ひとりひとりのパッションを引き出し、心が動く学びの場を…立命館宇治高等学校IBコースの芸術×CAS

 文部科学省がグローバル人材育成の観点から普及・拡大を推進してきた国際バカロレア(IB)。世界遺産の平等院をはじめ、古の歴史と文化が根付く京都府宇治市で、日本のIB教育を先導してきた立命館宇治高等学校の芸術(Visual Arts)とCASの魅力に迫る。

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IBコースの芸術(Visual Arts)の神保先生とCASコーディネーターのボーン先生
  • IBコースの芸術(Visual Arts)の神保先生とCASコーディネーターのボーン先生
  • IBコースの芸術(Visual Arts)の神保先生
  • CASコーディネーターのボーン先生
  • エキシビション(作品展)の生徒作品の一部
  • エキシビション(作品展)の生徒作品の一部
  • エキシビション(作品展)の生徒作品の一部
  • エキシビション(作品展)の生徒作品の一部
  • 作品同士の一貫性が重視されるエキシビション(作品展)のようす

 文部科学省がグローバル人材育成の観点から普及・拡大を推進してきた国際バカロレア(以下、IB)。世界遺産の平等院をはじめ、古の歴史と文化が根付く京都府宇治市に、日本のIB教育を先導してきた学校がある。IBのディプロマ・プログラム*(以下、IBDP)に基づき、国語以外の全教科を英語で学ぶ「立命館宇治高等学校IBコース」だ。

 立命館大学、立命館アジア太平洋大学(APU)や他の国内大学への進学も可能だが、IBDPは世界中の大学への出願入学資格を得られるため、2022年のIBコース卒業生21人のうち14人は、カリフォルニア工科大学(THE世界大学ランキング第2位)、インペリアル・カレッジ・ロンドン(第12位)、ユニバーシティ・カレッジ・ロンドン(第18位)、トロント大(第18位)、[※東京大学は第35位]といった世界トップクラスを含めた海外の大学へ進学している。

 季節の移ろいを感じられる広大なキャンパスには、昨年、おもにIBコースで使用する新棟が完成し、将来IBコースに進学することを目指す中学生を対象に「立命館宇治中学校IPコース」がスタート。さらに、IBコースは来年4月、現在の1クラスから2クラスへも視野に入れている。

 高校IBコース教員・中学IPコース責任者インタビューに続き、今回は、IBDPが定める6つの教科から、最近ビジネスの最先端でも注目を集めている「芸術(Visual Arts)」と、IBが重視する教科以外の活動「CAS(Creativity, Activity, Service =創造・活動・奉仕)」についてどのような授業が行われているのか、美術教員の神保民香先生と、CAS責任者のデービッド・ボーン先生に話を聞いた。

*ディプロマ・プログラム(DP)とは?: 所定のカリキュラムを履修し、最終試験を経て所定の成績を収めると、国際的に認められる大学入学資格「IB資格」が取得可能なプログラムのこと。16歳から19歳までを対象

IB教育が「創造的な活動」を重視する理由

--神保先生はアートの教員をされているということですが、立命館宇治での現職に至るまでのご経歴を教えてください。

神保先生:私は教育学部で美術教育を専攻し、美術教員を目指していました。ただ、美術という教科は教員のポストが少ないため、周囲の勧めもあって美術以外に英語の教員免許も取得しました。

 大学卒業後すぐに教壇に立つ自信がなく、かといってアーティストとしてやっていけるとも思えず、将来についてあれこれ調べているうちに言語学にも興味が湧いてきて、アメリカの大学院に行って勉強してみようと思い、留学することになりました。すると偶然、留学先がアートに溢れる街で、個人的に制作したり、現地のアーティストやキュレーターと関わったりすることができ、言語学の修士号を取得するだけでなく、思いがけずアートからたくさんのインスピレーションをもらいました。

 帰国後は立命館宇治の教員となり、最初の2年間は英語の教員として働いていたのですが、ちょうどIBコースの芸術の教員が退職となり、IBコースが「英語で授業ができて美術の教員免許を持っている人」を探していて……

--「あ、実はこんな近くにいた!」という……(笑)

