今、灘中合格日本一の塾が「非認知能力」に注目する理由

 灘中学校合格実績日本一の「浜学園」が、大手中学受験塾としては全国初の「非認知スキル教育プログラム」を導入する。浜学園学園長の松本茂氏と、東大とハーバード大で教授を歴任後、開成学園校長を9年間務めた柳沢幸雄氏との対談から、その背景に迫る。

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東大とハーバード大で教授を歴任後、開成学園校長を9年間務めた柳沢幸雄氏と、浜学園学園長の松本茂氏
  • 東大とハーバード大で教授を歴任後、開成学園校長を9年間務めた柳沢幸雄氏と、浜学園学園長の松本茂氏
  • 東大とハーバード大で教授を歴任後、開成学園校長を9年間務めた柳沢幸雄氏と、浜学園学園長の松本茂氏
  • 浜学園学園長の松本茂氏
  • 「非認知スキル教育プログラム」の教材。低学年では好奇心を引き出すテーマで自由な発想を楽しみ、高学年では入試にも対応できるテーマで思考力も養う
  • 東大とハーバード大で教授を歴任後、開成学園校長を9年間務めた柳沢幸雄氏

 灘中学校合格実績日本一の「浜学園」が、大手中学受験塾としては全国初の「非認知スキル教育プログラム」を導入する。

 なぜ今、点数のみで評価される受験対策の専門塾が、数値で測れない非認知スキルの教育に注目するのか。

 東大とハーバード大で教授を歴任後、開成学園校長を9年間務めた柳沢幸雄氏と、浜学園学園長の松本茂氏との対談から見える、全国屈指のトップ進学塾が「非認知スキル教育」を始める背景とは。

(インタビュー聞き手:リセマム編集長 加藤紀子)

認知スキルと非認知スキルは「両輪」で必要

--灘中への合格実績では日本一の進学塾・浜学園がなぜ今、テストの点数では測れない「非認知スキル」の育成を始めるのでしょうか。

松本氏:認知スキルとは、点数で測られる力のことです。そこで最初に前提としてお伝えしたいのは、非認知スキルは“非”が付くからといって、認知スキルの対極にあるものではないということです。

 我々は、思考力や表現力、想像力といった非認知スキルを早い段階で身に付けておくことは、認知能力の向上にも必ずプラスになる。非認知スキルと認知スキルを両輪で身に付けていくことが必要だろうと考えています。

--非認知スキルが認知スキルを伸ばすのに役立つことは研究でも明らかになっていますね。ノーベル経済学賞を受賞したシカゴ大学のジェームズ・J・ヘックマン教授による調査からは、質の高い幼児教育を受けた子供たちの将来の賃金や生活が恵まれているのは、幼児期に獲得した非認知スキルにあったことがわかっています。

松本氏:私もまだ授業の現場に立っていますが、非認知スキルの土台が築けないまま過ごしている子供たちが増えてきたなという実感があります。

 その背景には、核家族化による人間関係の希薄化や、自然体験・外遊びの減少などがあるでしょう。非認知スキルは先取り教育のようなものでは身に付きません。むしろ、これまでは家庭で、周りの人々との関わりや日常の体験を通じて無意識に身に付いたものです。だからこそ、我々がそれを補うものをつくりたいというのが、今回「非認知スキル教育プログラム」を導入した背景です。

浜学園学園長の松本茂氏

 いうまでもなく、我々の本業は、生徒に中学受験で志望校に合格してもらうことであり、非認知スキルの育成は、入試で測られる認知スキルを伸ばすためでもあります。ですが、我々が始める理由は、けしてそれだけではありません。生徒が合格した「後」も、その先に続く長い人生を、自分の強みを生かし、やりたいことを見つけて主体的に生きていってほしい。そのために、この教育は避けて通ることのできない不可欠なものだと思うからです。

1つの正解を求めるものではない

--浜学園が提供する「非認知スキル教育プログラム」とはどのような内容なのか。どのような力が伸ばせるのかなど、簡単に教えていただけますか。

松本氏:いわゆる一問一答形式ではなく、扱うテーマはほとんどが“正解がない問題”です。子供たちが今もっている知識や経験をベースに考えられるテーマで、コミュニケーションを通じてさまざまな見方があることを知り、大人も子供も一緒に意見を出し合いながら考えをまとめていく教材です。

