在宅学習を支えるルネサンス大阪高等学校の教師陣に聞く、これからの学び

 新型コロナウイルス感染拡大により、多くの教育機関でオンライン授業の導入が進む中、ネットでの在宅学習が中心の「通信制高校」に注目が集まっている。今回はルネサンス大阪高等学校の教師陣に、通学コースの特徴、オンライン授業の導入や今後の展望を聞いた。

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左からルネサンス大阪高等学校の久保健都先生、森戸健一先生、山田和弘先生
  • 左からルネサンス大阪高等学校の久保健都先生、森戸健一先生、山田和弘先生
  • ルネサンス大阪高等学校 オンライン学習プラットフォーム
  • 「おもしろ自由研究」のオンライン授業画面
  • 「おもしろ自由研究」オンライン授業配信のようす
  • 「楽しいイラスト」のオンライン授業画面
  • 「楽しいイラスト」オンライン授業配信のようす
  • 「基礎数学」のオンライン授業画面
  • 「基礎数学」オンライン授業配信のようす
 新型コロナウイルス感染拡大により、多くの教育機関でオンライン授業の導入が進む中、ネットでの在宅学習が中心の「通信制高校」に注目が集まっている。生徒ひとりひとりの自己実現を目指すことができる通信制高校は、近年、生徒数も増加中。今回は、ルネサンス大阪高等学校(以下、大阪校)の山田和弘先生(通学コース責任者・「体育」担当)、森戸健一先生(システム責任者・「情報」担当)、久保健都先生(通学コースオンライン授業担当者・「英語」担当)に、通学コースの特徴とオンライン授業の導入や今後の展望などを聞いた。

個別指導・無学年・選択式の授業



--ルネサンス大阪高等学校「通学コース」の概要を教えてください。

山田先生:ルネサンス高校グループは通信制で、基本的にはスマホ・タブレット・パソコンによる自宅でのレポート学習と年4日程のスクーリング(*)です。大阪校の通学コースは基本的に週2日、月曜日と金曜日の登校です。通常の登校日における1日の流れは、朝10時から授業開始、1日6コマの授業を受講して16時20分に終了、部活動があれば18時までとなっています。
*年間25単位履修の場合、年4日の登校が必要。(大阪校は授業で4日、試験で1日の登校に収めることが可能。)

 大阪校の通学コースの生徒数は約100名。1年生が全体のおよそ半数と多く、あとは2年生と3年生が半々で、比率的には女子生徒が多い傾向です。学年別にクラスを分けて、ホームルームやさまざまな企画を実施します。朝の最初の1コマでは、各学年の教室で「個別学習」が行われます。これは、在宅での「レポート学習」を個別に指導するもので、必要に応じてこの時間に担任教師が人間関係や進路についての面談も行います。

 ホームルームと個別学習以外の2~6限目は、基本的に学年を分けず、すべてが選択授業です。学習を深めるための各教科の授業や、アニメ・ゲームが好きな生徒のための授業、スポーツなどで積極的に体を動かしたい生徒のための授業などが、学年の枠を超えて行われています。

 やはり自分の興味がある分野では友達ができやすく、学年を超えて友情が芽生えます。アニメやゲーム、スポーツを通じて他学年との交流が盛んになり、仲良く帰宅する姿をみると、学年を超えたコミュニケーションが当校の大きな特徴だと感じます。

 毎年9月には文化祭を開催。模擬店による縁日やカフェ、全体の企画運営は、通学コースの生徒がメインで行います。もちろん通信コースの生徒や他校の友達、保護者の方も参加しています。ほかのイベントでも、通学コースの生徒たちが一致団結し、教員は最低限のサポートで、生徒主体の流れができています。

不登校だった生徒が安心して通学、進学・就職へ



--どのようなことを期待して、あるいはきっかけとして入学する傾向がありますか。

山田先生:さまざまな生徒が通っていますが、中学時代は不登校だった生徒もいます。通学コースへ入学する不登校を経験した生徒は「もう一度、通学で自信をつけたい」「通学によって友達作りがしたい」といった純粋に学校生活を楽しみたいという本人の意思と、人とのコミュニケーションをまた楽しめるようになってほしいと考える保護者の意向が強い印象があります。

