「図書室を学びのハブに」読解力育成を中心とした東洋英和女学院の学び

 2024年に創立140周年を迎える東洋英和女学院中学部・高等部。同校は、学院標語である「敬神奉仕」を学びの源泉としたカリキュラムを実施している。今回、4名の先生方に対談していただいた。

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インタビューに応じてくださった4名の先生方
  • インタビューに応じてくださった4名の先生方
  • 右から、諸澤珠実先生(数学科・進路指導主任)、吉野瑠璃子先生(国語科)、植田亜里沙先生(図書科・司書教諭)、田中望美先生(英語科)
  • 「『敬神奉仕』は東洋英和の教育の根幹をなすもの」と諸澤先生
  • リニューアルは入り口付近を中心に行われた。可動式のソファも設置し、生徒たちがより集いやすい雰囲気に
  • 東洋英和の図書室には、植田先生を含め専任の司書教諭が2名在籍し、各教科担任との連携を図っている
  • 約5万2,000冊の蔵書数を誇る図書室。奥には自習スペースがあり、勉強終わりに本を借りていく生徒も
  • 「英語でも『読解力育成』を実践したい」と抱負を語る田中先生は、自身も大の読書好きで図書室によく通うという
  • 試験で扱う本文の内容のみならず、「問題文」をしっかり読めているかどうかも見ている、と吉野先生

 2024年に創立140周年を迎える東洋英和女学院中学部・高等部。同校は、学院標語である「敬神奉仕」を学びの源泉としたカリキュラムを実施している。

 中でも、核となる学びのひとつが「読解力」の育成だ。その中心となっている、同校自慢の図書室が2023年夏にリニューアルされた。「図書室をハブとして、各教科がつながり、多角的に読解力を育みたい」というのは、同校で数学科の教員であり、進路指導主任である諸澤珠実先生だ。今回、4名の先生方に「東洋英和女学院らしさとその魅力」について対談していただいた。

キリスト教教育を土台に受け継がれてきた「東洋英和女学院」らしさ

対談者プロフィール
 諸澤珠実先生:数学科、進路指導主任(右端)
 吉野瑠璃子先生:国語科(右から2番目)
 植田亜里沙先生:図書科、司書教諭(右から3番目)
 田中望美先生:英語科(左端)

--まずは、東洋英和女学院の教育理念を教えてください。

諸澤先生:本校の学院標語は「敬神奉仕」。これはキリスト教に基づく自己肯定と他者尊重の精神を意味しています。誰かのために、まず自分が行動する女性を育てたい。「敬神奉仕」の実践者を育むことが私たちの目標です。

 人はそれぞれ、神から授けられた唯一無二の才能「タラント(賜物)」があります。生徒には、自分に与えられたタラントに気付き、感謝し、同じようにタラントを授かっている周りの人たちとともに、より良い世の中をつくっていってほしい。学校が、生徒ひとりひとりのタラントを発見し磨いていく場になれればと、日々考えながら生徒たちとコミュニケーションをとっています。

「『敬神奉仕』は東洋英和の教育の根幹をなすもの」と諸澤先生

植田先生:生徒たちの思考の根底に「他者のために」というキリスト教教育があることを、普段から感じます。140年という歴史の中で、多くの「東洋英和らしさ」が受け継がれてきていて、図書室もそのひとつだと私は認識しています。

--今回、図書室をリニューアルされたとお聞きしています。

植田先生:「図書室は学校の中でどのような立場であるべきだろうか」と考え、本との出会いの場所を意識しリニューアルを行いました。

リニューアルは入り口付近を中心に行われた。可動式のソファも設置し、生徒たちがより集いやすい雰囲気に

諸澤先生:今回のリニューアルで、図書室は「敬神奉仕」の実践者を育むうえで重要な場所だと再認識しました。物理的に校舎の中心に位置する図書室ですが、教育の中心にもなってほしい、図書室が英和生の教育のハブとして存在してほしいと思っています。

吉野先生:国語の授業でも、授業で扱っている教材を図書室の先生方と共有し、それに関連する特集展示をしていただくなど、少しずつ学校全体と連携した図書室になってきていると感じています。

植田先生:授業などで図書室に来る機会があると、生徒たちは本を借りていきます。図書室との接点さえ作れば、自然と本との出会いにつなげられると思います。

諸澤先生:「読む、借りる」目的以外にも図書室に来てもらう取組みとして、図書室と進路指導部で連携し、中学1年生を対象とした「本のキャッチコピーコンテスト」を開催しています。夏と冬の長期休みの課題として出すのですが、提出後にまずはクラス投票があり、その上位者のキャッチコピーを図書室のエントランスに本と一緒に飾り、中1から高3までの全校生徒と先生たちの投票によってグランプリが選ばれます。夏のコンテストでは小説を、冬は小説以外をと指定しています。

植田先生:このコンテストは図書室に足を運んでもらう大きなきっかけにもなっていて、課題の当事者の中1はもちろんのこと、上級生たちも「懐かしい」と言って覗いてくれます。同級生という身近な人からの本のお勧めは、読書の強い動機づけになります。今年で4年目なのですが今後も続けていきたいですね。

