国内事例1「失敗しないICT環境整備」
鹿児島県総合教育センター 情報教育研修課 木田博氏
鹿児島県の児童生徒用PCの整備率は全国第2位で、県内の市町村間に格差がないことが特徴だという。木田氏にも、GIGAスクールの問合せが急速に増えてきているとのことで、今回は、鹿児島市の事例をベースにICT環境をいかに導入すればよいかがガイドされた。
学習者用PCを選択する際に失敗しないポイントでは、文科省が標準仕様を示した端末以外の機器選定の視点が述べられた。ポイントは以下の3点。
安定して動作・稼働すること
安価であること
簡単で機能がシンプルであること
またその他のデバイスについても選択のポイントが紹介された。
指導者用のデバイス
学習者用PCより多少スペックが高いほうがよい。キーボード、無線で大型提示装置に遅延が少なく投影できる仕組みが必須。
デジタル教科書
整備当初の利用促進のキラーコンテンツとなる。特に指導者用のデジタル教科書が有効。
充電保管庫
シンプルなつくりで一度に多くのPCを充電できるものがよい。ワイヤレス充電は若干価格が高い。過充電防止機能はほぼ不要。設置場所を考慮して選択すべき。
サーバー
学校、教育委員会の手間を極力減らし、本来の業務に専念させることが重要。学習者用サーバー等は、クラウドを活用することが前提だが、利用するためには各自治体のセキュリティポリシーとの整合性を図りながら部分的な改訂を進めていくのが望ましい。
大型提示装置
普通教室および特別教室には常設。電子黒板は65インチ程度が適正で安価。大型テレビ型はノングレア(非光沢)加工で映り込みを防止。児童生徒の動線を妨げない安全確保は必須。
ネットワーク
最大の児童生徒数で接続しても快適に使用できることが必要。ケーブルやスイッチングハブも10年先を見通した整備が必要。
一方でソフトウェアの選択では、教員が「教える」ためのソフトウェアから児童生徒が「学ぶ」ためのソフトウェアに変化していくとした。
授業支援ソフト(協働学習)では、画面転送、画面共有、端末一覧共有などの機能は必要。また1人1台の環境ならば、これまで複数人で利用していた学習者用のデジタル教科書もたいへん有効になると考えられる。統合ソフトは、ワープロ、表計算、プレゼンテーションソフトを共同で作業できる仕組みがあればなおよいとした。また、これからのキーワードとして、個別最適化学習用のドリルソフトがあげられた。
最後に木田氏は「実現したい授業のイメージを明確化することが重要」と強調。授業でどんなことをできるようにするのか、どんな能力を育成するのか、どんな学習効果を期待するのかを、教育委員会が示す必要があるとした。また、管理職研修を通じて、ICTによって変わる働き方や授業のイメージを教職員にもってもらうことが重要と説明。さらに、学校のミドルリーダーが積極的にICTを使わないと学校全体の推進が進まないことも指摘した。
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国内事例2「未来の教室」~beyond~
足立学園中学校・高等学校 情報科 高田昌輝氏
東京都足立区にある男子校で2019年に90周年を迎えた足立学園では、ICT環境の導入に積極的に取り組んできた。
足立学園では、海外との交流や教職員の会議をTeamsで実施している。また授業では、micro:bitでプログラミングしたり、タブレット端末のカメラを利用してプレゼンテーションを行ったり、OneNoteやPowerPointを用いて協働作業で配布物を作成したり、さまざまな取組みを行っている。
高田氏は、「ICTを利用することで、業務時間が35%から37%程度短縮された。その時間でいろいろなことができるようになったといえると思います」という。たとえば、先生方がOffice 365のFormsで小テストを作り生徒たちが答えていく。定着できたかどうかをグラフ等で確認することにも利用。プリントを配り、採点し、集計するといった時間が短縮されている。
Teamsの利用は盛んで、数多くのチャネルが並んでいる。Teamsを使ってOneNote、OneDrive、Word、Excel、PowerPointでの資料の共有や協働作業も行っている。Teamsの新機能では、課題の提出状況が一目瞭然となり非常に便利だという。またTeamsでは担任の先生がその日にあったことを書いたり、課題の提出期限といった連絡事項の伝達、クラスの写真を投稿したりと活発なコミュニケーションにも活用されている。
約5年でICT環境の整備を進めた同校であるが、うまく行ったことばかりではなかった。高田氏からは「導入レベルを高くして詰め込みすぎたこと」「ハード面を一気に揃えなかったこと」「ICTを活用するための授業になってしまったこと」などの反省点も語られた。
