【PTA・卒対】「大変さ」の正体…公立小の卒業対策委員実践レポ・その1

 2018年3月卒業に向けて、卒業対策委員になったという都内の公立小学校に通う6年生の子どもをもつワーキングマザーの節子さん(仮名)さんに聞いた、卒業対策委員会の仕事の内容や現状の課題を不定期でレポートする。

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 新年度が始まりはや3ヶ月。配布物などに学年を記入する時にうっかり「5年生」と書いてしまっていた新6年生も1年の4分の1が終わり、自然と「6年生」と書けるようになってきた。そして、小学生最後の1年であることを自覚し、卒業を迎える日が着々と近づいているのを感じながら毎日を過ごしているのではないだろうか。

 規模や名称はさまざまだが、卒業する子どもを持つ親による「卒業対策委員会(卒対)」が発足され、卒業に向けての1年間、記念品制作や祝賀会の準備などの活動を行う。2018年3月卒業に向けて、卒業対策委員になったという都内の公立小学校に通う6年生の子どもをもつワーキングマザーの節子さん(仮名)に聞いた、卒業対策委員会の仕事の内容や現状の課題を不定期でレポートする。

 節子さんの子どもが通う小学校は、比較的都心部にあり、在校生は500人程度。6年生は2クラス60人程度と小規模だ。親は共働き家庭が多く、入学時の学校説明会であった校長からの説明によると、中学受験を目指す子どもが半数ほどいるという。この小学校ではPTAの役員選出は「ポイント制」となっており、会長、副会長、広報部、校外部などの部長クラスの役割を担う場合はポイントが高く、部員はポイントが低い。人数も少ないことから、在学中に2度部員になり2年役割を担うか、1度部長をやることでポイントを多くとり、1年で役割を終えるか…悩むところだという。卒業対策委員会は5年間部長にも部員にもならなかった、あるいは、ジャンケンに負けてなれなかった人が担当することが多いそうだ。

◆卒業まで1年足らずで結束を固める、親の子どもへの想いは皆同じ

--PTA役員決めが例年話題になりますが、親同士の関係に亀裂が入ることはないのでしょうか。

節子さん:この5年間に何も役につけなかった人が卒業対策委員になりましたが、保護者の関係に亀裂が入ったということはないと思います。卒業対策委員を決めた5年生最後の3月の保護者会は、沈黙が続いて気まずい雰囲気になりましたが…。皆さん最終的には納得して役を引き受けていると思います。やはりどの家庭もお忙しいですから、どんどん話を進めていこう、という姿勢で臨んでいるようです。

 地域差があると思いますが、子どもが通う小学校は共働き家庭が多いこともありますし、皆さん忙しいことが前提でお互い協力的だと思います。人数も少なくお互い顔見知りになって6年目ですから、片親の家庭や、生まれたばかりの赤ちゃんや小さいお子さんがいるご家庭など、それぞれ家庭の事情や心情などを知っていて、気遣いながら成り立っていると思います。お互いあと1年足らずに我が子が卒業するのだから、思い出に残る1年を過ごし、卒業式の日を迎えたいという思いは同じだと思います。

--PTAの在り方に対する反発の声もあります

節子さん:働いている親にとっては「仕事に家庭、ただでさえ時間が足りないのに、さらにPTAの仕事まで…」と気が重い方も多いと思います。とは言え、子どもは地域のお祭りや学校行事に楽しそうに参加しているので、親としてもそういった行事に顔を出すと、地域社会やPTAとのつながりを感じられ、子育ては学校と家庭はもちろん、地域社会とも一緒にやっているのだなと実感します。行事に参加することで「やらされている感」「不満」「不信」が薄れていくこともあるのではと思います。

◆PTA・卒業対策委員会にも今や欠かせないICT活用

--卒業対策委員会の仕事はいつごろ、誰から具体的な内容を聞くのでしょうか?

