東大 本郷教授に聞く、マンガで「子供の学習意欲」をあげる方法

 学習マンガ『ねこねこ日本史』は200人以上の歴史人物たちが全員ねこキャラという突飛な設定で小中学生を中心に人気を集め、累計150万部のヒット作となっている。東大教授に「本格派!」と言わしめるその魅力と、子供の歴史への関心を広げるための親の姿勢について聞いた。

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『ねこねこ日本史』
  • 『ねこねこ日本史』
  • 東京大学史料編纂所教授の本郷和人氏
  • ねこねこ日本史・川中島の戦いの回
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 歴史を暗記科目ととらえ、苦手だと感じていないだろうか。東京大学史料編纂所教授の本郷和人氏は「歴史の基本部分は暗記しなければならない。しかし、基本を知っていると自分で思考できるようになる。歴史とは、史実の裏にある背景を考えていく学問。だからこそ、面白い」と話す。

 そんな本郷氏が推薦する『ねこねこ日本史』は日本史に登場する200人以上の歴史人物たちが全員ねこキャラという突飛な設定で人気を集めている。いわゆる4コマギャグ漫画だが、東大教授に「本格派」と言わしめるその魅力と、子供の歴史への関心を広げるための親の姿勢について聞いた。

自発的に子供が勉強の入口に立つためのツール

--本郷先生は、歴史の専門家として、歴史を漫画で学習することに対して、どのように考えていらっしゃいますか。

 子供の興味を自然に引き出すことができるという意味で、とても良いと思いますよ。さすがに歴史を全部漫画で学ぶことは難しいと思いますが、最初の取り掛かりの部分として、勉強だと思わずにその世界に入っていき、自然に勉強につなげていけると思います。

東京大学史料編纂所教授の本郷和人氏

--親としては「歴史漫画で勉強してほしい」と下心をもって渡してしまいますが、子供が「楽しい」と思うことが重要ということですね。

 そうですね。まずは勉強とも思わずに、遊び感覚で読んでいて、楽しく読んでいたらいつの間にか刷り込まれるように歴史の流れや人物の特性をとらえられるようになっているという感じが良いですよね。

 この最初の印象というのは意外と重要です。歴史上の人物に対する「この人は裏で意外とあくどいことをしているな」などといった印象はずっと残るものです。大人になってもなぜかそんな人物だと思って覚えているってことが、私自身にもあります。だからこそ、その最初の出会いとなる漫画は正しくあってほしいと思います。

--本郷先生は『ねこねこ日本史』の帯に「読みやすい、可愛い、だが本格派!」と推薦コメントをよせていらっしゃいます。学習漫画というよりも可愛らしい4コマ漫画というイメージですが、歴史の専門家から見てお勧めなのは、どのような点でしょうか。

 私は猫を飼っていて、猫が好きなんです。『ねこねこ日本史』はリアルな猫がやるようなエピソードが満載で、単純に可愛い。さらに面白いですよね。こういったプラスの感情から入るのは歴史に限らず大事です。勉強するということではなくて、自然に覚えるのがいちばん。その意味で『ねこねこ日本史』は、歴史の入口にぴったりです。ゲームのキャラクターを集めるような感覚で、「可愛いキャラクターの名前を覚えたら歴史の重要人物だった」みたいなイメージで楽しめるのが良いと思います。

 ただし、この本だと足利尊氏なんかも猫ですからね。子供が後で実は足利尊氏は人間のおじさんだって知ってイヤになっちゃうかもしれないですけどね(笑)。

『ねこねこ日本史』川中島の戦いの回

「歴史を知ると、人生が楽しくなる」と伝えたい

--歴史を暗記科目と考え、好きではないと感じている子も少なくないと思うのですが、どうお考えですか。

 たしかに、ある程度覚える必要はあります。それは、考えるための素地として必要ということ。でも、歴史を知っておくと日常生活の中でも見えるものが違ってきますよ。お土産でもらった特産品や、地元の道の造りなどにも歴史が残っています。

 たとえば私は先日、山梨に行きました。歴史を知っておくと、石畳の道を見て江戸時代の名残を感じることができます。さらに、山梨といえば海がない県にも関わらず、マグロの刺身は定番のごちそうです。これは江戸時代に静岡県の駿河湾でマグロ漁が盛んだったことに起因しています。まだ冷蔵設備などがなかった時代に、腐らないで持っていける場所が山梨の甲府付近だったんですね。

 建物を見ても、鎌倉時代に建てられた国宝ですなどと説明を受けても、鎌倉時代がどれくらい前なのか、江戸時代の前なのか、後なのか、それすらも知らない人がいるんですよね。そうすると単に「古いんだ」と受け取るのみになってしまいます。しかし、鎌倉時代が江戸時代の2つも前で、武士の時代だと知ったうえで説明を聞くと、おそらく見えてくるものが違うでしょう。同じところで同じものを見ていても、その人の知識の量で楽しみ方が異なってくるんです。「歴史を知っておくと人生が楽しいよ」と伝えたいですね。

