チャイルドシート「しっかり装着」とは…子供の事故は車内で起こる

◆車の外と中で起きる事故 ◆どのくらい「しっかり装着」しなければいけないのかわからない ◆正確な情報を、必要な人に届けられていない

生活・健康 未就学児
「警察庁やJAFが指導している正式な着用方法でも、重篤な怪我をする子どもは多い」という。写真はイメージ
  • 「警察庁やJAFが指導している正式な着用方法でも、重篤な怪我をする子どもは多い」という。写真はイメージ
高齢化社会。報道も、高齢者が引き起こす事故ばかりを取り上げる傾向にある。たしかに人口比率や身体の耐性からいっても、高齢者がかかわる数は多く、高齢者の対策をすれば数字としての効果は表れやすい。効率がいいのだ。だけど、いくら少子化で人数が少ないとはいえ、費用対効果で議論している場合ではないと思う。

2021年11月9日、自動車安全運転センター主催「自動車安全運転シンポジウム2021」が開催された。テーマは子供の交通安全。子供の視点から見た安全確保である。子どもの交通事故は大きく二つに分けられる。歩行者(自転車)と、車内の乗員としてだ。

◆車の外と中で起きる事故

今回はまず、通学路の安全に詳しい埼玉大学大学院教授の久保田尚氏から「通学路Vision Zeroの実現を目指して」と題して、これまで新潟や沖縄で取り組んできた道のハンプや狭窄の効果などについて紹介があった。

久保田氏が中心となって進めてきたハンプや狭窄は、すでに国交省道路局から各自治体に紹介されている。また、自転車で通っても卵が割れないスマートハンプはレンタルセットも用意され、自治体からの要請があれば数時間~一月単位で調整しお試しもできるという。

先日、千葉県八街市で起きた事故では、すぐに制限速度が30km/hになり、ハンプなども設置されて速度を落とす運用が始まったが、子どもが犠牲になる前に、自治体、地元警察、そして市民が三位一体となり、「速度を落とさせる」工夫と改善が求められるところだ。

ふたつめの基調講演は、小児救命のカリスマ(と、私が勝手に呼んでいる)埼玉県立小児医療センターの小児救命救急センター長、植田育也氏である。

就学前(小学校に入る前)の死傷事故の一位は、歩行中でも自転車乗車中でもなく、車内である。さらに、小学六年生までの子どもの34~46%(学年によって異なる)も車内だ。ゆえに私はこれまで、チャイルドシート(以下CRS)の重要性と、12歳以下着用義務(車両ごとに定められているシートベルトの着用可能身長を超えたら免除)への道交法改正を訴えてきた。

ところが、植田医師の指摘は、思わぬ角度からやってきた。

◆どのくらい「しっかり装着」しなければいけないのかわからない

「CRSを警察庁やJAFの手引きどおりに装着しても、重傷度は変わらない」

衝撃的な内容である。誤解してはいけないのは、CRSに効果がないということではない。この言葉の意味は、「警察庁やJAFが指導している正式な着用方法でも、重篤な怪我をする子どもは多い。着用方法の内容、さらに、伝え方に問題があるのではないか?」である。

指摘を受けて確認したところ、警察庁とJAFのCRSの着用方法は、「だれにでもわかりやすいように」が行き過ぎて、実に雑であることが判明した。「しっかり」という、受け止める人によって異なる言葉を使っているため、どのくらいしっかり装着しなければいけないのかわからないのである。

私がCRSの指導員の資格をとったとき「CRSの背もたれを10kgの力で前方にひっぱって、ぐらぐらが3cm以内であること」だったはずだ。10kgってどのくらいよ? と、言われそうだが、2リットルペットボトルが5本入った段ボールを指3本(人差し指、中指、薬指)で持ち上げたくらいと言えば、かなりの重さ(ひっぱり具合)であることがおわかりいただけるだろう。

前方衝突のときに、CRSが緩んでいればCRS自体が前方に動く。さらに、子どもにかけてあるハーネスが緩ければ、子どもの頭部はどんどん前方に動く。そして、頭を前席のヘッドレストにぶつけて頭がい骨骨折。もしくは、しなった首は頚髄損傷を起こす。

実際、植田医師のところでは、子どもの退院時にCRS指導員の資格を持つ医療従事者が正しい取り付け方を伝えると、それ以降、怪我はしていないという。もっとも、事故に遭っていなければ怪我もしないので、医療従事者による伝達が効果を発揮しているかどうかは、証明のしようがないのだが。

◆正確な情報を、必要な人に届けられていない

2000年にCRSが道交法に取り入れられたとき、スバルの安全担当者と話した言葉を今でも覚えている。「できることなら、子どもをシートにビスで止めたい」。そう、そのくらい、シートベルトはがっちり装着したほうがいい。いや、そうしないと子どもを守れないのである。

今回のシンポジウムを通じて思ったことは、「正確な情報を、必要な人に届けられていない」ということだ。道の運用を変える仕組み作りも、レンタルハンプも、CRSの効果のある使い方も、知っている人は知っているのに、知らない人は知らないまま過ごし子どもを危険にさらしている。

救命の連鎖は、予防から始まる。クルマが子どもを傷つけないよう、その立場にいる大人は本気で行動を起こす必要がある。

岩貞るみこ|モータージャーナリスト/作家
イタリア在住経験があり、グローバルなユーザー視点から行政に対し積極的に発言を行っている。レスポンスでは、女性ユーザーの本音で語るインプレを執筆するほか、コラム『岩貞るみこの人道車医』を連載中。最新刊は「世界でいちばん優しいロボット」(講談社)。

チャイルドシート「しっかり装着」どこまで? 子どもの事故は車内で起こる【岩貞るみこの人道車医】

《岩貞るみこ@レスポンス》

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