛筆だけで生徒たちが『熱中する授業』をスタート!~」を体験した。

教育・受験 中学生
フューチャークラスルーム ライブ2018「スパイダー討論が教室を変える ~紙と鉛筆だけで生徒たちが「熱中する授業」をスタート!~」で使用されたネオスマートペン
  • フューチャークラスルーム ライブ2018「スパイダー討論が教室を変える ~紙と鉛筆だけで生徒たちが「熱中する授業」をスタート!~」で使用されたネオスマートペン
  • フューチャークラスルーム ライブ2018「スパイダー討論が教室を変える ~紙と鉛筆だけで生徒たちが「熱中する授業」をスタート!~」のようす
  • かえつ有明中・高等学校 教育統括部長の佐野和之先生
  • 東京大学大学院 教育学研究科 修士課程の金井達亮氏
  • フューチャークラスルーム ライブ2018「スパイダー討論が教室を変える ~紙と鉛筆だけで生徒たちが「熱中する授業」をスタート!~」で配布された評価シート
  • フューチャークラスルーム ライブ2018「スパイダー討論が教室を変える ~紙と鉛筆だけで生徒たちが「熱中する授業」をスタート!~」のようす…スパイダー討論の名前の由来
  • フューチャークラスルーム ライブ2018「スパイダー討論が教室を変える ~紙と鉛筆だけで生徒たちが「熱中する授業」をスタート!~」のようす…深い対話をするためのルーブリック
  • フューチャークラスルーム ライブ2018「スパイダー討論が教室を変える ~紙と鉛筆だけで生徒たちが「熱中する授業」をスタート!~」のようす…グループに分かれ輪になって討論
 2018年6月7日から9日まで、東京ファッションタウンビル(TFT)にて開催された教育関係者向けのイベント「New Education Expo 2018(NEE2018)」では、内田洋行が提供する「未来の授業」を来場者が体感する「フューチャークラスルーム」が実施された。

 6月8日に行われた「フューチャークラスルーム」のうち、「スパイダー討論が教室を変える ~紙と鉛筆だけで生徒たちが『熱中する授業』をスタート!~」では、かえつ有明中・高等学校 教育統括部長の佐野和之氏と、東京大学大学院 教育学研究科 修士課程の金井達亮氏が、かえつ有明中の2年生が実践した「スパイダー討論」の授業を行った。

親世代は未体験“主体的・対話的で深い学び”



 学校の授業参観や給食の試食会に参加する機会はあっても、我が子が学んでいる授業を実際に体験するチャンスはなかなかないだろう。教育現場に立つ先生ならなおさら、他校の授業を子ども目線で体験できるのは貴重な機会だ。

 NEEで毎年実施されている「フューチャークラスルーム」は、他校の児童生徒たちが実際に受けている先進的な授業を、来場者が実際に体験できるとあって、毎年人気の企画。新学習指導要領に示されている「主体的・対話的で深い学び」を育成する「クモの巣がはられたような活発な会話」をイメージしながら40分の授業に臨んだ。

 会場からほど近い「かえつ有明」で授業を終わらせ、「自転車で5分くらいでやって来た」という佐野先生の和やかな挨拶で始まった未来の授業。つい2018年3月までは佐野先生の同僚教員だったという金井氏は、教員を一旦辞め、現在は東京大学大学院で教育学をさらに深く勉強しているという。

「Spider討論」とは?



 金本氏は、アレキシス・ウィギンズ氏の著書「最高の授業 スパイダー討論が教室を変える」をもとに、「Spider討論」の名前の由来を説明。対話の組立てが「クモの巣図」を意味することに加え、「Spider」はそれぞれ、討論で行う行為の頭文字が由来となっている。

スパイダー討論の由来
Synergetic:相乗効果
Practiced:練習し続ける
Independent:自立した
Developed:発展する
Exploration:探究する
Rubric:ルーブリック(評価基準)

Web:クモの巣図


フューチャークラスルーム ライブ2018「スパイダー討論が教室を変える ~紙と鉛筆だけで生徒たちが「熱中する授業」をスタート!~」のようす…スパイダー討論の名前の由来
スパイダー討論の名前の由来を説明

 深い対話をするために身に付けたい力を表す単語を由来に持つ「スパイダー討論」は、実際どのように進められるのか、金本氏は中学2年生の授業で3か月間実践したようすを収めた映像を用いて紹介した。

 生徒たちはサークルをつくり、複数人でテーマについて話し合う。そのうち、「エキスパート」という役割をひとりだけ設定する。エキスパートは話し合いには参加せず、誰から誰に向かって話されたかを紙に線で描き、客観的に会話を記録していく。話し合いが終わり、自分たちの討論を評価し合ったあとにエキスパートの記録を見ると、発言の方向を表す「クモの巣図」の線に偏りがあることに気づく。たとえば、よく話している者はひとり、ふたりしかいない、といったことがひと目でわかる、というものだ。

 「スパイダー討論を7回、8回と回数を重ねることによって、気づきがたくさんあります。まわりを見渡せるようになって、部活にも役立てられるようになった、という生徒の意見があります。自己主張の強い生徒が自分の意見だけがナンバー1ではないことに気づいたり、エキスパートが客観的な眼を持ったうえで次の討論に参加することで、より深く聞く力が身に付いていく。豊かな議論に変っていく。最初は偏ったクモの巣図が、回数を重ねる度にだんだんときれいなクモの巣になっていきました。」(佐野先生)

