相手の口を見る赤ちゃんほど音声を模倣…京大院・武蔵野大ほか研究チームが発見

 京都大学大学院教育学研究科 明和政子 教授、武蔵野大学教育学部 今福理博 講師、追手門学院大学心理学部 鹿子木康弘准 教授らの研究チームは、相手の口を見る赤ちゃんほど音声を模倣することを発見した。

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母音(「あ」、「う」)を発する発話者の顔に対する視線反応実験のイメージ
  • 母音(「あ」、「う」)を発する発話者の顔に対する視線反応実験のイメージ
  • 図a:正立条件(左)と倒立条件(右)の例
  • 図b:音声模倣の割合(左)、音声模倣の割合と発話者への視線反応(右)の結果
  • 図c:直視条件(左)と逸視条件(右)の例
 京都大学大学院教育学研究科 明和政子 教授、武蔵野大学教育学部 今福理博 講師、追手門学院大学心理学部 鹿子木康弘准 教授らの研究チームは、相手の口を見る赤ちゃんほど音声を模倣することを発見。研究成果が、2019年4月13日に国際学術誌「Developmental Science」のオンライン版に公開された。

 周囲の人が発する音声を真似する「音声模倣」は、ヒトの言語獲得において重要な役割を果たすといわれている。しかし、乳児がどのように音声模倣をしながら言語を獲得していくのか、その具体的な過程についてはこれまでわかっていなかったことから、「発話者の口の動き」や「アイコンタクト」といった視覚情報が、音声模倣の促進に関連すると予測し、2種類の実験を行った。

 実験1では前言語期の6ヶ月児46名を対象に、母音(「あ」、「う」)を発する発話者の顔に対する視線反応と、音声模倣反応を記録し、音声模倣時にどこを見ているか(知覚)、実際にどの程度音声模倣を行うか(産出)の2点に着目。具体的には、発話者の通常の顔情報(正立条件)と、顔情報を利用することが難しい上下180°回転させた顔(倒立条件)の2種類のどちらかひとつの視覚刺激をモニター上に提示し、同時に発話音をスピーカーを通して聞かせた。その結果、上下180°回転させた顔に比べて通常の顔情報を提示したときに、乳児は音声模倣を頻繁に行なった。

 実験2では、乳児23名にアイコンタクトをしている発話者(直視条件)と、目を逸らしている発話者(逸視条件)どちらかひとつをモニター画面に提示し、同様に発話音を流した。すると、アイコンタクトをしている発話者が画面に提示されているときのほうが、乳児は頻繁に音声模倣をした。

 これらの結果から、前言語期の乳児において、発話者の顔情報、特に口唇部の動きやアイコンタクトが音声模倣を促進する要因であることを示していることがわかった。乳児は、発話者の音声(聴覚情報)のみでなく、顔に含まれる視覚情報を同時に利用しながら音声模倣することで、言語を学習していくと考えられるという。

 研究チームは、今後、本研究で明らかとなった乳児の音声模倣時の知覚と産出の関係が、その後にみられるより複雑な語彙獲得の個人差とどう関連するかを解明することが課題としている。その解明により、科学的根拠(エビデンス)にもとづくヒトの言語発達の本質的理解、さらには言語発達の新たな支援法の開発を可能にすることが期待される。

 研究者は今回の結果を踏まえ、「複雑な社会・言語環境で育つヒトは、生後すぐから発話者の音声だけでなく顔に含まれる情報を巧みに利用して、言語を効果的に学習していきます。ヒトの脳と心の発達を科学的に理解し、そこで得たエビデンスを基盤とする子育てや保育・教育政策の提案、発達支援法の開発をおこなうことが大事だと思っています。」とコメントしている。
《鶴田雅美》

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