SDGsを学ぶ学生たちの「行動化宣言」…広がるJ-POWERエコ×エネ体験ツアーの輪

 エネルギーと自然の関係を学び、社会課題の解決に向けてディスカッションから行動化を目指すプログラム、J-POWER「エコ×エネ体験ツアー水力学生編@オンライン~エネルギー・環境×SDGsを学び合う!~」をレポートする。

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「エコ×エネ体験ツアー水力 高専生・大学生編@オンライン~エネルギー・環境×SDGsを学び合う!~」
  • 「エコ×エネ体験ツアー水力 高専生・大学生編@オンライン~エネルギー・環境×SDGsを学び合う!~」
  • SDGsのガイドブックも入った充実の資料
  • 全国各地から多様な学部・学科の学生が参加
  • 司会進行はキープ協会の「おのの」が明るく元気に務めた
  • J-POWERの「シゲさん」からはじまりの挨拶
  • 国内最大級のロックフィルダムである御母衣ダム
  • 御母衣ダム・発電所を佐々木所長が案内
  • 発電機内の回転軸が高速回転するようす

 地球規模のエネルギー問題、気候変動等により、問題意識を高めてSDGsを学ぶ学生が増えている。J-POWERが主催する「エコ×エネ体験ツアー水力学生編@オンライン~エネルギー・環境×SDGsを学び合う!~」(2022年8月30日・31日)は、エネルギーと自然の関係を学び、社会課題の解決に向けてディスカッションから行動化を目指すプログラム。日本の電力を支えるJ-POWERが、社会貢献活動の一環として2007年より開催している同ツアーは、昨年に続き今年もオンラインで開催され、世界が抱える課題のために「何か行動を起こしたい」と思い立ち応募した学生が日本各地から集まった。

 学生たちひとりひとりがエコ(環境)、エネ(エネルギー)とSDGsについて考え、さまざまな気付きを得て行動に踏み出すまでの2日間のようすをレポートする。


【目次】
エコ×エネとSDGsをキーワードに集まった15人の学生たち
1日目
バーチャル映像で知る御母衣ダム・発電所
発電のしくみを知る
社員の生の声に触れる。御母衣ダムに携わる若手社員との交流会
奥只見からのライブ中継/森の体験プログラム~気持ちの良いブナの森で豊かな自然を知る
ドクターと学ぶ「科学の実験教室」~水力発電のしくみ~
事例からエネルギーと環境の共生を知る、シゲさんの「J-POWERアワー」
ラビットの「環境教育概論」…環境教育は“関係教育”
ドクターの体験から行動化への道筋を知る
行動化に向けて…1日目終了後、学生インタビュー
2日目
具体的な行動を導き出すディスカッションとアウトプット
自分が学生時代に必ず取り組むこと「エコ×エネ宣言」
行動化に向けて…2日目終了後、学生インタビュー

エコ×エネとSDGsをキーワードに集まった15人の学生たち

 全国各地から15人の学生たちが、「エコ×エネ」「SDGs」をキーワードに集まり、2日間にわたって学び合った。

参加者15名(キャンプネーム)

りほ、やぎひろ、バラ、ジオナリ、リキッド、しょう、ゆつ、いおり、ゆいべ、もも、たなひな、あみ、みたひろ、たか、えいみー(2日間通じての参加者のみ記載)

全国各地から多様な学部・学科の学生が参加

学び合って行動に踏み出す2日間

 初日はダム・発電所のバーチャル見学や森の体験、科学実験、レクチャーと集中的にインプット。翌日は学生同士のディスカッションを経て行動するきっかけをつかむ。

1日目:学び合いから「行動化」を目指す

 司会進行は山梨県北杜市清里で自然体験活動を通した環境教育を実践しているキープ協会の「おのの」。エコ×エネ体験プロジェクトのリーダー、J-POWERの「シゲさん」のはじまりの挨拶では、エコ×エネ体験プロジェクトが生まれた経緯や専門性の異なるパートナーと共にプロジェクトを運営していることが紹介され、普段は何気なく使っている電気と自然のつながりを知るとともに、SDGsをはじめとした社会課題を楽しく学び合い、行動するきっかけを得ることが目的だと伝えられた。

