多様な環境でグローバル市民育成、2019年度開校「ドルトン東京学園」注目の理由

 “学習者中心”の教育メソッド「ドルトンプラン」を実践する共学校「ドルトン東京学園中等部・高等部」が2019年4月に東京都調布市に開校する。日本の中高一貫校でドルトンプランを全面的に導入するのは同校が初。

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ドルトン東京学園 理事の高野淳一氏
  • ドルトン東京学園 理事の高野淳一氏
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 学習者中心の教育メソッド「ドルトンプラン」を実践する共学校「ドルトン東京学園中等部・高等部」が2019年4月に東京都調布市に開校する。日本の中高一貫校でドルトンプランを全面的に導入するのは同校が初。ユニークな学びのプロセスや教員陣、さらにはグローバル市民を育てるための実践的な英語教育などがメディアで注目され、保護者の関心も高い。ドルトンプランの特徴や狙い、育てたい生徒像などについて、理事の高野淳一氏に話を聞いた。

100年前に米国で提唱されたドルトンプラン



 ドルトンプランは、米国のヘレン・パーカースト女史が1908年に提唱し、ひとつの教室から実験的に始めた教育メソッドだ。生徒ひとりひとりが自らの能力や要求に応じて課題と場所を選んで学習する仕組みをつくった。その後、マサチューセッツ州の町・ドルトンの高校で導入され、1919年には幼児から高校生までの一貫教育を行う「Dalton School」をニューヨークに創設。以来、ドルトンプランを導入した学校は、イギリスやベルギー、オランダ、オーストラリア、韓国など、世界に広がっている。

 “詰め込み教育”への問題意識から生まれたドルトンプラン。実は日本でも大正時代に欧米教育を視察した文部官僚・教育者の澤柳政太郎氏によって紹介されたが、教育界へ広がることはなかった。このドルトンプランに、今回ドルトン東京学園の創設に加わった河合塾は40年前から注目していたという。

 幼児童の知能開発にいち早く取り組んでいた河合塾が1976年、ニューヨークのDalton Schoolと提携し、東京と名古屋に「ドルトンスクール」を開校。以来、毎年輩出する卒業生から、「ドルトンプランに基づく教育を、上の学年でも実践してほしい」という声が多数寄せられていたという。そうした中で今年7月に東京都知事から設置認可を取得し、2019年4月、男女共学の中高一貫校「ドルトン東京学園中等部・高等部」が、世田谷区成城に隣り合う調布市入間町でスタートすることとなった。

ドルトン東京学園の正門と校舎
ドルトン東京学園の正門と校舎

自ら学び続け、協働する人材を育成する



 生徒の知的な興味や探究心を原点に“学習者中心教育”を掲げるドルトンプランは、「自由」と「協働」の2つの原理をもつ。

 「自由」とは、アカデミックフリーダム、学問の自由だ。ひとりひとりの知的な興味を引き出し、自主性・創造性を育む。そして「協働」は、さまざまな人々との交流を通じて社会性と協調性を身に付ける。この2つの原理のもと、知を共有しながら互いの学びを高める3つの柱として、「ハウス」「アサインメント」「ラボラトリー」が設定されている。

 「ハウス」は、授業を受ける「クラス」とは別のもの。複数の学年とハウス担任から成るコミュニティだ。下級生が上級生に勉強の仕方を相談するなど、学年の壁を超えた日常的な交流を促進し、多様な価値観に触れる場となる。開校6年目には、中等部1年生から高等部3年生までの、学年の壁を超えた生徒でハウスを形成することになり、「卒業して何年たっても同じハウスの出身者同士で集まるなどコミュニティが続けば」と高野氏は期待する。

 「アサインメント」は、課題解決型のシラバスの役割をもち、生徒自身による学びの設計をサポートする。アサインメントによって、単元の中で自分がどの位置にいて、その学習がどういう目的や目標をもつのか、自らの学びを俯瞰できる。「メタ認知」のできる学習者に育つことで、目標や状況に応じて計画を立て、物事を遂行できる大人になる力を養うのが狙いだ。

