教育と福祉の連携で切り拓く、発達に凸凹のあるグレーゾーンの生徒の新しい進路選択

 通信制のルネサンス高校と放課後等デイサービスのハッピーテラスが提携した背景や支援内容などについて、ルネサンス高校の勝又翼氏とハッピーテラスの北川庄治氏に話を聞いた。

教育・受験 その他
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左からルネサンス高校の勝又氏とハッピーテラスの北川氏
  • 左からルネサンス高校の勝又氏とハッピーテラスの北川氏
  • 提携のきっかけを話すルネサンス高校の勝又氏
  • 多様な子供たちと関わってきた豊富な経験をもつハッピーテラスの北川氏
  • ハッピーテラスで利用されているパソコン。書字障害(ディスグラフィア)に対応したオリジナルシールがキーボードに貼られている。丸いシールを爪に貼って使用する。
  • インタビューに答える勝又氏と北川氏
 現在、通信制高校とサポート校は「全日制高校や特別支援学校への進学は適していないかもしれない」と考える生徒や保護者の選択肢のひとつになっている。中高生の進路選択に通信制高校の存在感が高まっている背景には、こうした「発達に凸凹があるグレーゾーン」の子供たちの増加がある。

 通信制高校を選択した生徒たちの中に、コミュニケーションについての困りごとを中学時代から抱えているといった、サポート校や家庭以外の居場所を求めている家庭も潜んでいることに着目したルネサンス高校は、放課後等デイサービスのハッピーテラスと提携した。提携のきっかけや支援内容などについて、ルネサンス高校の勝又翼氏とハッピーテラスの北川庄治氏に話を聞いた。

新たな居場所を作る



--ハッピーテラスの取組みについて教えてください。

北川氏:放課後等デイサービス(以下、放デイ)では、発達に凸凹がある、あるいは障害のある子供の社会的な自立を目指します。自立には、基礎的な学力はもちろん、座っていられる、文字が書けるなどの「身体スキル」、お金を使う、時計を見るなどの「生活スキル」といった、さまざまなスキルが必要です。ハッピーテラスがもっとも大切にしているのは「社会的なスキル」で、コミュニケーション力の向上をプログラムの中心に置いています。放課後に集まって、これらのスキルを小集団でのトレーニングで伸ばしていきます。

多様な子供たちと関わってきた豊富な経験をもつハッピーテラスの北川氏
多様な子供たちと関わってきた豊富な経験をもつハッピーテラスの北川氏

 利用時間は基本的に、平日は13時半から19時半まで、土日は9時から17時までです。小学生の学童保育の時間帯とほぼ同じです。定員は10人で、対象年齢は原則として小学1年生から高校3年生までです。ただし通信制や定時制、留年や1年遅れでの入学などの場合、20歳になるまでは利用可能です。また学校に所属していることが必要です。学校に所属していない場合は、児童発達支援という別のサービスがあり、ハッピーテラスでも、児童発達支援と放デイの両方を運営している教室もあります。

--ルネサンス高校とハッピーテラスが連携したきっかけを教えてください。

勝又氏:2017年4月からルネサンス高校と沖縄で福祉事業を営むアソシアが連携して、高校生向けの放デイを立ち上げました。そこにハッピーテラスの上岳史社長が見学に来てくださったのがきっかけです。

 私が入学相談担当として出張面談で沖縄を訪れた際、当時16歳の女の子がアソシアの訪問看護師の方に付き添ってもらって面談に来たんです。その子は訪問看護を受けていて、アソシアには通わず毎日家で過ごしていました。中学校は卒業していましたが、どこにも所属しておらず、全日制高校は通学が困難、通信制高校でも通学コースやサポート校に入らなければならないのは難しい、毎日ひとりで過ごす選択肢しかない状況でした。ルネサンス高校への入学を検討していただく中で、通信での学習だけではなく、その子が社会と接点をもつ居場所がないかと考えた結果、通信制高校と放デイという組合せのメリットに気付いたのです。

