開成・麻布の校長と考える…自分で考え行動する力をどう育てるか

 少子化が加速する一方、中学受験熱は年々高まりを見せている。さまざまな課題を抱える日本の教育の未来はどうあるべきか。早稲田アカデミーは、難関私立校として名高い開成・麻布の両校長とともに、教育に対する想いを語り合う座談会を実施した。

教育・受験 小学生
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左から開成中学校・高等学校 野水氏、麻布中学校・高等学校 平氏、早稲田アカデミー 丸谷氏、同社 竹中氏
  • 左から開成中学校・高等学校 野水氏、麻布中学校・高等学校 平氏、早稲田アカデミー 丸谷氏、同社 竹中氏
  • 開成・麻布の校長と考える…自分で考え行動する力をどう育てるか
  • 開成中学校・高等学校 校長 野水勉氏
  • 麻布中学校・高等学校 平秀明氏
  • 開成中学校・高等学校 校長 野水勉氏
  • 麻布中学校・高等学校 平秀明氏
  • 左から早稲田アカデミー 丸谷氏、開成中学校・高等学校 野水氏、麻布中学校・高等学校 平氏、早稲田アカデミー 竹中氏

 総理大臣や起業家、学者、音楽家など、多彩な分野で活躍する人材を多く輩出してきた開成と麻布。いずれも中学受験の難関校としても名高い。早稲田アカデミーでは教務・中学受験部門の責任者2人をファシリテータとして、開成・麻布両校の校長先生をゲストに迎え、座談会を行った。社会が激しく変動する今、教育が大切にすべきこととは。

【ゲスト】
平 秀明氏:麻布中学校・高等学校 校長
野水 勉氏:開成中学校・高等学校 校長

【ファシリテータ】
竹中孝二氏:早稲田アカデミー教務本部長 兼 NN麻布クラス ※1 総責任者
丸谷俊平氏:早稲田アカデミー中学受験部長 兼 NN開成クラス ※2 総責任者 兼 SPICA ※3 総責任者
※1 小6対象の「NN志望校別コース」の麻布中対策クラス/※2 小6対象の「NN志望校別コース」の開成中対策クラス/※3 最難関中学受験専門塾

明治時代から継承される揺るぎない教育理念

竹中氏:開成・麻布といえば、伝統ある名門校。卒業生は総理大臣や起業家、学者、音楽家など、多彩な分野で活躍されていますね。まずは、学校として大切にされている教育理念についてお聞かせいただけますか。

野水氏:開成は、幕末の進歩的な知識人であった佐野鼎(かなえ)先生が1871年(明治4年)に創立され、現在創立154年になります。校名は、中国の古典『易経』にある言葉で、「人知を開拓、啓発し、人としての務めを成す」という意味の「開物成務」が由来です。また、校章にもなっている「ペンは剣よりも強し」という言葉通り、開成ではどんな力にも屈することのない学問・言論の優位を信じる精神を大切にしてきました。もちろん、勉学に勤しむだけでなく「質実剛健」であることも、これまで受け継いできた重要な教育の柱です。進取の気性をもち、予測不能な未来に向かっていくには、自分自身の中に揺るぎない心構えの基礎を培ってほしいという願いが込められています。そして、自ら積極的に新しい分野を開拓し、育んでいくという意味での「自由」も、開成が大切に育ててきた財産です。

開成中学校・高等学校 校長の野水 勉氏

平氏:麻布は、幕末の下級武士から政界へと歩を進めた江原素六(そろく)先生によって1895年(明治28年)に創立され、130周年を迎えます。江原先生が掲げた教育理念は「青年即未来(せいねん すなわち みらい)」。青年こそが未来の扉を開く担い手であり、未来そのものであるという信念です。江原先生は校長として学内の寮で生徒と共に暮らし、銭湯では生徒に背中を流してもらいながら戊辰戦争の時に受けた傷について語るような気さくな人柄で、「江原さん」と呼び親しまれていました。今でも麻布では生徒は教員を「さん」付けで呼ぶのですが、これは当時からの教員と生徒との強い信頼関係が受け継がれているからでしょう。

 人生の礎となる中高6年間を通じて、教員は常に青年と共にあり、その豊かな可能性を信じるということ。そして生徒は、十分な教養を身に付けた1人の人間として確立し、物事の本質を見極め、人として何が正しいかを自分で判断できる力をもって社会に貢献すること。これが麻布の目指す教育の根幹です。