神保先生:はい(笑)。私がその条件にピッタリと当てはまりました。それで最初の1年間は英語を教えながら美術のもう1人の先生のアシスタントを務め、IBが定めている教員向けのワークショップにも参加して、IBコースの芸術の専任教諭になりました。

立命館宇治の英語の教員だった神保先生は、美術の教員免許も持っていることからIBコースの芸術(Visual Arts)専任の教員へ転身

--CAS(Creativity, Activity, Service)のコーディネーターであるボーン先生はどのようなご経歴でしょうか。

ボーン先生:私はカナダで生まれ育ち、生物学者に憧れて大学では生物を専攻しました。大学卒業後、しばらく海外で暮らしたいと思っていたところに、偶然、北海道でALT(外国語指導助手)として2年間英語を教えるという、働きながら海外で暮らせる絶好の機会があったので、思わず手を挙げました。そうしていると、思いのほか教えることが面白くなり、大学院では教育を専攻し、カナダの公立高校で理科の教員になりました。そして2011年に立命館宇治で生物教員の求人に応募し、こちらに赴任しました。今はIBコースでCASのコーディネーターの他、生物、環境社会科学とIPコースの理科も受け持っています。

IBコースでCASのコーディネーターの他、生物、環境社会科学とIPコースの理科も受け持っているボーン先生

--IBコースでは、今日ちょうど行われているアートの作品展やCASの活動等、学業と並行したさまざまな取り組みも学びの一環になっているんですね。

神保先生:IBDPの芸術では、いくつかの課題を課しており、そのうちのひとつが、今日(2022年9月2日取材)観ていただいたエキシビション(作品展)です。作品をつくって展示すれば良いというものではなく、作品同士の一貫性が重視されます。エキシビションのテーマをきちんと言語化し、それが作品と調和しているかという統一感がとても大事になってきます。生徒は2年間かけ、このエキシビションに向けて制作活動に取り組みます。

エキシビション(作品展)の生徒作品の一部

--日本の美術教育と比べて、IBの芸術の授業には何か特徴的なことはあるのでしょうか。

神保先生:芸術に限らないのですが、IBの教育は「結果」や「成果物」そのものよりも「プロセス」をすごく重視しますね。作品そのものが素晴らしいかどうかももちろん大事なのですが、そこまでどういうアイデアでどんなふうにインスパイアされて、どうやってその作品までたどりついたかという「プロセス」をとても大切に扱うのです。そのため、ひとりひとりの作品やストーリーが全然違って、個性がものすごく際立ちます。

ボーン先生:CASも同じです。CASは教科以外に創造的な活動、健康的なライフスタイルの実現のための活動、所属するコミュニティへの奉仕・貢献活動を通じて、健全な価値観を育むためのIB教育の重要な柱のひとつですが、なぜこの活動をやるのか、どうやって実現するのか、そして振り返ってみて何を得たか、どんな反省点を次に生かすべきか等をじっくりと話し合う「プロセス」を重視しています。

 我々教員が計画を立てて実施する活動もありますが、生徒たちと教員とで一緒に考えたり、生徒自身が企画したりする活動も数多くあり、生徒の個性が光ります。

CAS小笠原父島研修のようす。生徒たちは小笠原海洋センターのスタッフの指導のもと、地元の海岸の巣の調査、カメの卵の保護、子ガメの放流、海洋センターのカメ水槽の清掃、カメの世話等を手伝った
CAS高取城ハイキングのようす。大和平野の素晴らしい眺望を眺め、印象的な高取城跡を含むいくつかの文化的・歴史的観光スポットを楽しんだ。生徒の発案により地域環境を改善するために、トレイルの下流でゴミ拾いを行った

IB教育の真髄は生徒と教員が学び合うこと

--まさに正解がない「問い」に対して自分はどう考えるのか。他の人の意見をどう参考にし、受け入れていくのか。そして新たに何を生み出していくのかといった「プロセス」を経て、IBが重視するコミュニケーション力、社会性、リサーチ力、思考力や自己管理能力という5つのスキルが育まれていくんですね。そこで教員の果たす役割は何だと思いますか。