 「ラボラトリー」は、授業を通した学びを深め、定着させる場所・時間のひとつで、時間割に組み込まれている。教員のアドバイスを受けたり、グループ学習で学び合ったり、授業で得た知識を個人でさらに深めたりと、生徒は自由に自らの学びを設定できる。前述のアサインメントと組み合わせて学びのサイクルを回しながら学習習慣を身に付けていく。

 この3つの柱のバランスは、学校によっても異なるが、ドルトン東京学園では、「ハウス」「アサインメント」「ラボラトリー」の3つをバランスよく重視して自主性、社会性、創造性を高めていく方針だ。

「グローバル市民」を育成する手厚い取組み



 「生徒たちには日本という枠の中だけにとどまらず、世界に活躍の場を広げていってほしい」という考えから、ドルトン東京学園では英語は最低限のスキルと捉えている。しかし具体的な手段として「話すこと」に注力するわけではないという。

 高野氏は「4技能5領域の中で、これまでなおざりにされてきた経緯もあって最近は、英語を話すことに力を入れていきましょうとよく言われます。しかし話す力を高めるにはまず、書くことからです。日常の挨拶程度なら、聞いて話す反復練習で事足りますが、当校が目標とするCEFR(ヨーロッパ言語共通参照枠)B2(6レベル中、上から3番目)のコミュニケーションレベルでは、論理的かつまとまりのある内容を話したり聞き取ったり、あるいは場合によっては議論する力が求められます。まずは書く力を高め、そのうえで話す力へつなげていく。総合的に生徒の発信力を高める学習を進めていきます」と説明する。

 検定には実用英語技能検定(英検)に加え、ケンブリッジ英語検定を取り入れることも検討しているほか、英語圏で実際に使われている教科書を採用し、ICTを活用した海外のネイティブスピーカーとのオンライン英会話学習も用意する。英語教員はいずれも海外での留学・仕事経験をもち、4技能5領域を伸ばす力を十分にもつ人材を揃えた。また校内にもネイティブスピーカーを少なくとも学年に1人配置。1学年100人の生徒比からすると手厚い対応だ。

 語学に関する学校行事も設定されている。中等部1年時にブリティッシュヒルズ(福島県)で英語漬けになり、中等部2年時にオーストラリアで約2週間のホームステイ、高等部1年時にアジア圏での海外研修を予定している。「英語を学ぶ」→「英語で学ぶ」→「英語を使って協働する」と段階的にレベルを引き上げ、英語を使って英語以外の教科を学ぶCLIL(内容言語統合型学習)にも取り組んでいく。

ドルトン東京学園のラーニングコモンズ
ドルトン東京学園のラーニングコモンズ

ユニークな教員陣とドルトンプランにもとづく教員研修



 英語以外の教員もアカデミックだ。たとえば生物が専門分野の先生は博士号をもち、研究テーマは魚につく寄生虫と培養マスト細胞の理科教材への展開。研究と生徒に教えることが大好きで、「生徒に細胞培養実験をさせたい」とすでに準備を始めている。情報が専門の先生もまた、ロボットの世界大会(WRO・First Lego League)へのエントリーをもくろんでおり、2018年10月から12月にかけてはレゴを使ったプログラミングで小学4~6年向けに宇宙エレベーターの競技会を開催するといい、熱血の先生が多そうだ。

 もちろん、すべての教員がドルトンプランの研修を受講済みで、ニューヨークDalton Schoolの教育哲学や手法を知る研究者の話を聞き、またドルトンプランの導入校が公立・私立ともに多いオランダから先生を招聘したり、逆に現地研修へ出かけたりもしたという。

 河合塾グループの学校と聞くと、大学受験への保護者の期待も高そうだ。校内にカレッジカウンセラーを配置するほか、河合塾グループとの連携ももちろん計画しており、海外トップ大進学プログラム「AGOS×K(アゴス・ケイ)」から海外大進学ノウハウのサポートを受けることも視野に入れているという。