麻布中学校・高等学校 校長の平 秀明氏

「自分で考え、行動する力」はどのようにして育つのか

丸谷氏:実は私は開成出身なのですが、中学に入学した当初、良い意味でイメージとの違いに驚かされました。開成は勉強だけではなく文武両道で、部活動や行事にも一生懸命取り組んでいますね。

野水氏:とくに中学1年生は忙しいですね。入学して早々、先輩の指導のもと、校歌と応援歌を覚え、伝統行事である筑波大学附属高校とのボートレース対抗戦の応援に臨みます。

 それが終わると、5月の運動会に向けた練習が始まります。運動会では中1から高3まで学年縦割りで8つの色で組分けされ、生徒たちのエネルギーが爆発します。主役は競技の選手だけではありません。生徒は、応援、審判、アーチや応援歌の制作など、さまざまな分野で活躍します。運動会は、生徒の汗と涙の結晶です。

 運動会の前後では、中学1年生の生徒たちの顔付きがまったく異なります。殻を破り、生き生きと活力がみなぎる。開成の運動会はそうした役割を果たしているとても大事な行事です。

丸谷氏:面識のない方でも、開成の卒業生だとわかると、お互い合言葉のように運動会での組の色を聞いてしまいます(笑)。

野水氏:それくらい母校愛が詰まった、開成を象徴する大きな行事ですね。

竹中氏:麻布を代表する行事といえば文化祭でしょうか。

平氏:そうですね。もっとも麻布らしさが発揮される行事が、ゴールデンウィークに開催される文化祭でしょう。毎年3万人近く足を運んでいただいていますが、お客さまに喜んでいただくだけではなく、生徒皆、自分たちが楽しむために全力を尽くす非常にマニアックなイベントです(笑)。そのマニアックさが小学生男子の琴線に触れるのか、文化祭にいらっしゃったお子さま自身が「僕も麻布に入りたい」と思ういちばんのきっかけになっているようです。

 生徒たちは1年前から翌年の文化祭に向けて実行委員会を結成し、本格的な準備に取りかかります。数百万円近い予算の折衝・配分など、すべてを生徒だけで取り仕切るので、うまくいかなかったり、失敗したりすることもあります。しかしそのたびに議論を重ね、どんな改善が必要なのかを問い直します。後輩はそんな先輩の姿を見ながら、自分たちの代になれば当事者としてどうあるべきか、何を守り、何を変えていくべきかを考え続けるのです。

丸谷氏:自分たちで考えて主体的に取り組む。学校行事は両校とも 「自分で考え、行動する力」を育む絶好の機会ということですね。

野水氏:生徒の裁量の幅が大きい分、当然ながら責任も伴います。自分たちで知恵を出し合い、意見を集約し、取りまとめて実行する。テストの点数では測れないが、人生を生きていく上では重要なライフスキル、つまり「非認知能力」を養うという点で、こうした学校行事の果たす役割は非常に大きいのではないでしょうか。

開成・麻布の授業は、徹底した「アクティブラーニング」

竹中氏:お子さまが中学受験を控える保護者にとっては、学校でどのような授業が行われているのか興味深いところだと思います。開成も麻布もいわゆる「授業参観」がないそうですが、実際の授業のようすをお聞かせいただけますか。

平氏:麻布の授業では、単なる知識のインプットという一方通行ではなく、生徒たちがいかに教員から影響を受けて、それぞれの科目に興味関心をもつことができたかという点を重視しています。そのため教員はオリジナルのテキストやプリント教材をこだわって準備しています。

 中でも麻布で大事にしているのは、相手に自分の考えを論理的に伝える力です。そのため、授業でもテストでも解答に行き着くまでのプロセスを必ず書かせますし、日々の学習の中でのレポートだけではなく、中3では近現代の文学作品について原稿用紙100枚におよぶ卒業共同論文、高1では政治・経済から歴史、哲学まで多岐にわたるテーマで修了論文を書くなど、「書く」ことを主体とした教育を行っています。