ボーン先生:教員は一方的に正しい知識を教えるだけではなく、生徒の行動から自分自身も学ぶのだという、フラットで謙虚な姿勢でいることではないでしょうか。もしかしたら保護者の方は、学校がIBという環境を生徒に「提供する」というイメージをもっておられるかもしれませんが、実際にここでは教員が与えるだけではなく、生徒と教員が一緒になって新たなものをつくり出しているという感覚なのです。とりわけCASではそう感じることがとても多いような気がします。

 たとえばサイクリングが好きな教員がいて、環境問題に熱心な生徒、アート好きな生徒が一緒になって、ある川まで一緒にサイクリングに行き、ゴミを拾い、その拾ったゴミでアート作品をつくるといった挑戦も、今のこのメンバーだからこそできた、私たちらしいCASの一例です。

神保先生:私も生徒同士の発言から、たとえば数学や科学の授業で教わった知識や考えを応用していることが見えた時に、「面白いな」「そういう見方もあるのか」と気付かされます。

 私の場合、数学の先生と黄金比についてのコラボ授業を行ったり、染物をつくる時に濃度の違いが色合いにどう影響するかを化学の授業で取り上げてもらったりします。我々教員が新たな視点を得られるだけでなく、生徒たちにとっても複数の教科が自然と繋がり、それが実は生活に直結しているというところまで学びを深められるのです。

 教科の枠をこえた連携によって、色々なものを自然とつないでいく力の強さは実感しますね。これはIB教育のすごいところだなと思います。

--CASも芸術も、大学入試に直接役立つ勉強ではないと思われそうな活動ですが、保護者の方はどのように受けとめていらっしゃるのでしょうか。

神保先生:IBDPもIB資格を得るための最終試験は2年間の集大成となるビッグイベントで、入試のように何点取れたかが大学進学にも影響するという点では似たところがあります

 ただし、IBDPでは芸術科目もその試験に含まれるので、私にとっても当初は自分の生徒がちゃんと点数を取れるかどうかが大きなプレッシャーでした。彼らの制作過程の苦悩や努力を知っているだけに、全員に満点をつけたいくらいなのですが、IBは国際バカロレア機構による外部評価が公正に行われるため、勝手に高い点数をつけることができないのです。

 しかし、今では、最終試験で高得点を取ること以上に、生徒たちはIBDPから得られるものははるかに大きいと確信しています。というのも、保護者の方々が「受験ももちろん大事だけれど、それ以上に人間として成長しているのが感じられる」と言ってくださるからです。エキシビションを観に来られると、多くの保護者が自分の子供の作品とディスクリプション(説明文)を見て泣いてしまわれます。「この2年間、うちの子はこんなことを感じて、考えて、こんな気持ちで過ごしていたんだな」と感じられて、思わず涙が込み上げてきた、と。

エキシビション(作品展)のようす。ブース全体がひとりの生徒の世界観を表し、作品同士の一貫性が重視される。わが子の人間としての成長を感じ、涙を流す保護者もいるという

 高校時代はちょうど多感な時期でもありますが、こうしてアート作品を通して自分自身と向き合い、見つめ直したり、大切な人たちと作品を通して心を通い合わせたりできるというのは、点数では測りきれない大切なものを得ているのではないかと私も感じています。

ボーン先生:海外の大学の入試ではCASのような活動も評価の対象となり、そこでは本人に問題意識があり、パッション(情熱)をもってそれに取り組んできたかが問われます。日本の大学も総合型入試や推薦入試の割合が増えてきているので、今後はそうした活動がますます重要になってくるでしょう。

 CASは机の上の勉強では得られない経験です。コミュニケーションがうまくいかず衝突することがあったり、計画通り進まず壁にぶつかったり、挫折したりする経験も含めて、実際の体験を通じて学べることはとてもたくさんあります。

 なぜそれをやりたいのか。やる必要があるのか。目的意識を持って試行錯誤しながら計画を実行していくプロセスは、将来のキャリアを考えていくうえでも役立つ力につながります。保護者の皆さんはそのような「生きた」経験が人としての成長にどれほど重要かをわかっているからこそ、私たちに大切なお子さんを託して下さっているのだと思います。