提携のきっかけを話すルネサンス高校の勝又氏
提携のきっかけを話すルネサンス高校の勝又氏

【各学校・サービスの目的と特徴】

通信制高校


目的:通信教育による高校卒業資格の取得
サービス概要:おもに通信教材とスクーリングによって学習。74単位の取得、3年以上の在籍期間をクリアすると高校卒業資格が得られる。管轄は文部科学省
対象者・年齢:中学卒業程度の学力を有する者、15歳以上すべてが対象、年齢の上限なし
得られる資格:高校卒業資格

サポート校


目的:通信制高校に在籍する生徒の学習支援
サービス概要:通信制高校での学習を支援し、高校卒業資格の取得まで導く塾的な役割を担う
対象者・年齢:通信制高校と同様
得られる資格:特になし

放課後等デイサービス


目的:発達に課題あるいは障害のある子供の生きる力の習得
サービス概要:おもに自立や発達を支援するために、放課後に基本的な学習や社会適応のためのトレーニングなどを実施する
対象者・年齢:原則として6歳~18歳までの就学児童(療育手帳、精神障がい者保健福祉手帳などの所持、または発達の特性について医師の診断書もしくは意見書による自治体からの受給者証が必要)、管轄は厚生労働省
得られる資格:特になし


 アソシアの神谷社長とお話する機会があり、学校に所属していない15歳以上18歳未満の子供たちが使えるサポートは児童発達支援と訪問看護しかなく、放デイがあまり活用されていないことを知りました。そこから通信制高校に所属しながら放デイに通う形ができるのではないかというアイデアが生まれ、その後アソシアが通信制高校専用の放デイを開いて私たちとの連携が始まりました。

 アソシアの放デイは、初年度こそは5人でしたが、次の年からは中学校の先生たちの認知も得たことから毎年20人ずつほど増えていきました。今では50~60人ほどが利用しています。ハッピーテラスの放デイも、サポート校の費用負担が難しいご家庭の生徒や、福祉的な支援を希望する生徒が、気軽に集い、自分のペースで学んだり、そこでできる仲間と落ち着いて過ごしたりができる居場所の選択肢のひとつになってほしいと思っています。

北川氏:日本の学校では、生徒全員が1年間で同じように発達することを前提に、ひとりの先生が40人の生徒をみてゴールに導く、対多数派の教育方法をずっと練り上げてきたと言えます。ハッピーテラスやアソシアを利用する発達に課題のある子は、皆と同じように発達する前提からは外れていて、基本的に今の学校の指導法や環境は合いません。放デイは10人程度で年齢や学年、性別、能力も異なるので、子供が自分を周りと比べて落ち込む回数が極端に減りますので、発達に凸凹のある子供たちにとっては安心できる環境です。

新たな居場所を通いやすい費用で実現



--どのような生徒がこうした連携サービスを利用すると良いでしょうか。

勝又氏:発達だけではなく不安障害や適応障害などのメンタル面も含めて、学習や生活などで困りごとを抱えている生徒が利用すると良いでしょう。不登校や引きこもり傾向のある生徒で該当する場合があると思います。高校進学での進路選択の際に、全日制高校に毎日行くのは難しいが、特別支援学校に行くほどではないという子は多くいます。実はそうした子供たちが、通信制高校とその通信制高校が併設しているサポート校を選択しているという状況が以前からあるのです。

 通信制高校とサポート校の両方を利用するとやはり費用がかかります。通信制高校の学費は平均で年30万円ほどです。ご家庭の収入状況によっては就学支援金があって負担も少なくなりますが、私塾と同じくらいの費用感のサポート校に通うと月額5~6万円かかり、合わせて年間100万円ほどになります。そうなると費用面で厳しいご家庭は、全日制高校や特別支援学校を選択せざるを得ないという判断になることもあります。すると生徒本人は入学しても自分のいる場所ではないと感じて、さらに困りごとが増えたり疲弊した状態で通信制高校に転校してくるというケースも多々あるのです。

北川氏:放デイは、基本的には月に何回使っても1割負担で、収入が一般的な方で上限が月額4,600円。子供手当がなくなる程度の収入があると上限が月額37,200円。非課税世帯であれば0円です。利用するためには学校に所属していることの他に、子供が発達に凸凹がありトレーニングが必要だということを医師や専門家などが認めた意見書を書いてもらい、行政に相談のうえで受給者証を発行してもらう必要があります。

