とくに今の小中学生は、スマートフォンやタブレット、ノートPCなど、自分自身の手元で操作するパーソナルなデジタル機器をに触れる機会が多い。それと比例するかのように、近視の子供の割合は近年増加。「子供の視力低下」が隠れた社会問題となりつつある。「『視力低下は、メガネなどで矯正すれば良い』と考えているとしたら要注意」と話すのはクリア電子の社長の小野志堅氏だ。
クリア電子は振動で近視リスクを伝えるAI搭載メガネ「HoldOn Ai/Glasses」を開発。さらに2022年6月、Ai/Glassesの機能はそのままに、電子部分を手持ちのメガネに装着可能な「アイケアークリップ」を発売し、テクノロジーの力で子供の目を保護することに努めている。
そこで今回は前出の小野氏とCEマーケティング部の林義高氏に、商品開発の背景と、子供の目を守るために日ごろ気を付けるべきポイントを聞いた。
子供の近視予防が必要な「知られざる理由」
デジタル機器の使用について子供と約束している家庭も多いだろう。「ゲームやテレビは30分まで」「タブレットを使うときは部屋を明るい部屋で、座って見ること」など…。しかし、いくら子供に言ってみたところで、集中しているとうっかり長時間の利用になったり、悪い姿勢のまま見入っていたりということも少なくないのではないだろうか。
そこで、もし子供が下記のような行動をしていたら、視力低下のサインの可能性がある。「もしかして」と感じたときに、眼科で診察を受け確認することが、子供の目を守ることにつながる。
TVや本・ノートに著しく目を近づける
目を細めて見る
根気がない
集中力がない
あごを上げて見る
横目で見る
つまずきやすい
目をこすったり、瞬きを繰り返す
まぶしがる
頭痛を訴える
大人も子供もデジタル機器がもはや不可欠な生活を送る現代、それに伴う視力の低下や姿勢の悪化を「気にしている」ものの、「仕方ない」と諦めてしまっていないだろうか。特に視力は遺伝的な要素も否定できないため、親自身が諦めてしまっているケースも散見される。
「すでに近視だから、もう仕方がないと諦めないでほしい」と言うのは、同社の小野社長だ。
「目が悪いということは、目に良くない習慣の結果とも言える。つまり、この習慣を改善しない限り、視力はもっと悪くなる可能性があるということ。テクノロジーを通して、自らの姿勢や習慣を意識できるようにしたいというのが『アイケアークリップ』の開発の原点」(小野氏)。
小野氏がこれほどまでに懸念するのは、近視の進度によっては将来目の病気にかかる危険度を示すオッズ比が高まるから。近視は、進行するにつれて眼球が楕円形に変形し、目の奥側に伸長するという。この伸びた眼球が目の奥の神経や組織を傷つけることもあり、場合によっては失明の危険性すらあるという。
この子供の視力低下が一生涯にわたってもたらす、あまり知られていないリスクについて警鐘を鳴らすのは「アイケアークリップ」を開発した林氏も同じだ。
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子供の視力低下に伴うリスクは大きく3点ある。
1. 病気のリスク
近視の人は、近視ではない人に比べ、失明につながるような重大な目の病気になる危険性が高い。強度の近視の場合は網膜剝離になる可能性が21.5倍、失明原因の上位を占める疾患である近視性広斑病は40.6倍という調査結果もある(参照)。近視のレベルが強度でなく、中度や軽度であっても、近視の進み度合いに比例してこれらの危険性は高くなるということも、知っておきたい事実だ。
2. 職業選択のリスク
視力が極端に低下していると、視力矯正をしても1.0を保つことが厳しくなる。そうなると、将来の夢を諦めなければならない可能性すら出てくる。たとえばパイロットは裸眼または常用メガネによる矯正視力が片目それぞれ0.7以上、両目で1.0以上必要だ。客室乗務員は裸眼か、メガネではなくコンタクトで矯正して1.0以上が必要。その他にも、電車の運転手や消防士、警察官など子供たちから人気の職種であるこれらの職業は視力規定がある。子供の夢や可能性を、視力が原因で摘んでしまうのは、あまりにもったいない。
3. お金のリスク
