母親が働いていると中学受験は無理?共働き夫婦が挑戦してわかったこと

 6年生まで野球・バイオリンを続けながら難関国立中学に合格した親子の体験記「小学生生活を犠牲にしない中学受験」(WAVE出版)から、中学受験を目指す親子が救われ、励まされる考え方をご紹介。共働き家庭で中学受験を目指すメリットについて語る。

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  • 「小学生生活を犠牲にしない中学受験」(WAVE出版)
 6年生まで野球・バイオリンを続けながら難関国立中学に合格した親子の体験記「小学生生活を犠牲にしない中学受験」(WAVE出版)から、中学受験を目指す親子が救われ、励まされる考え方をご紹介。共働き家庭で中学受験を目指すメリットについて語る。

母親が働いているようでは受験は無理?



 進学塾に通う子どものために平日に週3回も夕食のお弁当をつくって送り迎えするのは、フルタイムの共働き家庭には無理なことです。うちも私の両親は遠方に住んでいますし、妻の母は息子が生まれる前に他界したので、親に頼ることもできませんでした。

 共働きのお母さんは専業主婦のお母さんと比べると、時間的な制約があることは否めません。でもいろいろと考えれば、仕事を続けながら乗り切る方法はきっと見つかります。

 妻は仕事で残業や休日出勤など、私よりも忙しいこともありました。でも保育園や小学校の保護者会は一度も欠席したことはありませんでしたし、PTAの係も引き受けました。

 保護者会の出席者はお母さんばかりで、お父さんが行くと浮いてしまうので妻に任せましたが、私も運動会だけではなく保護者が参加できる小学校のイベントはほとんど参加しました。イベントにいつも参加するのは、うちともう一組のご夫婦で、その方たちも共働きでした。時間的な制約があるからといって、子育てに手を抜くわけではありません。専業主婦でもそうでなくても、関係ないのです。

 世の中には子育てに関する「迷信」があふれています。特に働くお母さんに対してはネガティブなものが多く、妻はずいぶんひどいことも言われたようです。

 たとえば息子が帝王切開で生まれたのを知って、「産道を通らないとお母さんの愛情が伝わらない」とか、うちは息子が生後2カ月のときからベビールーム、4カ月から公立保育園に預けたため、「3歳まではお母さんが育てないといけない」「母乳がよくて粉ミルクはいけない」「保育園の子は貧しい家庭の子が多くて乱暴になる」「保育園は教育をするところじゃないから、小学校受験をするなら幼稚園じゃないとダメ」と、言いたい放題。

 でも負けてはいけません。そんなことはすべて「迷信」なのです。現に息子も保育園の友だちも普通に育っていますし、保育園の友だちで有名私立小学校に合格した子も何名かいました。

 中学受験も確かに大変ですが、働くお母さんは絶対に「仕事を辞める」という選択をしないでがんばってほしい。なぜなら、これからの時代は仕事をしているお母さんだからこそ、有利なことがたくさんあるからです。

想像以上にかかる教育費



 中学受験にはお金がかかります。塾や家庭教師の料金は高校・大学受験と比べても、一番高いのではないでしょうか。通信教育も結構な金額です。過去問集などの教材費もあるし、模試の受験料もあります。そのうえ私立中学の受験料はびっくりするような高さです。いくつも受験するとなると、相当な金額になります。

 私立の場合は言うまでもありませんが、晴れて合格した後もお金がかかります。国立の場合は授業料は中学校では無料、高校も公立と同じですが、それ以外に学校運営のために保護者が拠出する基金があり、宿泊行事も多いので、公立よりお金がかかります。

 制服も夏服、冬服とズボンの予備、体操服に上履き、かばんなど、全部合わせると入学時にまとまったお金が出ていきますし、中学生になって急に背が伸びると、制服をつくり直す必要もあります。交通費も通学定期は安いとはいえ、乗り換えやバスがあると結構な金額になります。

 部活もお金がかかります。硬式用の野球グラブは驚くほど高いし、ユニフォームも試合用と練習用が必要で、しかも練習用はすぐにボロボロになります。部費や夏休みの合宿の費用もあるし、遠征が多い学校は交通費もバカになりません。

 最近は部活や学校行事関連の連絡もみんなLINEなので、息子にスマホを持たせないわけにもいかず、月々の電話代もかなりの金額です。それに中高生になると、それなりのお小遣いもあげなくてはなりません。