浜学園「非認知スキル教育プログラム」の教材。低学年では好奇心を引き出すテーマで自由な発想を楽しみ、高学年では入試にも対応できるテーマで思考力も養う

--親子で取り組むのが望ましいのでしょうか。

松本氏:Web上のプラットフォームから1人で実践できますが、保護者も参加し、意見を言ってもらう場面を作っています。親御さんがお子さんの勉強を見るとなると、どうしても「ここ模範解答と違うよ」とか、「もっと丁寧に答えなさい」といった「ダメ出し」になりがちですが、この教材ではそういったことにはなりません。これは、親子で対等な目線に立って取り組める教材なのです。

 正解がないので、子供の意見を聞いて、「へー、そんな面白い考え方ができるのか」などと大人のほうが感心させられることもあります。ですから親は、子供の考えを頭から否定せず、認めてあげる。子供は認められれば自信を付け、もっと考えを深めたい、そのためにもっと知りたい、いろんな体験がしたいと思うようになります。こうした過程で、非認知スキルが育まれていくのです。

認知スキル中心の教育は生成AIに置き換えられる

--柳沢先生にお聞きします。受験は点数で測られた結果で合否が決まる「認知スキル」勝負ですが、そのための対策を行う進学塾が「非認知スキル」の育成にも舵を切ったことに対してどのようにお感じになられましたか。

柳沢氏:予測困難な時代を生きる子供たちには必ず必要だと確信し、学習塾として真っ先にスタートされたことにはとても大きな意義があると思います。コロナ禍をきっかけに今やオンライン授業は当たり前になっていますが、浜学園では、塾でも授業のオンライン化は絶対に必要になるはずだからと、コロナ禍の10年以上も前から導入されていたそうですね。その「先見の明」からすれば、今回の「非認知スキル教育プログラム」も、10年後には世の常識となっているかもしれません。

東大とハーバード大で教授を歴任後、開成学園校長を9年間務めた柳沢幸雄氏

--これまでの日本の教育において、認知スキルだけでは十分ではないと感じたエピソードがあれば具体的に教えてください。

柳沢氏:まず認知スキルと非認知スキルざっくりと定義すると、テストで測れる能力は認知スキル、それ以外のものが非認知スキルです。

 認知スキルは過去の経験値、非認知スキルは未来のポテンシャル(潜在的な力)とも言い換えられます。今、認知スキルを象徴するものといえば、ChatGPTに代表される生成AIではないでしょうか。

 生成AIは、大量のデータから特徴やパターンを学習し、新しいデータを作り出します。生成AIが答えてくれるのは、過去に積み上げてきた経験値から抽出されたものであり、これから先、何が起こるかはわかりません。

 これまでの日本の教育は、この過去の経験値による認知スキルが中心でした。その結果、非認知スキルが育っていなかった日本の土壌からは、日本の技術を世界に引っ張り上げるような、「これはいけるぞ」という未来の“目利き”を育てることができなかった。日本経済衰退の背景には、認知スキルに依存し、前例踏襲主義できたこれまでのやり方が限界にきているということがおおいにあると思います。今こそ教育に必要な部分というのは、生成AIにはできないこと、これから先のことをどう考えるかという非認知スキルに関わることなのではないかと思うのです。

--つまり、日本の教育が育んできたのは、認知スキルに優れた人材だったと。それだけだと、生成AIに置き換えられてしまうということですが、なぜ日本では非認知スキルが育たなかったのでしょうか。

柳沢氏:それは、受験や試験というものに対する「公平性」という呪縛です。点数で合格・不合格を決めるのは公平である一方、点数化できない非認知スキルは受け入れられづらいという問題がありました。

松本氏:私たち親世代は、そうした「公平性」を重んじた教育を受けてきたため、認知スキルという目に見える価値を測ることにしか慣れていません。しかし、今の子供たちの世代では、新しい学習指導要領にも記されているように、変化の速い、予測困難な時代を生きて行くために、これまでの知識・技能という認知スキルに加えて、自ら課題を見付け、自ら学び、考え、判断して行動できる力、つまり非認知スキルを身に付けていく必要がある。実はこれはすでに入試にも反映されていて、自分なりの考えを問われたり、新しいアイデアを求められたりといった「正解のない」問題が増えています。今こそ、これまでの教育に対する価値観を問い直し、アップデートすべきときではないでしょうか。