 多くの通信制高校はサポート校とセットとなっていて、入学相談に行くとサポート校に入ることは前提として説明を受ける場合もあるようです。サポート校は、通信制高校の勉強を教えてくれる塾といった位置付けで登校も多い。制度的には私立の通信制高校在籍者の場合、高校卒業資格を取得するために必要とされる登校回数は年に数回なのですが、保護者や生徒の中にはサポート校に必ず通うものだと思っていたと驚く人もいます。ルネサンス高校は自分で勉強ができるなら自分でやるという発想で始まった学校なので、サポート校はありません。ですので放デイと連携しやすい面があり、ご家庭の費用負担も軽く、生徒の勉強以外の生活や社会性もケアできるのです。

親子の困りごとをサポート



--保護者にとっても家で子供と長時間向き合う状況には不安がありますよね。

勝又氏:子供を預かってほしいという保護者のニーズは強いです。やはり子供たちの居場所が求められています。

北川氏:ハッピーテラスではルネサンス高校との連携を始めたばかりで、利用する生徒は全体で5~6人とそれほど多くありませんが、これから増えていくと思います。ハッピーテラスは現在、児童部門だけで全国123拠点ありおよそ4,000人の登録者がいます。ルネサンス高校への入学はどの拠点からも可能なため、昨年に行った説明会以降、多くのお問合わせが入っています。

勝又氏:放デイの制度自体が2012年にできたので、当時小学生だった子供たちが今、中高生になってきているところですね。

北川氏:中高生になる前にハッピーテラスを卒業する場合もありますが、卒業後も子供たちの課題そのものがなくなるわけではなく、うまく適応できるようになってきたけれども、何かのきっかけで難しくなる場合もあります。ですので、再度放デイを利用することがあっても良いと思っています。

 利用者の中には、学習障害のひとつである書字障害(ディスグラフィア)の子もいますが、キーボード入力だと問題が減る場合があります。使う指とキーボードの色が対になるようにシールを爪とキーボードに貼ると、どの指でどのキーを押すかがわかります。紙に書くのは難しくても、こうした工夫でパソコンを使うと学習しやすくなる子もいるのです。

ハッピーテラスで利用されているパソコン。書字障害(ディスグラフィア)に対応したオリジナルシールがキーボードに貼られている。丸いシールを爪に貼って使用する。
ハッピーテラスで利用されているパソコン。書字障害(ディスグラフィア)に対応した
オリジナルシールがキーボードに貼られている。丸いシールを爪に貼って使用する。

勝又氏:知的に問題がない場合でも字が書けなければ、紙が中心の学校では難しいですね。ルネサンス高校もかなり早くからスマートフォンを使った学習を提供していますので、書くことが苦手な子供にとって学習しやすい環境が整っています。

北川氏:合理的配慮で大学共通テストもパソコンを使った受験が認められました。知的に課題がなくても、紙に鉛筆で書く部分に課題があると、学校では評価されない場合がある。放デイはこうした学習の仕方にも対応しています。

通信制高校と放課後等デイサービスの連携で将来をつなぐ



--連携された事例を教えてください。

北川氏:特別支援学校がどうしても合わなくて、相談時にはすでに不登校になっていた女の子がいました。とても気分が落ち込みやすい状態でしたが、ハッピーテラスを好きになって通うことができるようになりました。

 その子の場合、特別支援学校で2年の在籍期間がありました。特別支援学校と普通校間では単位は引き継げませんので、普通校に編入した場合はまるまる3年間高校のやり直しになります。通信制高校に編入すれば特別支援学校の在籍期間を引き継げますので、あと1年で卒業可能となる。さすがに1年で3年分の高校の勉強をするのは無理でしたが、ルネサンス高校に編入し、1年半学習して高卒資格を取得し、この春卒業していきました。

勝又氏:ルネサンス高校の学習では、動画視聴がかなりの時間を占めます。動画を見るモチベーションを保つ、ペースメーカーとしての役割を放デイのスタッフがしていました。また静かに勉強ができるスペースを用意するなどの環境整備も大切です。