J-POWERの「シゲさん」からはじまりの挨拶
司会進行はキープ協会の「おのの」が明るく元気に務めた

バーチャル映像で知る御母衣ダム・発電所

 まずは岐阜県の御母衣発電所とダムを所長の佐々木氏がバーチャル映像で案内する。御母衣ダムは国内最大級のロックフィル式ダムで、高さ131m、堤長は405m、体積は795万立方メートル。近くにロックフィルダムに適した岩石や粘土があるためコンクリートよりも経済的な工法が採用された。ダムは岐阜県北部を水源とした富山湾に流れる庄川をせき止めて作られた。岐阜県は森林面積率が79%と高知県に次いで全国2位、冬は降雪も多く森の保水力もあるため水力発電所に適した場所である。

国内最大級のロックフィルダムである御母衣ダム

 ダム左岸地下にある発電機室へはインクラインという地上とを結ぶ乗り物を使って移動。水車と回転軸で繋がった発電機は1分間に225回転という高速回転で電磁石を動かして電気を生む。

発電機と水車を繋ぐ回転軸が高速回転するようす

 「MIBOROダムサイトパーク」は、この場所にダムが作られた理由や発電設備の仕組みを学べる施設。東海北陸自動車道ひるがの高原サービスエリアの近くに「分水嶺(ぶんすいれい)」と呼ばれる水の流れの境界線があり、分水嶺の南側は長良川、河口付近では木曽川となって太平洋に流れ、北側は庄川となって日本海に流れ込む。分水嶺から海までの距離は長良川が約166キロメートル、庄川は約115キロメートルと南側と比べ約50キロ短い。このことからもわかるように、庄川の流れは急で水の落差が必要な水力発電に適している

 御母衣ダムの中心部は遮水壁と呼ばれる粘土で水が漏れるのを防止。その上には小さな岩石、表面部には大きな岩石が使われ遮水壁の粘土が流れ出るのを防ぐ仕組みとなっている。ダム湖の水は取水口から水圧鉄管を通って落下、水車を回して発電する。水の位置エネルギーが電気エネルギーに変換されるため、電気の出力は主に水の量と落差によって決まる。御母衣発電所は最大21万5,000キロワットの出力で発電する。

「MIBOROダムサイトパーク」での展示のようす

 御母衣ダムのある場所には、かつて荘川村中野地区、合掌造りの集落と穀倉地帯が広がっていた。電源開発の高碕初代総裁が水没する樹齢400年の立派な桜の木を見て移植を指示。その2本の桜は荘川桜と呼ばれ、住民の心の故郷にもなっている。この御母衣ダム・発電所は、J-POWERの理念のひとつである「地域との共生」の原点で、今も地元の小中学生とともに老いた桜の養生などの活動を行っている。

電気が起きるしくみを知る

 J-POWERグループの元社員で工学博士(九州工業大学)である「ドクター」の発電のしくみを知る実験。「しゃかしゃかライト」にはコイルと磁石があり、横に振ってコイルの中の磁石を動かすと電気が起こってライトが点灯。

しゃかしゃかライトを振ると電気が発生しライトが点灯

 しゃかしゃかライトのような横運動は効率が悪い。そこで手回し発電機でLEDを点灯する。磁石にはN極とS極があり、極を行き来するとプラスとマイナスが変わって点いたり消えたりする。早く回すと光は目に残像として残るため光り続けているように見える。

 交流電気の基本を学んだ後は馴染み深いフレミングの法則の紹介。左手はモーターの法則、右手は発電の法則で、どちらの手も中指は電流、人差し指は磁界、親指は力を示す。ドクターのラップに合わせてわかりやすく法則をダンスで覚えた。「おのの」からは電気の速さは1秒間で地球を7回半も回る光と同じで、電気は貯められない。今、使っているこの瞬間の電気は、今、この瞬間に作られている。電気を作って届けてくれる人がいて私たちは電気を使えると解説が加えられた。

社員の生の声に触れる。御母衣ダムに携わる若手社員との交流会

 続いてはJ-POWERの若手社員、御母衣電力所の尾﨑巧さんと中部支店の木村渓子さんの2名とリモートで交流する時間。尾﨑さんは技術系(土木職)として6年前J-POWERに入社。入社後すぐに北海道に赴任し、2年前の4月に中部支店管内の御母衣電力所に配属された。入社のきっかけは、富山に遊びに行った際にその道中で初めて御母衣ダムを見たこと。J-POWERを知り興味をもち、その後インターンで御母衣電力所に。その時に食べたエビフライがおいしくて入社を決意したという。今のやりがいは労働後の給与明細とお子さんの寝顔を見ることと語る。

