文部科学省がグローバル人材育成の観点から普及・拡大を推進してきた国際バカロレア(以下、IB)。世界遺産の平等院をはじめ、古の歴史と文化が根付く京都府宇治市に、日本のIB教育を先導してきた学校がある。IBのディプロマ・プログラム*(以下、IBDP)に基づき、国語以外の全教科を英語で学ぶ「立命館宇治高等学校IBコース」だ。
立命館大学、立命館アジア太平洋大学(APU)や他の国内大学への進学も可能だが、IBDPは世界中の大学への出願入学資格を得られるため、2022年のIBコース卒業生21人のうち14人は、カリフォルニア工科大学(THE世界大学ランキング第2位)、インペリアル・カレッジ・ロンドン(第12位)、ユニバーシティ・カレッジ・ロンドン(第18位)、トロント大(第18位)、[※東京大学は第35位]といった世界トップクラスを含めた海外の大学へ進学している。
季節の移ろいを感じられる広大なキャンパスには、昨年、おもにIBコースで使用する新棟が完成し、将来IBコースに進学することを目指す中学生を対象に「立命館宇治中学校IPコース」がスタート。さらに、IBコースは来年4月、現在の1クラスから2クラスへも視野に入れている。
立命館宇治高等学校IBコースで、生徒はどのような毎日を送っているのか。同校2年生の品川一菜さんに話を聞いた。
*ディプロマ・プログラム(DP)とは?: 所定のカリキュラムを履修し、最終試験を経て所定の成績を収めると、国際的に認められる大学入学資格「IB資格」が取得可能なプログラムのこと。16歳から19歳までを対象オープンキャンパスで即「ここに決めた」
--品川さんはなぜ立命館宇治高等学校のIBコースを受験しようと思ったのですか。
私は父の仕事の都合で1歳半から6歳まではイギリスに、小学校4年生から6年生まではアメリカに住んでいました。イギリスでは現地の幼稚園、小学校低学年は日本(滋賀県)の公立小学校、アメリカでは現地の小学校、そして中学校は小学校の時と同じ地元に戻り、公立中学校に通うという、海外と日本を行ったり来たりの生活でした。
そういった背景もあって、高校では英語力をもっとブラッシュアップしたいと思い、オールイングリッシュで学べる環境を探していたところ、立命館宇治高等学校のIBコースの存在を知りました。オープンキャンパスで初めて訪れたときに「わぁまさにここだ!」と感じました。少人数制で英語のレベルも高く、ここなら自分がもっと成長できると思えたんです。自宅から通うには遠かったのですが、寮があるので迷わず第一志望に決めました。
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--中学卒業と同時に親元を離れ、寮生活を始めるにあたって、不安や心配事はありませんでしたか。
最初はやはりホームシックが心配でした。でもハウスマスターさんが24時間常駐してくださっているし、寮担当の先生もいて、とても安心できる環境ですぐに慣れました。
むしろ寮生活でよかったと思うのは、他コースの友達や、先輩・後輩の縦のつながりができたことです。建物は男女分かれていますが、食事の時はみんな一緒に食べるので、賑やかで楽しいです。自習室や談話室があるので、そこで課題をやったり、気分転換に友達とおしゃべりしたりして過ごすこともあります。門限が20時というルールがあるくらいで、ほかに厳しいルールはなく、ネットも自由に使えて快適です。
1年生で日本の高校卒業資格に必要な履修科目のほとんどを終了
--昨年はIBコースの1年生でしたが、どんな毎日を送っていましたか。
1年生は12月までに日本の高校卒業資格に必要な履修科目をほとんど終わらせるカリキュラムになっているのですが、授業は国語以外全て英語で行われます。IBコースは7時間授業と盛りだくさんなうえに、最初のころは先生の話す英語のスピードについていけなくて結構大変でした。
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--幼稚園と小学生のころに英語圏で生活した経験があっても、IBコースで使う英語とはレベルが違うんですね。
まさにそれを痛感しました。小学校6年生の時に帰国してから高校に入学するまで3年間のブランクがあったせいかもしれませんが、どうしても語彙力が足りないんです。語彙力は普段使わないとどんどん落ちていきますし、IBコースで使うアカデミックな単語は自分で努力して日々インプットしていく必要があります。
私は単語帳を見ても覚えられないタイプなので、新しい単語をなるべく普段の会話で使ってみるようにしています。もし使い方が間違っていたら先生が訂正してくださるので、恥ずかしがらずに毎日実際に使いながら覚えていく感じです。
生徒が起点、IBDPの授業は正解のない問いに向き合う
--今年の1月からはIBDPの授業が始まっていますが、授業のようすを聞かせてください。
授業によりますが、授業時間全体で先生が話す割合は3割くらいで、ほとんどの時間は生徒同士のディスカッションに充てられています。IBDPの中核のひとつであるTOK(Theory of Knowledge:知の理論)の授業では、たとえば事前に宿題で読んだ「地図がいつも現実の世界を反映しているとは限らない」という言葉の意味についてグループで話し合う等、「正解のない問い」に向き合うことが多いです。
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日本の学校では先生が黒板に書いた内容をノートに写しながら話を「聞く」というスタイルでしたが、今は先生の発言はパソコンにメモする程度です。先生は質問を投げかけたり、相槌を打ったりする役割で、私たち生徒がおもに発言したり、自分で調べたり考えたりしながらアウトプットすることに重きが置かれています。日本の中学校での3年間の学び方とギャップはありますが、ストレスになるようなギャップではなく、インスピレーションばかりの良いギャップです。
