低学年からマウンティング・同調圧力に苦しむ子供たち…不登校新聞・石井志昂氏<前編>

 自らも中学2年生から不登校を経験、不登校の子供や若者たちを数百人以上取材してきた編集長・石井志昂氏に、子供が「学校に行きたくない」と言った時、周囲の大人はどのように受け止め、支えれば良いのか話を聞いた。

教育・受験 小学生
不登校新聞・石井志昂氏インタビュー<前編>
  • 不登校新聞・石井志昂氏インタビュー<前編>
  • 不登校児童生徒数の推移(小中学校)
  • 不登校児童生徒の割合の推移(小中学校・1,000人当たりの不登校児童生徒数)
  • 不登校生徒数の推移(高等学校)
  • コロナ×こどもアンケート第5回調査報告書
  • 不登校新聞 編集長 石井志昂氏と教育ライター 加藤紀子氏
 小・中学校の不登校はこの数年で増加傾向にあり、令和元年度では過去最多となっている。2020年は新型コロナウイルスの感染拡大による一斉休校が引き金となり、これまでのペースが崩れてしまったという子供も少なくない。子供が「学校に行きたくない」と言った時、周囲の大人はどのように受け止め、支えれば良いのか。

 自らも中学2年生から不登校を経験、19歳から「不登校新聞」のスタッフとなり、不登校の子供や若者たちを数百人以上取材してきた編集長・石井志昂氏に話を聞いた。

増え続ける不登校の小中学生たち



--まず、不登校の現状を教えてください。不登校の子供たちの数は実際にどう推移しているのでしょうか。

 新型コロナウイルスの影響を受けた2020年の数というのは、2021年の秋にならないと調査結果が公表されないのですが、令和元年の文部科学省による調査結果によると、小中学校の不登校に関してはここ7年連続増加し、過去最多となっています。もっとも注目すべきなのは、小学校での不登校の人数が5年間で倍増していることです。

不登校児童生徒数の推移(小中学校)
不登校児童生徒数の推移(小中学校)

不登校児童生徒の割合の推移(小中学校・1,000人当たりの不登校児童生徒数)
不登校児童生徒の割合の推移(小中学校・1,000人当たりの不登校児童生徒数)
令和元年度 児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果について(文部科学省初等中等教育局児童生徒課・令和2年11月13日付け資料より)

 一方で高校生については、この5年間で横ばいです。今、「不登校・高校・進学」と検索すると、ズラッと多様な選択肢がヒットします。通信制の高校を選択した生徒は過去最多を更新して20万人。高校生の17人に1人、中学校の1クラスに2人くらいは通信制に進んでいるという感じです。

--やはり受け皿が充実してくると不登校の数字も変わってくるわけですね。フィギュアスケートの紀平梨花選手が角川ドワンゴ学園の運営する通信制高校「N高等学校」(N高)の生徒ということで話題になるなど、通信制のイメージも随分変わった気がします。

 まさにそうなんです。今、通信制高校の中でもっとも規模の大きい学校がN高です。紀平さんはN高を選んだ理由を「学びのペースを自分で選べるから」だと言っています。この紀平さんのような存在が、保護者にとって通信制という選択を肯定的に受け入れられる素地になっていると思います。

不登校生徒数の推移(高等学校)
不登校生徒数の推移(高等学校)
令和元年度 児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果について(文部科学省初等中等教育局児童生徒課・令和2年11月13日付け資料より)

「不安だけれど誰にも言えない」コロナの影響



--最新データは秋以降ということですが、石井さんはコロナ禍が不登校に影響したと感じていますか。

 一斉休校で3か月くらい学校がなく、2020年6月ごろに再開したあたりから、不登校が相当増えている感じはあります。フリースクール(学校に行けなくなってしまった子供たちが通う民間の教育施設)のスタッフなどに聞くと、問い合わせは1.5倍くらいに増えていると言っていますし、実際に私も取材する中で、「実はうちの子も…」というお話を聞くことが増えました。

--5月に国立成育医療研究センターが発表した「コロナ×こどもアンケート第5回調査報告書」の中でも、「学校に行きたいという気持ち」に「(コロナによって)少し減った」または「(コロナによって)とても減った」と答えた小学生は低学年で43%、高学年で41%と、いずれも4割を超えていました。

