【EDIX2018】新学習指導要領はICT導入の「追い風」か…東北大学大学院・堀田龍也氏

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東北大学大学院情報科学研究科・教授の堀田龍也氏
  • 東北大学大学院情報科学研究科・教授の堀田龍也氏
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 2018年5月18日に行われた「第9回教育ITソリューションEXPO(EDIX)」での特別講演には、東北大学大学院情報科学研究科・教授の堀田龍也氏が登壇した。「新学習指導要領に向けてどう動く? 教育情報化の最新動向と実践への期待」と題された講演では、全国でのICT環境の整備に関する自治体ごとのばらつきを前提としたうえで、2020年に控える新学習指導要領実施に向けた具体的な準備について語られた。

産業界に向けて、教育現場のリアルを伝える



 講演冒頭、堀田氏は、教育現場へのICT環境整備の遅れを指摘しながらも「教育現場にとって浮世離れしたものは採用されない。この講演で学校現場のリアルを少しでもお伝えし、示唆できたら」と、展示会場にてブースを構える出展社にも届くであろうメッセージを投げ掛けた。

 現在教育現場に導入されているICT機器のおもな活用方法は「大きく写す」「映像を見せる」ということが主流だ。大きく投影し、ビジュアルのインパクトをもって伝えることで、低学齢、低学力、障害をもった子どもへの情報伝達を効率的に行うことができる。また、映像を見せることで説明やレクチャーにかかる時間を短縮し、その分の時間をディスカッションや考察といった授業のなかでもっとも重要なことにあてることができる。

 すべての教育環境にICT環境を導入しようという動きは、世界各国で起こっている。1990年代の終盤、韓国・イギリスではすでにその環境は整い、新しい教育をスタートしている。少しでも遅れまいと、2005年までに全教室にICT環境を整備するという目標を掲げていた日本は、その実現がかなわず、辛うじて2009年のスクールニューディール政策において、せめて教員用の機器だけでもと必要最低限の目標を再掲示して動き出した。それでも完全には整備しきれていない現在にあって、国ないし教育委員会の使命は、国内での整備の足並みを少しでも揃えられるよう、著しく遅れをとってしまうような地域がないよう、財務や制度上のバックアップを行うことだと、堀田氏はいう。

「常設」することで生まれる、ICTの自然な活用法



 堀田氏によれば、ICT環境の導入に際しては、あくまでも全教室に「常設」することが重要だという。特別なものとしてではなく、常にそこにおくことで日常的な活用が生まれる。その例として、2010年の文科省の発表では、ICT環境の整備状況と学力に相関があることが示されている。身近に環境が整えられているからこそ、ツールとしての使用機会も自ずと増え、情報の取得をはじめとして学習への利用の幅も広がる。

 教育現場へのICTの導入は、教師にとっても意義あるものだ。たとえば、児童生徒に対して示したいものがある場合、プリントや配布資料ではなく、実物投影機を使用することで、資料作成などの授業準備の手間を大幅に削減することができる。さらに児童生徒から授業内で出てきた要望や質問に応じて、別の資料を投影したり、拡大して見やすくしたりするなどの臨機応変な対応も可能だ。

 ICTを導入するからといって、授業の内容自体を大きく改編する必要はない。紙をはじめとするオールドメディアを廃するわけではない。学校生活のなかにICTを取り入れることで、あくまでも「ほんの少し」便利になっただけ、「ほんの少し」選択肢が増えただけだ。記録用としてカメラ機能を使う、発表にプレゼンテーションソフトを活用する、資料を提示する際に拡大機能・ポインター機能を使用する、グループワークの際に共同編集ソフトを活用するなど、授業の一部をアレンジするだけでよい。当初叫ばれてきたような「テクノロジーが学習スタイルを劇的に変える」というのはメディアが仕立てあげた言説にすぎない。新規性や先進性による驚きや興奮は一過性のもの。そうではなくて、毎日を便利にするためのツールとして、少しずつ地道にICT環境を整備していくことが大切だと、堀田氏はいう。

新学習指導要領で謳われる、情報活用能力の重要性



 改訂が目前に迫った新学習指導要領についても、話題を展開した。歴史的に見ても、今回の改訂は非常に大きなできごと、とりわけ情報化においては大きなインパクトを与えていると、堀田氏はいう。

 今後の日本社会の人口分布を見ると、急速な人口減少社会へ進むことになる。それゆえ、人間が行ってきた多くの仕事や業務を機械がとってかわるということも、昨今話題になっていることである。その流れのなかにあって、機械に任せておけば大丈夫という安易な考えは危険だ。情報を獲得することひとつとっても、検索結果のなかからふさわしいものを取捨選択する力、客観的に読み取る力、それを再利用し活用する力といった一連のスキルが試される。情報に翻弄されることのないよう、情報活用能力をあらかじめ深めておくことが重要となる。新学習指導要領の中心に据えられている柱「知識技能の習得」「思考力・判断力・表現力の育成」「学びに向かう力・社会に生かそうとする力の涵養」は、まさにこういった背景によるものだ。

 さらに、今回の改訂が大学入試改革と同時期に行われることにも注目したい。過去の改訂における世間の反応について、語弊を恐れずにいえば「初等中等教育が変わっても高等教育が変わらなければ日本の社会は所詮変わらない」というものだった。それに対し、今回は大学入試改革と合わせた実施ということで、社会全体がラディカルに変化する可能性さえ秘めているのである。加えて、この講演前日に開かれた政府の未来投資会議では、大学入試センター試験に代わって導入される予定の「大学入学共通テスト」に、プログラミングなどの情報科目を導入する方針が確認されたということも書き添えておきたい。

 ICT環境と習得すべき力との関係を考えるとき、かつては「ICTを活用することで情報活用能力を身に付ける」という方向性にあった。しかし今は「情報活用能力を身に付けるためにICT環境を整備する」という目的と方法が逆転していると、堀田氏は指摘する。そしてそのスキルの習得は、新学習指導要領でも総則に示されるとおり、最重要事項となっているがゆえに、ICT環境の整備は喫緊の課題なのである。この課題を迅速に解決すべく、政府は教育ICT環境の整備のために1,805億円の地財措置を講じた。中教審の出した「第3期教育振興基本計画」における測定指標を達成するために、政府の気概すら感じる動きだ。

恐れるなかれ、ICTは「あなたのためのもの」だ



 最後に堀田氏は、実際の教育現場で、デジタルネイティブである児童生徒に接する教員に向け、いくつかのアドバイスを投げ掛けた。日進月歩の技術革新の最中にあって、教える立場である教員も、児童生徒とともにやりながら覚えるという、ある意味プライドを捨てる覚悟、普段の授業のなかで少しずつ活用していくミニマムスタートの奨励などである。

 先駆的な取組み事例を増やすことや、機器の先進性を競う時代はもう終わった。産業界との現場の乖離を埋め合わせ、それぞれの教育現場にふさわしいICT環境を導入すること。それは間違いなく、次世代を担う子どもたち、そしてそれらの育成に携わる教員にとって前向きな一歩となるはずである。
《野口雅乃》

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