東洋英和の図書室には、植田先生を含め専任の司書教諭が2名在籍し、各教科担任との連携を図っている

--進路指導部で実施するのですか。

諸澤先生:はい。進路指導の中で、読解力育成と基礎学力の定着を位置付けており、それは教科を超えたものであるという認識です。

植田先生:図書科はコンテストの運営を担当しています。生徒たちに説明し、取り組むよう促すのは担任の先生なので、資料を作成する際には、生徒にとって分かりやすく、先生にとって説明しやすくすることを心がけています。キャッチコピーは、アウトプットの文字数は少ないとはいえ、本をしっかり読み込まないと考えられないものなので、前年度の作品紹介や、どのように書籍を読めば思いつくかなどのアドバイスを資料に盛り込みました。

吉野先生:この説明資料も夏と冬で違うのですが、提出の仕方についても丁寧に書かれていて、その説明資料を読み何を求められているのかを把握することも、読解力の養成につながっているな、と改めて感じました。

植田先生:これからの時代、本だけを読めれば良いというわけではありません。Webをはじめとしたそれ以外のメディアも用いて、多角的な視点で情報を取捨選択できる人に育ってほしいと思っています。

諸澤先生:また、これまでは進路指導室に置いていた赤本(大学の過去問集)を、2020年から図書室にも置かせてもらうようにしました。それにより図書室で勉強する生徒が増えました。

植田先生:勉強の後に、棚に飾ってあった本を借りて帰る生徒もいます。生徒たちの生活の中に図書室が自然と存在できれば嬉しいですね。

図書室との連携授業で深まる学び

約5万2,000冊の蔵書数を誇る図書室。奥には自習スペースがあり、勉強終わりに本を借りていく生徒も

--授業の中でも、図書室と連動した取組みを実施していると伺いました。

田中先生:私は中2と高1の英語の授業を担当しているのですが、実際のコミュニケーションで使える英語を身に付けることを大切にしていて、プレゼンテーションやグループワークを多く取り入れています。

 たとえば、新年度が始まったころに図書室と連携した授業を行いました。本校にはご家族が海外赴任されるご家庭も多いのですが、そうした生徒たちにビデオレターを送ってもらい、彼女たちの住む国のことを図書室で調べ、英語を使ってプレゼンするという取組みです。グループディスカッションをしながら、デジタルと本の双方を駆使して調べてもらったのですが、図書室を普段利用している生徒たちの中でも、国に関する資料はどこにあるのか知らなかったり、そもそも資料の存在すら気付いていなかった生徒もいたりしました。本を真ん中に置くことで、話が進むという感覚を体験できたのではないかと思います。

植田先生:先生が事前に相談してくださるので、どのような切り口で連携するか考えることができ、授業の内容や生徒のレベルにあった資料の用意につなげげられます。

田中先生:高校生になると、英語の本を1年かけて読んでいきます。今年は『ナルニア国物語 ライオンと魔女』を選びました。『ナルニア国物語』は、伏線が多いだけでなく、物語の底流にキリスト教の教えがあるんです。英語の本をただ「読める」だけではなくて、掘り下げて読んでいく「読解力育成」を、英語の時間でも実践したいです。

植田先生:ナルニア国の解説をしている図書は日本語で書かれていますが、難解なものも多いです。そこから必要な情報を取り出し、生徒自ら英語にするということなので、とてもレベルの高い授業だと思います。

田中先生:英語も日本語も、言語という「道具(ツール)」です。その道具を使いこなせるようになれば得られる情報も増え、表現の幅も広がることを生徒達には伝えています。

「英語でも『読解力育成』を実践したい」と抱負を語る田中先生は、自身も大の読書好きで図書室によく通うという

吉野先生:国語科では、おもに授業で使う本を図書室で用意してもらっています。たとえば、授業で一斉に同じ漢和辞典を使用する場合など、図書室でクラス人数分用意していただいています。

 一度、植田先生と相談して、「分類表クジ」を作り、引いた分類表にある棚の中から好きな本を探して1時間で紹介文を書く、という取組みを実施したことがあります。図書室では、好きな本のある棚しか行かないことが多いと思うのですが、クジを引いたことで覗いたこともないような棚の中から本を選ぶ体験ができて、良かったと思います。

植田先生:そのあとに「図書室へ実際来てみると、面白そうな本、読みたい本がたくさん見つかります」と言う生徒の声を聞いて、図書室に来てもらうきっかけ作りがやはり大切なんだなと実感しました。

諸澤先生:やはり、生活の中に図書室が自然にあることで、多くの本と出会うことができるんですよね。その意味では、礼拝も大きなきっかけになっています。東洋英和の先生方は読書家の方が多く、礼拝時のお話の中で、聖書のにつながる形で書籍を紹介する先生もいます。礼拝で紹介された本を手に取る子は多いです。