多様性を確保するための入学試験とクラス編成



 2018年12月にはいよいよ帰国生入試が、来年の2月には一般入試がそれぞれ中等部で始まる。

 帰国生入試は国語・算数・英語作文・英語個別面接で、海外暮らしの価値観をもつ生徒を若干名受け入れたい意向だ。一般入試は、4科型と2科型のほか、「思考力型」と「プラス型」「英語型」を設けている。思考力型は教科の枠にとらわれることなく筆記とグループ面接のみで行われ、筆記で思考力と表現力を問い、グループ面接では「協働」に合致しているかどうかを見る。プラス型は国語・算数・個別面接に加え、英語以外の分野での入賞経験など文化的・社会的、あるいはスポーツにおける突出した才能をもつ生徒が対象となる。そして英語型は、英検準2級または同等以上の英語力。これは、帰国生入試の基準には合わないが、小さい頃に海外生活をしていた生徒や高い英語力をもつ生徒がおもな対象となる。

 高野氏は「本校が大事にしていることの一つに“多様性”があります。バリエーションのある入試で、学校全体の多様性を確保できれば。いろんな生徒がいて、にぎやかに盛り上がっていくといいな、というのが私たちの願いでもあります。

 多様性の確保という意味で、もうひとつ、あえて文系・理系、あるいは、国立大学、医学薬学といったコース分けはしません。分けてしまうとクラスの中に、同じ志向をもった同じ勉強をする子しかいなくなり、それはすごくもったいないと思うのです。せっかく多様な生徒がいるのに、似たような進路を目指す子ばかりの環境で多感な時期を終わらせていいのかな、と。

 東大を目指す子もいれば、芸術方面へ行く、あるいはデザイナーになるために専門学校へ行く、というように、いろんな生徒がひとつの教室にいたほうが活気が出るし、実社会に出ればいろいろな人たちと付き合ったり、仕事をしたりするわけですから、そういう状態を学校の中にもつくりたい。そうやって当校で6年間過ごし、巣立っていった生徒が、10年、20年の時を経て再び集ったら、それはまた楽しいと思うのです。コース分けをしない代わりに、特に高等部の後半は選択科目の自由度を高くして、自分の進路に合わせた授業の組立てができるようにします」という。

ドルトン東京学園の講堂
ドルトン東京学園の講堂

生徒と教員が力を合わせて学校をつくっていく



 もちろん現代段階では具体的になっていないこともあるが、高野氏は「これからつくっていく学校なので、生徒にとって良いこと、必要なことはどんどん取り入れていく。いったん決めたことでも、変えたほうが良ければすぐに変えていきます」と語り、フットワークの良さを強調した。最後に高野氏に、受験する生徒たちへのメッセージをもらった。

 「ドルトン東京学園は、来年からスタートするまったく新しい学校で、ドルトンプランを実践する、ほかにはない個性豊かな学校です。これから数年間は、学校の中身をつくっていく段階ですので、来年入学する生徒さんたちはパイオニアであり、チャレンジャーです。私たちも皆さんと一緒に学びながら学校をつくっていきますし、その中で皆さんの意見もどんどん取り入れていきます。新しい学校、新しい歴史をつくる…そういうワクワクした経験をしにきてください」

ドルトン東京学園 理事の高野淳一氏
インタビューに応えるドルトン東京学園 理事の高野淳一氏

 学校説明会は年末に向け月に2~3回のペースで開催され、2018年5月に完成した校舎も見学できる。説明会のほか、前述の宇宙エレベーターのロボットプログラミング企画に加え、11月23日(祝・金)には森上教育研究所の森上展安氏と教育ジャーナリストの後藤健夫氏による対談イベントの開催も予定されているとのことで、要チェックだ。

 自由と協働。この2つの原理に基づき、ドルトン東京学園は生徒像・学校像をしっかりと見据えて準備を進めていると感じた。国内の各校が主体的・対話的で深い学びをいかに取り入れるかで悩んでいるなか、日本の教育界に間違いなく新風を巻き起こすだろう。生徒と先生がどんな学校をつくっていくのか、数年後が楽しみだ。
《柏木由美子》

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