マイクロソフトと大阪府教育委員会、遠隔授業で入院中の生徒などをサポート

 日本マイクロソフトは3月27日、大阪府教育委員会と共に遠隔授業サポートシステムの提供に関する共同記者会見を実施した。この遠隔授業の対象者は、病気や怪我などで長期の入院や休学を余儀なくされている大阪府立高等学校の生徒たちだ。

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記者会見の模様。大阪の会場からWeb会議システム(Microsoft Lync Online)を利用して実施
  • 記者会見の模様。大阪の会場からWeb会議システム(Microsoft Lync Online)を利用して実施
  • 大阪府教育委員会教育長の中西正人氏(写真右)と、日本マイクロソフト業務執行役員の中川哲氏(写真左)
  • 大阪府教育委員会委員長の陰山英男氏。別会場(銀座会場)より、Web会議システムで会見に参加
  • 遠隔授業サポートシステムの構成。Lync Onlineを活用し、学校と生徒をインターネット経由で結ぶ
  • Microsoft Lync Onlineの各種機能。在籍状況や、インスタントメッセージ、Web会議などを利用できる統合コミュニケーションサービス
  • 教室の後ろから撮影し授業の様子。黒板の前にWebカメラを付けた三脚を置いている。PCのWebカメラを使用することも可能
  • 教室に設置したPCとマイク。これと同じような機材を長期休学中の生徒側が用意すれば、すぐにリアルタイムで授業が受けられる
  • 授業の模様をPCから見たところ。板書を見て、先生の説明を聞きながら、あたかも教室にいるかのごとく授業を受けられる
 日本マイクロソフトは3月27日、大阪府教育委員会と共に遠隔授業サポートシステムの提供に関する共同記者会見を実施した。この遠隔授業の対象者は、病気や怪我などで長期の入院や休学を余儀なくされている大阪府立高等学校の生徒たちだ。

 マイクロソフトは、大阪府内の1つの高校において、同社の教育機関向けクラウドサービス「Office365 Education」に含まれるWeb会議システム「Microsoft Lync Online」を活用した遠隔授業サポートシステムの試験と検証を2012年から続けてきた。今回の発表は、遠隔授業サポートの本検証において有効な結果が得られたことを受け、さらに大阪府立高校の長期入院・休学者に対して、この取り組みを広げていく方針を示したしたもの。

 会見では、実際に遠隔授業で使われたMicrosoft Lync Onlineを活用し、大阪府庁で行れれた会見を日本マイクロソフト品川本社に中継する形で行なわれた。大阪府教育委員会教育長の中西正人氏は「遠隔授業によって、療養中の生徒が継続して学習できるようになり、登校後も学業をスムーズに進められるようになった。またリモートでクラスの仲間とつながることで、授業だけでなく、生徒同士のコミュニケーションも生まれた」と遠隔授業のメリットについて説明した。

 また、別会場(銀座会場)よりWeb会議システムで参加した大阪府教育委員会委員長の陰山英男氏は「学びたいという子どもたちの願いに対して、社会でしっかり応えたいという思いが根底にあった。それを具現化できるようになったのは、PCやネット技術の発展の影響も大きい。就学が困難な状況にあるほかの生徒に対しても、学びの場が提供されることは大変素晴らしいことだと思う」とコメント。

 一方、システム面でサポートを行なった日本マイクロソフトの業務執行役員中川哲氏は「(Microsoft Lync Onlineを使うことで)学校側に新たなインフラを導入することなく、既存環境によりシステムを実現でき、スピード感を持って検証ができたと思う。また今回、どのような学校でも遠隔授業システムを簡単に導入可能な汎用性のある運用・設定マニュアルを作成した」と語り、実証試験で大きな手ごたえをつかめたことを強調した。

 具体的な遠隔授業サポートシステムは、シンプルな構成になっている。生徒が所属する学校側に、PC、Webカメラ、スピーカーフォンをセッティングする。クラウドサービスのWeb会議システム・Microsoft Lync Onlineを活用し、インターネット経由で学校と生徒を結ぶだけでよい。Microsoft Lync Onlineが生徒の在籍状況の把握や、インスタントメッセージ、オンライン会議、共同ポータルなどを可能にする。

 従来のようなオンプレミスのテレビ会議システムでは、学校側にサーバーを立ててシステムを構築していた。そのため導入が複雑で、さらに導入後も運用・メンテナンスを行う必要があり、専任の管理者を置く(教員の誰かが管理者になる)ことが求められた。しかしクラウドサービスならば、導入も容易で、管理者もいらず、すぐにサービスを受けられるというメリットがある上セキュリティ面での心配もいらないという。

 一方、病院に長期入院中の生徒側や自宅療養中の生徒側も、ノートPCとWebカメラ、ヘッドセットさえあれば基本的な準備はOKだ。リアルタイムで流れる授業をその場で受けられるため、あたかも学校の教室にいるような雰囲気で学ぶことができる。もし何か分からないことがあれば、音声やIMなどを利用して質問することで、インタラクティブな活用も可能だという。

 また、同システムは教育機関向けのOffice365 Education(Microsoft Lync Online)を利用するため、大阪府立高校に対して無償で提供されている。ちなみにOffice365 Educationで無償となるのは「プランA2」にあたるもの。これには、Lync Onlineのほかに、Exchange Online、SharePoint Online、Office Web Appsも含まれている。

 今回の試みは、長期入院・休学中の生徒たちが対象の特別な授業だが、一般化・普遍化したものとして提供することで、教育に新しい変革の波を起こすことになるだろう。陰山氏は「たとえば不登校の生徒たちに授業を提供したり、一般生徒や他学校の生徒に授業を受けてもらうことも考えられる。またリアルタイムの授業だけでなく、授業を録画して流せば、ネット授業が“時間・空間を超えた学びのシステム”として翼を広げたものになるはず」と話す。つまり今後の展開によっては、体調不良で授業に参加できなかった一般生徒が後から録画による授業で補講できたり、要点をまとめた復習や反復学習を受けられたり、さらに反転学習(先にオンラインで基礎的な知識を学び、本番の授業では応用学習を行なう)などにも応用できる可能性を秘めているということだ。

 このようなネット授業を本格的に普及させるためには、インフラ面だけでなく、コンテンツ面(知的財産)での整備や、教育課程などの法制度も含めて、まだいろいろな環境を整えていく必要があるだろう。とはいえ、物理的に就学が困難な生徒に学びの場が与えられるという意味合いについて、まずは大いに賛同したいところだ。
《井上猛雄》

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