【私学訪問】自ら立ち、流されない強さを…女子学院中学校・高等学校 鵜崎創院長

 1870年の創立以来、キリスト教精神にもとづく女子教育の伝統と歴史を紡いできた女子学院。2016年4月1日から女子学院院長に就任した鵜崎創院長に、学校生活や校風、大学入試改革に向けた展望を聞いた。

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女子学院中学校・高等学校 鵜崎創院長
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 1870年の創立以来、キリスト教精神に基づく女子教育の伝統と歴史を紡いできた女子学院。6年間で知性や気品を備え、自立した生徒を育成しようとする校風は例年、受験生や保護者の注目の的だ。2016年4月1日から女子学院院長に就任した鵜崎創院長に、学校生活や校風、大学入試改革に向けた展望を聞いた。

--女子学院の中高一貫教育において、生徒たちはどのような学校生活を送っているのですか。

 私はこの4月から女子学院の院長に就任いたしました。生徒たちが非常に元気で、その好奇心の旺盛さには驚いています。女子学院では教員主導で物事が決まることはほとんどなく、多くの場面で生徒が企画運営をします。制服もなく、自由な校風です。生徒自身が自分の学校生活を組み立てていき、教師はあくまでもそれを支えることに徹します。生徒たちは何事も自分たちで決めなければならないので、話し合いの機会が多いのもの特徴ですね。

 「女子学院の生徒はサバサバした子が多い」と言われたりするのは、お互いに自分の中の思いを発信し合っていく中で、自然と違いを認め合えるようになるという文化が背景にあるのかもしれません。

 学年によってカラーがまったく異なりますので、授業はその学年、さらにはそのクラスのようすを見ながら行います。うまく波に乗り切れない生徒には、面談を繰り返しつつ、個別にフォローします。女子学院は学年単位で動く活動が多いので、生徒は先輩の活躍を見ながら、「来年はあそこまでやりたい」という思いを持って成長していきます。

--女子学院の校風について、どのように表現できますか。

 「自由な校風」、つまりは「皆を無理に同じ方向に向かせない」と表現できます。友達に対して自分と同じ方向を向けと強制しない。皆がそれぞれに違うものさしを持つことを認め合う。この点を学校としてとても大切にしています。これは、多様性を認めるという、キリスト教の教えに基づいています。

 今春、女子学院の生徒が18名(現役13名)京都大学に進学しました(※)。ただ、何か特別なきっかけがあったわけではありません。生徒が進路を選ぶにあたり、「私も、私も」という動きはまったくなく、各々が自主的に選んだ結果に過ぎません。合格後に聞いた話ですが、受験前に京都大学のオープンスクールへ参加したら、同じ学校の友達が何人も来ていてびっくりしたとか。進学した彼女たちは京都大学の学風がとても自分に合っていて、京都での大学生活を満喫していると言っています。

 この例に象徴されるように、“大勢に流されない強さ”が彼女たちには備わっています。女子学院は出口のお約束をするような教育ではありません。ただ、私たちが保証するのは、生徒たちの自主性を育てていくこと。本当に自分が行く道が良いのかどうかを自分で確かめられるような力を養っていくということです。名門大学に入学したとしても、そこからさらに前進していくとき、親や教師がいつまでも手を貸すわけにはいきません。そのときにどういう力を持っているか。我々はそこに焦点を当てています。

 日々、教員たちには言いたいことが口の手前まで溢れんばかりにあるのですが(笑)、時にはそれがこちらから見れば失敗するだろうなと思われることでも、じっと耐え忍んで生徒がやろうとしていることを見守ります。もちろん、身の危険に関わることからは守ってやらねばなりませんが、本人が自分で立ち上がっていける失敗かどうかを見極め、生徒たちが立ち上がり、前へ進むのを待つのです。

--学校行事など、女子学院ならではの取組みはありますか。

 高校3年生の「修養会」ですね。女子学院の伝統行事で、御殿場にある研修施設で3日間、寝食を共にしながら、自分自身と向き合い、意見を出し合います。話し合うテーマも自分たちで考えます。

 中学2年生の「ごてんば教室」は「女子学院の入口」と呼ばれ、自己を見つめ、友人を知り、クラスや学校について考え、さらには世界へと思いをめぐらす場です。生徒たちがここで得たものは、その後の学校生活を過ごす中で折々に生かされます。

 それに対し高校3年生の修養会は「女子学院の出口」。ある卒業生は「正解のある問題についての議論ではない。自分なりの答えや、答えに近づく手がかりを考えるきっかけを与えてくれるもの」と表現しています。ここで得たものをその先の人生でまた、思い出すそうです。自分たちが6年間学んできたものを自分は将来どう生かしていくか、その気持ちをまとめる貴重な機会となっています。

--これから迎える日本の大学入試改革をどのように捉えていますか。

 大学側が求めている力は、私たちが育てている力と合致すると思います。ですからそのことについて、慌てて対策しなくてはいけないということはありません。我々がこれまで信念を持って粛々と行ってきた教育の微調整であり、根本的なところは揺さぶられないと思っています。

 改革の中身がなかなか見えてきませんが、それを不安とは捉えていません。これからの社会に求められる力とは、混沌とした未来であっても、いかようにも対応できる柔軟性だと思うからです。つまり我々は、生徒たちが将来、先行きが不透明な社会であっても、生き抜く力を養っていかなければならないと思います。
《加藤紀子》

加藤紀子

京都市出まれ。東京大学経済学部卒業。国際電信電話(現KDDI)に入社。その後、渡米。帰国後は中学受験、海外大学進学、経済産業省『未来の教室』など、教育分野を中心に様々なメディアで取材・執筆。初の自著『子育てベスト100』(ダイヤモンド社)は17万部のベストセラーに。現在はリセマムで編集長を務める。

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