それでも、何のためにICTを導入するのかというところに立ち返り、それを先生方がしっかり理解してくれたことから、利用が進んだという。社会で当たり前に使われているものを学校でも導入すれば、学校から社会へスムーズに移行できるようになる。
高田氏は、「現在およそ20万人が登校できない、授業に参加できないでいる。しかしTeamsを活用すれば一緒に学ぶことができるのではないでしょうか」「子どもたちがタブレット端末を持つことで、教育が変わってくるのではないかと、可能性を感じています」とTeamsとタブレット端末の可能性に言及し、説明を締めくくった。
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海外事例
Sean Tierney、Jason Wilmot(Microsoft Corporation)
マイクロソフトは世界中で30年以上も教育ビジネスを展開し、多くの知見やケーススタディをもっている。今回の「GIGAスクール構想」の実現には、マイクロソフト本体の教育部門の経験から来るサポートも心強い。今回は、Sean Tierney氏とJason Wilmot氏が、海外で実際に取り組んだ事例を紹介した。
世界中で起こっている教育改革の背景には、将来的に必要とされる仕事や、その仕方が変わるとの確信から進んでいることがある。そのために、コラボレーション、チームワーク、コミュニケーションなどのスキルの習得方法、個別最適化した教育のあり方が今も模索されている。Sean Tierney氏は「これまで見てきた各国と同じ間違いをする必要はない。デバイスだけでは無理、デバイスに集中すると失敗する」と語る。
シカゴパブリックスクールの事例
そして、アメリカで3番目に大きな学区であるシカゴパブリックスクールの事例が紹介された。同行では先にGoogleを導入したが、変化は起こらなかったという。そこにマイクロソフトが10億ドルをかけてソリューションを実行し、まずはSTEM教育からはじめた。大学やキャリアの準備をするために、卒業までにどのようなスキルを身に付けさせるのか、根本的なことから考えることが重要だったという。
教育プラットフォームの利用にも変化が起こる。OneNoteを生徒が自発的に使い始め、イマーシブリーダーを発見。教師もさまざまな国から来た保護者のために資料を翻訳し始めた。そして、Teams、Azureを使って、個々の生徒のための教育体系を作り、成績データもすべてAzureで作った。デバイスだけでなく、カリキュラムやスキル教育のあり方がいかに重要かを理解できる事例として紹介された。
ブリッジポートパブリックスクールの事例
続いてコネチカット州のブリッジポートパブリックスクールの事例が紹介された。学区にはさまざまなデバイスが混在し管理者を悩ませていた。限られたリソースでスマートにデバイスを管理するためにIntuneを活用。多くの混乱なしにデバイスの使用が始められるようになっている。そして、これまでの単なるブラウザの利用から、カリキュラムにアクセスした有用な利用に発展した。デバイスを使うことで生徒に何ができるのか、教育プラットフォームをどのように利用するのかを考えることが重要だとした。こちらも日本の教育現場が情報化する際の参考になる事例といえるだろう。
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オーストラリアの事例
オーストラリアの事例では、教育現場が情報化していく際の留意点が伝えられた。まずはシナリオを考えることが重要という。「古い教育の方法をそのまま自動化するのではなく、生徒たちがどんな体験をしていくのか、青写真を描く」。そして、「教師のオペレーションを管理して作業量を増やすことなく、単にコンテンツを提供するだけではなく、コラボレーションを図る」。「日中、クラスの中で何が起こるかを考えていく」。
学区などとパートナーを組む際には、新しい未来をつくることが肝要で、以前は複雑すぎてできなかったことを、ICTを活用することで可能にすることが重要だという。
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3時間超のセミナーは満席で、盛況のうちに幕を閉じた。
各セッションの登壇者は熱に溢れた講演を展開し、GIGAスクール構想への大きな期待を感じさせるものとなった。マイクロソフトから日本語版が発行された「教育トランスフォーメーションブック」は、日本の教育関係者に広く周知・共有され、実践に結び付くことを期待させる充実ぶりだ。主体は学習者という視点を決して外すことのないGIGAスクール構想の実現に期待したい。