 また高校生になって、夏休みの短期留学の募集があるようですが、そういう経験をさせるのにも、もちろん先立つものが必要なのです。

 うちの場合は一人っ子なのでまだいいのですが、これが二人、三人いたら2倍、3倍かかるわけです。お父さん一人の稼ぎでは、とてもまかなえそうにありません。教育資金の面からは、明らかにダブルインカムのほうが楽だと思います。

 もし私立だったらもっとお金がかかるわけで、合格したのはいいが、経済的な理由で中途退学などというのは絶対に避けたいことです。ですから、終身雇用が崩壊してしまった今、夫婦のどちらかが一時的に職を失っても、片方の収入があれば何とかなる、ダブルインカムのほうが安全なのです。

中学受験のサポートに父親も参加



 私の大学時代の友人で今でも首都圏に住んでいる人は、大抵子どもに中学受験をさせています。ほとんどは奥さんが専業主婦で、中学受験の一切を取り仕切っているようです。「おれは自分と同じように、公立中学から高校受験でいいと思ったんだけどね」とは言うものの、子育ては奥さんに一任しているため「口出しさせてもらえない」のだそうです。

 さまざまな家庭があると思いますが、うちのような共働き家庭になると、お母さんだけで子どもの中学受験の一切を背負うのは大変です。だから必然的に、お父さんも参画することになります。

 今思うと私たちが経験した中学受験は、思うようにいかないこと、悩まされること、不安になることばかりでした。これは塾に行っても行かなくても同じだったと思います。合格発表のその日まで、不安が消えることはありませんでした。

 そういう状況を妻一人で抱え込むのは、精神的にかなりきついことです。悩みや不安を夫婦で共有できたこと、次の一手を考えるときに相談する相手がいたことが精神的な支えとなり、冷静な判断ができたのだと思います。

受験勉強のマネジメントは仕事と同じ



 小学生が受験勉強をする中学受験では、保護者が勉強方法や教材を選び、勉強時間のスケジュール管理などの「マネジメント」をしなくてはなりません。「限られた時間の中で、必要なことと優先順位の低いことを見極め、必要なことにリソースを集中的に投入する」「うまくいかないときは原因が何かを分析し、課題を見つけ、手当てをする」

 など、仕事でのやり方とそっくりです。

 また自分でやるべきことか、アウトソースすべきことかを判断する点でも仕事と似ています。大抵の仕事は、ほかの人もしくは他社と共同で業務を進めます。どの業務は自分でやって、どの業務は他人に任せてもいい、あるいは他社にアウトソースしたほうがいいかを判断することで成立します。

 アウトソースには二つのパターンがあります。一つは設備や知識がないので、自分ではできないことを依頼するケース。もう一つは自分でやってもいいが、専門の業者に依頼したほうが効率的でコストを安くできるパターン。

 これを受験勉強に当てはめると、うちは私たち夫婦ができないことや自信のないことを埋めるために家庭教師に来てもらうことにしました。一方、個人塾に期待したのは親が帰宅するまでの時間の有効活用で、息子がちゃんと課題をやるように「監視」してもらう。つまり私たちでもできることを他者に依頼したのです。

 仕事ではアウトソースしなくていいことまでしてしまい、業務がうまく回らなくなったり、かえって非効率になったりという経験をたくさんしています。だから何を塾に依頼して何を親自身がやるべきかの判断が、より的確にできたのではないかと思っています。

視野の広い母親が子どもの視野も広くする



 専業主婦のお母さんでも、種々の活動をして、広い視野を持つ人はもちろんいます。ただ、仕事をしていると必然的にいろんな人、それもさまざまなバックグラウンドを持つ人とかかわる機会が多くなります。そのことで自分の視野の狭さに気づかされることは多々あります。

 特に外国人の価値観に触れると、いかに日本が視野の狭い世界なのかということを痛感します。もしこの出会いがなければ、私たち夫婦のものの見方は、今よりもずっと狭いものだったに違いありません。

 仕事では、たとえば「高学歴でも仕事ができない使えない人」など、「こうはなりたくない」「息子にはこういう人間には絶対になってほしくない」と思える反面教師に出会えることも、実はとてもありがたいことです。

 子どもは親を見て育つと言いますが、本当にそのとおり。口では反発していても、親の真似をしてほしくないところも含めて、価値観、考え方の影響を強く受けています。お母さんが社会でいきいきと活躍している「生き方」を子どもに見せることができる。それも共働き家庭のいいところなのだと思うのです。

