新時代の大学入試・高校入試「数学」への取り組み方…予備校数学講師からの提言

 大学受験予備校・河合塾で教鞭を執り、数学検定対策書も執筆する高梨由多可(ゆたか)先生に、変化している高校入試や、2020年度より実施される「大学入学共通テスト」の「数学」の勉強の秘訣を伺った。

教育・受験 高校生
「数学検定3級に面白いほど合格する本」
  • 「数学検定3級に面白いほど合格する本」
  • 「数学検定準2級に面白いほど合格する本」
  • 図1
  • 図2
 2019年1月に実施となるセンター試験を最後に、2020年度から大学入学共通テストに代わる。「数学の試験なんて昔からそんなに変わらないのでは?」と思っている方も少なくないのではないだろうか。

 「実は、数学の試験は、大学入試も高校入試も以前にくらべてだいぶ大きく様変わりしているんです。しかも、その変化は今後ますます加速します。特に、大学入試にその傾向が顕著で、現在の高2生が受験生になる2020年度から大学入試センター試験(以下、センター試験)に代わって実施される大学入学共通テスト(以下、共通テスト)の試行調査は、従来型の試験のイメージを大きく覆すものでした」と語るのは大学受験予備校・河合塾で教鞭を執り、数学検定対策書も執筆する高梨由多可(ゆたか)先生だ。

 劇的な変化に対応するために「数学」をどう勉強していけばよいのだろうか。その秘訣を伺った。

高梨 由多可(たかなし ゆたか)
 河合塾講師。中高一貫校の中学3年生から高校生・高卒生、さらに基礎クラスから東大志望クラスまで幅広く指導。定義・原則の理解を徹底し、ただ単に解法を教えるのではなく、「なぜその解法をここで用いたのか」という「意識化」を重視した授業を展開している。プライベートでは体を動かすことが大好きで、子どもの学校の運動系活動には大体参加している。子ども5人の子育てにも日々奮闘中。著書に「数学検定3級に面白いほど合格する本」。


共通テスト「数学」における出題の変化



 2017年度、2018年度に実施された共通テストの試行調査では、センター試験の出題とくらべ、以下の2点が大きく変わりました。

1.問題文の表現
 →実生活に「数学」がどう結び付いているのかを、長い会話文から読み取る必要がある



2.記述式問題の出題(「数学I・数学A」のみ)
 →数値を埋めるだけでなく、数式そのものを書く必要がある



 まず、1.について。センター試験は問題文に従って知識や公式を使って解くだけでしたが、共通テストでは、日常生活の話題に即した会話文の中から解答に必要な要素を読み取らなければなりません

 単に解くだけでなく、大量の文章を読まなければならないので、解答所要時間はセンター試験に比べて長くなりました。そのため、時間内ですべてを解ききることはよりいっそう難しくなったといえます。

 次に、2.について。センター試験にはなかった記述式の出題が大きな話題になりましたが、必要以上に恐れる必要はありません。記述式問題の対策は、ある程度レベルの高い大学を目指している人なら、ふだんの勉強で十分カバーできます。むしろマーク式問題を苦手としている高校生のほうが多いので、学習の優先度は、従来型のマーク式問題対策に置くべきです。

 では、どのような準備が必要なのでしょうか。特に、以下の2点を意識しましょう。

1.問題文を「翻訳」する訓練
 →初見の問題を、既知の知識や解法と結び付ける



2.問題文を「1回読み」で理解する訓練
 →読み直す時間と手間を省く



 まず、1.について。初見の問題も、実はこれまで勉強してきたことの延長線上にあるにすぎません。普段から、目の前にある問題文を、それまでに解いてきた問題のパターンに置き換える(=「翻訳」する)ことを意識してください。

 次に、2.について。試験問題を2度以上読み返している学習者が多いようですが、時間的制約が厳しい共通テストだとそれでは間に合いません。1度読んだ段階で1.の「翻訳」作業ができるようにしましょう。

近年の高校入試「数学」における出題の変化



 近年の高校入試「数学」では、従来どおり計算や図形などの基礎的な問題だけでなく、現在の保護者が受験していた時代には見られなかった思考力を問う問題、作図の問題、統計的な処理をさせる問題など、解答に時間のかかる問題も出るようになりました。難関校では従来型の問題では差がつかないので、このような新タイプの問題が解けなければ合格できません。