コロナ×こどもアンケート第5回調査報告書
「コロナ×こどもアンケート第5回調査報告書」より「学校に行きたいという気持ち」についての調査結果

 子供たちに聞いてみると、「コロナのことって誰に言っても仕方がないから、不安だけれど誰にも言えない」といった感覚のようです。どんどん誰にも言えないストレスが溜まっていって、そこに勉強や友達関係の悩みなどが加わると、だんだん自分を支えられなくなってしまう。だから学校を休むしかないっていう子が増えているんじゃないかな、と。

--先ほどの国立成育医療研究センターの調査では、友達と話す時間について「少し減った」または「とても減った」と答えた小学生が4割以上、先生や大人への話し掛けやすさ、相談しやすさについては「少し減った」「とても減った」と答えた小学生が低学年で4割以上、高学年では5割以上です。そもそも小学生だと学校に行きづらいという気持ちをまだうまく言語化できないうえ、学校でのコミュニケーションの減少もあいまって、子供自身辛くなっているのかもしれません。

 不登校って、本人が納得して自分の言葉で語れるようになるまでに、大体10年くらいかかります。不登校の理由はひとつだけではなく、さまざまなストレスや悩みがいくつか重なり、それがバーストした状態なので、解きほぐすのが相当難しいんです。

マウント、集団で無視…低年齢化する「いじめ」



--不登校の理由はどういったものが多いのでしょうか。

 文部科学省が行った不登校の実態調査では、不登校の理由として、1位がいじめを含む人間関係。2位が朝起きられないほどの生活リズムの乱れ。3位が勉強がわからない。これらがトップ3です。ただし、この統計は不登校になった当事者が、3つか4つほど、複数の選択肢を理由として選んでいて、原因か結果かという点では少し曖昧なのです。

 僕自身のケースを振り返ると、「勉強がわからない」というのも理由として選んでいたと思うのですが、実際には教師や友達との人間関係のトラブルから勉強が手につかなくなったんです。

--前回、ゲーム・ネット依存に詳しい児童精神科医の吉川徹先生へのインタビューでも、たとえばゲームやネットによる昼夜逆転は、ゲームやネット依存そのものが原因というよりも、他に背景となる原因がある、と。その現実から逃れるためにゲームやネットに依存せざるを得なくなり、その結果が昼夜逆転につながっているという複合的な関係になっているケースが多いと伺いました。

 僕らが不登校の子供たちからよく聞くのは、いじめなど学校で苦しいことがあって、その苦しいことが明日もあると思うと眠れないらしいんですよ。眠れないから、スマホをいじり始めたり、ゲームをやったりしてしまう。でも親からすれば、朝までスマホやゲームをやっていて、学校に行きたくないっていうのは許されないよ、と。

--そこでボタンのかけ違いが起きるんですね。

 学校でいじめにあうと、明日はいじめられないようにしようと一晩中イメージトレーニングをするんです。どうやって言い返そうとか、あれもこれもダメだなどと思いながら朝を迎えます。すると、朝一番に親に思わず「もう疲れた」って言っちゃうんです。だから2番目の原因である「生活リズムの乱れ」は、1番目のいじめを含む人間関係の結果として起きている可能性もあります。

--親にしてみれば、「今起きたところじゃない?」と言いたくなりますが、実はいじめにあっている子供は夜中ずっと悩み続けているんですね。子供たちはいつからそういった人間関係に悩むようになるのでしょうか。

 文部科学省の調査によると、いじめのピークの年齢は小学校2年生だそうです。

--そんな早くに?驚きです。低年齢化ということでしょうか。

 はい。低年齢化ですね。同調圧力が強まり、子供たちは低学年のうちから空気を読む力を求められている気がします。小学校の教員も年々、規範意識というか、モラルみたいなものを子供に求める度合いが強まっていると言っています。子供が子供らしくいることが許されない環境になってきているのかもしれません。

 流れを読んで察することができない子供は、マウントを取られたり、集団で無視されたり、皆がやりたがらない仕事を押し付けられたりする。子供にしてみれば随分大人びた、高度な能力を求められているのです。