仕事のおかげで受験で煮詰まらずにすんだ



 毎朝バタバタしながら子どもを保育園に預け、急いで会社に向かい、自分の席に座ったとたんにほっとする。そんな経験のある共働き家庭も多いでしょう。

 うちもあの頃に比べれば子育ては楽にはなっていましたが、息子が小学校高学年のときの受験勉強では、私たち夫婦も「なかなか思いどおりの結果が出ない」と、ついつい考え込むことが多かったように思います。

 むろん子どもと勉強するのは楽しかったし、少しずつ力をつけている実感はあったのですが、それがテストの結果として表れないことが悩みでした。正直言って、あれほど悩んだことは仕事でもなかったほどです。

 それが会社に行って仕事に集中すると、一旦は中学受験のことは頭から離れます。どちらも中途半端にはできないので、オンとオフではなく、オンとオンの切り替えではありましたが、それでも同じことをずっと考えているよりは気分転換になります。

 これが四六時中、中学受験のことを考えていたらどうでしょうか。とんでもないストレスを抱え込んでいたかもしれません。今だから言えることですが、その時点でいくら考えても、思うような結果は出なかったでしょう。これは働く妻も同様です。

 仕事と違い、子どもの受験で親がストレスをためることは、親だけでなく子どもにも大きな悪影響を及ぼすのではないでしょうか。前述した「ワークライフバランス」(書籍27ページ)が必要な一つの例です。

今の時代はむしろ保育園のほうがいい



 私たちが子どもの頃は兄弟の多い家庭が多かったし、近所に子どもがたくさんいました。ちょっと外に出れば、友だちと接する機会はいくらでもあったのです。

 それが今は少子化の影響か、近所には息子と同じぐらいの年齢の子どもはまずいません。同年代の子と接する機会を、保護者がわざわざつくるしかない時代になっているのです。

 私は子どもを赤ちゃんの頃から保育園に預けた経験を通して、朝から晩まで友だちと「共同生活」できる子育て環境が、今の社会には合っていると強く思うようになりました。

 そのよい点をあげると、まずは規則正しい生活です。保育園は登園時間が決まっているので、毎朝同じ時間に起きて、遊んで、同じ時間に食事、昼寝と、子どもが大変規則正しい生活を送ることができます。

 次に、朝8時半から外遊びをさせるなんて、保育園でないと難しいでしょう。それに今の時代、テレビやビデオ、パソコンやゲームがまったくない1日を過ごせるのも貴重です。ゲーム以外にも面白い遊びがあることを、小さい頃に体験することはとても大事です。

 もう一つは、親以外の大人と接する機会が多いことです。保育士の先生はもちろん、送り迎えのときに会う友だちの両親や祖父母などにかわいがられた経験があるので、保育園の子はみんな人なつっこくて、自分から大人に近づいてきて話しかけます。

 私自身はどちらかというと人見知りするほうで、子どもの頃は知らない人と話すのがとても苦手だったのですが、息子が小学生のときの作文で「友だちをつくるコツは自分から話しかけることです」と書いていたのを読んで、感動してしまいました。

 今から考えると、あの保育園が子どもの社会性、コミュニケーション能力を育てるのにもってこいの環境だったのではないかと思うのです。

小学生生活を犠牲にしない中学受験

発行:WAVE出版

<著者プロフィール:かずとゆか>
 フルタイムの共働き夫婦。執筆担当の夫はずっと塾には通わず公立小中から県立高校を経て東大・京大現役ダブル合格。高校在学中には交換留学生としてオーストラリア・クイーンズランド州に1年間滞在した。東京大学工学部卒業後、外資系証券会社に入社、数社を渡り歩き現在に至る。取材担当の妻は都内私立中高一貫の女子校から私立大学工学部卒業の当時は希少だった理系女子。邦銀のロンドン拠点赴任を経て現在は外資系証券会社に勤務。仕事は絶対に辞めないというこだわりのもと子育てや家事との両立を目指している。子育てが一息ついた現在は社内の東北被災地ボランティアを通し社会貢献にも努めている。
勉強は塾に行かなくてもできるという信念から、息子も大手進学塾には通わずに中学受験に挑戦。少年野球とヴァイオリンを最後まで続けながら都内国立中学に合格した。ブログ「大手進学塾に行かない共働きの中学受験」を通して健全な小学生生活を犠牲にしない中学受験を提唱。

《リセマム》

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