 木村さんは事務系として入社して2年目。現在、中部支店業務グループで経理業務を担当し、御母衣電力所を含む中部支店管内の予算や固定資産の管理に従事。入社のきっかけは、生活の基盤を支えられること、事業規模が大きく多様な業務に携われて事務系でも挑戦できる環境、積極的に海外事業を展開していることだという。経理面から技術職をサポートする毎日には新しい発見があり、規模の大きな仕事もあるのでやりがいを感じているそうだ。

 学生からお二人への質問タイム。学生時代に何を学んだかとの問いに、尾﨑さんは高等専門学校で土木系、木村さんは大学でタイ語を学んだと回答。木村さんがJ-POWERに入社を決意した理由のひとつにタイに発電所があることもあげられるという。また御母衣ダムの耐用年数に関する質問に対し、尾﨑さんは建設から60年以上経つ御母衣ダムでは10年といった長期計画で修繕を進め、どう修繕するかを自分たちで考えながら取り組んでいると話した。木村さんは技術職の方たちとのやり取りから、専門知識の豊富さや仕事への誇りを感じたというエピソードも教えてくれた。

御母衣発電所の尾﨑さんとJ-POWER中部支店の木村さんが学生たちと交流

 最後は学生へのメッセージ。「今はコロナ禍で自粛、自粛の日々だと思いますが、学生時代はいろいろな友達と遊びに行って、いろいろなものを見ることがとても大事だと思います。できる限り遊んでください」(尾﨑さん)。「社会人は大変そうだと思うかもしれませんが、入社してみると仕事は毎日楽しいです。そこは心配せず社会人生活に期待を膨らませて頑張ってほしいと思います」(木村さん)。

奥只見からのライブ中継/森の体験プログラム~気持ちの良いブナの森で豊かな自然を知る

 次は奥只見ダム・発電所を訪れる。東京から新幹線で1時間半の新潟県南魚沼市にあるJR浦佐駅から車で向かう。奥只見は山の奥にあり、道中も雪国ならではの工夫が見られる。信号機は雪が積もって車に落下する危険性から、横ではなく縦並び。また道路には消雪パイプ、家屋や建物の土台や玄関は雪に埋まらない高い位置にある。シルバーラインと呼ばれる道路は、奥只見ダムと発電所の建設工事に使うための材料や機材等を運ぶために作られた。

奥只見ダムの雪景色。雪も水源となっている

 続けて奥只見観光の佐藤氏が現地からライブ中継。奥只見ダムはコンクリートの重力式のダムで長さが480m、高さは157mとビルの40階ほどの高さ。地下の発電所で作られた電気は都心まで送られている。ダム湖の奥只見湖は遊覧船もあり、夏休みや紅葉シーズン、冬はスキーやスノーボードで賑わい、年間4万人の観光客が訪れるという。「四季折々の自然が楽しめて、魚沼産コシヒカリや山菜、おいしいお酒もあります。皆さんぜひ一度、遊びに来てください。お待ちしています」(佐藤氏)。

奥只見観光の佐藤氏による生中継

 奥只見湖の遊覧船で行くことができる銀山平の森の案内は、キープ協会の「ぱりんこ」が務めた。森の中は少しひんやり、葉もとても柔らかく、形もいろいろだ。森の中には生き物たちの処、ネズミの穴やキツツキの巣もある。

 その後は「葉っぱっぱじゃんけん」へ。学生たちは事前に葉を3枚ほど近所で探して用意。キープ協会のスタッフがお題を出し、葉の特徴をお互いが比べた。もっとも長い葉、ギザギザが多い葉、茎が長い葉、見た目が強そうな葉等を競い合い、学生たちは「葉っぱじゃんけん」を通して、葉を自分の目でよく観察することを楽しんだ。

