ゲームやネット依存は子供たちからのSOS…親はどう向き合う?児童精神科医・黒川駿哉先生インタビュー<前編>

 加藤紀子さん連載「教育の今と未来」。今回のゲストは、子供たちのメンタルヘルスを考えるとき、「日本に生まれた時点で人生ハードモード、無理ゲーであるという現実」に目を背けてはいけないという児童精神科医の黒川駿哉先生。子供の無力感に親はどう向き合うべきか。

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ゲームやネット依存は子供たちからのSOS…親はどう向き合う?児童精神科医・黒川駿哉先生インタビュー<前編>
  • ゲームやネット依存は子供たちからのSOS…親はどう向き合う?児童精神科医・黒川駿哉先生インタビュー<前編>
  • 厚生労働省:令和3年版自殺対策白書 年齢階級別の自殺者数の推移「先進国の年齢階級別死亡者数及び死亡率(10歳代及び20歳代、死因の上位3位)」より抜粋
  • オンライン取材のようす

 令和2年度の小・中・高等学校等における不登校児童生徒数は過去最多の23万9,178人(令和3年10月文科省発表調査結果)。長引くコロナ禍も重なり、子供たちは強いストレスにさらされている。

 児童精神科医の黒川駿哉先生は、子供たちのメンタルヘルスを考えるとき、「日本に生まれた時点で『人生ハードモード』『無理ゲー』であるという現実」に目を背けてはいけないという。諸外国に比べて自己肯定感が低い日本の子供たち。G7の中で唯一15~34歳の死因1位が自殺(令和3年版自殺対策白書)であり、少子化対策と選挙のたびに声高に叫ばれても、子供に割り当てられる社会保障費はOECD加盟国の中で最低レベルだ。

 そんな環境下で今、親やまわりの大人は子供たちにどんなことができるのか。「10才からの気持ちのレッスン~『気持ち』を考える18のヒント」(アルク)を上梓した黒川先生に話を聞いた。

厚生労働省:令和3年版自殺対策白書 年齢階級別の自殺者数の推移「先進国の年齢階級別死亡者数及び死亡率(10歳代及び20歳代、死因の上位3位)」より抜粋

浮き彫りになる子供・若者たちの無力感

--長引くコロナ禍で、「いつマスクを外せるの?」「おしゃべりしながら給食が食べたい」といった声が聞かれるように、子供たちは長らく不自由な生活が強いられています。臨床の現場から、何か子供たちに変化を感じることはありますか。

 明らかな変化を肌で感じるのは、学校には友達もいて、勉強についていけないわけでもない。学校が嫌いじゃない、一見何の問題がなさそうな子でも、学校に行けなくなっていることです。原因として考えられるのは、感染予防のために給食が黙食になったり、マスクが外せなかったり、子供の諸々の行動が制限される中で、ただ受け身の授業を聞いているだけという日常がつらい。あるいは、お父さんが家で仕事をするようになって、風通しの悪さから夫婦喧嘩が絶えなくなり、その皺寄せが子供に来ているケースもあります。

--国立成育医療研究センターが行った「コロナ×こどもアンケート 第7回調査報告書」によると、 「(自分が重いうつ症状がでたら)誰にも相談せずにもう少し自分でようすをみる」 と回答した子供が、小学 4~6 年生では 29%、中高生では 50%。子供たちが自らSOSを出すことの難しさが浮き彫りになっています。

 この背景は非常に複雑だとは思うのですが、日頃のコミュニケーションの問題もひとつの要因かなと感じます。2018年11月に江崎グリコ発表した「親子の会話」に関する調査結果によると、母親の65%が「子供と対面で話す時間以上にスマホを利用している時間が長い」と答え、「子供と同じ空間にいても自分がスマホを見てしまうことがある」と回答した人は84%でした。

 僕自身含め、今は多くの人がSNSをいくつもやっていて、どこまで好きでやっているのかはわからないけれど、一応ひと通り目を通して反応して……というのが、半ば義務のようになっていますよね。確かに色々なことがスマホひとつで行えて便利になった反面、何かにゆっくり向き合うという感覚がなくなってしまっているなと思います。社会全体が「間」に耐えられない。こうした現象は現代病的な感じさえします。