視力が低下した場合、生涯において矯正用のメガネやコンタクトレンズなどが必要になり、継続的にお金がかかる。子供が6歳から20歳になるまでの視力矯正費用を試算したデータを見てみると、矯正用メガネの場合は最大で17万円、コンタクトレンズの場合は約38万円となっている(参照)。
「子供のために必要な経費であることに変わりはないが、そもそも近視にならなければ習い事など他の費用に充てることができる。そう考えると、近視予防がさらに必要性を感じてもらえるのでは」(林氏)。
近視のリスクは前述の3つだけではない。近視になれば、メガネやコンタクトの調整などで眼科への通院時間もかかる。そうでなくとも、黒板の字が見えにくいことで授業中の集中力が保てなかったり、メガネが邪魔で運動が精いっぱいできなかったりと、子供の近視による機会損失やリスクは想像以上に大きいのではないだろうか。
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「遺伝」で済ませない…近視をもたらす悪しき生活習慣
文部科学省が実施している学校保険統計調査によると、令和2年度には裸眼視力が1.0%未満の割合は小学生全体で37.52%と、過去最多となった。近視の子供の割合は年齢とともに増加傾向だ。中学生全体では58.29%とこちらも過去最多の結果となっている。
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近視の原因には「遺伝」の可能性は否定できない。しかし、上記の通り近視の子供の割合は明らかに上昇傾向にあり、これは生活習慣の変化により視力低下が起きていると考えることができる。
「近視の要因が遺伝の場合、未就学児の時点で症状が出始めることが多い。裏を返せば、小学生以降に近視の症状が出た場合、生活習慣に起因するとも考えられる」と林氏は指摘する。
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目に悪影響を与える代表的な習慣は「近くのものを見すぎること」。親も気付けば声がけをするだろうが、常に気付くことはできないし、声がけしすぎることで親子の関係性悪化を懸念する保護者の方も多いのではないだろうか。
「常にそばにいて、声をかけ続けることは不可能。だからこそ、親ができることは『正しい目の使い方』を子供に教えること。近視を予防する生活習慣や、目の使い方を小さいころからわが子に教育することは、子供の将来の健康のためになる」と林氏は説明する。
テクノロジーを用いて「目に良い姿勢」を習慣化
それでは、近視を予防し、進行を抑えるような生活習慣に、子供たちを導くにはどのようにすれば良いのだろうか。
以前から子供たちの視力低下は問題になりつつあったが、コロナ禍においてさらにそのスピードは加速しているという。家にいる時間が増えたことで、PCやゲーム、スマホを触る「スクリーンタイム」が増えているからだ。さらに、外で遊ぶ機会の減少も視力低下の一因となっていると林氏は指摘する。
「我々は、コロナ禍以前から大人だけでなく子供の視力低下と、それに付随する目の病気をテクノロジーを使って予防できないかと考えてきた。一度低下した視力は戻りにくい。悪くなる前に予防することが大事。コロナ禍の自粛により、子供とデジタル機器の距離が以前よりも格段に縮まり、その利用シーンも多岐にわたるため、必然的に長時間デジタル機器に向き合うことになっている。今、大人が子供にできることは『目に良い習慣』をプレゼントすることだ」と林氏は語る。
「目に良い習慣」とは簡単にいえば、正しい姿勢、見るものとの距離、部屋の明るさの3点に集約される。どれも当たり前のようだが、これを守ることは大人でも難しい。
「大人でも集中していると、長時間見続けていたり、画面との距離が近づいてしまったりしているもの。子供が注意し続けられないのは当然。だからこそ、近視予防が自然にできるようになるためにも、小さいころから『目に良い習慣』として体に覚えさせてしまうことが大切」と林氏は話す。
クリア電子が開発した「アイケアークリップ」は、言うなれば、テクノロジーを駆使して、正しい目の使い方を体に覚えてもらうためのもの。メガネにクリップを装着することで、目に悪い姿勢や環境であることを感知し、振動して、注意喚起してくれる。
「アイケアークリップ」とは