開成流「非認知スキル」の伸ばし方

--柳沢先生は、子供たちの非認知スキルを伸ばすコツはどういったところにあると思いますか。

柳沢氏:「個別最適化」をすることです。言い換えると、子供は「今生きているこの瞬間が、自分にとって幸福だ」と感じられる環境があれば、自分の人生を歩きやすくなるのです。

 一例をあげると、開成では中学1年生の1学期をいちばん大事にしています。

 彼らは皆、小学校ではトップクラスにいた子たちです。それが開成に入ると、5月末の最初の中間試験で、見たこともない順位を取るわけです。そこでその子の価値観の軸が、認知スキルで測られる点数と順位だけだと、大半の開成生は自信をなくし、潰れてしまいます。

 そこで、開成ではそうならないような仕掛けを作っています。開成には縦割りの文化があり、運動会をはじめとした学校行事では高2生、高3生が中1生の面倒を見るのですが、そこで先輩たちから「成績なんて進級できれば良い」「定期試験の勉強は前日だけで良い」「好きなことをとことんやったら良い」といった処世術を教わります。先輩たちの生き様を参考に、自分なりの居場所や過ごし方を見つけていくんですよ。

--良くも悪くも、親にしてみれば余計なことも(笑)、先輩たちから認知スキル以外の価値観を教えてもらうんですね。

柳沢氏:そうなったらもう、親は放っておいて大丈夫。自分なりに幸福でいられる方法がわかれば、認知スキル一辺倒の価値観には縛られず、学校生活が存分に楽しめるようになりますからね。

 私は毎年、受験を終えた合格者発表会で、保護者に向けて「ご卒業おめでとうございます」と言っていました。親子で密着した子育てはこれで終わりです、と。

 子供は認知スキル以外の部分を、親以上に先輩や仲間から学び、成長していきます。それこそ、好きなことに散々打ち込み、勉強ではクラスで下位に居たのに、あるときから急にスイッチを入れて東大に受かっていくような生徒は毎年大勢います。そこはやはり、目標に向かう主体性や、自分ならできると思える自己肯定感、やり抜く力といった非認知スキルが育っているからなんですね。

 だから親は、「勉強しなさい」なんて言わなくて良い。言ったところで子供は聞いていませんから(笑)。

中学受験「合格後」も伸びる子の共通点

--松本先生は浜学園で長くご指導されてきた中で、伸びる子と伸び悩む子の差に非認知スキルが影響していると感じることはありますか。

松本氏:難関中に合格する子には2つのパターンがあります。1つは「どうしてもこの学校に行きたい」という思いが強く、自分で勉強に向かう子。つまり、主体性や自ら考える力といった非認知スキルがある子です。もうひとつは、親の「この学校に行ってほしい」という意向に沿って勉強する子です。

 合格後は、やはり前者の子のほうが伸びる気がします。ただ、後者のタイプでも、柳沢先生のお話にあったように、中高6年間の環境で見違えて成長する子もいます。 

柳沢氏:親の言うとおりに頑張って合格できたとしても、いつまでも親が成績や点数だけで評価し続ければ、多くの子供は挫折感しか感じられなくなります。先ほど言ったように、「志望校に合格したのだから、後は伸び伸びやりなさい」と親が手を放せれば、子供は非認知スキルをぐんぐん伸ばしていけるのに、わが子が合格できたからとさらに期待し、「東大か医学部に行きなさい」「そのために塾に行きなさい」などと干渉し続けるとおかしなことになる。せっかく子供が良い環境を得たのに、親がそれを台無しにしてしまうこともありますね。

松本氏:そうやって、子供が親のアクセサリー感覚になってしまっている親子関係は少なくないと感じます。特に思春期における非認知スキルの育成には、親子関係はとても重要ですね。