北川氏:その子の場合、家だと勉強がうまくいかない時に気持ちが沈みつらくなる。そこで他の子がいない早めの時間に放デイに来て、勉強を1~2時間した後は小学生たちのお世話をしてくれました。それがモチベーションの維持につながったんですね。今後アルバイトや正社員をめざしていく練習をするために、就労継続A型という福祉就労を探しています。高校中退だと、放デイが使えなくなっていたので引きこもったままだったかもしれません。

 普通の学校では、勉強と人間関係と習慣付けを学びますが、周りの人と同じ関わり方ができない人がそうした場に放り込まれたら、環境になじむのは難しい。また何かを継続してやり遂げる能力が培われないと、社会人として世の中に出て働くことが難しくなる。ですので、自分に合った社会的な発達レベルの人と関われる場所にいることはとても重要。ルネサンス高校で学びながら放デイに来て、社会性を育てれば、社会で活躍できる力は芽生えると思います。

インタビューに答える勝又氏と北川氏

就労を見据えた進路への取組み



--高校卒業後はどのような進路が考えられますか。

勝又氏:ハッピーテラスを利用する生徒は、一般企業への就職を目指す就労移行支援などの選択肢もあります。ただし就労移行支援後に障害枠で就職する場合も、求人票には高卒以上と書いてあることがあり、やはり高卒資格はあった方が良いですね。

北川氏:保護者の中には、高卒就労を受け入れるのが難しいという方もおられます。お子さんに発達の課題があると理解していても、学力面で問題がなければ大学や専門学校への進学をイメージされて、どう就職するかは視野に入らない。

 発達障害の場合、どうしても人間関係や社会性の課題があって、仕事で失敗することが出てきます。それを練習できるのが、先ほども話に出た「就労継続A型」という制度。仕事で失敗して自信を失って働けなくなるくらいならこの制度を利用して、社会に出る練習を福祉でやっておきませんかということなんです。

 進学しても発達の課題はクリアされるわけではありません。大学は勉強するところであり、仕事の「場」を学ぶわけではありません。大人の就労移行支援では、大学に進学はしたがどうやって就職したら良いかわからない、就職したものの人間関係がうまくいかずに引きこもるという人もたくさんいます。そうなる前に、早い段階で放デイに来てくれたら、人とのコミュニケーションの方法や守らなければならない習慣、生活習慣などのスキルを改善できるはずなのです。

--進路に悩む保護者とそのお子さんに向けてメッセージをお願いします。

北川氏:高校や大学、その先の仕事にはいろいろなルートがあります。重要なのは学校卒業の先にある将来です。途中のルートが失敗したからだめだと保護者が考えてしまうと、追い詰められるのは子供です。親は常に選択肢を見せることが大切です。

 この連携で放デイを使われる方は、不登校の子供が多いかもしれません。知っておいてほしいのは、ただ学校に戻すだけでは何の問題解決にもならないということです。不登校の原因には、必ずいじめや勉強についていけないなど何らかの根本的な問題があります。それは学校に行かせようとしても解決しません。学校という枠から外して物事を見ること、子供の環境を変化させるという発想をもってほしいと思います。

勝又氏:ルネサンス高校の教育と福祉の連携は、さまざまな選択肢のひとつだと考えています。これからも、発達障害やグレーゾーンの子供たちの学びやすい環境を大切にし、どうしたらより良いサポートができるかを考えていきます。この機会に通信制高校+放デイという進路選択があることを知って検討してもらえたらと思います。

--ありがとうございました。

 教育と福祉の連携から子供たちの新たな居場所ができることはとても心強い。北川氏は「親が教育熱心過ぎて、子供本人の気持ちが置き去りになる場合もあるので、早い段階から子供自身が感じていることを、親に正直に言える関係性をつくっていくことが重要」と語っていた。この連携した取組みが、進路に悩む親子の対話の中で、選択肢のひとつとして語られるよう期待したい。
ルネサンス高等学校
《佐久間武》

佐久間武

早稲田大学教育学部卒。金融・公共マーケティングやEdTech、電子書籍のプロデュースなどを経て、2016年より「ReseMom」で教育ライターとして取材、執筆。中学から大学までの学習相談をはじめ社会人向け教育研修等の教育関連企画のコンサルやコーディネーターとしても活動中。

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