たとえば、姿勢の歪みや首の角度を測定して、姿勢が悪くなると振動する。このほか、目とスマホや勉強ノートなどの対象物の距離が近づきすぎていたり、部屋の明るさを検知して部屋が暗かったりしたときにも、振動して「目に悪いこと」を教えてくれるという。なかなか声をかけにくい勉強中でも振動で姿勢が悪いことを知らせられるため、子どもの集中力を途切れさせることを極力避けられる。
さらに、アプリ(iOSとAndroid)とも連動しており、振動したときにスマホに通知が届くようになっている。こうした通知があることで、「1週間前、1か月前と比べて注意回数が減った」「部屋の明るさはほとんど注意されなくなったけれど、姿勢が悪いという指摘は減っていない」など、子供の努力やクセを把握することが可能。親子でアプリ上のデータを確認しながら振り返ることで、親による直接の注意回数の減少も期待できると言えよう。
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また、このアプリでは各家庭の環境に合わせて注意条件をカスタマイズすることができる。家庭によって異なる机の位置や高さ、お子さまにとっての良い姿勢や明るさに合わせて最適化できるのも嬉しいポイントだ。
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親子で姿勢に関する振り返りの時間を続けていくことで、自然と目に良い習慣が身に付く。習慣化することで、製品を装着していなくても「この部屋ちょっと暗いな」「姿勢が崩れて目が近すぎたかな」など、最終的に自ら気付くことができるようになることが目的であり、視力低下を防ぐ近道だと林氏は話す。
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使用にあたって、充電時間は1時間。フル充電すると丸1日使用するとして約2日間、1日3時間だと1週間ほどの使用が可能だ。
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子供が使用するアイテムということで気になるのが重さだが、重量は約7gと軽く、コンパクトなサイズ。ユーザーからは「思ったより軽い」との声もあるそうだ。付け外しは子供でも簡単にできるという。
自分で自分の目の健康を守る
子供の目を守るための習慣づくりは、丈夫な体をつくることと同じくらい大切であり、一朝一夕ではできないことだ。それは大人の生活習慣病と同様、一度身に付いた習慣を正すという、地道な努力を要するものだからだ。
「デジタル機器があることで、広がる可能性は大きい。しかし、それと引き換えに子供の視力を犠牲にしてはいけない。小さいうちから子供に『目に良い習慣』をつけることで、視力低下と、それに伴うさまざまなリスクを予防することができる」と小野氏は結んだ。
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視能訓練士の平良美津子氏からのコメント
近年、子供たちの生活習慣にも、デジタルデバイス(スマホ、タブレット、小画面ゲーム)の普及がすすみ、親世代と比べてデジタルデバイスと接する時間が長くなったことは間違いありません。また長引く感染症対策による行動制限で、屋内で過ごす時間がとても長くなりましたね。ここ数年の社会的な背景による生活習慣の変化が、子供たちの近視とその進行に大きく影響しているのではないかと言われています。
近視がすべて悪いということはないと考えています。たとえば軽度の近視は、裸眼では近くのものが見えやすい眼でもあり、近視が増えているのは人類の進化だと言う先生もいらっしゃいます。近視をすべて悪いものとして避けるのではなく、常に適切な眼鏡などを装用して良好な見え方を確保してあげることのほうがはるかに重要です。
ただし、「強すぎる近視」に進行していくことは、何らかの手段で抑制した方が良いとも考えています。遺伝的要因は仕方ありませんが、生活習慣において注意ポイントを守ることで抑制できるのであれば、これは大切なことですよね。生活習慣/眼の使い方は、家庭や学校で毎日どう過ごしているか、注意ポイントがどの程度守れているか、という地道な意識づけが大切です。お子様と一緒にいる保護者や先生が、常に目を配り声をかけることが大切ですが限界もあります。