葉っぱっぱじゃんけんで自然に触れて観察する楽しさを体験

 森へ戻り白い木肌が特徴のブナの森へ。ブナの木は冷たく気持ちが良い。葉を触るとすべすべしており、真ん中が少しくぼんだお椀型で雨を受け止めるのに良い形だという。ブナの実は栄養があり森の生き物の大事な食料。森の地面には落ち葉もたくさんあり、めくるほど葉は細かくなって元の形はわからなくなる。もっとも下の土は少し湿っている。この土はミミズや小さな生き物たちが落ち葉を食べて細かくしたものだ。

銀山平の森の地面の枯れ葉をめくると徐々に細かい土になる

ドクターと学ぶ「科学の実験教室」~水力発電のしくみ~

 続いてこの豊かな森と水力発電がつながる原理をドクターの実験で解き明かす。森にある木や植物が成長するためには「土」が重要だ。豊かな森の土と植物が生えにくいグラウンドの土を比較。グラウンドの土に性質が似ている、セルロースという小さな粒の集合体であるキッチンペーパーを利用した。

 森に見立てた箱にグラウンドの土や落ち葉、ミミズ、ムカデ、微生物、きのこ、トビムシなどの生き物、水を入れる。それらの働きでグラウンドの土は丸い形の森の土(団粒)に変化。別々のペットボトルで作った透水試験装置に森の土とグラウンドの土を同じ量だけセッティングし、それぞれに雨に見立てた水を入れて、水の染み込む速度を確かめた。森の土はスムーズに水が染み込むが、グラウンドの土は染み込む速度が遅い。またストローで息を吹き込むと、森の土は空気の通りが良いが、グラウンドの土は通りが悪い。空気の通りやすさは植物の成長に重要で、グラウンドの土のように不必要な水が残ると植物は根腐れするが、森の土は植物が成長するための適量な水を保持している。

右の丸くなった森の土は水の通りも良く水を含んでいる

 透水試験装置をつなげて1つの山に見立てる。そこに雨を降らせると水は染み込んで下方にゆっくりと1つの流れとなって地下水に。地下水は飲料水や農業用水、そして水力発電にも利用される。

 水力発電用のダムに見立てた発電実験では、水車に水を落とし、コイルの中の磁石を回転させて電気を起こしLEDを光らせる。水力発電の弱点は、電気が必要な時にはすぐに起こせるが、水がなくなると電気を起こせないこと。奥只見ダムは水力発電では日本最大規模の56万キロワットの発電能力があるが、それは一般的な火力発電のおよそ半分。満杯の水をどんどん使ってフルパワーで発電すれば、およそ2週間程度しかもたないので水を溜めながら必要な時に発電することが大事である。

ダムに溜まった水を落下させて発電する

 森が成立するには、いろいろな生き物や落ち葉、水が必要で、土にいる生き物が落ち葉等と作用しながら、硬い土がフカフカの土に変わる。それが水を蓄えて地下水となり流れてダムにたまる。森は自然の力で作られる森のダムであり、水力発電のダムは人間の力による人工のダムといえる。

水力発電は自然と人間の力がつながって可能となる

事例からエネルギーと環境の共生を知る、シゲさんの「J-POWERアワー」

 次はJ-POWERが取り組む4つの事例をシゲさんが紹介。SDGsの17の目標のうち「7.エネルギーをみんなに そしてクリーンに」「11.住み続けられるまちづくりを」「13.気候変動に具体的な対策を」の3つに関わる事例は、戦後復興・高度成長で急増した電力需要に応えてきたJ-POWERの社史をかたどる記録でもある。

 まず最初の事例は、今日バーチャル映像で体験した御母衣ダム・発電所開発。1952年に建設公示された後、白川郷の上流にあった2百数十戸、1,200人余りの集落の移転をめぐり、ダム建設に反対する人々との合意を経て、発電所運転にいたるまでの歴史が語られた。2つめは先ほどライブ中継でつながった奥只見の環境保全に関する事例。奥只見発電所の増設で課題となった絶滅危惧種・希少種の保護・保全のために、J-POWERの鳥羽瀬孝臣氏が湿地の復元を提案。専門家らの協力を得て「環境」を新たにつくり、電源開発とともに生物多様性の保全にも努めたという。