--上記のアンケートでは、「相談すると、よい意見やアドバイスをもらえる」は小学 4~6年生では 63% があてはまると回答したのに対し、中高生であてはまると回答したのは33%にとどまっています。また、高校生の6割以上が「相談をするとき、自分の気持ちをどう表現してよいか分からない」と答えています。学年が上がるにつれ、SOSを出しても仕方がない、どのように出したらよいかわからないと感じてしまうんですね。

 僕は産業医としても働いているので、色々な企業で若い人たちを見ていますし、大学で教えることもあって大学生との交流もあるのですが、そうした中で共通して感じるのが、「学習性無力感」です。

 「学習性無力感」とは、ポジティブ心理学の父と呼ばれるマーティン・セリグマンによる心理学の理論で、抵抗することも回避することも困難なストレスに長期間さらされ続けると、その状況から逃れようと努力さえしなくなる。何をやっても無意味だと考えるようになり、自分から行動を起こさなくなる状態のことです。

 つまり、「何かをしたくない」という気持ちがあるんじゃなくて、「どうでもいい」になってしまっている。経済産業省が出している『未来人材ビジョン』にもデータが上がっていますが、日本は諸外国に比べて「現在の勤務先で働き続けたい」と考える人は少ないのに、「転職や起業」の意向をもつ人も少ないんです。大学生や社会人になっても、自分の気持ちがわからない。まさにこの「どうにでもなれ」と思ってしまっている若い人が本当に多い。

 僕はこういうところこそ、教育や家庭での関わり方を見直せば変わっていくんじゃないかなと思っているんです。

子供たちの「行動」がサイン

--今、多くの親御さんが悩んでいるゲームやネットへの依存といった問題行動は、もしかしたらその無力感にたどり着く前の「抵抗」や「回避」といったサインだといえるのでしょうか。

 それもあると思います。そうした問題行動に対して、子供が幼く非力であるほど、叱ったり、脅したり、強制的に取りあげるなどして抑えられるかもしれませんが、それは一時的なものです。こうした抑圧が、後々無力な大人を育ててしまっている可能性はあります。

 応用行動分析の考え方では、子供の問題行動には次の4つの「機能」のうちいずれかがあるといわれています。

1.事物の獲得:欲しいものを手に入れたい
2.課題の回避:課題を中断したい、やめたい
3.注意の獲得:他者に注意を向けてもらいたい
4.感覚刺激の獲得:自分が心地よいと感じたい

 問題行動は、子供にとって「つらい」というサインだったり、困っていることに対処しようとしたりしていることが多いので、行動自体を問題にするのではなく、その行動の裏にどんな困りごとがあるのかをよく観察することがとても大事です。

 ゲームやネット依存などは、2の「課題の回避」が目的である場合が多く、その背景には学校の勉強についていけない、あるいは友達とのトラブルや将来への不安などが考えられます。

 わが子がゲームをやめられない、あるいは動画ばかり見ているのはなぜなのか。簡単ではないかもしれませんが、その行動の目的をもう少し詳しく、解像度を上げて考えると、解決の糸口が見えてくるはずです。

子供が「話をしてくれる」雰囲気づくり2つのコツ

--となると、やはり鍵となるのは親子のコミュニケーションでしょうか。問題行動を起こすなど困った事態になってから、慌てて本音を聞き出そうとしても、子供はそう簡単に心を開いてくれません。親は毎日忙しく、どうしても「~したの?」「~しなさい」という一方通行な会話になりがちです。子供がたくさん話をしてくれる雰囲気づくりに、何かコツはあるのでしょうか。

 僕が親御さんに勧めるのはおもに次の2つです。

 1つ目は、「スペシャルタイム」の設定です。子供だってリアルタイムで生きているので、思ったことはその時に言いたいし、その時じゃないと忘れてしまったり、うまく言葉にできなかったりします。本当は周りの大人がいつでも、誰かが少し余裕をつくっておいて、受けとめてあげられたら良いのですが、それは今の社会では難しいですよね。

 だからこそ、たとえば週に1~2時間、時間と場所を決めるんです。そこでは、子供が最優先。子供の意思を尊重して、子供に合わせた時間の使い方をする。ただし、子供の意思といっても、子供だけを好きに遊ばせておくのではなく、親子間で双方向のコミュニケーションを取ることを意識します。これが「スペシャルタイム」です。

