【NEE2013】フューチャースクール実証実験校3校の取組み…その効果と課題

 総務省が進める「フューチャースクール推進事業」は本年度が最後の年となる。New Education Expo 2013の専門セミナーで、このフューチャースクール実証校3校によるパネルディスカッションが開催された。

教育ICT 学校・塾・予備校
パネルディスカッションのようす
  • パネルディスカッションのようす
  • 玉川大学教職大学院 堀田龍也教授
  • 日本のほとんどのコンピュータはコンピュータ室での固定設置
  • 総務省 情報流通行政局情報通信利用促進課 課長 佐藤安紀氏
  • 広島市立藤の木小学校 教諭 小島史子氏
  • 授業過程モデルからICT利用場面を考える(藤の木小学校)
  • タブレットをデジタルワークシートとして活用(藤の木小学校)
  • ベテランも活躍するICT授業(藤の木小学校)
◆ゼロスタートだが授業以外にも幅広く活用…三雲中学校(三重県)

 2校目の三雲中学校の楠本教諭は、「うちは、ICTもタブレットも何もないゼロの状態からのスタートでした。」と語り、導入は、電子黒板、実物投影機、教師用PC、Apple TVという4点セットから始めたと言う。そして、生徒用のタブレットとしてはiPadを導入した。

 三雲中学校では、これらの環境をベースに、協働学習モデルとして(1)課題共有、(2)個人思考、(3)学び合い、(4)全体共有、(5)振返りの5つを掲げ、授業や学校活動全体への展開を行った。授業展開は、主要5教科以外、音楽、美術、体育、技術・家庭科などすべての教科で電子黒板、タブレットの活用を実践したと言う。そして、授業以外の部活や生徒会の活動、地域の小学生との星座観察などさまざまな場面での活用にも取り組んだそうだ。生徒会ではマニフェストを電子黒板に表示させたり、タブレットから電子投票を行ったりもした。星座観察ではiPadの観測アプリも活用した。

 楠本教諭は、これらの活動を受け、今年度は、保護者からの要望も多い学力向上と定着にICTを活かすこと、タブレットの持ち帰りによる学習、そしてICTありきではなく必然性のある環境づくりに取り組みたいと抱負を述べた。特に学力向上を考えると、学習規律やノート指導、繰返し学習など原点に戻る活動の重要性が浮き彫りになるそうだ。

 なお、フューチャースクールではWindows系のタブレットやスレートPCの導入が目立つが、三雲中学校はiPadを導入している。モデレーターの堀田氏が使い勝手を聞いたところ「PCと異なるアプリのインストールで苦労することはあったが、起動が速い、カメラが便利で活用が広がるといったことを感じています。」と答えていた。

◆ICT研究先進校では保守に関する問題が現実化…上越教育大附属中学校(新潟県)

 最後は、上越教育大学附属中学校の小池氏だ。同校は大学の附属中学ということもあり、授業等へのICT活用や研究は古くから行われていた。1988年から91年にかけては文部省研究指定校としてICT利活用の研究に参加した。2010年には、全日本教育工学研究協議会全国大会(JAET2010)において公開授業を行っている。そして、2011年からフューチャースクール推進事業に携わっている。

 3校の中ではICT活用の実績も多い同校だが、実証実験に利用した環境は、キーボードのついたノートPCと50型のモニターディスプレイ、そして安定した接続環境を確保するため校内の無線LAN環境を整備したそうだ。ノートPCにした理由は、既存のデジタル教科書や教材との親和性を考えてのことと、レポート作成などのためキーボード入力の必然性ができ上がっていたためだ。

 発表内容も、個別の授業での活用よりも実際に運用して得られた課題を中心に報告された。たとえば、タブレットが増えてくるとキーボード入力はどんな方法がよいのか、モニターは導入時のコストパフォーマンスで最大画面のものを選んだが、使っていると教室の後ろはあまり見えないといった問題も発生している。ノートPCなどバッテリーが2~3時間しかもたないが、充電は夜間電力を利用するタイマー設定になっているので、昼間は充電できない、といった実践的な運用ノウハウや問題が指摘された。

 しかし、最大の課題は保守やメンテナンスにかかわる部分だそうだ。特に本体の破損は想定した以上に発生し、すべて無償修理の適用ができればよいが、そうでない場合は修理予算の確保が必要となる。また故障期間に端末が使えないのも問題だ。ソフトウェア等の更新作業も、年度単位とはいえ動作確認なども行う必要があるため、大変な作業となる。更新作業はWebフィルタリングも、安全性と効果的な授業との兼ね合いで制御、管理が難しい問題のひとつだそうだ。

 同校では、生徒側での自主的なICT活用も盛んなようだ。学校のポータルサイトが開設されており、生徒会の活動や生徒の健康管理などを行っている。学級、委員会、部活などの専用サイトや交流サイト、個人ページも用意し、現在生徒総会のペーパーレス化も検討している。小池氏によれば、生徒自治にもICTを導入することで、トラブルを体験させ自治の基礎やICTリテラシーを学ばせる効果も狙っているとのことだ。
《中尾真二》

中尾真二

アスキー(現KADOKAWA)、オライリー・ジャパンの技術書籍の企画・編集を経て独立。エレクトロニクス、コンピュータの専門知識を活かし、セキュリティ、オートモーティブ、教育関係と幅広いメディアで取材・執筆活動を展開。ネットワーク、プログラミング、セキュリティについては企業研修講師もこなす。インターネットは、商用解放される前の学術ネットワークの時代から使っている。

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