事例1「御母衣ダム・発電所開発と荘川桜~地域との共生~」。戦後の電力需要が伸びる時期に水力発電のダム湖による集落の水没問題から地域の理解と共生を目指した

 3つめはエコ×エネ体験ツアーの火力編の舞台の磯子火力発電所の事例。国内炭の労働問題も背景に、事業者と自治体が日本で初めて公害防止協定を結んだ。4つめの事例は大崎クールジェンの実証試験だ。脱炭素を目指し、CO2分離回収や石炭ガス化複合発電等に取り組んでいる。

解のない時代に対応するために大切な要素

 シゲさんは電源地域の人たちと電力消費地の人は違う人であることに留意すること、すべてを満足させる完璧な発電方法はないため上手く組み合わせることが重要であるとした。またSDGsの17の目標にも触れ、エネルギーとさまざまな社会課題がつながっていることにも言及し講義を締めくくった。

ラビットの「環境教育概論」…環境教育は“関係教育”

 続いては山梨県北杜市清里のキープ協会で自然と関わる仕事に携わる「ラビット」の「環境教育概論」。まず学生たちに好きな自然の風景を描いてもらい、各自が残したい自然環境に思いを馳せた。

 ラビットは環境問題を解決する3つの方法として「ルールを作る」「イノベーション(技術革新)」「環境教育」をあげ、環境教育はベースとなるものとした。

 環境やエコという言葉の定義は扱う範囲も広く、問題解決のアプローチも多岐にわたる。ラビットは環境教育を「関係教育」と言い換えて今、社会で起きているさまざまな歪みや問題は、それぞれの関係が断ち切られている状態ではないかと投げ、断裂した関係をつなげる働きかけや自然に触れ合う機会につなげる役割が、環境教育ではないかと語った。

自然と山が大好きなラビットによる環境教育概論

 またラビットはSDGsを良い合言葉と評価しながらも、もっとも恐れるべきは「無関心」だと指摘。「無関心」を抑止するには、子供たちだけでなく全世代に「感受性・想像力・複眼的思考」を養うことが重要であると説いた。またSDGsは関心がある目標を絞ることではなく、それぞれの目標が密接に関係しあい、まだ知らない課題があることに気づかせてくれるツールだとした。

 行動化に向けては、まず「エコ×エネ」×「自分」と考え、さまざまな視点をもつ複眼的思考が大事であると話した。またSDGsはニーズの宝庫であること、自分の専攻を深めると同時にいろんな分野を渡り合う、領域の間に立ってつなげる“インターフェイス(橋渡し役)”の役割の必要性も説明した。

SDGsは課題がそれぞれ関係しあうため関心のないものも気付かせてくれる

ドクターの体験から行動化への道筋を知る

 行動化への具体的なアプローチとしてドクターが自身の体験を事例として紹介。ドクターの活動フィールドである開発途上国の廃棄物管理改善から、インドネシアのスラバヤでのあふれるゴミや、教育機会がないウェイストピッカーとして暮らす子供のようすが映像で流された。

 こうしたゴミ問題、公害問題は1960年代の日本にもあった。埋立処分場から焼却に至ったが、大気汚染、特にダイオキシンによる健康被害が発生。焼却技術を高めて乗り越えたが、ドクター自身もそうした時代の中で環境に関する研究や知見を培ったといい、そこで開発途上国の海外技術協力に踏み出したと語った。

 インドネシアのスラバヤ市では、生ゴミを堆肥にするコンポスト技術でゴミがあふれていた地域の環境を改善。家庭の生ゴミにも取り組んで緑豊かな町並みが出現した。「高倉式コンポスト(Takakura Composting Method)」と名付けてプロモーションを展開し、ドクター自身がコミュニティの中に入って現地の人を巻き込んだ。ドクターはこれまでに50か国以上に対して技術指導を行い、実際に足を運んで指導したのは13か国にのぼるという。

高倉式コンポストにより家庭の生ゴミを堆肥へ
社会変革は実際にコミュニティの中に入ることも大事

 ドクターから学生には、大学は自らが探求力と創造力を磨く場であるが、与えられたことを待つだけになってはいないかという投げかけがあった。そしてキャリアを形成するには、専門知識を得ながら、いろいろな知見も獲得していき、専門性の近いところを埋めていくといった考え方を紹介。また偶然をとらえて幸福に変える力「セレンディピティ」は特別な人だけに現れるのではなく、それをつかまえる準備をしているかどうかにあると伝えた。