不登校新聞 編集長 石井志昂氏と教育ライター 加藤紀子氏
不登校新聞 編集長 石井志昂氏と教育ライター 加藤紀子氏

子供たちに必要なのは「居場所」と「出番」



--3番目の原因である勉強についてですが、これも前回の吉川先生がおっしゃっていた、子供が勉強に苦手意識を感じ始める時期が今は小学校入学前だ、というお話と重なりました。

 えぇ。それはびっくり。でも正直なところ、やっぱりそうかという納得感もあります。最近、保育園・幼稚園でも早期教育が進んでいるという話は私もよく聞いています。「手遅れになって苦しむのは子供だよ」と、助言なのか脅しなのかわからない言葉をかけられたら、親としては翻弄されてしまいますよね。

 これは、今は亡き東京大学名誉教授の教育学者、大田堯さんが仰っていたことなのですが、子供時代には「居場所」と「出番」が必要だと。子供が安心して過ごせる「居場所」と、そこを拠点に彼らが出ていける「出番」、つまり自分がいないと回らないようなリアルな場所の両方が必要であるということなんです。

--そういう意味で、学校の勉強というのは「出番」ではない、ということでしょうか。

 はい。テストなどで学力を測るというのは、「模擬」の世界でしかありません。それに、そうやって測られたものが社会に出た後もずっと有用かといえば、決してそんなことはないはずです。でも、そんな「模擬」の世界での競争に疲弊した子たちが自信をなくし、それが不登校のきっかけの大きな要因になってしまっているのが現状です。

 僕個人にとっては、不登校新聞をきっかけにさまざまな人々、中には糸井重里さんのような著名な方へも取材に行けることが貴重な「出番」でした。実は、不登校だからこそ、取材に応じてもらえることが多かったんです。人間関係の悩みや勉強への遅れから、自分はもう頑張れないと思って引きこもっていたけれど、そうやって不登校がむしろ強みになり、多くの「出番」を生きられたことで救われたなと思います。

 不登校だと時間のある平日の昼間、アルバイトで超多忙なファストフード店のシフトに週5~6回と入ることで接客のスキルを上げ、メキメキと頭角を表して、今は別の小売業で店長として活躍している子もいます。これまでたくさんの不登校の子たちを見てきて、不登校によって学習が遅れ、漢字が結構怪しくても、日本の都道府県が全部わからなくても、そこはあまり不安に思う必要はないと感じます。それよりも、本人が心から安心できる「居場所」と、その子なりの「出番」があれば、良い方向に向かうんじゃないかなと思います。

 インタビュー後編「『社会のひずみを叫ぶカナリア』の声に、大人が耳を傾けるとき」へ続く。

学校に行きたくない君へ / 続 学校に行きたくない君へ

発行:ポプラ社 編集:全国不登校新聞社
 企画から取材まで、不登校の当事者・経験者が、大先輩たちに体当たりでぶつかって引き出した「生き方のヒント」。第一弾「学校に行きたくない君へ」は、樹木希林、荒木飛呂彦、西原理恵子、リリー・フランキー、辻村深月ほか20名、第二段「続 学校に行きたくない君へ」は、中川翔子、ヨシタケシンスケ、りゅうちぇる、立川志の輔、谷川俊太郎、庵野秀明、糸井重里、坂上忍ほか17名のインタビューを収録。


加藤紀子(かとう のりこ)
1973年京都市生まれ。1996年東京大学経済学部卒業。国際電信電話(現KDDI)に入社。その後、渡米。帰国後は中学受験、子どものメンタル、子どもの英語教育、海外大学進学、国際バカロレア等、教育分野を中心に「プレジデントFamily」「NewsPicks」「ダイヤモンド・オンライン」「ReseMom(リセマム)」などさまざまなメディアで旺盛な取材、執筆を続けている。一男一女の母。2020年6月発売の初著書「子育てベスト100」(ダイヤモンド社)は、2021年2月現在累計16万部発行のベストセラー本となり、教育関連の書籍では異例の大ヒット作に。(写真撮影:干川修)

《加藤紀子》

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