節子さん:これが一番驚いたことなのですが、5年生の3月にメンバーが決まった状態で3か月が過ぎて、6月に初めて引継ぎのための会議が行われました。そもそも3月にメンバーを選出した時期は、前年度の卒業祝賀会も卒業式も終わっていない、アルバムもできていないというまさに佳境の時期でしたから、引継ぎをするという状況ではなく、何も知らないまま引き受けました。仕事の内容を詳しく知らないまま引き受けて、そのまま3か月待つ…というのは精神的に不安でした。

--「説明は3か月後だけど1年よろしく」と言われる…仕事でもなかなかなさそうですね

節子さん:そうなんです。PTAや卒業対策委員会など、学校の役員決めでもっとも戸惑うところは、何をやるのかわからず、経験もゼロだけれど「やります」と言わなければいけない状況でしょうか。学校の長い歴史のなかで例年できていた仕事ですので「今年もできるでしょう」という前提なのだと頭ではわかりますが、不安はありますよね。仕事は報酬が伴いますが、PTAは有志ですから余計に消化不良を感じていました。6月に引継ぎ会議で仕事の全貌を聞くことができてやっと胸のつかえがとれました。

--消化不良の皆さんが気持ちも情報も共有するのは大変ですね。

節子さん:そうですね。卒業までの期間にやることが沢山あることがわかり、まずSNSグループを作りました。また、資料はすべてクラウドサービスに保存して共有して、全員が同じ情報をいつでも見ることができる環境を作りました。仕事と同じで、環境を整えることで安心できました。10年前はどうやっていたのか…?と想像すると、その時代に切り盛りしていた保護者の方々には頭が下がります。

◆時間のやりくりと慣習を止める勇気

--PTAや卒業対策委員会、何が一番大変なのでしょうか?

節子さん:やはり時間のやりくりですね。「家庭」と「仕事」だけで精一杯なところに「学校の仕事」が加わるので、何かの時間を削らなければ時間を捻出できません。職場や家庭の理解と協力が必須です。職場に関しては、子どもがいるからと言って優遇されるのはズルい、という印象を与えることが一番怖いですよね。子育ては保護者の責任と、社会の責任がある、という雰囲気が会社にあると救われます。家庭に関して言えば、親が学校の用事で忙しいと、子どもがお手伝いを頑張り、自分でできることが増えて成長する機会になったということもありましたので、悪い事ばかりではありません。PTA関係の仕事だけでなく、何事も理解と協力が得られればパワーが沸いてくると思います。

 色々なメディアでも取り上げられていますが「必要がないことを止める」ということも大変です。すでに慣習となっていて目的が「これまで続いているから」というような、誰のためかわからなくなっている事を中止する。これはとてもパワーがいりますが、来年以降のPTAや卒業対策委員会のためにも、どこかで誰かが大変な決断をしなければならないことかと思います。

 うちの子どもの学校では数年前から卒業式の夜に大人のみ参加で開催されていた謝恩会が中止になりました。卒業祝賀会として、子どもと親と先生と地域の方が一堂に会するイベントを別途開催しているので、大人だけの会を行う必要性はないし、卒業式の日の過ごし方としては親子で過ごした方が良い、という校長先生の発言があって中止となりました。保護者側としては「やらなくてはいけない行事」という認識が強く、昨年行ったことは今年もやる前提で動いていたので、「やめていいことだったんだ…」と感じた人も多かったそうです。慣習となっていることの見直しは学校と保護者で協力して改善していけると、結果的に疑問や不満を溜めない組織になっていくと思います。

--正直「辛い、大変!」という先入観ばかりありましたが、改善しながら運営されているのですね

節子さん:必ず卒業の日はやって来ますし、短い任務ですから、家庭でも学校でも、楽しく風通し良い組織が一番、と思っています。6年過ごした学校から、子どもが晴れやかに卒業していく姿を見たい気持ちは皆同じですよね。そして、卒業してからも小学校の前を通りすぎる時に、挨拶できる先生がいたり、手を振ってくれる下級生がいると嬉しいものです。ご近所の方が黄色い旗をもって立っていてくれる風景が変わらないのも安心できてとてもありがたいです。子どもは家庭だけで育てるものでも、学校だけで育てるものでもなく、社会でも育てていただいている、と親も子も感じながら過ごしていきたいです。

--ありがとうございました。

 子どもの中学受験や卒業に向けて、過ぎていく時間の貴重さを感じているのは、子ども以上に親なのかもしれない。机に向かう背中もだいぶ大きくなり、背丈も自分に近づき、友達といる時間の方が増えてきた。一緒にご飯を食べ、たわいのない会話をし、おやすみを言う。子どもが健やかに眠っている姿に安堵する。そんな日常を送っているうちに初めての「卒業」の日は必ずやってくる。
《編集部》

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