「セレンディピティ」への気付きは準備をしているか否か

 そして技術だけではなく仕組みも含めた社会変革を起こすイノベーションを学生に求め、SDGsにはビジネスチャンスが潜んでいるが、一方で地球を考えればビジネス優先ではなく純粋に取り組む姿勢も必要ではないかと語った。最後にドクターは「知識は実行してこそ価値がある。ただし知識は行動の基盤であることを認識しておかなければならない」という言葉で行動化の重要性を説いた。

行動化に向けて…1日目終了後、学生インタビュー

 行動化に向けて、まずは「持続可能な社会」を自分の言葉で「●●社会」に言い換えた。その学生の言葉からスタッフが翌日のディスカッションでグループに分かれるためのキーワードを作る。その後の「ひとり一言タイム」では学生が自己紹介して1日目は終了。終了後も交流会が開催され、スタッフと学生、学生同士の対話は続いた。

 1日目の終了後3名の学生に、小さいころからの興味の移り変わりやツアーに参加したきっかけ、この日印象に残ったこと、これからの夢を聞いた。

1日目終了後インタビュー



◆「自分の研究で世界が変わるという気持ちで勉学に励みたい」りほさん
 幼いころは図書館で図鑑やいろんな本を読むのが好きでしたが、なぜか高校で国語が嫌いになり受験では理系を選びました。研究室の先輩が以前、エコ×エネ体験ツアーに参加して、とても良いと勧められて参加しました。今日はシゲさんの4つの事例に感動しました。科学者は技術的なことを周りの人に理解してもらい、当事者や住民の方のことを考えて自然を守りながら開発を進めることが大切だとわかりました。今後は卒論をしっかりとまとめて、自分の研究で世界が変わるという明るい気持ちで勉学に励みたいと思います。

◆「これまで学んだことを修士論文に集約したい」たかさん
 環境分野はこれから必要と考えて廃棄物工学に進み、大学院では建築廃材の木質バイオマス発電の燃焼炉の研究をしています。2年前もエコ×エネ体験ツアー火力編に参加し、「エネルギー大臣になろう!」(火力編でプレイしたカードゲーム)を大学で開催させてもらいました。水力編にはエネルギーをもっと知りたいと考えて水力編にも参加しました。今日はドクターから専門性の広げ方の話を聞き、これまでいろいろとやってきて良かったと思えました。またSDGsではいろいろな目標同士が関わり合っていると知れて良かったです。これからは今まで学んできたことを修士論文で集約できたらと思います。

◆「科学コミュニケーターを目指したい」えいみーさん
 東日本大震災で地震に、また防災館で土砂災害やダム、水に興味をもち、今は地球科学を学んでいます。今回は友人の紹介でツアーに参加しましたが、大学の次世代社会研究センターでカーボンニュートラルを広める活動をしているので電力の知識が欲しいと思いました。水力発電の実験では、仕組みや自然とエネルギーのかかわりが一連の流れで理解できました。また言葉が通じなくても熱意をもって伝えることが大事だとわかりました。これからは自分が発信源になれるよう科学コミュニケーターを目指したいと思います。


2日目:具体的な行動を導き出すディスカッションとアウトプット

 学生だけで行うディスカッションは「未来」「変化・変容」「関わり・つながり」「公平性」「主体性」の、5つのグループに分かれて行われた。まずは再度、グループで持続可能な社会を言い換えて、次にその社会をどう実現するのか具体的なアクションを導き出す。

主語は「私、私たち」

 グループディスカッションを覗くと、Zoomのホワイトボードを共有しながら議論のプロセスをまとめるチーム、思い込みを超えて新たな視点を加えるチーム、考え方を否定せずに疑問を解消しながら深めるチーム、言葉の定義を確かめながら議論を進めるチーム、経験を聞き合って共感できる言葉に結びつけるチーム等があり、議論に真摯に向き合うようすが見られた。