野水氏:今でこそ学習指導要領に「アクティブラーニング」が謳われていますが、開成も麻布も、授業はずっと昔からアクティブラーニングを実践していますね。

 文部科学省準拠の教科書を使っているものの、開成では麻布と同様、教員は教科書の内容をそのまま教えることはありません。たとえば中学校の国語では、SNSでの誹謗中傷に問題意識をもった教員が、関連する本を読ませたうえで、インターネットの匿名性や正義について対話形式の授業を行い、対話の中で思案し自分なりの考えを深めていくといったように、教員自らがテーマを選び、教材を作り、自分が伝えたいもの、生徒に知っておいてほしいことをテーマに授業を進めていく授業が多いですね。

平氏:麻布でも、教員が投げかけたさまざまな問いに対して、生徒たちが議論する機会を大事にしています。こうした授業では答えは1つではなく、議論の結果をクラス全体で共有することによって、生徒たちは多くの視点を得ることができます。こうして互いに視点を掘り下げたり、広げたりすることで、主体的な学習姿勢や論理的・批判的思考力はもとより、幅広い人間理解や豊かな感性を育んでいくことができるのです。

野水氏:やはり人と人ですので、教える側の思いがこもっていないと生徒に響く授業にはなりませんね。

平氏:一方で生徒も、たとえ相手が教員であっても、言われたことを鵜呑みにせず、ときに疑いをもつこと。常に自分の頭で考え、自覚と責任をもって行動すること。この点は、両校の授業に共通するところではないでしょうか。

同校の授業について振り返る麻布中学校・高等学校 校長の平氏

開成・麻布が考える「面倒見の良さ」とは

丸谷氏:志望校を選ぶ際、保護者から「入学後にしっかりサポートしてくれる面倒見の良い学校に入学させたい」という声が聞かれることがあります。両校では保護者が期待する「面倒見の良さ」について、どのようにお考えですか。

野水氏:入学相談でも「成績で遅れをとったらどのようにサポートしてくれますか」というご質問を受けることがあります。極端に成績が落ちてしまい、フォローが必要な場合には、卒業生がティーチングアシスタントとして補講に取り組むケースもありますし、メンタル面で不安がある場合は、早い段階でスクールカウンセラーと生徒自身とを繋ぎ、必要に応じて担任、保護者を交えて状況を理解し、見守る体制を整えています。

 しかし一方で、「大学受験に向けた徹底した指導」という意味での面倒見は、一概に賛成できません。6年後の大学入試を目指して膨大な課題で追い込むというのは、弊害も大きいように感じます。世の中に出れば、答えのない課題の方が多いのですから、日々の授業を通じて、疑問に感じる心や課題を見つけるスキルを会得し、自ら考えて乗り越えていく力を身に付けてもらいたいと思っています。

平氏:保護者の方が受験校の本質的な面倒見の良さについて知りたいとき、学校に対して「自分の子供が学校の中で不祥事を起こしたときに学校側はどういう対応をしますか」と質問するのがいちばん良いと思います。校則が厳しい学校なら停学・退学という事例もあるでしょう。もちろん、犯罪行為やいじめ、暴力は絶対に許されません。ですが、それ以外のことで、生徒が失敗したり、ときに道に迷ったりしたとき、どのような対応をするかは「面倒見」につながるものだと思います。

 麻布では、その失敗のタイミングこそ「教育の始まるところ」だと考えています。我々が入試を行って受け入れた生徒ですから、自分たちの教育の中でそうなったとしたら、それは学校の責任です。生徒が失敗したり挫折したりしたからといって放り出すことは絶対にしません。

 麻布の「面倒見」について考えるとき、それは教育理念である「青年即未来」に通じるものです。多感な中高時代は失敗もするし、間違うこともあります。でも、自分で気付いて立ち直れば良いのです。その子が再び立ち直るまで、わが校の教員は熱意をもって、全力で向き合います。

野水氏:麻布と同じく開成でも、生徒の進級にあわせて学年の教員陣ももち上がります。各教科、同じ教員が中高6年間、同じ生徒たちを見守り続けます。こうして生徒と教員が時間をかけて築いた信頼関係があるからこそ、手厚い指導ができるのです。

平氏:「親」という漢字は、「木の上に立って見る」と書きます。ところが最近は、子供を失敗させまいと、木から降りて子供のそばに近寄りすぎる大人が増えているのではないかと感じます。

