ウィンストン・チャーチルからボリス・ジョンソン、リン・スナクまで、イギリスの歴代首相を40人近く輩出しているのは、イギリスの名門パブリック・スクールだ。中でもイートン、ハロウ、ウィンチェスター、ウェストミンスター、ラグビーなどの上位9校は「ザ・ナイン」と呼ばれ、全寮制で映画「ハリー・ポッター」のロケ舞台にもなった。
こうした名門パブリックスクール専門の受験教師として、20年にわたり数百人にのぼる受験生を指導。教え子の約半数が最難関校であるイートン、ウェストミンスター、ウィンチェスターに合格し、“The Super Tutor”(スーパーチューター)と評されるジョー・ノーマン氏が、『英国エリート名門校が教える最高の教養』(文藝春秋)を上梓した。
エリートのみに伝授されてきた門外不出の教育とは、どのようなものなのか。秘密のヴェールに包まれてきた学びについて、ノーマン氏は何をどう読むか、文章の書き方や構成法、ストーリーの語り方などを本書で詳しく紹介している。
中でも、英国エリート名門校の秘伝「教養のための必読リスト114冊」は必見だ。自身も最難関のひとつであるウィンチェスター・カレッジからオックスフォード大学で学び、英国エリート名門校入学試験に携わってきた教師として、必読の教養書をジャンルごとに厳選している。日本人作家である川端康成や三島由紀夫、村上春樹や、『武士道』『源氏物語』なども含まれているのが興味深い。
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リセマム編集部は本書の発売を前に、著者のノーマン氏にインタビューを行った。ノーマン氏によると、イギリスでも子供たちの読書量は減っており、読むとしてもより単純な内容のものを選ぶ傾向にあるそうだ。日本同様にいくつものテストを受け、その結果に一喜一憂しがちだという。
ノーマン氏は、「フィクションであろうとノンフィクションであろうと、本は私たちの心を深く魅了し、刺激する」としたうえで、「子供たちがインターネットの電波が入らない、スクリーンのない空間をもつことを勧めたい」と語った。
読書をしたがらない子供たちが最初のとっかかりとしてどのような本を読めば良いかと尋ねると、「読書は好き勝手にするもの」「自分の好きなものを読んで良い」と述べ、特に男子を指導することが多いというノーマン氏は「楽しく読むように仕向けるのは案外難しいのだが、大人から見ると少々暴力的で薄気味悪いくらいの内容の短編小説を与えるとうまくいくことが多い」とのアドバイスをくれた。
日本でも読書、特に文学離れが懸念されている中、「子供たちが文学に触れることによって、どのようなスキルが育まれるのか」との質問に対しては、「あるコンピューター・プログラマーが、適切に操作することができれば、世界でもっとも便利な道具は、実は人間なのだと言っていた。読書は、共感力や自国の文化への素養はもちろんのこと、相手に対して説得力のある文章を書く力を鍛えてくれるものだ」とノーマン氏。
日本の教育は今、新しい学習指導要領において、論理的に考える力や客観的に物事をとらえる力が重視されているが、ノーマン氏は「リベラルアーツの3つの基礎のうちの1つは論理学。これは非常に重要で、自分ももっと早くしっかりと学んでおけば良かったと思う」としながらも、「最近亡くなったノーベル経済学賞を受賞した心理学者のダニエル・カーネマンは、人間は常に合理的な判断で行動するわけではない、私たちは自分たちが想像しているほど理性的ではないと警告している」と言い、直感や感情が大きな役割を果たすこと、エッセイや小説のように、人間の内面を映し出すものを通して、自分以外のさまざまな人物の立場になってみることの大切さを訴えた。
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◆英国エリート名門校が教える最高の教養
発売日:2024年4月8日(月)
著者:ジョー・ノーマン(訳:上杉隼人)
発行元:文藝春秋
判型:四六判
頁数:216ページ
定価:1,980円(税込)