 また、中学校の先輩がいるなど、学年を超えた知り合いや先輩の紹介が多いのも本校の特徴です。卒業生も在校生もルネサンス大阪高校の広報役をしてくれていて、その紹介がとても多い。知っている人がいるという「安心感」は大きいのでしょう。

 保護者から「中学時代とは別人になりました」といった声を聞くと、教員の励みになります。卒業後の人生は、これまでよりもずっと長い。過去にさまざまな経験をしている生徒たちが、自信をつけて大学や専門学校への進学あるいは就職をしていく。高校時代に培った経験が将来につながる。そのサポートができるのは教師にとって、とてもやりがいのあることだと感じます。

休校対応からさらなる進化へ



--コロナ禍により、通学コースの授業に影響はありましたか。

森戸先生:コロナ禍で、突然全国で在宅学習が始まりましたが、当校は通信制で「在宅学習」が基本です。全日制高校の場合は、通えなくなることが学習の機会を失うことに直結しますが、当校では通信生・通学生ともに平常時から、動画視聴後に小テストを実施してレポートを提出する「レポート学習」をしています。そのため、コロナ禍による直接的な影響は少ないといえます。

 最大の課題は、通学コースの“登校して受ける授業”でした。「スクーリング」の授業は予定を先にずらすことで対応できますが、通学コースはこの4月から週2日の登校がはじまるため、新しいオンライン授業の構築が必要となりました。

 生徒たちは普段の在宅でのレポート学習があるので、すでにタブレットやスマホなどを持ち合わせており、すぐに在宅学習を始めることができる環境でした。ただこれまではオンライン授業を配信したことがなかったので、学校のプラットフォームでどう運用するかを検討することから準備を始めました。そこで、以前から情報科の授業研究で試行していたGoogle for Educationを活用することになりました。

--オンライン授業の対応に生かすことができた、通信制高校ならではの経験などを教えてください。

森戸先生:インフラは全日制の学校より整備できていたと思います。たとえば、スクーリングで生徒が来校する際に、休み時間や空き時間に動画学習を継続できるよう、生徒向けWi-Fi環境を用意していました。そのため校内の通信環境は先生方がオンライン授業を配信するうえでの制約にはなりませんでした。

ルネサンス大阪高等学校 オンライン学習プラットフォーム
ルネサンス大阪高等学校 オンライン学習プラットフォーム

 しかし、これまで使用したことがないツールを、生徒が一度も来校できないまま導入したため、はじめのうちは「使い方がわからない」「設定が面倒」という話が出て、逐一担任が対応しました。ただ振り返ると、むしろ先生のほうが使い方では苦労していて、生徒のほうがすぐに慣れたという印象です。生徒はとても柔軟で、やはりデジタルネイティブ世代だと感じました。

--コロナ禍を通じて、今後に大きく変えていこうとしていることはありますか。

森戸先生:将来的には、独自の受講管理システムを基盤に、さらにGoogle for Educationの活用を進めたいと考えています。たとえばMeetやClassroom、Formの日常的な利用、Googleスライドならば生徒が話さずともアドオンで双方向性を確保できる仕組みがあるので、これらを積極的に活用したいですね。また自社の受講管理システムとClassroomを自動的に連携することも進めています。

 通学コースの生徒にオンライン授業のアンケートを取ったところ、使用機器はタブレットがおよそ半数で、残りはスマホを使っていました。入学時に学校が推奨している受講環境がタブレットであることも影響していますが、社会人になればパソコンスキルは必須。大学に進学してもパソコンでレポートを書くことが求められますので、やはり教育効果の観点からも、今後はパソコンでの受講を求めていきたいと考えています。今はChromebookの導入を検討中です。

