海外教育ICT事情…アメリカで1億ドル資金調達、オランダでスティーブ・ジョブズ・スクール

 9月2日、17日とこれまで2回にわたりブレンディッドラーニング(BL)をご紹介してきました。アメリカの教育界で2015年に入ってにわかに注目を集めているのが地元密着でBLを実践しているマイクロスクール(micro school)と呼ばれる教育機関です。

教育・受験 小学生
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◆自由な教育の国オランダのスティーブ・ジョブズ・スクール

 現在、おもにアメリカで普及し始めているブレンディッドラーニング(BL)ですが、BLの基本理念を究極の形で体言している学校がオランダにあります。オランダでは5歳から18歳までが義務教育とされ、必要な科目や達成目標は法律で定められていますが、自分で学校を選ぶことができ、近隣に行きたい学校がなければ自由な教育理念に基づいて自ら学校を設立することも可能です。また、学習カリキュラムの自由度が比較的高いことも特徴です。

 オランダ全体の7割超は私立の学校ですが、校舎は地元自治体から提供され、公立私立にかかわらず生徒数に応じて補助金が給付されます。16歳までは学費も無料です。教員給与も政府から支給されます。国が関与するのはおもに教員の資格試験と生徒の学力試験で、それぞれ一定基準を満たしていることを証明するだけです。「金は出せども口出さず、質的基準は担保する」オランダには、政府が教育委員会を通じて教員を統率し、教員が生徒を管理することを目的とした、箸の上げ下げまで指示するようような細かい規則や通達はありません。

 このように、世界でもっとも教育の自由化が進んだ国のひとつと言われるオランダでは、モンテッソーリやシュタイナー、イエナプランなど20世紀初頭にヨーロッパで考案された先進的な教育法が各地で根付いています。こうした環境のもとで究極のBLを実践しているのがSteve Jobs School(SJS)です。もともとは、娘の学校を見学に行ったIT技術者の父親が、自分が子どもの時に受けた授業と形式がほとんど変わっていないことに愕然とし、10年、20年先を見据えた「新時代の教育」をスローガンにして2013年に設立した学校です。子どもたち一人ひとりの個性を伸ばし、主体性や社会性を育むという教育方針に賛同する輪が広がり、今ではオランダ国内で20校以上がSJSとして共通の理念に基づいて「新時代の教育」を展開しています。

 SJSの対象年齢は、日本の幼稚園と小学校に相当する4歳から12歳です。校名にアップルコンピューターの創始者の名前を付けている通り、全生徒にiPadが配布され、それで授業も教科書も時間割も宿題も管理しています。そのため、毎日重いランドセルを背負って登校する必要はありませんし、たとえば足を骨折して学校を休んでも自宅で学習することができます。教員は生徒の学習理解度をオンラインでリアルタイムに分析して細かい点まで的確にアドバイスし、保護者も我が子の学習の進捗状況や課題の有無を随時確認することが可能です。

 SJSでは年齢別の学年もなければ、○年○組というクラスもありません。生徒の学力や興味関心に応じて学習カリキュラムを個別に作成し、生徒は時間割に従って「算数」「言語」「科学」「図工」「地理歴史」「自然」など科目別のアトリエ(教室)を移動しながらマイペースで学習を進めます。ですから、同じ部屋で異なる年齢の生徒がそれぞれの課題に取り組んでいることもあります。各部屋では科目の専門教員(コーチ)が指導に当たり、実生活で役に立つようにとデジタル機器に頼らない理科の実験や図工の製作のような複数生徒で取り組むプロジェクト型学習も実施されます。

 学習量が特定の科目に偏り過ぎたり大きな遅れが発生しないように、6週間ごとに生徒と保護者が担任の先生と相談しながら学習計画を見直します。規定された時間数通りに授業を消化さえすれば理解度にかかわらず自動的に進級できる日本と違い、「何を・いつまでに・どの程度学習するのか」各自が目標を設定して、ひとつ目標をクリアすると次の単元へ進むという達成度基準進級制です。

 当然ながら全員が一緒に受ける「定期」試験もありません。毎日の始業・終業時間も個々の生徒により違いますし、全員が一斉に休む休校日もなく、各自の休日は家庭の都合に合わせて決めます。このようにSJSでは、子どもたちが自分のニーズに合わせて計画を立てマイペースで学び、大人はそれを最大限尊重してサポートする体制が取られています。

 次回は、日本におけるBLの具体的な導入方法や教育ICTとの相性について考察したいと思います。
《小松健司》

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