Android&Cloudで家と学校をつなぐ「教育スクウェア×ICT」…NTT中山氏

  NTTグループが全国5自治体公立小中学校10校の協力を得て実施するフィールドトライアル“教育スクウェア×ICT”の取り組みについて、NTT 新ビジネス推進室 次長の中山俊樹氏に話を聞いた。

教育ICT 学校・塾・予備校
NTT 新ビジネス推進室 次長 中山俊樹氏
  • NTT 新ビジネス推進室 次長 中山俊樹氏
  • 教育スクウェア×ICTの取り組みイメージ(NTT資料より)
  • GALAXY Tabで利用イメージを説明する中山氏
  • 時間割と利用するデジタル教材
  • 天気の変化「いろいろな雲の動き」(社会)
  • 雲の動きを動画で再生
 NTTグループは、全国5自治体公立小中学校10校の協力を得て、家庭と学校をつないだICT利活用のためのフィールドトライアル“教育スクウェア×(バイ)ICT”を開始する。

 実施期間は、2011年度第1四半期から最長3年間。対象となる自治体および学校は、秋田県八峰町の八森小学校/塙川小学校/水沢小学校、新潟県関川村の関川小学校、神奈川県川崎市の南百合丘小学校、鹿児島県与論町の茶花小学校/那間小学校/与論小学校に加え、今月中には1自治体で1小学校1中学校が発表される。対象となる学年と教科としては、小学5年生の算数/理科/社会、中学2年生の英語が予定されている。

 教育クラウドを利用し、デジタル教材の配信や学校ポータルの開設、指導用アプリの提供などのサービスを展開する。今回のフィールドトライアルの特徴的な点は、学校内(教室─職員室間)、学校─学校間をつなぐだけでなく、学校─家庭間もつなぐことだ。各児童生徒に配布されるタブレット端末は、保護者との連絡や自学自習にも活用されるため、家庭のICT環境の構築とサポートもトライアルに含まれる。

 “教育スクウェア×ICT”の取り組みについて、日本電信電話株式会社(以下、NTT)の新ビジネス推進室 次長の中山俊樹氏に話を聞いた。

◆インフラ整備と校務のICT化後、授業のICT化へ

 参加する自治体には島部や山間部も含まれるが、国や自治体が光ファイバーを敷設して運営を通信事業者に委託する「公設民営方式」(IRU方式)などにより、すでにブロードバンド回線を利用できる状況にある地域だという。そのためファイバー敷設の必要はなく、この春休みから校内LANや教室内の高速無線LAN(IEEE802.11n)の工事に着手。その後、まずは職員室のICT化を進め、学習履歴の管理や先生間の情報共有ツール、家庭/地域との連携ツールなどの校務のICT化を行った後、早い学校では夏休み前にはICTを活用した授業の開始を目指す。

 教材は、先生がクラウド上の指導用アプリを使って自分で作成できるほか、トライアル賛同企業であるベネッセや学研、教科書出版社らが製作するデジタル教材も、クラウド上で提供される。「音声や動画など複数の教育素材をそろえること」「先生が使えるものであること」「学識者から見て評価しうるもの」といった観点から製作されており、中山氏によると「コンテンツ(教材)とメソッド(指導法)がワンパッケージになっているベストプラクティスのようなものを作成して、それを先生方に活用してもらったらどういう授業ができるか、という試みもしていきたい」とのことだ。

 今回のトライアルで、対象学年と教科を小学5年生の算数/理科/社会と中学2年生の英語に絞ったのは、こうした手間ひまのかかる教材製作の工程を考慮したほか、高学年のほうがデジタル機器操作に集中できるが受験学年は避けたかったこと、一斉導入による現場の混乱を避けたことなどの理由がある。なお、トライアル発表時点では国語は対象になっていなかったが、今後、加えられる可能性もあるそうだ。

◆Android端末の可能性をはかる

 先生と対象学年の全生徒に配布される端末には、「GALAXY Tab(ギャラクシータブ)」のほか、NEC製、東芝製のタブレット端末が採用され、いずれもAndroid(アンドロイド)ベースとなる。今回のトライアルに参加しているNTTコミュニケーションズは、総務省の実証研究「フューチャースクール推進事業」にも参加しているが、フューチャースクールではWindows端末を採用している。今回のトライアルでAndroid端末を採用するねらいはどこにあるのか?

 この問いに中山氏は「様々な経験値を蓄える意味でも、現在続々と市場投入されているAndroid端末が学校や子供たちにどう受け入れられていくかを実証することも、今回のテーマの1つです。Windowsのソフトウェア資産を生かせないという意味では制約がありますが、Android端末の起動の速さやバッテリー寿命の長さ、重量の軽さといった利点を生かしたトライアルにしていきたい」と答える。

 端末は家庭に持ち帰ることを想定しており、学校からのお知らせや、持ち物リストといった保護者との連絡帳としての機能も持たせる。また、授業で使った教材を確認できたり、算数のドリルや英語などの宿題に使えるようになるそうだ。中山氏は「ご家庭に受け入れられるかどうかはまだこれからですが、子供の習熟度によって宿題のレベルを変えることも可能」と語り、プリント配布ではできなかったICTならではの活用がいろいろと検討されている。

◆「学校─家庭間をつなぐ」というチャレンジ

 今回のトライアルは、教育クラウドによって情報やツールを一か所にまとめてみんなで共有したり、家庭や他の学校とつないだり、さらには海外の人とライブで交流したりと、様々につながることで教育がどう変わっていくかが、最大のテーマになっている。そのため、学校─家庭間もつなぐ計画だ。

 しかし実はこの規模で“校門の外に出る”教育ICTのトライアルは珍しいそうだ。韓国やシンガポール、オーストラリア、ヨーロッパ諸国の教育ICTを視察してきた中山氏も「教育ICT先進国でも学校の中でクローズしているケースが多い」と語る。世界的に見ても大きなチャレンジになるが、「苦労はするでしょうが、やってみる価値はあると思います」と力強い。

 トライアルの実施には家庭の協力が必須のため、学校や児童生徒だけでなく、保護者へも講習会や説明会をすでに始めているが、第一段階としては予想していたよりも歓迎ムードで、「これからの時代、子供たちにICTは欠かせない」と理解している家庭が多いという。

◆トライアル後の“普及・定着”のために

 トライアル期間は「最長3年間」と設定されているが、NTTではトライアル終了後も継続運用していけることを意識し、そのための期間という位置付けになっている。「デジタル教材とデバイスだけでは教育ICTは成り立たない」という考え方から、校内の支援員はICTだけでなく教務も支援し、日々の授業でデジタル教材を活用するための具体的方法をサポートする。そして家庭向けのサポートも含めて、3年間のうち前半は人海戦術でコストを投じて様々な角度からサポートに注力するが、後半はエコシステムづくりにシフトしていく。

 「いつまでも運用にコストがかかっていては、少ない学校の予算で定着していきません。先生方の中でICTが得意な人が苦手な人に教えたり、支援員が現地に行かなくてもeラーニングでトレーニングできるといったしくみを作っていく必要があります。さらに言えば、ボランティアやワークシェアリングなど、定年退職された方や産休の方が参加するといった、地域が学校とつながっていくしくみが必要になってきます」と中山氏は語る。

 今回のフィールドトライアルは、フューチャースクールを参考にすると同時に、フューチャースクールへのフィードバックも行っていく。「すでに双方の連携について、実務的に文部科学省や総務省と検討を行っている」(中山氏)そうで、相乗効果も期待される。
《柏木由美子》

【注目の記事】

特集

編集部おすすめの記事

特集

page top