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--日本の学校の授業とは随分違う雰囲気ですね。品川さんはどの授業が好きですか。
「世界政治」の授業です。この授業を通じて国際協力への関心が湧き、今年の夏休みのインターンシップにもつながりました。
このインターンシップは、先ほどのTOKと並んでIBDPの中核であるCAS(Creativity, Activity, Service=創造・活動・奉仕)の一貫として取り組んだもので、インドネシアのバリ島に行って約2週間、現地の環境問題や社会問題について現地のコミュニティで調査とインタビューを行いました。
バリ島に行く前は「国際協力」への関心といってもまだ漠然としていて、正直自分でもいまいちピンと来ていなかったのですが、インターンシップを経て、自分は現地の困っている人とその人たちを助けたいと思っている人たちをつなぐコミュニティづくりに携わりたいのだと、具体的にイメージできるようになりました。
--TOKとCASが繋がり、相互に影響し合う。そういうエピソードを伺うと、あらためて国際バカロレアは優れたプログラムだなと思います。
確かにIBコースでは、勉強して興味が湧いたことを実際に行動に移して形にするとか、1人ではできないことも誰かと力を合わせて実現するという経験ができていると思います。CASではバリ島のほかに、友達とウクライナの平和を願うプロジェクトのリーダーもやりました。梅小路公園に集まって大きな輪をつくり、黄色と青色の風船を掲げて、ジョン・レノンの「Imagine」をフラッシュモブで歌うというプロジェクトです。クラスの友達が協力してくれて、プロモーションビデオをつくって集客しました。当日のようすをインスタのリールに公開したところ、思いのほか沢山の方が見てくれました。
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--充実した日々を送っていらっしゃる中で、これは大変だと感じることはありますか。
一番大変なのは課題が多いことですね。高1の3学期から本格的にIBDPが始まりましたが、これでもまだウォームアップ期間です。今後はTOK、CASと並んでIBDPには欠かせないEE(Extended Essay:課題論文)が本格化してくるため、もっと忙しくなりそうです。ただ、各教科で自分の興味に基づくことを深掘りできるので、ワクワクした気持ちもあります。
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--まだ気が早いですが、卒業後の進路はどのように考えていますか。
国際関係論を学びたいと思っています。IBコースからは海外の大学に直接進学する人も多いですが、私は立命館大学と海外の大学の両方の学位が取得できるプログラムに惹かれています。国際関係学部で4年間のうちの半分を提携先のアメリカン大学で学ぶアメリカン大学・立命館大学国際連携学科(ジョイント・ディグリー・プログラム)や、グローバル教養学部で1年間オーストラリア国立大学(ANU)で学ぶデュアル・ディグリー・プログラムはとても魅力的です。立命館宇治は、大学附属なので受験勉強に費やす時間が必要ない分、今後も引き続きCASに打ち込むなど、IBコースを満喫したいです。
お互いを認め合い、どんな人でも成長できる場所
--立命館宇治のIBコースにはどんなタイプの人が向いていると思いますか。
IBコースは向いている・向いていないではなくて、どんな人でも成長できる場所だと思います。先ほどもお話ししたように、授業は“聞く”スタイルではなく、ディスカッションをしてアウトプットすることがメインなので、「自分から積極的に意見が言えない人は向いていない」と思われるかもしれません。けれど、IBの授業は“正解”が求められるわけではないので、どんな意見もみんなが耳を傾け、その考えを尊重する雰囲気があります。だから、最初はおとなしかった人も自信をもって自分の意見を言えるようになり、プレゼンまで得意になっていくんです。
--立命館宇治のIBコースを検討している受験生やその保護者にメッセージをお願いします。
まず、英語力は絶対に伸びます。これは大きな自信になります。さらにここには海外経験や人種、宗教、文化など、生徒も先生もさまざまな背景をもつ人が集まっているので、日本にいながら異文化理解を深められます。そういう人たちと日々対話を重ね、お互いを理解し合う中で、自分自身の強みに気付け、「自分はこれで良い」という自己肯定感も湧いてくるような気がします。
勉強面は確かに忙しいですが、一問一答の暗記ではなく、情報をいろいろな角度から整理したり、自分の考えをまとめたりしながらアウトプットする力が身に付くので、将来大きな力になると思います。
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寮生活も、友達や先輩と課題の大変さを共有しながら勉強したり、IBコースの先生が遊びに来てくれたりと楽しいですし、ご飯もおいしいです。ぜひ学校に来て、この雰囲気を直接感じ取ってもらえたら嬉しいです。
--今日は授業後でお疲れのところ、ありがとうございました。
忙しい中、IBコースでの充実した日々を語ってくれた品川さん。この環境を自分で選び、自分から学びにいくという主体性が溢れるインタビューだった。
生徒自身が学びの起点。主体性はどうやって育むのかという問いの答えはここにあるのかもしれない。
高校寮完備・IB資格と高校卒業資格をW取得できる立命館宇治中学校・高等学校