 子供は失敗から学びます。転ぶと体が痛みますが、その痛みは経験しないとわかりません。失敗して痛い思いをしたからこそ、次は手で支えよう、転ばないような道を選ぼうといった対処が自分でできるようになっていくのです。失敗があってこそ、初めて自分で生きる力が身に付きます。

 中学受験においても、親は自分の思い通りに子供を導きたいと思うのではなく、子供の成長を1歩引いたところから見守り、わが子を1人の人間として扱うことが大切なのではないでしょうか。

野水氏:私も、昨今の教育熱の高まりは、子供たちが好奇心の赴くままにのびのび学ぶ姿と逆行しているのではと心配になることがあります。開成では「中学に入学したら保護者は干渉しないで見守ってください」と強くお願いしていますが、過保護・過干渉が続いてしまうご家庭も稀にあり、結果的にお子さまがやる気をなくしてしまうということもあります。

「面倒見」について見解を述べる開成中学校・高等学校 校長の野水氏

竹中氏:私も中学受験の指導を通じて、子供たちが失敗したり、壁にぶつかったりしながら大きく成長していく姿を常々目にしています。子供自身が自分と向き合い、今後どうするべきかを自分で考えて決めること。もちろん我々は、そのようなときこそ子供たちを全力でサポートします。保護者の方々には、わが子が自ら成長していく過程を、ときには我慢強く向き合っていただくこと。子供の成長にもっとも大切なのは、周りの大人が長い目で温かく見守る姿勢だと私も強く共感します。

中学受験を目指している子供たち、そして保護者へ

丸谷氏:中学受験を目指している子供たち、そして保護者の方へメッセージをお願いします。

野水氏:小学校では、同調圧力からあまり自分の個性を表に出さずに過ごしてきた子供たちが、開成に入ると多様な分野で突出した熱意や知識をもっている仲間と出会い、安心して自分の素を出せるようになります。そうすると、お互いの能力を認め合い、高め合っていくことができるのです。

 近年もさまざまな分野で卒業生が活躍しています。生徒たちにはそうした先輩の活躍から刺激を受け、グローバルにリーダーシップを発揮できるイノベーティブな人材になってほしいと願っています。ぜひ、小学生の皆さんは自分の個性や、今もっている好奇心や探究心を大切にしてほしいですし、保護者の方はお子さまとの豊かで実りある体験を重ねていただけたらと思います。

平氏:麻布は「自由な学校」だと言われます。その自由は生徒の身なりや服装などを指すかのように捉えられがちですが、決してそのような表面的なものではありません。校則のようなもので外から縛るのではなく、生徒の内面・精神の自由を保障することで、互いの個性をぶつけ合い、認め合うことができるのです。

 麻布にはこのような「自由」があるからこそ、生徒ひとりひとりが自分の中に「ぶれない軸」を作れるようになります。AI技術が進展しても、人間は自分で判断できる力をもち続けなければいけません。家庭でも安心して親子で向き合える環境をつくり、お互いの意見を言ったり、気持ちに共感したりしながら、自分で判断し、行動できる力を育んでいってほしいですね。

丸谷氏:早稲田アカデミーから両校へ進学していった卒業生を思い出すと、好奇心と熱意に溢れた生徒が多かったように思います。両校とも卒業生が多才に活躍されているのも、こうしたエネルギーをもつ子供たちの個性を伸ばし、切磋琢磨しながら成長できる環境があるからこそですね。

竹中氏:本日は貴重なお話をありがとうございました。

左から早稲田アカデミー 丸谷氏、開成中学校・高等学校 野水氏、麻布中学校・高等学校 平氏、早稲田アカデミー竹中氏

 野水校長、平校長のお話から、開成・麻布両校が昔も今も人気校たる所以を垣間見ることができた。自ら学びに向かう姿勢は、決して周りの大人が先回りしてお膳立てできるものではない。成長の起点は、失敗や挫折、疑問に感じる心や批判的精神にあり、これらを大切にすることで、予測不能な未来でもしなやかにたくましく生き抜く力が育まれていく。両校の教育の奥行きをうかがい知ることを通じて、これからの教育に必要なものをあらためて考えさせられる対談だった。

小3~小6生対象
最難関中合格プログラム

小学6年生対象 NN志望校別コース
早稲田アカデミー「2025年度 中学入試報告会」
《畑山望》

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