非認知スキルが育つカギは「子供の話を聞くこと」

--親子関係の中で、子供の成長に何がもっとも大切だと思いますか。

柳沢氏:心理的安全性」です。親は無条件に自分の味方をしてくれる、最後は受け入れてくれるという絶対的な信頼感があれば、子供は順調に育ちます。

松本氏:小学生というのは、親の価値観がすべてだった幼少期までとは違い、自分なりの価値観が少しずつ形成されていく段階です。このたび、浜学園が提供する「非認知スキル教育プログラム」では、そうした成長段階において、子供が自分の価値観を親に受け入れてもらえるきっかけになればと思っています。

 認知スキルだけに注目してしまうと、100点満点のテストの、間違ったところや出来ていないところをどうやって埋めるかという発想になりがちです。ところが、このプログラムには正解がないので、「うちの子はこんな発想をするのか」と、親の想像を超えるような新たな一面が見えてくることがあります。そうしたコミュニケーションを通じて、「そういう考えもあるね」と親が子供を認める場面が増え、子供が安心して何でも言えるような信頼関係が築かれることを期待しています。

柳沢氏:東大生にアンケートをとると、その多くが「小さいころ親がよく自分の話を聞いてくれた」と答えるそうです。まさに、子供が親にたくさん話をしてくれるコツは「聞く」こと。そのためには「2:1の原則」で、親が話すのを3割ほどに抑えれば、子供が話す割合は自然と7割になります。このようなプログラムを活用し、「2:1の原則」で子供の考えを聞いてみようとフラットに向き合えば、親子の間に良好なコミュニケーションが生まれるのではないでしょうか。

「人生を幸福に生きる力」を育てる

--浜学園はこの「非認知スキル教育プログラム」を通じて、子供たちがどのように育ってほしいと思いますか。そして保護者はこれから子供たちをどのように見守り、サポートしていけば良いのか。保護者に向けてのメッセージをお聞かせください。

松本氏:柳沢先生のお話にあったように、生成AIの進化などによって、塾も非認知スキルの育成を避けては通れなくなります。私たちは認知スキル、非認知スキルの両輪を「教育」と捉え、従来の認知スキル中心のカリキュラムに、この非認知スキルのカリキュラムを加えることで、自分の人生を自ら切り拓き、幸福に生きていける力を子供たちに育んでいきたいと思います。

 そして、保護者の方には、このプログラムを通じて、点数や偏差値にはダイレクトに現れないお子さんの個性や強みに気付き、その成長を子育ての道しるべにしていただけたらと願っています。

--ありがとうございました。


 どんな時代であろうと「子供の将来のためになることを何かしてあげたい」という保護者の思いは同じ。知識や技能といった目に見えるものを授けるのか、考え方や経験といった目に見えないものを授けるのか。どちらの機会も与えて力を伸ばしてくれる、浜学園の「非認知スキル教育プログラム」におおいに期待したい。

新時代の社会で求められる非認知スキルを今、浜学園で身につける
非認知スキル教育プログラム(SDGsカリキュラム)

PROFILE
松本茂 進学教室浜学園学園長(社会科担当)
 塾講師歴24年。13年間社会科主管をつとめたのち、2022年4月に学園長に就任。小学館ドラえもん探究ワールドスペシャル「SDGsでつくる わたしたちの未来」監修や朝日小学生新聞の記事を利用した時事問題解説動画『かれとぴ!』の制作・配信など、小学生向けに、世の中の動きに興味をもたせるための活動にも力を入れている。

柳沢幸雄 東京大学名誉教授、前・開成中学校・高等学校校長
開成高校卒、東京大学大学院工学系研究科化学工学専攻修士・博士課程修了。ハーバード大学公衆衛生大学院准教授・併任教授在任中には、ベストティーチャーに選出。東京大学大学院新領域創成科学研究科教授を経て、2011年から9年間開成の校長を務めた。2020年4月より北鎌倉女子学園学園長。シックハウス症候群、化学物質過敏症研究の世界的第一人者。
《吉野清美》

吉野清美

出版社、編集プロダクション勤務を経て、子育てとの両立を目指しフリーに。リセマムほかペット雑誌、不動産会報誌など幅広いジャンルで執筆中。受験や育児を通じて得る経験を記事に還元している。

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