 「スペシャルタイム」が習慣化してくると、子供は「そこでは何を言ってもいいんだ」という気持ちになってくるし、小学校高学年くらいになれば、今、ちょっと悩んでいることがあっても、「次のスペシャルタイムにお父さん、お母さんに相談しよう」と自分の中で抱えられるようになります。自分の感情をコントロールするスキルも育っていくんです。

オンライン取材のようす

--私も拙著『子育てベスト100』の中で「『家族会議』を開く」ことを勧めています。カリフォルニア大学アーバイン校の心理学者、ロバート・マイヤーズによると、定期的に「家族会議」を開くことは、家族の絆を強め、信頼関係を築くほか、自分の気持ちを表現するのが得意ではなかった子供も少しずつ声を出せるようになり、家族に自分の意見を知ってほしいと思えるようになるそうです。

 ひとつ気を付けておきたいのは、「スペシャルタイム」も「家族会議」も、親はつい忙しくて、子供との予定を後回しにしてしまうことがありますが、なるべくその時間は親の都合でずらさない方が良いです。

 親はつい忙しくて子供の予定を後回しにしてしまうことがありますが、子供はそういうところを全部見ています。ここは子供との大事な約束だと思って、守ってほしいところです。

--自分は大切な存在だと思われていないのではないかと、子供は敏感に感じますよね。「自分が何でも話せる」揺るぎない場所と時間が、子供に与える心理的な安心感はとても大きい。けれど意外と私たち親は、このシンプルなことがそこまで重要だとは気付いていないのかもしれません。

 そして、もう1つ勧めるのは、「鈍感なふりをすること」です。

 僕ら大人もそうですが、恥ずかしいこと、人に言えないことを言う時って、すごく相手の反応を気にするじゃないですか。これを聞いたら驚くのかなとか、変な人だと思われるかなとか。それは子供も同じなので、ちょっと鈍感な人を演じるくらいがちょうど良い。親だと子供がどんな気持ちかはある程度察することもできると思うのですが、それをあえて鈍感なふりをしてみる。出来事の報告とか結果にはあまり関心を示さず、「その時どう思ったの?」「どういうふうに考えたの?」と、子供の考えやプロセス、感情の動きなどに興味をもって聞いてみるようにすると良いです。

 もし、本人がモヤモヤしていて話したがらないような状態の時は、白黒つけようとせず、そのモヤモヤをそのまま一緒に抱えてあげることも大切です。 「あれでもない、これでもない。じゃあ何なの!?」と、子供の曖昧な態度に耐えられないと思うこともあるかもしれませんが、それを理由にコミュニケーションを遮断してしまったり、勝手に解釈して変な方向に突っ走ったりせず、わからないままにしておいてあげてほしい。

 すると子供は、何気ない時間を一緒に過ごす中で、忘れたころにポッと自分なりの気持ちや考えをこぼすことがあるんです。それに気付いたときに、「へー、そんなふうに思ってたのか」と拾ってあげるような、そんな気長な作業が大事なのではないでしょうか。

 >>「すべて子供の好きなようにさせている」はあぶない…支援・診断のタイミングとは? 児童精神科医・黒川駿哉先生インタビュー<後編>に続く。

10才からの気持ちのレッスン

発行:アルク

<著者プロフィール:黒川駿哉(くろかわ しゅんや)>
 1987年生まれ、児童精神科医・医学博士。山形大学医学部卒。慶應義塾大学大学院博士課程修了。児童・思春期に関連する国内外の研究に携わりながら臨床を行っている。幼少期を過ごした英国での生活が原体験となり、思春期の友達づくり支援団体「COROBO project」の立ち上げ、知的/発達障害児・者サッカースクール「認定NPOトラッソス」チームドクターを務めるなど、子どもの主体性を引き出す様々な団体の活動支援に力を入れている。「優れるな異なれ」がモットー。twitter:@shunya5


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《加藤紀子》
加藤紀子

加藤紀子

1973年京都市出まれ。1996年東京大学経済学部卒業。国際電信電話(現KDDI)に入社。その後、渡米。帰国後は中学受験、海外大学進学、経済産業省『未来の教室』など、教育分野を中心に様々なメディアで旺盛な取材、執筆を続けている。初の自著『子育てベスト100』(ダイヤモンド社)は17万部のベストセラーに。一男一女の母。

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