アイケアークリップは、お子さまの生活習慣をモニタリングできるものとしては初めてのデバイスです。毎日を振り返って「この日は良かったよ」「眼の使い方、守れているね」と生活習慣を褒めてあげることができる、とてもポジティブなデバイスだと思っています。メガネに装着して使用しますが、アイケアークリップの活用によりメガネについても「今の度数が合っているだろうか」「そろそろ1年経つのでまた眼科できちんと検査しよう」と、お子さまの見え方について高い意識をもつためのきっかけになるデバイスとして期待しています。
平良美津子(視能訓練士) PROFILE
北九州市出身/大分視能訓練士専門学校卒業。北九州市立若松病院などで勤務後、医療法人大里眼科クリニック(北九州市門司区)勤務、師と仰ぐ辰巳貞子先生のもとで小児眼科を学ぶ。福岡市立こども病院眼科を経て、現在複数の眼科クリニックで勤務。みるみるネット「視能訓練士平良のみるみる日記」にてコラム連載中。日本視能訓練士協会会員/日本弱視斜視学会会員/一般社団法人みるみるプロジェクト参与/福岡eスポーツリサーチコンソーシアム参画会員
>>> みるみるプロジェクト
近年、子供たちの生活習慣にも、デジタルデバイス(スマホ、タブレット、小画面ゲーム)の普及がすすみ、親世代と比べてデジタルデバイスと接する時間が長くなったことは間違いありません。また長引く感染症対策による行動制限で、屋内で過ごす時間がとても長くなりましたね。ここ数年の社会的な背景による生活習慣の変化が、子供たちの近視とその進行に大きく影響しているのではないかと言われています。
近視がすべて悪いということはないと考えています。たとえば軽度の近視は、裸眼では近くのものが見えやすい眼でもあり、近視が増えているのは人類の進化だと言う先生もいらっしゃいます。近視をすべて悪いものとして避けるのではなく、常に適切な眼鏡などを装用して良好な見え方を確保してあげることのほうがはるかに重要です。
ただし、「強すぎる近視」に進行していくことは、何らかの手段で抑制した方が良いとも考えています。遺伝的要因は仕方ありませんが、生活習慣において注意ポイントを守ることで抑制できるのであれば、これは大切なことですよね。生活習慣/眼の使い方は、家庭や学校で毎日どう過ごしているか、注意ポイントがどの程度守れているか、という地道な意識づけが大切です。お子様と一緒にいる保護者や先生が、常に目を配り声をかけることが大切ですが限界もあります。
アイケアークリップは、お子さまの生活習慣をモニタリングできるものとしては初めてのデバイスです。毎日を振り返って「この日は良かったよ」「眼の使い方、守れているね」と生活習慣を褒めてあげることができる、とてもポジティブなデバイスだと思っています。メガネに装着して使用しますが、アイケアークリップの活用によりメガネについても「今の度数が合っているだろうか」「そろそろ1年経つのでまた眼科できちんと検査しよう」と、お子さまの見え方について高い意識をもつためのきっかけになるデバイスとして期待しています。
平良美津子(視能訓練士) PROFILE
北九州市出身/大分視能訓練士専門学校卒業。北九州市立若松病院などで勤務後、医療法人大里眼科クリニック(北九州市門司区)勤務、師と仰ぐ辰巳貞子先生のもとで小児眼科を学ぶ。福岡市立こども病院眼科を経て、現在複数の眼科クリニックで勤務。みるみるネット「視能訓練士平良のみるみる日記」にてコラム連載中。日本視能訓練士協会会員/日本弱視斜視学会会員/一般社団法人みるみるプロジェクト参与/福岡eスポーツリサーチコンソーシアム参画会員
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「見えないなら、メガネかコンタクト」と安易に考えていては、子供に無駄なリスクを負わせることにつながる。子供の視力低下には、深刻なリスクがあることを認識し、自分の目の健康を自分で守ることができるスキルを身につけさせることは、保護者ができる子供への大きなプレゼントといえるのではないだろうか。
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