植田先生:礼拝で取り上げられた本はすぐに借りられていき、その日のうちに何件も予約が入ります。

田中先生:先生が嚙み砕いた説明とともに伝えてくださるから、生徒も受け取りやすいのかもしれません。

入試問題を通して伝えたいメッセージ

--中学入試の過去問題を拝見し、読む、書くというスキルを重視しているように感じています。

吉野先生:国語科では長文が出題されますが、「長文の出題」にこだわっているわけではなく、内容を考えた結果この長さになっています。

 自分自身の生活と作品を重ねて思考する力、そして自分の考えを相手に伝わるように表現する力も入試問題を通して見ています。それらの力は、普段から自分の言葉を使って表現することで付いてきます。相手のことを理解しようとする、自分のことを相手がわかるように伝える、そうした姿勢を重視しています。

 長文を記述させる問題を出すのも特徴です。このような問題では問題文をしっかりと読み、聞かれていることを明確にしてから記述することが大切です。たとえば2023年度A日程の国語では問題文に「ふつう、やばい、悲しい以外の言葉で書きなさい」と記載しているのですが、それでも使ってしまう子がいます。「問題文をしっかり読めているか」、これも大きなポイントです。

試験で扱う本文の内容のみならず、「問題文」をしっかり読めているかどうかも見ている、と吉野先生

諸澤先生:算数は問題用紙と解答用紙を分けず、問題用紙に直接書き込む方法を採用しています。算数でも「相手にどう伝えるか」の視点をもってほしいと思っています。また、理由を説明させる問題があることも特徴です。答えが1つに決まることの多い算数という教科においても採点者がいると意識し、「伝わるように書けるかが大切だよ」というメッセージです。

 理科、社会も同様です。写真や図、資料を多用し、問題文と併せて見ることで、そこにある答えを導き出せるように作問しています。問題文中に必ずヒントがあります。

 ある生徒が「東洋英和の問題は、説明しなければならない問題が多いから、普段から親に説明をして、ちゃんと伝わったかどうか確認していました」と言っていました。自分が理解していないと他の人に説明できませんし、伝わるように言葉を選ぶ力も必要です。とても重要な視点だと思います。

--そのような力をもって入学した生徒さんたちの「タラント」を見つけ、磨くために、授業で大切にしていることとは。

田中先生:英語科では生徒が自分たちで読み解き、調べるという体験を大切にしています。ですから、グループディスカッションやプレゼンテーションの機会を、できるだけ多く設定するようにしています。

吉野先生:国語科でもできるだけひとりひとりの声を拾うようにしています。たとえば、同じ登場人物に対し「ビビり」という言葉で表現する人もいれば「臆病」とか「弱気」と表現する人もいます。自分1人では思いつかない表現を出し合うことで、言葉をたくさん獲得し、読解力や表現力の幅を広げていければと思っています。

 読解力とは何かを考えたとき、相手の言いたいことを理解して、さらに自分の言葉で表現することが自己理解や他者理解につながるのではないかと思います。私たちの教育理念は「敬神奉仕」であると説明しましたが、そのために必要な力でもあると思います。

諸澤先生:「相手を受け入れ、自分ができることをする」。この姿勢は、進路指導でも同じだと思います。本校の進路指導でいちばん重視するのは「自分(生徒)がどうしたいか」です。生徒がありたい姿になるために、どうするのか。その実現のために、教員も一緒に考えています。

--最後に、受験生に向けてメッセージをいただけますか。

田中先生:入学後の英語の勉強に不安を抱えて入学する人もいるかもしれませんが、英語を学ぶことで実践的なコミュニケーション能力を培い、世界が広がる体験ができるように準備しています。ぜひ楽しみにして、入学してください。

植田先生:新入生向けのガイダンスでは、毎年「図書室は英和生の財産ですよ」とお話しています。図書室という空間もそうですし、1冊1冊の蔵書も、英和生のかけがえのない財産です。そして、それは英和生が作り上げていくものです。ぜひ、一緒に作り上げていきましょう。

吉野先生:諦めずに長文を読み切る“体力”と、受験勉強も含め、自分が体験してきたことひとつひとつを大切にしながら、受験当日を迎えてほしいと思います。国語は、実際の生活の中でどれだけ思考し、言葉を使っているかが影響してくる教科です。小学校の行事など自分が体験し、感じたことをご家族やお友達と言葉で分かちあう時間を大切にしてもらえると嬉しいです。

諸澤先生:算数はちょっと苦手だなと思っている人も多いかもしれません。解き方を覚えてなんでもそれにあてはめようとするのではなく、問題をよく読み、何を聞かれているのか、“素直に”考える練習を重ねることで、楽しく勉強していってほしいなと思います。

 皆さんが入学してきてくれることを楽しみにしています。

穏やかな先生方の笑顔が印象に残る取材となった

--ありがとうございました


 140年という歴史のなかで培われた東洋英和らしさを大切にしつつ、そのうえで今も先生方が連携して「学校をより良くしていこう」としているようすがよくわかる対談だった。

 東洋英和が大切にしている「読解力」には、素直に現状をまっすぐに見つめ、その中でできることをする、という意味があるように感じた。これは受験勉強という苦しい時間の中でも、実践できるのではないだろうか。どのような状況にあっても、自分にできることをしていくことで、受験生の明るい未来につながることを願っている。

東洋英和女学院 公式Webページ
《田中真穂》

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