各グループ発表

「未来」グループ
 私たちの子供、孫の世代にバトンをつなぐ「リレー社会」を導き出した。自分たちには利益はなくとも次世代にバトンをつないで選択肢を1つでも増やすのがリレー社会のコンセプト。そして自分たちが次世代に残したいものを具体的に列挙。歴史や文化、自然、海や森、木や川、生き物たち。残すための具体的な行動は「ゴミは自然に捨てない」「家でも外でも食べ残しをしない」「買うものがどんな素材かを知る」「街づくりの開発計画にワークショップを通して市民から意見を出す」「土に還るものを使う」「DIYで木製の本棚を作る」「自然を大切にする気持ちを育むために自然で遊ぶ」等が発表された。

「未来」グループの発表のようす

「変化・変容」グループ
 「変化・変容させ続ける、または、しやすい社会」は「より良い社会」と「変なアイデアが出せる社会」の2つあるとした。「より良い社会」へは課題を見つける力が重要、見つかれば具体的な行動が生まれる。そのためには個人によるインプットが重要である。「変なアイデアが出せる社会」を実現するには、意見が否定されない安心感のある環境作りが重要で、ここでは沈黙して考える時間を認めるという意の「TQ、Thinking Quiet」という新たな言葉が発案された。また否定されない環境を作るために、肯定フレーズをリスト化。日常的に実践できる言葉が並んだ。

「TQ」という言葉が生まれた

「関わり・つながり」グループ
 「ネットワーク型エコロジー社会」に集約。人と人の思いをつなぐことをネットワーク型と称して、自然との調和を求める社会を目指す。この社会の実現を目標にアクションやプロセスを検討。具体的なアクションは「環境教育や産官学連携」「市民団体に入る」「SNSによる発信」「環境教育を行うための場作り」「地域を知る」の5つが並んだ。プロセスでは、エコ×エネ体験プロジェクトのような環境のプログラムに参加して一歩を踏み出し、そこで学んだことをSNSで発信して人脈を広げ、最終的な目標には自ら環境教育ができる人材になることが掲げられた。

環境教育を実践できるよう行動すると結論付けた

「公平性」グループ
 共通した思いを「すべての人が心身ともに健康で安全に暮らせる社会」に集約。その社会を実現するための行動は、課題発見と分析レポートの2つ。課題を知るために、インターネット等で正しい情報を得る、社会支援をしている機関のセミナーや大学のSDGsの講義参加といった例があげられた。また不公平な現場があることを伝える分析レポートを作成し行政などに提出。さらに認知を広げるために、とっつきやすさを考えてSNSで漫画を公開する案も出た。対話も重視され、実際に地域や学校のお祭りでカフェを出店、そこで地域の方たちの交流の場やお悩み相談室を開設するといった具体案も出た。

公平性に真摯に向き合いながら地域などのコミュニティに参加する行動へと話は進んだ

「主体性」グループ
 言い換えたのは「愛がつながる社会」。発信を主体的にするには教育が基盤だと考えた。理想の教育者像は「愛」をもって接する人で、そうした人から教われば、また自分も「愛」をもって教える好循環が生まれ、持続可能な社会は実現する。さらに教育の在り方を思考。受ける側の求める教育者は面白い、楽しい、あるいは人柄に惹かれるなどの特徴があるとし、理系・文系の知識をバランスよくもち、成功や失敗の経験もある、考える機会を奪わない人材が望まれるとした。教育者には人望や愛、人間力が必要で、その人間力の醸成には「馬鹿な経験を真面目にできる」「発信力をもつ」といった具体的な行動が重要であると帰結した。

愛をつなぐ教育へ。バカな経験にも真剣に取り組むことで人間力を高める

自分が学生時代に必ず取り組むこと「エコ×エネ宣言」

 グループの発表を受けてドクターから学生にメッセージ。アフリカの水問題を解決するポンプ設置を例に、良かれと思ったことが地域や習慣などさまざまな要因で実は正反対のことになる場合もあると語った。「これから取り組む中で、考えが受け入れられない場合、その原因はどこにあるのか、もしくは自分たちの考え方と地域の習慣などをいかにすり合わせる必要があるのか、踏み込んでアプローチをしてほしいと思います。すぐにあきらめるのではなくコミュニケーションを取りながら、その地域に応じた、より良いものを作ることが必要です」(ドクター)。

 続けて学生ひとりひとりによる「エコ×エネ宣言」。持続可能な社会を作るために卒業まで必ずやること(取り組むこと)を発表する。ユニークなものでは「バイクで西日本一周、改善すべきことを漫画化」「言葉で伝えることをあきらめない」「50人と出会って痩せる」「ゴミ拾いをしている市民団体に所属!」「青春18切符を使う」などがあった。おののはエネルギーという言葉には「力のもと」「元気」「行動する力」といった3つの意味があると紹介。シゲさんからは基本コンセプトの1つである「学び合い」の場が本当に大切であると再認識したという振り返りがあり、最後の記念撮影でツアーは終了した。

ここでの出会いが未来につながる。またどこかで!

