子供に「自分の進路を悩んで選ぶ力」を…スコラボ前田智大氏インタビュー<後編>

 加藤紀子さん連載「教育の今と未来」。今回のゲストは、対話型探究プラットフォーム「スコラボ」を立ち上げた起業家の前田智大さん。前田さんは高校まで日本で教育を受け、東大を経て大学・大学院を米国のマサチューセッツ工科大学で学び、日米の教育差を体感したという。

教育・受験 小学生
スコラボ共同創業者 前田智大さん
  • スコラボ共同創業者 前田智大さん
  • オンラインインタビューのようす
  • スコラボのクラス例
  • クラスのようす
  • クラスのスライド例
 新しい学習指導要領で謳われている思考力・判断力・表現力と、自ら学びに向かう力。

 こうした力を育むため、今後学校で重点的に取り組むことになるのが「探究型学習」だ。ところが、親世代が受けてきた教育は、設問の正解を導くための知識・技能の習得が中心で、自ら問いを立てたり、自分の考えを論理的にまとめ、説明したりする機会はほとんどなかった。そのため、せっかく子供が探究の入り口に立っても、その先をどう深掘りしたり、広げてあげたりすれば良いかがわからないのが悩みどころだ。

 このように戸惑う親に代わり、子供がもつ興味・関心から楽しく学べる体験、学びをより深める体験を提供してくれるのが、対話型の探究プラットフォーム「スコラボ」だ。

 高校まで日本の学校で教育を受けた後、大学・大学院をアメリカのマサチューセッツ工科大学(以下、MIT)で学び、日米の教育差を体感して「スコラボ」を立ち上げた前田智大さんに話を聞いた。

プログラミング教育の不安点



--前田さんはスコラボでプログラミングの授業も担当されています。小学校からプログラミング教育があり、情報Iが大学入学共通テストの正式科目になる等の大きな変革期を迎えるにあたり、前田さんが気にかかることはありますか。

 たとえば「スクラッチ」のようなものを使ったプログラミングの経験がある子供でも、パソコン上で適当にレゴブロックをカチカチ動かすだけで満足してしまうケースは度々目にします。本来プログラミングは、ある課題に対していくつかの解決法を見出し、その中からどれがベストな手順かを試行錯誤しながら考え抜く力を養うものです。ところが学校の教材もやや暗記に寄っているようなものがあったり、プログラミングをしたことのない先生が教えるということもあったりで、形だけで、動かして終わってしまうのではないかという不安はありますね。

--確かに、学校では一斉授業で時間が限られているので、プログラミングの授業が皆が同じ完成物を確認して終わりといった予定調和を目指してしまうのではという懸念は私も取材で度々耳にしてきました。となると、やはり習い事など別の機会で学んでおいた方がいいということでしょうか。

 もちろん、これからの時代はエンジニアが人手不足になっていくので、手に職という点ではプログラミングは有利になることは確かです。けれどもだからといって、プログラミングを習い事として早く始めた方がいいかと聞かれたら、個人的には興味がなければ今すぐという必要はないと思っています。

 大学時代は筋金入りのプログラマーが周囲にたくさんいましたが、彼らのバックグラウンドや自分自身の経験も含めて思うのは、プログラミングは自分が「こういうアプリを作りたい!」というところから本を買って読んで手を動かし、地道に苦痛な作業を重ねていく中でグンと力がつくものだということ。だから、プログラミングを始めるなら、自分が何かをつくりたいというところからスタートできると良いですね。

算数・数学の苦手意識はもったいない



--子供が将来プログラミングの力を伸ばすために、プログラミングに明るくない家庭でもできることはありますか。

 プログラミングは算数や数学に近いものなので、そもそも算数や数学ができなければ、良いプログラムは書けません。だから今までどおり、算数や数学の基礎を磨いた上で、じっくり算数の問題に取り組んだり、料理やお手伝いなどを通じて、日常生活をどうやって効率化していくかみたいな体験を親子で楽しんだりすることをお勧めします。

 算数の課題でいうと、日本にはパズルのような教材が多いので、教えるというよりは「これどうやってやるのかな?」と問いかけながら、一緒に楽しく論理的に問題解決をする経験をさせてあげるといい。パッと最初からプログラミングに手を出してしまうよりもその方がずっと良い気がします。

--算数や数学とプログラミングがそうやって地続きで繋がっていることはまだあまり知られていません。日本の子供たちは、算数・数学のレベルが世界的に見ても非常に高いのに、強い苦手意識を持っていて、特に高校生になると受験を前に数学を「捨てる」という選択をする子が未だに多い。貴重なプログラミングの才能を潰しているようで本当にもったいないと思いませんか。

 そうなんですよね。受験競争のせいなのか、十分良くできるレベルなのに変な苦手意識を植え付けられてしまっている人はたくさんいると思います。

スコラボの算数・プログラミング/サイエンスのクラス例

クラスのスライド例

自分の進路を自分で選ぶ力



--教育熱心になるほど、答えのない時代を生き抜くためにと、あれもこれもやらせなくちゃと頑張っている親御さんも多いと思うのですが、これからを生きる日本の子供たちにひとつ、もっとも大事な力を挙げるとすると何だと思いますか。