「海外の大学の入試ではCASのような活動も評価の対象となり、そこでは本人に問題意識があり、パッション(情熱)をもってそれに取り組んできたかが問われます」(ボーン先生)

アットホームでグローバル、パッションを引き出す学びの場

--お二人が教育者として大切にしていることは何でしょうか。

神保先生:学校を自分がやりたいことを挑戦できる場所にすることです。やりたいことがすぐに見つからない子もたくさんいると思うので、授業の中で色々な種をまいていきたいですね。

 授業のスタイルもCASの活動もそうですが、IBコースは生徒の個性や成長のペースに合った学びを選ぶことができ、特にこの立命館宇治では複数の先生方の目が行き届いています。だからこそしっかりと見守りながら、ひとりひとりが成長していける場を提供していきたいです。

「学校を自分がやりたいことを挑戦できる場所にしたい」(神保先生)

ボーン先生:私も生徒ひとりひとりがもっているパッション(情熱)を支援し、それぞれの道を切り拓いていくサポートをすることはもちろん、特に地域とのつながりを得られるような活動を教員自らが積極的に企画し、生徒たちから新たなパッションを引き出すきっかけをつくっていけたらと思っています。そうした教員の姿勢や行動力も、生徒にとってのロールモデルになるのかなと。

神保先生:地域のつながりという点で、ここは自然も豊かなうえに、京都と奈良という歴史のある都市に近い素晴らしい環境ですよね。

 昨年は、IBコースの生徒が京都の西陣織や京友禅など、13種の伝統工芸を営む職人を訪問し、その体験やインタビューを通して京都の伝統産業について学んだ成果をポスターやビデオにまとめて発表する展示会を開催しました。多様なバックグラウンドをもつ生徒たちが、京都固有の文化やそれを形作っている人々の技術や想いに触れる体験でした。こうした機会が身近にあるのは本当に貴重な財産です。

展示会「『未来を担う若者が捉えた京都の伝統産業』~立命館宇治高等学校の生徒による職人インタビュー成果発表展」では、西陣織や京友禅等13種の伝統工芸に携わる職人の方々の協力のもと、生徒たちがポスターやビデオ形式で成果報告書をまとめた

--IBコースに関心をもつ保護者・生徒にメッセージをお願いします。

神保先生:立命館宇治のIBコースは埋もれる生徒がいません。教科もCAS活動、部活動も選択肢が豊富で自由度が高く、自分の個性が発揮しやすい場所です。IBコース生がおもに利用する新棟も完成し、2つの理科室と美術室も新しくなったので、学習環境としても最高です。ぜひ一度見学に来ていただけたら嬉しいです。

ボーン先生:ここでは教員が一方的に教え込まず、生徒たちも情報や意見を鵜呑みにせず、「こんなふうに書いてあるけれど本当はどうなんだろうね?」「こういう見方はどうかな?」といった対話をとても大事にしています。さまざまなバックグラウンドをもつ教員やクラスメイトたちとの対話を通じて共に学びあえる、アットホームでグローバルという何とも贅沢な環境をぜひ体験しにきてください。いつでも歓迎します!

--本日はありがとうございました。


 IBDPが目標に掲げる「学び続ける力」を身に付けること。

 そのためにはただ椅子に座って机に向かうだけではなく、身体を使い、心が動くような時間と場所が必要なのだとあらためて感じた。

 生徒が学校の外に出たり、ひとりひとりの意思で自由に行動したりすることで、教員の負荷は一気に増す。それでも自分の道を切り拓こうとする生徒をそれぞれのペースでサポートし、そこから自分も一緒に成長し続けようとする。立命館宇治はそんなチャレンジングな教員が伴走してくれ、生きた学びを体験できる場所なのだ。

ひとりひとりのパッションをサポート
立命館宇治中学校・高等学校
《加藤紀子》
加藤紀子

加藤紀子

1973年京都市出まれ。1996年東京大学経済学部卒業。国際電信電話(現KDDI)に入社。その後、渡米。帰国後は中学受験、海外大学進学、経済産業省『未来の教室』など、教育分野を中心に様々なメディアで旺盛な取材、執筆を続けている。初の自著『子育てベスト100』(ダイヤモンド社)は17万部のベストセラーに。一男一女の母。

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