行動化に向けて…2日目終了後、学生インタビュー

 盛り沢山な2日間のプログラムを終えた3名の学生に、小さいころからの興味の移り変わりやツアーに参加したきっかけ、2日間で印象に残ったこと、これからの夢を聞いた。

2日目終了後インタビュー



◆「自分の力で人を笑顔にできる力をつけたい」たなひなさん
 子供のころからスポーツが好きで、人を笑わせることも好きでした。大学はスポーツ科学部に進みましたが、このツアーではあえて違う分野の人との関わりを求めて参加しました。グループセッションのアウトプットでは参加前よりもエコやエネルギーが身近なものに感じられました。またSDGsの目標は、ひとりひとりの思いがあって解決できることだと学べました。今の目標は50人に感謝しながら出会うことです。来年からはおもちゃを作る仕事に就きます。将来は人を笑顔にできる力を付けていきたいです。

◆「日本中どこにでも行ける新幹線に携わりたい」リキッドさん
 子供のころの夢は建築家でしたが、高校生の時に東京の万世橋の美しさに惹かれてダムやトンネル、鉄道に興味をもち土木工学科に進みました。J-POWERの鳥羽瀬さんの建設マネジメントの講義を受けて、このツアーを紹介いただきました。葉っぱっぱじゃんけんでは、大学付近の自然に触れて葉を探し楽しかったです。またレポートで取り組む日本のエネルギー構成の発信方法を、このツアーでは得られました。まずは青春18切符を使って日本各地に出向き問題に向き合います。将来は四国新幹線や西九州新幹線の夢の実現に携わりたいです。

◆「将来は土の上で仕事をしたい」ゆいべさん
 家の裏に山があり、森に興味をもちながら育ちました。その山が台風で土砂災害に見舞われ今も林道が完全に復旧していません。それをきっかけに大学は森林科学科に進みましたが、学ぼうとした砂防の先生が今年退官され、新しい視点を求めてツアーに参加しました。ドクターが技術の実用化のため、地域の方を課題解決に巻き込む姿が強く印象に残りました。SDGsでは各目標が関わり合っていて自分の捉え方が変わりました。まずはゴミ拾いをする市民団体に入って課題を見つけ、将来は林業や農業など土の上で働きたいと思います。


 今回の「エコ×エネ体験ツアー」では、過去に火力編を体験した学生がいたり、所属している大学の友達や先生、家族に参加をすすめられた学生がいたりと、エコ×エネの輪がさらに広がっていることに驚いた。遠くて実際に行くことは難しいがオンラインだから気軽に参加できたという学生、実際にダムや発電所に行って生の迫力を感じたい、リアルに学生同士で会えるツアーに参加したくなったという学生など、さまざまだったが、解のない問いをディスカッションする学び合いの場は、ひとりひとりが所属する学校や地域、国、リアルとオンラインという境界線を超えてつながっていくのだろう。

 今後もJ-POWERが提供する学び合いの場、サイエンスセミナー「エコ×エネカフェ」や来年の「エコ×エネ体験ツアー水力学生編」「火力学生編」に、多くの学生が参加することを期待したい。そして参加後のひとりひとりの小さな行動が、さらに大きなエコ×エネの輪となっていくことを願わずにいられない。

ひととエネルギーと環境を“つなぐ”
J-POWERエコ×エネ体験プロジェクト
《佐久間武》

佐久間武

早稲田大学教育学部卒。金融・公共マーケティングやEdTech、電子書籍のプロデュースなどを経て、2016年より「ReseMom」で教育ライターとして取材、執筆。中学から大学までの学習相談をはじめ社会人向け教育研修等の教育関連企画のコンサルやコーディネーターとしても活動中。

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