 ひとつだけ挙げるとするならば、自分の進路をちゃんと悩んで選ぶ力、ですね。数学ができないから文系でいいやと思ったり、模試の偏差値で進学先を安易に決めてしまったりするのではなく、自分の将来を見据えて悩むプロセスがとても大事です。答えのない時代だと言われますが、自分の進路に責任をもって悩んで選ぶということは、そうした時代を生きていく上で一番やるべきことだと思います。

--その点、スコラボで自分の興味を掘り下げる経験をしている子は強いんじゃないでしょうか。

 スコラボでは、普段やっているゲームの裏側ではこんなことをしているんだよとか、どういったことを考えないと面白いゲームは作れないのかとか、ひとつの事象に対して色々なところに意識が向くように心がけています。そうすることで視野が広がり、将来のことを考える際の強みになると思うんです。

--自分の進路を自分で選ぶ力。これを伸ばすために家庭でできることはありますか。

 2つあると思います。1つ目は、先ほど(インタビュー前編)も言った「対話」です。親が「~しなさい」と指示をして子供がそれに応答する、というやりとりは対話ではありません。なぜ今これをやらなくてはいけないと思うか、なぜやりたくないのかなど、問いかけながら掘り下げていくんです。そうすることで、子供の興味や関心がどこに向かっているかがわかってくると同時に、親が何度言ってもなぜ伝わらないのか、理由も見えてくるのではないでしょうか。子供が対話を通じて、どのくらい自分の気持ちや考えを伝えられるかが大事かなと思います。

 2つ目は、子供の興味・関心が似通った子たちが集うコミュニティを見つけることです。興味・関心を共有できる友達やメンターと繋がることって、モチベーションを維持する上でものすごく大事だと思うんです。親がそうしたイベントを探して連れていき、仲良くなれたら連絡先を交換して時々交流する機会をつくったり、部活のある学校を見つけて受験をしたりする方法もあるのかなと思います。

オンライン取材のようす

--そうした理解者に巡り合えず、孤独な思いをしている子は大勢いるはずです。親子の対話を通じ、子供の興味・関心はわかったとしても、そこから外に「サードプレイス(第3の場)」を見つけて繋がっていくって、まだなかなか難しいのが現状です。そこをスコラボには期待したいですね。

 我々もそこは課題感を感じていて、共通の興味や関心を前提としたメンターシップのつながりができるといいなと思っています。今はゆるいコミュニティをつくっていますが、もう少し掘り下げていきたいですね。スコラボはオンラインなので地方在住の方にも使っていただき、「こういう機会がなかったのでありがたい」「今後も繋がっていけるコミュニティやメンターを設けてほしい」といった声も寄せられています。まだまだ模索中なのですが、頑張っていこうと思います。

--スコラボを通じて、どんな世界を実現したいですか。

 赤ちゃんを見ていたらわかるように、人間って学ぶことが楽しいと思う生き物だと思うんです。子供も大人も、自分がやりたいことを楽しみながら学べて、自分を高めていける世界をつくりたい。社会全体で「楽しく学べる力」を引き上げていきたいです。

--社会の変化が速くなっている分、私たち大人も学び直しが必要な時代です。だからこそ「楽しく学べる力」というのは大切ですね。今日は本当にありがとうございました。

 知識を「教える」から、「共に考え、学び合う」を中心とした教育へ。そのカギとなる「探究」を具体的にどう実践していくかは、学校でも家庭でも当面は試行錯誤が続くだろう。そうした中、子供たちの好奇心のよりどころになってくれるスコラボは心強い存在だ。誰にどう教わるかで、学びに向かう姿勢がガラッと変わることがある。子供が生き生きと楽しく学ぶ姿から、私たち大人も学び方をアップデートしていく必要があると痛感した。

加藤紀子(かとう のりこ)1973年京都市生まれ。1996年東京大学経済学部卒業。国際電信電話(現KDDI)に入社。その後、渡米。帰国後は中学受験、子どものメンタル、子どもの英語教育、海外大学進学、国際バカロレア等、教育分野を中心に「プレジデントFamily」「NewsPicks」「ダイヤモンド・オンライン」「ReseMom(リセマム)」などさまざまなメディアで旺盛な取材、執筆を続けている。一男一女の母。2020年6月発売の初著書「子育てベスト100」(ダイヤモンド社)は、2021年8月現在累計17万部発行のベストセラー本となり、教育関連の書籍では異例の大ヒット作に。(写真撮影:干川修)
《加藤紀子》

加藤紀子

京都市出まれ。東京大学経済学部卒業。国際電信電話(現KDDI)に入社。その後、渡米。帰国後は中学受験、海外大学進学、経済産業省『未来の教室』など、教育分野を中心に様々なメディアで取材・執筆。初の自著『子育てベスト100』(ダイヤモンド社)は17万部のベストセラーに。現在はリセマムで編集長を務める。

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