オンライン授業の試行錯誤は続く



--ユニークな科目がありますが、今回のオンライン授業ではどのように実施しましたか。

久保先生:オンライン授業の科目は、好きなものや動画を共有するパターン、実際にみんなでゲームをするパターン、先生が動いているパターンの3つに大別できます。

 好きなものや動画を共有する授業は「K-POP&アイドル」「アニメ史」など。先生や生徒同士がチャットで意見交換し、動画を共有しています。「ゲーム」の授業では先生がスマホアプリのゲームをしている姿を動画に撮って紹介。生徒が無料アプリをダウンロードしてみんなで一緒にプレイします。先生が動く授業は「家庭科」「おもしろ自由研究」「体力トレーニング&解剖学」などがあります。

森戸先生:「おもしろ自由研究」の授業では、ルネサンス高等学校の理科では“仮説実験授業”(ルネサンス高校の理系科目で採用)を取り入れています。今回のオンライン授業では、そのエッセンスを抽出した形で、生徒に対して問いかけをしながら実験を進めました。

「おもしろ自由研究」のオンライン授業画面
「おもしろ自由研究」のオンライン授業画面

 芸術科の蔭西先生の「楽しいイラスト」のオンライン授業では、生徒が実際に手を動かす作業ができないため、まずやり方を紹介しました。コロナ禍が続くようであれば、キットを送付して実施したり工夫したりできればと考えています。

「楽しいイラスト」のオンライン授業画面
「楽しいイラスト」のオンライン授業画面

 「基礎数学」の川人先生は、もっとも大事なことは生徒自身が考えることであると考えているので、冒頭に問題を出して、生徒に問いかけながら解いていく授業を行いました。今回のオンライン授業では、生徒から聞き取った内容を先生が図に起こして、こんな感じで考えている生徒がいるという形で進めました。将来的には生徒の手元の状態を共有して双方向性を強化したいと考えています。

「基礎数学」のオンライン授業画面
「基礎数学」のオンライン授業画面

--オンライン授業での生徒のようすはいかがでしょうか。

森戸先生:教室での授業では発言しないようなシチュエーションでも、チャットでは発言することは収穫でした。今後、普通の授業でもチャットを利用すれば、さらに充実するという手応えはありますね。

オンライン授業でわかったクオリティの大切さ



--オンライン授業に対する生徒たちの評判はいかがでしたか。

山田先生:実際に3年生の生徒から聞いたところ、過去2年間は登校での授業で、今回は逆に新鮮で楽しかったという声もありました。「K-POP&アイドル」の授業では、保護者も一緒に楽しんだと聞きました。また、「先生が不慣れなりに頑張っている」と言われ、共感を得られました。なかなか画像が出ない、音声が聞こえないというときに「先生頑張って!」とチャットにコメントが表示されて、普段から教師と生徒はコミュニケーションを取れているからこそのやりとりと感じました。

 生徒を対象に実施したアンケートでは、オンライン授業を受けるために通学コースに入ったわけじゃないという声や、オンライン授業にログインしない生徒もいました。各学年の先生方との話し合いを重ねていますが、やはりオンライン授業の質、コンテンツの質を上げること、同時に生徒の意見を細かく吸い上げていく必要があります。6月1日に分散登校で、今年度初めての登校がありました。オンライン授業ではログインしなかった1年生も含めて全員が出席しましたので、通学生はやはり「登校したい」という想いがあるのだと感じています。

久保先生:生徒からのアンケート結果では、「オンライン授業に参加しましたか?」という質問には生徒全員が回答、およそ3分の2の生徒が参加していました。

 参加した生徒の、オンライン授業の感想は概ね良好、約8割の授業に参加していました。また「先生がきちんと映り、何かしている授業」が人気ということがわかりました。国語や社会などの教科ではスライドが多くなりますが、先生が映って何らかのコミュニケーションが発生する授業のほうが、生徒の印象に残りやすく、受講しやすいのだとわかりました。

 オンライン授業の不参加者には、その理由を聞いたところ、「一緒に設定してくれたらやった」との回答がありました。設定が苦手な生徒も、隣に教師がいて一緒にやろう、となれば参加するのだと思います。また、普段YouTubeなどで動画をよく見ている生徒たちにとっては、今回のオンライン授業の画質や音質は、少し気になったところが多かったようです。これも改善点だと考えています。