対話を“見える化”して振り返る



 佐野先生の説明を受けたあと、「フューチャークラスルーム」では、参加者が2つのチームに分かれ、輪をつくって「スパイダー討論」の授業に参加する機会が設けられた。テーマは、「どのような学校ではたらくことが理想でしょうか」。学習到達状況を評価するルーブリック(評価基準)は下記のとおり。

深い対話をするためのルーブリック
・全員が平等にテーマを意識して参加した
・一度に話す人はひとりで、良いペースで活発な話し合いだった
・チーム内で出てきた疑問や質問はみんなで解決する努力ができた
・小さなつぶやきも無視されず、おとなしい人にも発言しやすい雰囲気や声がけができた
・誰かが話しているときには、話し手が不快になる態度や行動を取ることなく、何を言おうとしてるか一生懸命わかろうと努力できた


フューチャークラスルーム ライブ2018「スパイダー討論が教室を変える ~紙と鉛筆だけで生徒たちが「熱中する授業」をスタート!~」のようす…深い対話をするためのルーブリック
深い対話をするためのルーブリックを説明

 ルーブリックを確認すると、参加者はテーマに沿って早速意見交換をスタート。参加者は公務員、学校関係者、大学生など、さまざまな立場にあり、みな初対面だ。自分の経験などから活発な意見が交換され、お互いルーブリックを意識し、うなずいたり、手振りで誰かに次の意見を促したりと、和やかに進んでいった。「いざというときはトップが守る」「トップが理想だけではない具体的なビジョンを持っている」「風通しが良く話がしやすい」など、具体的な考えをひとりひとりが話していった。

フューチャークラスルーム ライブ2018「スパイダー討論が教室を変える ~紙と鉛筆だけで生徒たちが「熱中する授業」をスタート!~」のようす…グループに分かれ輪になって討論
グループに分かれ輪になって討論

 その間、エキスパート役のスタッフは内田洋行の「ネオスマートペン」で紙に「クモの巣図」を黙々と記入。討論の修了後には、ルーブリックに対する話合いの評価を配布された紙に「A」「B」「C」「D」記入する。筆者の参加したチームでは、全員で話し合い、「B」というまずまずの評価を出した。ところが、評価後にエキスパートが記録していた「クモの巣図」を見ると、一度も発言をしていない人がいたり、ひとりがファシリテーターのような役割を担って議論を進めていたりと、線に偏りが見られた。

フューチャークラスルーム ライブ2018「スパイダー討論が教室を変える ~紙と鉛筆だけで生徒たちが「熱中する授業」をスタート!~」のようす…討論後、可視化された「クモの巣」を囲む
可視化された「クモの巣」を囲むと気づきがある

 「ネオスマートペン」はスマホやPCのアプリと連携しており、エキスパートがクモの巣図に記入していった経過を映像で振り返ることができるので、話の流れを「見える化」できる。客観的に記録されていった対話のクモの巣図が作られていくようす見たことから、当初の「B」という評価は高いように感じ、チームで出した最終評価は「C」となった。

フューチャークラスルーム ライブ2018「スパイダー討論が教室を変える ~紙と鉛筆だけで生徒たちが「熱中する授業」をスタート!~」で使用されたネオスマートペン
エキスパートが使用していたネオスマートペンは、紙に書いた記録を映像で振り返ることが可能

 2つのチームの評価結果から、佐野先生は「(討論は)振り返りが大事で、しゃべりすぎを可視化ができることから、クモの巣図の結果を見る前と見たあとでは自己評価が下がることが多い。これは子どもだけではなく大人もやった方がいい授業だと思います。何度も練習すると、深くて良い議論になるので、何か月もかけてやっていくとよい」と授業を締めくくった。

議論が得意になってほしいというわけではない



 授業終了後、佐野先生にスパイダー討論を授業に取り入れた理由を尋ねた。

東京大学大学院 教育学研究科 修士課程の金井達亮氏
東京大学大学院 教育学研究科 修士課程の金井達亮氏

 「議論を重ねることで自分が伸ばせるところを伸ばせるようになるはずなんです。この人はこういうころが得意で、あの人はこういうことが得意だと気づく。自分は協働して学ぶときにどういうことで貢献できるかを考えられる、一番それが大事です。」(金井氏)

かえつ有明中・高等学校 教育統括部長の佐野和之先生
かえつ有明中・高等学校 教育統括部長の佐野和之氏

 「議論を得意になれということではなくて、(大事なのは)自分で何が得意かに気づいていくプロセスだと思うんです。自立した学習者に育っていってほしいですね。一生をかけてアクティブラーナーになっていく。アクティブでなくてもいい。ラーナーでずっとい続けることが大切だと思います。」(佐野先生)

 社会で求められる能力はさまざまだ。対話から気づく自分自身の“得意”から、社会に貢献できることを考え続ける。中高生のころから重ねていく対話が“主体的・対話的で深い学び”となり、“ラーナー”を育んでいくのだろう。
《田口さとみ》

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