 このような問題に対応するためにはどのような準備が必要でしょうか。

1.書かずに計算する訓練
 →書く時間が省け、書いて間違うリスクも回避できる



2.「統計・確率」分野の重点的な学習
 →年々出題頻度が高まっている分野



 まず、1.について。多くの学習者は「書いて解かなければならない」という幻想にとらわれていますが、生徒の様子を観察していると、書くことで時間をとられ、また、書いたものにエラーが目立っています。生徒に問題を解かせてみると、書かせた場合と頭の中で処理させた場合とでは、後者のやり方のほうが明らかに速く、そして正確に解けている場合が多いことに気付きます。みなさんも、書かずに解く訓練を積んでみてください。

 次に、2.について。AI時代を先取りするように、近年、「資料の分析と利用」「確率」「標本調査」という「統計・確率」分野からの出題が増えています。これらを得意にしておくと、余裕をもって入試を迎えられます。

「数学」学習へのアドバイス



 では、大学入試・高校入試で通用する力は、どのようにすればつけることができるのでしょうか。

 何よりもまず教科書をしっかりと取り組むことが重要です。センター試験も共通テストも、それに高校入試も、教科書の範囲からは逸脱しません。たしかに過去問演習は大切ですが、過去問を解くという行為の目的は、時間配分を知ることや試験の形式に慣れることであって、実力をつけることではありません。実力は、教科書の説明を完全に理解しようと努め、例題や節末問題・章末問題を解くことでしか身に付かないのです。

 極端なことを言えば、地道に教科書で勉強してきた人なら、過去問演習は入試の1か月前でも間に合うくらいです。そのくらいの短期間でも、基礎さえできていれば、過去問を通じて微調整を行うだけで済んでしまうのです。

「数学検定」は、大学入試対策・高校入試対策に有効



 入試に限らず、決まった時間の中で問題を解くという経験は非常に重要です。ただし、学校の定期テストは、あらかじめ定まった範囲の理解が定着しているかどうかを測るものなので、入試とは少し性質が異なります。

 そこで役に立つのが、公益財団法人 日本数学検定協会が実施している「実用技能数学検定」(以下、数学検定)の受検です。「数学検定」は、幅広い分野から出題することや、基礎的な計算問題から思考力を問う問題まで幅広い形式を含むことなど、高校入試や大学入試との共通点があります。また、全問を解ききるために基礎的な問題を素早く処理する力が求められる点や、思考力を試す記述式問題が出題されている点などは特に高校入試・大学入試に似ており、入試の実践感覚を養うには「数学検定」の受検が非常に有効です。

 しかし、「自分にはまだ『数学検定』を受ける自信がない」という人もいるでしょう。そんな人は、「数学検定3級に面白いほど合格する本」「数学検定準2級に面白いほど合格する本」(いずれもKADOKAWA刊)を使ってみてください。2点とも2部構成になっていて、「第1部 原則編」では基本的な公式や重要な考え方などが整理でき(図1)、また「第2部 実践編」では予想問題(図2)によって実際の検定と同じ形式で演習できます。

図1図1

図2図2

 「数学検定」の対策によって速く正確に解けるようになるとともに、記述式問題にも慣れた状態で、本番の入試を迎えられるようになることを願っています。

数学検定3級に面白いほど合格する本

発行:KADOKAWA

著者:高梨 由多可/監修:公益財団法人 日本数学検定協会
判型・ページ数:A5判、240ページ/定価:本体1,300円+税
内容:
<第1部 原則編>
第1章 数と式/第2章 関数/第3章 図形/第4章 確率/第5章 資料の整理
<第2部 実践編>
予想問題 第1~2回/予想問題 第1~2回(解答・解説)

数学検定準2級に面白いほど合格する本

発行:KADOKAWA

著者:佐々木 誠/監修:公益財団法人 日本数学検定協会
判型・ページ数:A5判、272ページ/定価:本体1,500円+税
内容:
<第1部 原則編>
第1章 数と式/第2章 2次関数/第3章 整数の性質/第4章 場合の数と確率/第5章 統計とデータの分析/第6章 図形の性質/第7章 図形と計量/第8章 1次検定・2次検定の特徴的な問題
<第2部 実践編>
予想問題 第1~3回/予想問題 第1~3回(解答・解説)

《リセマム》

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