 ですから、歴史を暗記科目だとは思ってほしくありません。そう思わせてしまう背景には入試問題に暗記できているかどうかを問う問題が多いからかもしれません。

 しかし、2018年に告示された高等学校学習指導要領において、「日本史A」「世界史A」に代わって新しく「歴史総合」という科目が設置されました。現場の先生たちは四苦八苦しているみたいですが、これは先生方がフリーハンドを与えられたことになります。つまり、1年間川中島の戦いだけをとことん勉強しても良いし、坂本龍馬について勉強しても良いんです。なぜその史実になったのか、何が起きたのか、調べて推察し研究する。歴史の面白さがわかる授業になっていけば、子供たちにも「歴史は暗記ではなく考えを深める教科だ」とわかってもらえるかなと期待しています。


子供が疑問をもてる状況を作り深められるようにするのが大人の役目

--もうすぐ夏休みです。『ねこねこ日本史』を自由研究に使うとしたら、どのような使い方がお勧めですか。

 ツッコみどころがあれば、調べてみると良いと思います。興味を持ったことを調べるのが自由研究なので、自由研究のために『ねこねこ日本史』を読みましょうというのは違う気がしています。

 子供たちに対して、いろいろと疑問をもつような状況を作ってあげることが大人の役目です。疑問をもったら、その疑問に「良く気付いたね」と言って、じゃあどうやって調べようかと一緒に取り組んであげると良いですね。大人だってすぐには答えられないでしょうから、面倒だとは思うけれど、それに付き合ってあげてほしい。

 私の父親は「お城が好きだ」と言ったら、子供向けや、少し背伸びしたらわかるような本を調べて、出版社まで行って買ってきてくれたりしていましたね。いろんな歴史の書籍を僕の感想を聞きながら買ってきてくれて、それで気付いたら歴史が好きになっていましたね。

--キッカケは子供自身が見つける。そのキッカケを深めていくことを後押ししてあげることが、親の役目なんですね。

 そういうことです。その起点となるのが『ねこねこ日本史』です。可愛いから子供が自発的に読もうと思うでしょう。しかも、4コマ漫画で、ツッコみどころも満載です。「なんで?」「本当に?」が溢れているでしょう。

 ほかにも「日本の歴史」を題材にした漫画は多数ありますが、ひとつのストーリーができ上がっているものがほとんど。できあがったものを読むと、そこから疑問はわきづらいんですよ。『ねこねこ日本史』は、歴史をある程度知っている大人からすると理解しながら読めると思います。でも、何も知らないで読んだ場合、どこまで理解できるかはわからない。しかしそれこそが良いんです。「なぜ?」「何これ?」と言う疑問がわきやすいですから。

 ひとつ注意してほしいのは、子供の興味をしっかり受け止めてあげること。子供は一度大人に「そんなの知らないよ」と言われてしまうと、もう聞きにきてくれなくなっちゃいますから(笑)。

--子供の疑問を受け止めて、一緒に調べるきっかけに使えるのですね。低学年の子供は1人では難しいでしょうか。

 1人で読めないようであれば、一緒に読むのもお勧めです。4コマですから気軽にできますよね。親子で話し合って共有しながら、ここ面白いねとか、なんでこんなことしたんだろうねとか言い合うと、子供の疑問がどんどんわいてくるでしょう。そうやって読んでいくうちに興味がわいたら、その子に合った書籍を探して手渡してあげてください。

 夏休みを利用して旅行に行くのも良いですよね。歴史を知ってから行くとこんなに面白いんだという、原体験をしてほしいと思います。

--ありがとうございました。


 「歴史を知ると、人生が楽しくなる」そう本郷先生は何度も言っていた。極端な話、歴史を知らずとも、就職はできるかもしれない。しかし、「知っていると見えてくる景色が違う、感じるものが深くなる」と本郷先生は強調していた。

 歴史を一夜漬けの暗記科目にするには、余りにもったいない。ぜひこの夏は、出かける先の歴史的人物や背景を調べ、その土地の風景や特産品ができた背景などに想いをはせてみてはどうだろうか。そういった「面白い」という体験こそ、親が子供にあげられる最高のプレゼントであり、それこそが子供の学ぶ意欲につながるのだろう。

『ねこねこ日本史』書店フェア

 『ねこねこ日本史』は連載10周年記念で全国309店舗で、はずれなしの書店くじを開催中(くじがなくなり次第終了)。 『ねこねこ日本史』シリーズの商品を1冊購入ごとにくじが1枚進呈され、くじに記載された景品が必ず1つもらえる。

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『ねこねこ日本史』試し読み(全5回)

第1回 伊達政宗はこちら
第2回 紫式部はこちら
第3回 新選組はこちら
第4回 真田幸村はこちら
第5回 徳川家康はこちら

《田中真穂》

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