森戸先生:普段の対面授業でもスライドを使う先生が多く、スライドを満足に映すことが最低ラインと想定していました。先生の顔については画質・音質のクオリティはそれほど必要ないと考えていましたが、蓋を開けると、先生の顔が綺麗に映ることが生徒には大事だとわかり興味深い発見でした。画質・音質を高めるためのキャプチャーユニットなどの機材を調達して、特に理科の実験や広い場所を映す体育などは新しい機材を利用して改善していこうと考えています。

「基礎数学」オンライン授業配信のようす
「基礎数学」オンライン授業配信のようす。「先生がきちんと映り、何かしている授業」が人気

久保先生:「顔出しはOKか?」「声出しはOKか?」という質問では、「いいえ」の回答が多くなりました。前もって顔は出さなくていい、声もミュートにしていい、とアナウンスしていたので習慣化してしまったのだと思います。登校開始したことで顔を合わせられたので、これからは生徒たちの関係性も深まり、「はい」の割合が増えていくのではないかと思います。

--保護者からのご意見やご感想などは届いていますか。

山田先生:登校させるのが不安だったので、オンライン授業はありがたい」という声が寄せられました。ほかの教師からもそうした保護者の声があったと聞いています。実はもっと厳しい意見があると予想していましたが、保護者も子どもたちの安全や健康を最優先で考えていますので、オンライン授業を直ぐに提供できたことは良かったと思います。

通信生にもより質の高いオンライン授業を



--これからの学びについて、御校の展望を教えてください。

森戸先生:大阪校の通信生を含めた在籍生徒数は今約2,700人です。今後は通信生に対してオンライン授業を適用したいと考えています。特に広域通信制で、通いたくても通えない生徒が在籍していますので、まずはそうした生徒たちの受講環境を改善したい。

 スクーリングの授業は、単位認定のためどうしても通学が必要ですが、ほかにも活用できると思います。たとえばMeetを利用して各教科の先生の予約枠を設けて、週に1回1時間、希望があれば指導を行う、ということもできると良いと思います。

久保先生:オンライン授業はまだモデルケースが確立されていません。当校だけではなく、全国の先生も試行錯誤中です。現状は、先生と生徒との双方向のオンライン授業に重点を置きすぎて、生徒同士のつながりをもたせる授業を実施するのが難しく、教師が生徒に“教える”という授業を続けることで、古めの授業スタイルに戻っています。そういった授業をそのままオンライン授業にすると、アクティブ・ラーニングとは離れていきます

 そのためにもモデルケースを作ることが重要です。たとえばGoogleのClassroomでは課題のやり取りをし、Meetでは生徒と先生、生徒同士の交流の場にすることを目標にする。そうした新しい形を設計していき、遠隔地の生徒たちでもアクティブに参加できれば、新たな形が見えてくると考えています。

山田先生:オンライン授業がうまくいかない理由を考えると、もう少し教師が頭を柔らかくすれば、授業をもっと改善できると思います。教師が知らぬ間にオンライン授業のハードルを作るのではなく、オンラインでも対面でも、より良い授業を教師ひとりひとりが作り上げていく段階に入っているのではないでしょうか。生徒の興味を喚起する授業にする。それは結果として生徒のためにもなるので、各先生方と協力して、より良い形を追求していきたいと思います。

--ありがとうございました。

 学びの機会の確保が急務となる現在、ルネサンス大阪高等学校の取組みから見えてくるのは、現場を支える先生と生徒・保護者の関係性がとても近く、心強いことだった。その迅速な対応力は、学習者を中心に日々考えている先生たちの温かさに源泉があるものと考えられる。ルネサンス高校の今後の新しい取組みに期待したい。
ルネサンス高等学校
《佐久間武》

佐久間武

早稲田大学教育学部卒。金融・公共マーケティングやEdTech、電子書籍のプロデュースなどを経て、2016年より「ReseMom」で教育ライターとして取材、執筆。中学から大学までの学習相談をはじめ社会人向け教育研修等の教育関連企画のコンサルやコーディネーターとしても活動中。

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